『脅威度』
今後の展開やら設定やらを書き殴っていたワードの文字数が、本文の総文字数を超えそうで少しビビってる作者です。
こんな所でまた出てくるとは思ってもいなかった『文字化け』の、望まぬ再登場に驚愕していた俺だったが、すぐに『如何にして自分の知っている情報を三人に伝えるか』に思考をシフトする。
(うーむ。
素直に『呪われている物を鑑定したときに同じようになった』と伝えればいいのか…
説明としては言葉足らずかもしれないけど、『文字化け』のインパクトの強さのおかげもあって納得してもらえそうなんだよな。)
例の剣を鑑定眼で確認した際に浮かび上がった、なんらかの法則を元に記されたであろう不気味な文字列と、そこに所々散りばめられた読解可能だが色々と不吉な単語の数々…
(しかも、あんな登場をした人間の言葉を話す未知の存在の鑑定結果が…だもんな。)
きっとソフィアもキースも、気が気でなかったに違いない。
あんな物を突然目の当たりにすれば大抵の人間は困惑し、あるいは得体の知れない相手だと判断して恐怖するだろう。
関わらぬ様に接触を極力避け、あるいは全力で逃げようとするかもしれない。
丁度、俺があの剣の鑑定結果を見てすぐにクローゼットに封印したように…
(ただ、今回は物じゃなくて生き物を鑑定して『文字化け』してるって話だし、俺自身がその目で確認したわけじゃないのは問題だな。
ロックタートルの死骸なんかを鑑定した時には『死亡』と記されていたし、『呪い』も『状態異常・呪い』みたいに表示されるとばかり思っていたが…)
RPGなどで人物等に対してかけられる『呪い』は『状態異常』の一種として扱われる場合が多い気がするが、この世界ではそうでないのだろうか。
(実際、説明が『文字化け』して一切見れなくなってたのはソフィアやキースの証言からして事実っぽいし…
…いや、待てよ?)
そもそも俺が『文字化け』=『呪われている』と判断している理由は、ベリタスになんの説明もなく送りつけられたあの剣を鑑定した時に説明が『文字化け』したからだ。
そして、あの剣が呪われていると確信したのは『事前に沢山の呪いの装備の話をベリタスから聞いていた』上に、『明らかにヤバそうな文字化けした鑑定結果が表示された』ためである。
要するに、俺は不確定な情報や先入観を元に『呪われているから鑑定結果が文字化けしていた』と勝手に判断しているにすぎない。
(事実、あの剣についてベリタスから『どんな呪いがかけられているのか』の話を聞いた覚えもなければ、並べられている様子を見てもいないんだよな…)
さらに、俺は『店では一度も鑑定眼を使用していない』…即ち『他の呪われた武器に対して鑑定眼を試していない』のである。
つまるところ、俺は『文字化け』について認知しているだけでしかない。
即ち、正確な事は何もわからないのだ。
(たった一度の体験から、『文字化け』=『呪われている』と判断するのはあまりにも早計だと考えるべきなのかもしれないな。
あの剣を手に持ったり鞘から抜いた後に、体調を崩したわけでも、『人を殺したい』みたいなヤバい衝動に駆られたわけでもない。
『遅効性の呪い』…みたいに呪いに種類があるのかも知れないけど、少なくとも今はあの剣に害を受けているようには思えない。
…仮に『文字化け』が呪いとは別の何かが原因だとしたら…それはなんだ?)
