『火を求めて』
木の実を食べて腹ごしらえもできたことだし、そろそろ本格的に動くとしよう。
(火を手に入れる、魔法でも使えたら楽なんだろうけどな…)
ステータスに魔力とか魔法攻撃力とかあった気がするし、もしかしたら使えるかもしれない。
『ファイヤ』とか唱えたら炎が出るのかな?
物は試し、ステータスの時みたいにうまく行くかもしれないし…
「ファイヤ!!」
……まあ、そりゃ出ないよな。
ステータスの時に上手くいったのもあって、すっかり浮かれてた。
現実は世知辛いのが常だ。
それにしても、なんだろう。
誰かに見られてる訳でもないのにすっごく恥ずかしい気分になる…
魔法が存在しているかどうかは不明だが、少なくとも今の俺には使えない。
となると、やはり摩擦熱で火を起こすしかないのだが…
(あのコスコス擦る火起こし器ってどうやって作るんだよ…
やっぱり、もしもの時に備えてサバイバル術を身につけておくべきだったか…もうちょっと興味持ってればよかったな…)
興味こそあったが、サバイバル術について書かれた本に目を通す程度の事しかしていなかった自分自身を恨みつつ、気持ちを切り替えるべく両手で頬を軽く叩いた。
よし。
とりあえず、無い物ねだっても仕方ないし、見様見真似でも作ってみるか。
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「ぜー、ぜー、ぜー……」
あれから約1時間ほど経過した。
「ぜー、ぜー……はぁ……」
結局、あの後火起こし器もどきを作成してひたすらコスコスしていたのだが、なかなかうまくいかなかった。
煙が出た時もあったが、その後が良くなかったようだ。
あたふたしているうちに、すぐにその煙も出なくなってしまった。
(はぁ……やっぱり見様見真似じゃ無理って事なのか…)
ライターやチャッ○マンがどれほど偉大だったのか、身に染みて分かったような気がする。
『ただ火を起こすだけの道具なのになんで100円もするんだよ?もっと安く売れよ。』とか言ってごめんよ…ライター、お前は素晴らしい奴だ。
これが日本のキャンプ場での話なら、ここで火のありがたみを知って終わりだ。
だが、今は違う。
このまま火起こしがうまくいかないと、かなりまずい。
というか、めちゃくちゃヤバい。
何がいるかわからない異世界の夜の森、そんな中で明かりも無しに、それもたった1人で居続けるなんて軽く自殺行為だと言える。
幸い、まだ時間はある。
なんとしても火を、又はそれに代わるものを探し出さなくては…
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火を求めて森を徘徊していると、どこからともなく漂う何かが焦げたような臭いを嗅ぎとった。
(ん?どこかで木でも燃えてるのか?)
多少危険はあるかもしれないが、ちょっと様子を見に行くか。
(危険を感じたら即逃げればいいだろうし、どの道、火が見つからなきゃその危険の元凶に夜中に襲われかねないしな!)
そう考えて、臭いのする方向へと向かっていったのだが、その途中で妙な黒い塊みたいなものが落ちているのを見つけた。大きさはちょうど小さめのバランスボールくらいだろうか。
「なんだこれ…」
近づいて鑑定眼で確認する。
・ロックタートル(死亡)
岩のような甲羅を持つ巨大な亀。幼体はそこまで脅威とはなり得ない。成体は小さな家屋ほどの大きさにまで成長し、植物を食い荒らすため、農村では恐れられる。普段は穏やかだが、危害を加えられると凶暴化する。
この黒いの、ロックタートルってでかい亀の死骸なのか。
これで幼体サイズってのも驚きだが、俺が驚いたのは別の点だ。
「これ、どう見ても焼き殺されてるんだよな…」
遠目で黒い塊の様に見えたのは、全身が黒焦げに焼かれていた為だった。
周りの木や草はほとんど焼けていないが、亀だけはしっかりと焼き殺されている。この時点でもう嫌な予感しかしない。
「これ、絶対やばいモンスターの類にやられたってパターンだよな…」
なんて言ったってここは異世界。火を吐く化け物も空飛ぶ龍も存在していたっておかしくない。
火が手に入らないのは残念だが…流石に目に見えて危ない橋を渡るつもりはない。
とりあえずここから離れた方が良さそうだな…
と、結論付けて立ち去ろうとしたとき、俺は気がついた。
目の前に生えてる木の根本のあたり、そこに赤い液体の入った瓶の様な何かが転がっているのを。
恐る恐る近づいて地面に落ちていたそれを鑑定する。
・赤のポーション
体力を回復する上質なポーション。容器には品質劣化を防ぐために特殊な魔法を施されている。多くの町で購入することができる。
ポーション、ってゲームとかでよくある回復アイテムだよな?冒険者とかがよく持ってる……
(あれ?もしかしてこれって……)
あの亀を倒したのはモンスターではなく、人間なのでは?
既に手にしている大切なものって、それを失うまで気付かなかったりしますよね。
ロックタートルの幼体の大きさが最初と比べて大きくなってますが、あんまり気にしないでいただけると幸いです。