『頼み事』
「…………ふぅ。」
『父』の話に区切りがついたからか、感極まったからか、ため息をつくプロディティオ。
命さえもなげうって、必死に守ろうとした大切な恩人が、自分の目の前で死んだのだ。
きっと、計り知れない程の悲しみと喪失感を味わったに違いない。
(本当は、思い出すだけでも辛くて仕方がないはずだ…
それなのに、話してくれたのか…)
『無理はしないで欲しい』と思う一方で、そんな心配をする事自体が失礼だとも感じてしまう。
彼女が心の中で大事に抱えている『大切な思い出』を、少し話を聞いた程度の俺が『無理に話している』と断定する…
そんなの、烏滸がましいにも程がある。
(…プロディティオの過去について、知ることができた。
…けど、なおさら『何故、今、『王』の下で生活しているのか』がわからなくなってきたな。)
俺に優しく接してくれる事や、『王』に和平を望んでいたという発言からも、『父』を無くしたショックで『人間』が嫌いになったとは考えにくい。
(それに、『人間との和平を望む、人間に育てられた第三者』であるプロディティオを、あの『王』が受け入れたのはなんでだ?
…同じ種族だからか?)
「……黙り込んでしまってすまない。
少し、落ち着いた。
さて、続きを…話すとしよう。
…私は、『父』の亡き後、村の付近の森を仲間達と放浪していた。
…放浪とは言っても、身体も精神も成長していたし、何より『父』からの教えがとても役に立った。
道具の作り方に火の起こし方。
怪我をした時に使える薬草の種類や調合術、応急手当ての方法に、綺麗な水を用意する方法。
森に住む危険な生物の特性や対策についての知識。
食べられる植物や動物の生息場所、捌き方や狩り方等々…
…今思えば、『父』は、私達が問題なく森で暮らしていくために必要だと判断した知識を与えてくれていたのだろうな。
そのおかげで、私達は誰一人欠けることなく生き残った。
飢えに苦しんだり、怪我が悪化して体の一部を失うなんて事もなかった。
食事だって、まともなものを食べることができた。
…まあ、『父』が作ってくれた料理よりも美味いものは作れなかったが。
………もっと、色んなことを教えて欲しかった。」
再び訪れる静寂、俺は何も言わない。
「……ふぅ…………何度も、すまないな。
…とにかく、私達は森の中で無事生き続ける事ができていた。
そして、森での生活にも慣れてきて、自由に行動する余裕ができてきた私達は、『父』や村の人達の墓参りに行くようになったんだ。
森に咲いている花を摘み、供えに行った。
…時には、仕留めた獲物で作った料理を持っていく事もあった。
私達は元気だと、知って欲しかった。
……ある日、私は一人で墓参りに行ったんだ。
ちょうど、その時期は花畑に白くて大きな花が沢山咲く頃でな。
その花で作った花束を二つ抱えて村に向かった。
村の人々の墓に一つ、『父』の墓に一つ供えようと…な。
………そして、私は、あのお方と出会ったんだ。」
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この場所の事は大好きだ。
でも、ここに来るのは、正直あまり好きじゃない。
あの惨状を思い出すのは嫌だから。
ここは、大切な『父』との思い出が詰まった、私の『故郷』だった。
しかし、悪意によって踏み躙られ、見るも無惨に壊されてしまった。
でも。
例え、破壊され、汚されてしまったのだとしても。
それが、自分にとって大切なものであることに変わりはない。
『父』がくれたかけがえのない『思い出』は、いつだって私に力をくれる。
だから、心配しないで。
(…お父さん、喜んでくれるといいな。)
『父』が好きだと言っていた、大きくて綺麗な白い花。
みんなでこの花を集めてプレゼントした時、『勝手に外に出たら危ないだろう』と注意された。
そして、土で汚れた私達を優しく抱きしめて『ありがとう』と言っていた『父』。
その時の、涙を堪えたような笑顔は、今でも鮮明に覚えていた。
思い出した私の視界まで、涙で滲みだす。
私は慌てて目を擦った。
(……笑顔でいなきゃ。
…泣くのは、お父さんにあった後だ。)
自分にそう言い聞かせ、森を進んでゆく。
よく遊びに来ていた川が見えてきた。
もうすぐだ。
気持ちが昂り、自然と駆け足になる。
遠くに見えていた村が、どんどん近づいて…
(………?)