思いつく『可能性』を考える。
ステータスを隠す為の偽造魔法のようなものが存在していて、それを使った物を鑑定すると『文字化け』を起こす。
鑑定対象が、ステータスでは解析しきれない未知の何かの影響を受けていて、適切な説明を書くことが出来なくなり『文字化け』を起こす。
鑑定が対応しきれていない物や生物がこの世界には一定数存在していて、それらの情報を表示できない…即ち記載することの出来る説明のデータがないのでエラーを起こして『文字化け』を起こしている。
などなど…
(…いやいや、データなんかねえよ。
インターネットの検索機能じゃあるまいし…)
よくわからないセルフツッコミを脳内でした所で、新たに疑問が浮かんできた。
(…そういえば、『鑑定眼』で表示される『説明文』って、一体誰が記した物なんだろうか。
深く考えずに受け入れていたけど、よくよく考えてみると不思議だよな。)
図鑑などに載っている知識をそのまま引っ張り出しているのだろうか。
それとも、人智を超越した何かによってもたらされたものなのか…
(…そんな事、今考えた所でわかるわけがないか。)
ひとまず、『文字化け』に対する見解は仮説として『呪われているのでは?』とそれとなく伝えよう。
と、そう思い立ったのも束の間
「…まあ、プロディティオが死霊術を行使できる時点で十中八九『ゴブリンシャーマン』の類だろうけどね。
ただ、『ゴブリンシャーマン』が植物を操れるなんて話は聞いたことがないし、『自分の影に出入りできる能力』に至っては生まれてこの方見た事も聞いた事もない。
前者に関しては『精霊』と契約を交わしているため植物を操れたと考えられるが、後者は全く持って未知の『能力』だからなんとも言えないね…
鑑定がうまくいかなかったのは、『相手が何かしらの偽造手段を用いていたため』とでもしておこう。
今重要なのは何故ステータスが確認できなかった事じゃなくて、相手の『能力そのもの』だからね。」
ギルドマスターが言い切り、話を聴き終えたソフィアとキースが納得して頷く。
俺が導き出した『考察』は、明かされないまま会話が終わった。
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その後、会議室には俺とギルドマスターだけが残った。
『ササキアキラ君が現地で見たものや体験した事についてできる限り話を聞き、それらの情報を王都ギルドへの報告書に記しておきたい。
一応、決まりなので報告者のササキアキラ君と二人きりにしてほしい。』
と、いう事らしい。
2人が納得して部屋を出ていってから、一対一での対話がまた始まる。
ゴブリン達のおおよその数やそれらの外見、身につけていた装備や度々聞こえてきた会話の内容、特に異質な姿をしていた者の事細かな説明などなど。
ギルドマスターが淡々と投げかけてくる質問に俺が答え、その内容を書き留め終えたギルドマスターがまた別の質問を投げかける。
これを何度も繰り返し行う。
(体験した事はないけど、警察の事情聴取もこんな感じなのかな。)
そんなしょうもない事をうっすらと考えながら、淡々とした質疑応答を20分程続けたところで
「ありがとう、ササキアキラ君。
君のおかげで、相手がどれほどの脅威なのかを明確に伝えることができそうだよ。
これだけ多くの相手の詳細な情報があれば、王都ギルドも『脅威度A〜S』の案件として認可してくれるだろう。」
安心したような、そして不安そうな、少し曇った笑みを浮かべながら、ギルドマスターが質疑応答の終了を告げた。
「お役に立てたようで何よりです。」
ひとまずはこれで極秘任務達成と言ったところだろう。
(いや、本来の目的は未達成だからそれはちょっと違うか。
でも、相手の明確な正体について知れたのを考慮すれば、収穫は得られている…?)
不明瞭だった驚異の姿がはっきりとわかったおかげで、今まであまり当てにできなかった『王都ギルドからの援助』という最高の手札がより確実なものとなった。
これは、当初の目的である『姿の見えないゴブリン相手に、嘘を信じ込ませて襲撃のタイミングをある程度絞らせる』よりも好ましい収穫といっても過言では…
(いや、流石に過言か。
援軍が到着する前に襲撃が来る可能性も十分にあるし、脅威が去ったわけでもないからな。
…脅威といえば、さっき『脅威度A〜Sだ』とか話していたけど、『脅威度』ってなんなんだ?)
話の流れや字面から察するに、おそらくは魔物の強さの指標の一つか何かだろうか。
何にせよ、これから冒険者をしていくにあたり聞いておくべきだろう。
「あのー。
一つ聞きたいことがあるんですけど、さっきの話で出てきた『脅威度』って一体なんなんですか?」
