表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生冒険者がゆく異世界冒険譚  作者: カニ玉380円
第二章・転生冒険者とゴブリンロード
79/81

『心の鎖』

人によっては不愉快に感じるようなグロ描写がございます。

苦手な方は読まないことをお勧めします。


と、注意書きし忘れておりました…すみません。

朦朧とする意識のまま、見覚えのある薄暗い森の中を進んでいる。


不自然なほどに静まり返った森には、歩みを進める足音だけが響く。





私は、何故ここにいるのだろうか





足元に茂る草をかき分けて、ただただ前へと歩みを進める。


まるで己の身体ではないかのように、引き寄せられるように何処かへと向かっている。





私は、どこに向かっているのだろうか





どれほど歩いたのか、自分にもよくわからない。


一分か、一時間か、一日か、あるいはそれ以上か。


ただ、俯きながら、前へ、前へと歩みを進めている。


終わりは見えない。


見えるのは、先の見えない闇だけだ。





私は、いつまでこうしていればいいのだろうか





感覚も、意識も、思考も。


それら全てがあやふやだ。




私は…()()()()()()()





ふと、自身の足が止まっていることに気がついた。


途端、吸い寄せられるように、ゆっくりと視線を前へと向ける。




その先には、見覚えのある黒髪の青年が立っている。


その青年は笑っていた。


陶磁器の人形のような無機質な笑顔を貼り付けていた。




あなたは…



硝子玉のような、温度を失った青年の瞳と目が合った。


青年が口を開く。



「    は、本当に強いよな。」





違う



私は…




……あれ?





返事をしようとした。


だが、声が出なかった。


ただ、掠れた呼気を吐き出すことしかできなかった。



そんなことなど意にも介さずに、笑顔の青年は続ける。




「強い敵が来ても、  ィ が倒してくれる。

そうだろ?」




…待って




…違う、の




私は…




「ソ ィアは約束してくれたよな。

例え俺に何があったとしても、助けてくれるって。

俺が憧れた冒険者だ。」




その言葉を最後に、青年の口が閉じる。



そして、彼の影がぐにゃりと歪んだ。



私は、それを知っている。






お願い、やめて





そんな願いも虚しく、身体は動かない。


そして




歪んだ影から、()が這い出した。



屍肉に群がる蛆のように蠢く闇が。


獲物を捕らえた蛇のように巻きつく闇が。


廃屋を覆い尽くす蔦のように茂った闇が。


底の見えない奈落のような闇が。



青年を蝕み、締め上げ、覆い尽くし、呑み込んでゆく。



依然として、彼は笑顔のままだ。






駄目




早く、助けない…と





足を動かそうとした。


しかし、動かない。


底なし沼に全身が沈んでいるかのように動かなかった。


身体を蝋で固められたように、微動だにしない。


ただただ、傍観し続けることしかできない。






やがて闇は、青年の全身を覆い尽くした。




蠢き続ける闇が悍ましい音色を奏でる。


皮が裂かれる音が聞こえた。


肉が千切られる音が聞こえた。


骨が砕かれる音が聞こえた。


臓腑が抉られて溢れ出す音が聞こえた。


血が大地に流れ落ちる音が聞こえた。



ただ、青年の悲鳴は聞こえなかった。







嫌、待って…






手を伸ばそうとした。


駆け出そうとした。


救い出そうとした。


だが、何もできなかった。




そうして、闇の中から響いていた悍ましい演奏が止まる。


代わりに、酷く不明瞭で歪んだ声が聞こえた。





「あ"ァ

()()()()

