『今の俺にできること』
本当にお久しぶりです。
諸事情あって全く続きが書けませんでした、待っていてくださった読者様には本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。
ゴブリン達の拠点からなんとか脱出した俺だったが、帰って早々に転職を提案されてしまうとは思いもしていなかった。
数日前に念願の冒険者の仲間入りをし、『さあ、これから冒険者として頑張るぞ!』と息巻いていた時の俺であれば、出来の悪い冗談として流していただろうが…
いや。なんなら、今でも冗談にしか聞こえない。
(いくら何でも早すぎるだろ。
勤務日数2〜3日って、それって最早ただの職場体験では?
…まあ、起こった出来事が出来事なだけあって、数日というにはあまりにも波瀾万丈だったけども。)
デカい亀から助けられ、冒険者になった…かと思えば初依頼ではデカいイモムシに食べられかけ…
スライム討伐を無事終えたかと思いきや、その後にデカいナ………例のあれに纏わりつかれて新たなトラウマを植え付けられ…
街を探索すれば謎の場所に迷い込み…かと思えば、これまた謎の美女が経営している怪しい店に半ば無理やり連れて行かれた挙句、明らかにヤバそうな暫定呪いの剣をお土産に渡され…
『昨日は不思議なことがあったけど、今日も頑張るぞ』と息巻いてギルドに来てみれば、即ギルドマスターに呼び出された上、俺にしかできない極秘任務を引き受けて欲しいと頼まれ…
そのまま予行練習すらする間もなく現場に到着し、なんとか無事に依頼が終わったと安心していた所で奇襲を受け、俺では逆立ちしても勝てないような実力者揃いのゴブリンの巣窟に拉致され…
(…うーん。)
改めて思うが、よくもまあこのハードスケジュールを無事にこなせたな(というか、よく死ななかったな)としみじみ思う。
(…と、今は思い出に浸ってる場合じゃないか。
転職…転職ねぇ。)
深く考えなくとも、それがとても魅力的な提案だとはわかっている。
別の仕事への斡旋に、その仕事につくために必要な資格やらの取得のサポート、そして必要な備品の支給や資金援助…と、寧ろここまでしてもらっていいのかと不安になる待遇だ。
それに、安全な環境下での…要するに死に直面しない仕事に就けるのだから、ここ数日のような死と隣り合わせな日々を送る必要もない。
(常に危険と隣り合わせなのに薄給なE級やD級の冒険者よりもよっぽど安定しているし、実入りも…
…いや。)
それは違うと、本当はわかっている。
俺は今、気がついていないフリをしている。
転職の提案に心が揺らいでいる理由は、そこじゃないと。
俺の意志を揺さぶるそれは、冒険者を続ける上で決して避けられないであろう問題なのだと。
それは…
(俺は…彼らを殺したくない。)
人とほぼ同じ姿で、言葉が通じて、皆それぞれ多種多様な個性があって、互いに協力しながら一生懸命に暮らしている。
そんなゴブリン達の姿を目の当たりにしてしまった俺には、彼らの事が『排除すべき魔物』などではなく、容姿や価値観が少し異なるだけの『人間』にしか見えなかった。
彼らは、RPGに出てくるような、何も考えずに人間を襲うだけの『倒すべき敵』などではないのだ、と。
それを『言霊の加護』のおかげで改めて実感してしまった。
命をかけて戦う意志も、相手の命を奪う覚悟もない。
殺す事なく相手を無力化するような圧倒的な力も、仲間を守る能力も持ちえない。
人に守られ、助けられてばかりの半端者の自分が、これから彼らと戦う事になったとして、その時に躊躇なく剣を振り下ろせるのだろうか?
(…いっその事、言葉がわからなければ…彼らの事を知らなければ、こんな風に悩むこともなかったのか?)