俺の質問を聞いた途端ギルドマスターの表情が一瞬強張ったが、すぐに元に戻る。
「…確かに、ササキアキラ君は冒険者になったばかりだし、知らないのも無理はないか。
『脅威度』とは、文字通り『対象が持つ、人に対する危険性の高さ』を表すものだよ。」
概ね、俺の予想通りの答えだったが『人に対する』のあたりを強調していたのには意味があるのだろうか。
「要するに、どれくらい強いのかを表す指標みたいなものですかね?」
「んー、強さとはちょっと違うね。
『脅威度』は『対象の戦力、凶暴性、個体数、生息域の広さ』などの色々な情報を元に危険性を査定し、いくつかの階級に分類して示したものなんだ。
例えば、『物凄く強いけど自ら進んで人を襲ったりはしない、決まった狭い縄張りの中のみを移動している一匹の巨大なドラゴン』がいたとしよう。
そのドラゴンと『そこまで強くないけど、人を積極的に襲う、森などに広く分布していて個体数もかなり多いジャイアントキャタピラー』を比較した場合、結果的にはジャイアントキャタピラーの方が『脅威度』は高くなる。
でも、実際にジャイアントキャタピラーを沢山集めてドラゴンと戦わせたら、ドラゴンの圧勝だ。
というより、一方的に踏み潰されて戦いにすらならないだろうね。
『脅威度』はあくまで『人に対する危険性の高さ』を表した指標であって『脅威となる対象の強さそのもの』を表しているのではないというのはそういう事だ。
…とはいえ『対象の戦闘能力』も脅威度の判定要素だから、対象が強ければ強いほど脅威度も高くなる傾向があるのは事実だけどね。」
「なるほど。
ちなみに、『脅威度A〜S』はどれくらいの危険性なんですか?」
「『脅威度A』は『多大な被害をもたらす恐れがあるので、迅速に対象を討伐する必要がある。
対応にあたる戦力及び人数の理想は、A級冒険者、もしくはそれに比肩する実力者が5人以上。』といった具合だね。
とはいえ、A級冒険者といっても強さには大きなバラつきがあるから、あくまで『安定して対処するのに必要となる人員数』の大まかな目安でしかない。
そして『脅威度S』だけど…
…こちらは『甚大な被害をもたらす恐れがあるので、迅速に対象を討伐、もしくは対象が確認された地域近辺の都市や村に住んでいる人々の避難及び防衛を行う必要がある。
対応にあたる戦力及び人数の理想はA級冒険者、もしくはそれに比肩する実力者が10人以上。
また、場合によってはS級冒険者、もしくはそれに比肩する実力者の動員も必要。』だ。
脅威度Sに認定される対象は『どうしようもないほど強い単体の化け物』か、『単体で『脅威度A』に区分されるほど高い危険性を有している個体が与している群体』の場合がほとんどだから…
言っちゃあ悪いけど、この階級に分類される程の化け物となればB級以下の冒険者ではまともな戦いにすらならない。」
「………」
知れば知るほど、いかにあそこがヤバい場所だったのかが判明していく。
(本当、よく生きて帰ってこれたな俺…)
ロックタートルやくまさんを瞬殺できる実力者のA級冒険者。
そんな人ならざる力を持つ超人達でさえ、一筋縄ではいかないような危険地帯に単独で拉致された。
文字で書き表すと、自身の置かれていた状態がいかに絶望的だったのかが改めてよくわかる。
(…無傷で帰って来れたのは、奇跡としか言いようがないな。)
「そして、気になっているであろう今回の『ゴブリンロード達の脅威度』の内訳なんだけど…
実は、君に対して『王』が怒りを露わにした際に放出したとされる魔力は、ソフィアちゃんやキースちゃんを含む森にいた他の冒険者の子達にさえ感じ取れるほど膨大なものだったんだ。
保有している魔力量、人間に抱いている強い憎悪の念、知能の高さ、その他諸々の判定要素から査定するに、『王』単体で脅威度A以上は確実だね。
次にプロディティオの脅威度だ。
ソフィアちゃんの魔力感知さえもすり抜ける隠密性、強力な攻撃魔法さえ無効化する防御性、そして他者を引きずり込んだり、外部から悟られる事なく自由に移動することができる利便性を兼ね備えた『影に入る』能力。
死体をアンデットへと変え、手駒として使役する死霊術。
更には、『精霊』由来と思しき植物を操る能力すらも有している。
……仮に、こちらに明確に敵対して能力を惜しみなく利用してきた場合は…うん。
正直、考えたくもない。
ソフィアちゃんの魔法さえも通じなかった『影』の中から一方的に攻撃されれば、こちらにはなす術はない。
…彼女が『完全に敵対』し、惜しみなく能力を行使するとなれば脅威度はAを優に超えるだろう。
そして最後は、プロディティオと同等の立ち位置の筋肉質な身体付きの大柄なゴブリン…フィディスだったかな?