タす、けて、ぐれ…って

信じ…で、た…ノに、な…」




言葉と共に、蠢いていた闇が溶けるように地面へと沈んでいく。






目の前に立っていたのは、もはや肉塊というべき姿に変わり果てた青年だった。




痛々しい切り傷が全身に刻まれ、至る部位から骨が露出し、目は抉られ、手足は捻じ曲げ押し潰され、衣服は夥しい(おびただしい)量の血で染めあげられている。


乱雑に切り裂かれた腹部からは、はみ出した臓物がボトボトと地面に落ちてはべちゃりと音をたてた。


誰が見ても明らかな、死んでいなければおかしいほどの致命傷。


だが、青年()()()()()は立っている。


ぽっかりと空いた眼窩をこちらに向けて。

赤黒い血の涙を絶えず流しながら。



()()は音を発する。





ゴポッ…




口から、音と共に血が漏れ出した。




べちゃり



嫌な音を立てて、吐き出された血の塊が地面に飛び散る。





「お…マ、え…は」





ゴポゴポと音を立てながら、血と共に言葉を溢す()()は、崩れゆく身体を引きずるようにしてこちらに向かってくる。




「ま…タ…」




その口から吐き出される怨嗟は、流れ落ちる血の量と共に明瞭になっていく。



「見殺し、に…した」





はっきりとした、だが()()声が。



「…どう、して?」




一つ一つと増えていく。





「どうして?」



「どうして?」

「どうして?」



「どうして?」

「どうして?」

「どうして?」




ごめんなさい





「必ず助けると言ったのに


もう誰も失わないと誓ったのに


お前は、()()見殺しにした」







…ごめんなさい








「嘘つき」



「嘘つき嘘つき」



「嘘つき嘘つき嘘つき」





一人、また一人と声が増えていく。






呪う声が、地面に広がった血溜まりから湧き出す。


赤黒く汚れた血が、引きちぎられた肉片が、砕かれた骨が、抉り出された臓物が。


蠢き、癒着し、慟哭しながら、歪で悍ましい何かへと変わっていく。


ぐちゃぐちゃと音をたてながら。


無数のうめき声をあげながら。


一人の残骸だったそれらは、幾多もの人の姿を象っていく。




それぞれの口から、絶え間なく怨嗟の声を吐き出しながら




「嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき」







ごめんなさい…ごめんなさい…






「いたいよ

苦しいよ

なんでなんにもみえないの?」


『お前なら助けることができたはずなのに!

私達はお前に殺された!この人殺し!』


「嫌ぁ!

子供達には手を出さないで!お願い!

私達はいい!でも、この子達だけは見逃して!お願いよ!!」


『お前が見殺しにしなければ、私達は死なずにすんだ

お前のせいで…』


「武器を持て!

畜生!俺たちが何をしたというんだ!

何故こんな目に遭わないといけないんだ!」


『お前がいなければ

俺たちはこんな目に遭わずにすんだのに

お前さえいなければ』


「ああ、神よ。

我々をお救いください。」


『何も救えなかったお前が、何故のうのうと生きている?

私達が死んで、何故罪人のお前が生きている?』


『守れないくせに

守れなかったくせに

助けてくれなかったくせに』



頭を斧で割られた子供が。


手足をぐちゃぐちゃに潰された青年が。


足が捻じ曲がった老人が。


無数の矢が刺さった首のない男が。


腹を裂かれた裸の女が。


何十人もの死んだ人々が、自分を取り囲んでいる。



怨嗟の声を上げながら、身体を引き摺りながら、血肉を溢しながら、ただひたすらに縋ってくる。




「お前のせいだ」


「お前のせいだお前のせいだ」


「お前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだ」


「お前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだ」





…ごめんなさいっ…ごめんなさいっ…





「許さない」


「許さない許さない」


「許さない許さない許さない」





「許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない」





みんなを守れなくてごめんなさい。


みんなを死なせてしまってごめんなさい。


守るって誓ったのに守りきれなくてごめんなさい。


…また、守れなくてごめんなさい。





…幾ら懺悔の言葉を口にしようとしても、決して声を出すことはできなかった。





きっと、私にはそれすら許されない。







突然、無数の声を遮るように熱風が吹き荒れた。



気がつけば、辺り一面に炎が広がっている。



自分を呪い、恨んでいた無数のうめき声は、炎の勢いが増すにつれ断末魔の叫びへと変わっていった。







(あぁ、()()だ。)






私は、この光景を知っている。






私は、この炎を知っている。







私は、この熱を知っている。






故郷を焼き、隣人を焼き、家族を焼いた、この炎を…







ああ。





また、『緋色の魔女』が全てを焼き尽くす。





爛々と燃え盛る炎の柱を最後に、私の意識はプツリと途切れた。








〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:





ハッとして起き上がると、窓には朝日が差し込んでいた。


どこからともなく鳥の囀りが聞こえてくる。



「はっ…はっ…はっ…」



汗でぐっしょりと濡れた寝巻きが、体に張り付いていて気持ちが悪い。


脳裏にこびりついた嘆きの声が、苦しみの声が、怨嗟の声が。


鎖のように心臓に絡みつき、息ができなくなるほど締め上げている。


「はっ…はっ…はっ…はぁっ…」



あれは夢であって夢じゃない。


あれは『ありえた未来』であり、『かつてあった過去』なのだから。


「はぁっ…はぁっ、っ。…はぁっ…はぁっ…」


少しずつだが脈拍は落ち着いてきた。


次いで、呼吸を整える。



「…はぁ…はぁ…はぁ…」





何故、忘れていたのだろう。





「…はぁ…はぁ……

…私、は…」





そう、私は。





「…ソフィア・アルファード。

……『緋色の魔女』…。」






守る力を持っていても誰も守れない。


己が焼き払った過去に囚われ、ただ嘆く事しかできない。




贖罪のために生きる、惨めで穢れた罪人だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