飛び跳ねる花吹雪
拷問の末、一日一刻程度の時間を割くようにと約束させられた花吹雪は、現在足の痺れと戦っていた。こちらから言い出した事ではあるのだが、納得出来ぬと憤りを感じた。
翌日、早速性教育のお勉強とばかりに、ウミが下女中を引き連れて、火薬を調合中の花吹雪がいる子供部屋に突入してきた。
「さぁ、花吹雪様始めましょう」
有無を言わさないウミに、渋々と花吹雪は調合の器具を部屋の端に移動させた。
どうやら一日目は女の体の仕組みを説明するようだ。ウミが下女中を引き連れて来たのは、自分が裸になるのを嫌がってのことだったらしい。下女中の着物を引っ剝がすと、女の秘所について詳しく説明を始めた。
しかし、花吹雪は元VRMMORPGのNPCだ。《想像できる全てを手に入れた、最高の自由、究極のリアル》というキャッチコピーで売りに出されたゲームである。NPCを殺して内蔵を売るのも、犯して子を孕ませるのも、兎に角、何でもありのゲームなのだ。それ故、一般的な性知識も当然持ち合わせている。勿論、この世界の知識などよりも高水準の知識を。花吹雪が知りたかったのは医学的なことではない。文化的なことであった。
退屈故に睡魔に襲われるが、ここで寝てしまえばウミの恐るべき拷問が始まってしまう。花吹雪は必死に耐えた。そしてある意味精神修行のような勉強時間を終えた花吹雪は、埒が明かないとばかりに、側室に詳しそうな人物を求めて武家屋敷内を歩き回った。
若党の《和泉》がいた。和泉は花吹雪に甘い態度を取ってしまいがちなのだ。勿論、花吹雪も承知している。近くの下之間に和泉を押し込む。そこには運が良いことに誰もいなかった。
何だ? 何だ? と面倒くさそうな表情の和泉だが、そんな事は花吹雪の知るところではない。
「側室について教えて欲しいのです」
「《月読》様のことですか?」
「月読? もしや父の側室のことでしょうか? いえ、興味はありません。私が側室として国内外でどのように扱われるかが知りたいのです」
和泉は困った顔をする。
「相手次第としか言いようがありません。例えば、《月夜の林》であれば、愛情も無くまるで物のように扱い……女を壊していたと聞いておりますし、《影斬り》様であれば、《月読》様にも優しく接するのではないでしょうか」
なるほど。合点がいった。花吹雪はこれ以上考えても仕方ないという結論に至った。
「参考になりました」と言って、また子供部屋に戻っていく。
気持ちを切り替えた花吹雪は、火薬と並行して、幻覚剤の調合に手を出し始めた。いつものように草花を吟味していたそのとき――
《鑑定眼(植物専用)を手に入れました》
《鑑定眼(薬学専用)を手に入れました》
と、脳内にアナウンスが響いたのであった。薬師のNPCであったときでさえも、取得できなかったスキルを今、ここで手に入れられた軌跡に花吹雪は、その小さな体をいっぱいに使って表現した。
何度も、何度も、子供部屋で大きくジャンプしたのだ。
あまりの嬉しさに、母・《雪桜》が訪ねてきていたことも気が付かなかった。六度目のジャンプあたりで、コホンと咳払いをした雪桜に気が付き、赤面する花吹雪であった。
「な、何か御用でしょうか!?」