彼がどんな力を持つのかはわからないが、外的特徴から『ゴブリンジェネラル』に類するものと考えるべきだろうが、プロディティオと同じような『未知の力』を有している可能性が高い。
加えて、人間に対する印象は『王』同様に最悪だ。
最も、判断材料があまりない現状でフィディスの正確な脅威度を査定するのは難しいが…
『最低でもA級冒険者に引けを取らない実力は有している特殊個体』だと考えておくべきだろうね。
結果として、この3人の戦力だけでもA〜S相当の脅威度だと私は考え……
…まあ、今の話を聞いた後だったら、そんな表情にもなるのも無理はない。」
『よく俺生き残れたな。』と、一人身震いしていたつもりだったが表情にも出てしまっていたらしい。
(『王』もプロディティオもクソマッチョも、俺の想定の遥か上の強さだったんだな…)
そんな遥か格上に対してとった自分の対応と、あり得た可能性を想像するだけで自然と血の気が引いていくのがわかった。
俺と会話をしていたクソマッチョや『王』がその気になっていたら、一体俺はどうなっていたんだろうか…
「…ササキアキラ君。」
空気が変わった、というべきだろうか。
表情が真剣そのものになったギルドマスターが、視線を真っ直ぐとこちらに向ける。
「はい?なんですか?」
少し身構えた俺だったが、間髪入れずにギルドマスターが深く頭を下げた。
「…君が、自身が置かれていた場所の危険性を明確に理解した今、もう一度、今回の依頼の件について謝罪をさせて欲しい。
君が今回生還できたのは、奇跡的だとしかいいようがない。
一歩間違えれば、君は死よりも恐ろしい最後を辿りかねなかった。
私は、それほどまでに危険な依頼に君を参加させてしまった。
これらは全て、君を『森の異変』に関わらせる事に強く反対していたソフィアちゃんの意見を受け入れる事なく、半ば強制的に押し切ってしまった私の思慮浅さと愚かさが招いた結果なんだ。
本当に、申し訳なかった。
…今回の件について、私の事を許して欲しいとは言わない。
だが、どうか『償い』をさせて欲しい。」
「『償い』…ですか?」
「ああ。
私に出来る範囲で、君の今後の生活に関わる要望に応えさせて欲しいんだ。
…例えば『冒険者以外の職業に就けるよう斡旋する』とか。
君は『言霊の加護』を持っている上、人も良いから引く手数多だろうからね。
君のなりたい職業を教えてくれれば、手続きや必要な資格なんかを取得する環境をこちらで用意させてもらおう。
冒険者のような『危険と隣り合わせで不安定』ではない、『安全で安定した』職を選べば、今回のような事ももう起こらない筈だ。
もちろん、今回の依頼の分の報酬は難度と結果に見合った額を支給するし、それに加えて『謝礼金』という形で別途の報酬を支払わせてもらう予定だ。
他にも、衣食住の提供や備品の支給等々、できる限りのサポートはさせてもらうつもりだけど…
…どうかな?」
ここにきて、まさかの転職の勧めである。
鑑定結果として出てくる説明って、よくよく考えたら訳わからないよね、って話がしたかった前半。
読む人によっては蛇足に感じてしまうような内容かもしれないなぁ…
後半、ギルマスが破格の高待遇で転職進めてますが『自分の判断が甘かったせいで、新入り冒険者がA級でも命を落としかねない死地に拉致された。
しかし、その冒険者は生きて帰ってきただけでなく、手土産として非常に有力な情報を持ってきた。
この情報の価値は計り知れないもので、本来ならA級冒険者数名が命懸けで突撃したとしても得られるかわからないほどのものだった。』です。
こうして書くと、ナタさんがケチに見えてくるの不思議。
それはそれとして、また新しい単語が出てきました。
今回の後書きという名の補足説明は、今後の展開にも出てくる予定の『脅威度』について。
本文中でも説明している通り、『脅威度』とはあくまで『対象が人間に対してどれほどの危険性を有しているのか』をランクごとに分けて考える物であって、『対象の強さそのものを示す物』とは異なります。
この『脅威度』ですが、見かけによらず査定基準が結構複雑かつシビアなため、同じ対象を査定した結果が査定者や査定時期などによって異なることもあったりします。
例を挙げるとすれば『ロックタートルの脅威度を査定する』場合など。
普段は温厚でも、生息地周辺で非常事態が起きていたり繁殖期になると凶暴になる彼らの『脅威度』は、『温厚な場合の脅威度』と『凶暴な場合の脅威度』で異なります。
判断した人物がロックタートルが凶暴化する事を知らなければ『脅威度は低く』見積もられ、逆に凶暴化する事を知っていれば『脅威度は高く』見積もられます。
要は、『新たな情報一つで、対象の脅威度は大きく変動する可能性がある』わけです。
本文中で出てきた『人を進んで襲わない、縄張りを動き回るだけのドラゴン』が、『特定の時期には活発化し、凶暴性が増す』場合、特定の時期に限ってこのドラゴンの『脅威度』は大きく上がります。
逆に、『ジャイアントキャタピラーは寒くなると動きが鈍くなる、もしくは冬眠するようになる』場合、寒い時期のジャイアントキャタピラーの『脅威度』は大きく下がります。
他にも例を挙げるとすれば、夜行性の魔物は昼間と夜を比べた場合、夜の方が『脅威度』が高くなります。
水の中で生活しているが、一応陸にも上がれる魔物が住処を変えるために大量に陸に上がった場合、『脅威度』は水中に居る時よりも低くなります。
今回の後書きはこれくらいで。