スライムやキャタピラーを切って…殺した…時の…よう、に……
…………。
「…ササキアキラ君、大丈夫かい?」
ギルドマスターの不安げな声色の呼びかけでハッと気がついた。
「急に黙り込んでしまってすみません。
…お恥ずかしながら、先ほどの話について少し考え込んでしまって…」
「いやいや、大丈夫ならいいんだ。
突然、一方的に『償い』とか『転職』とか言われても困っちゃうよね。
…うん。
心身共に疲れている時に、これ以上頭を使わせるのは酷な話だよね。
ひとまず、話はこのくらいにしておこうか。
ただですら色々あって疲れているだろうに、付き合ってくれて本当にありがとう。」
そういうと、ギルドマスターは部屋に置いてあった棚から小包みを取り出し、俺に差し出してきた。
絹のような光沢をした綺麗なリボンを蜜蝋で閉じている、いかにも高級そうな見た目のその小包みからは、ほのかに甘い香りが漂っている。
「つまらない物だけど、よかったらどうぞ。
これ、私がよく食べている茶菓子なんだけど、程よい甘さとホロホロとした口溶けが美味しくて数ある茶菓子の中でも特に気に入っている物なんだ。
まあ、食べる時は飲み物も一緒じゃないと口が乾くのが玉に瑕なんだけどね…
…あ、そうだ。聞き忘れていたけど、甘いものは大丈夫だったかな?」
「あ、はい!寧ろ好きです!
ありがとうございます!後で大事にいただきます!」
少し食い気味な俺の返答に、ギルドマスターはふふっと笑うと「それはよかった」と呟いた。
「それじゃあ、お疲れ様。
…ゆっくり考えて、君の納得がいく答えが出たのなら、また私に教えてね。」
ギルドマスターの言葉に頷いて、俺は部屋を後にした。
〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:
ギルドマスターとの会談が終わった俺は、ギルドの入り口前で待たせていたソフィアとキースと合流した。
「アキラさん、お疲れ様です!
思ってたより早く終わりましたね!」
「……。」
目があってすぐに話しかけてくれたキースとは対照的に、ソフィアは俺に軽く目配せをしてすぐに俯いてしまった。
バツが悪そうにしているのを見るに、俺が拉致された件をまだ気にしているのだろう。
「二人ともお待たせ。
ギルドマスターが気を利かせて早めに切り上げてくれたんだ。
…そういえば、依頼中に話していたパン屋ってまだやってたりする?
あれから何も食べてないからお腹が空いてて…」
「うーん。
お店自体は空いてはいるんですけど、時間的にほとんどのパンは売り切れてそうですね。
せっかくなら売れ残った冷たいパンよりも焼きたてのパンを食べてほしいし、パン屋に行くのは明日の朝にしませんか?
…ソフィアさんも、明日の方がいいと思いますよね?」
「…ええ。」
キースの質問に返事をしたソフィアだったが、どうにも心ここに在らずといった様子だ。
(…心配だけど、不用意に話しかけるべきじゃなさそうだな。
それで余計に気を遣わせてしまっては本末転倒だし…)
「…そうだな。
じゃあ今日はここで解散って事にして、パン屋は明日の朝に三人で行くか。
集合時刻と場所はどうする?」
「それなら、アキラさんの宿の前で6:30ごろに集合にしましょう!
アキラさんはまだこの街に来てから日が浅いみたいですし、何よりパン屋さんがあるのはアキラさんの宿の近くなので都合がいいかと。」
「わかった。
二人とも、今日はありがとう!
じゃあ、また明日。」
「ええ、また明日。」
「……。」
そうして、俺はギルドを後にした。
「何が数日じゃ、転職するか決めるのに2年以上もかけやがって。」と思われた読者の皆様、本当に申し訳ございません。
諸事情あってドタバタしてましたが、特に作者が死んだとかではないのでご安心を。
今後の投稿なのですが、例え亀の歩みでも続けていく所存です。
なので、たまに更新されてるか見にきてくだされば幸いです。