村の様子が確認できる場所まで辿りついた私は、思わず立ち止まる。
(…なんだ?
…アレは…)
村の、中央あたり。
ちょうど、村人達の墓地となっていた場所に何かが動いていた。
(……っ!?
まさか…!?)
かつて、己が経験したあの時の事を思い出し、私はひたすらに走る。
これ以上、自分の宝物を奪われるのは許せなかった。
なんとか村へと辿り着き、ソレにも聞こえるような声で警告する。
「ここは、私にとって大切な人が眠る場所だ!
早急に立ち去れ!」
言葉が通じているのかはわからないが、『人間の言葉』でそう伝える。
村人達の墓の前で立ち止まっていたソイツは、こちらを覗き込んでいた。
そして、大きく口を開く。
「…これは失礼した。
私は、旧友に会うためにここに来た者だ。
君は…『サルース・パテラス』という人物に、心当たりはないか?」
サルース・パテラス。
それは、『父』の本名だった。
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「…あのお方は、『父』が若い頃の知り合いだった。
森の中で倒れていた『父』を助け、この村に送り届けてくれたそうだ。」
「嘘をついてた訳ではなかったのか?」
プロディティオを騙すためについた嘘の可能性も捨て切れない気がしたので、思わず質問する。
「あのお方の話の内容が、『父』がよく話していたものと同じだったんだ。
…あのお方は、人と…お前たちが『魔物』と言っている者達が、『争う事なく、共存できる世界』を作るために旅をしていると私に言った。
『父』からも、自分を助けてくれた相手は『魔物と人間の共存を望み、旅をしている』者だと聞いていた。
だから私は、あのお方を信用した。
そして、あのお方の『頼み事』を聞くことにした。」
人と魔物の共存を望む者が、『人に育てられたゴブリン』にする『頼み事』。
要するに、それは…
「…それが、『王』に人間との和平を求める事…か?」
「……正確には違う。
私は…
『王を、君が正しいと思う道へと導いてあげて欲しい。』と…
そう頼まれたんだ。
私は、『復讐』をしたところで『失った物』が帰ってこない事も、我々と分かり合える人間がいる事も知っている。
何より、『王』と同じ種族だった。
私は、私達に沢山の大切な物をくれた『私達の恩人の父』の代わりに、あのお方に恩を返したいと思った。
だから、私は『頼み事』を快く受け入れたんだ。
…だが、ダメだった。」
「………。」
「私には、『王』の心に残っていた深すぎる傷跡を治す事はできなかった。
それどころか、『人間の悪意』に強く触れ続けたせいで、私自身が人間を嫌い始めていた。」
「人間の…悪意?」
「…私は己の能力を使い、拠点付近の様子を監視するようにしていた。
そうしているうちに、嫌というほど人の汚点ばかりが見えてくるんだ。
『気晴らしには最適だ』と言いながら、『同族』を嬉々として斬り殺している人間の兵士。
邪魔だからと、身勝手に森の木々を薙ぎ倒していく人間の軍勢。
我々の種族に対して、悪意のこもった罵詈雑言を吐き散らしながら、『奴らの住処を焼くと、害虫を巣ごと駆除したような、善行をした気分になって清々しい。』と高笑いしている者までいた。
人間の言葉を理解できてしまう私も、最初は『悪意のある人間』の言動を看過していた。
村を焼いた盗賊共と同じような、『腐った考え』を持つ人間がいるのは知っていたからな。
…だが、幾度となくそういった者達ばかりを目の当たりにする日々が続き、次第にそんな考えも揺らぎ始めていった。
悪意こそが『人間の本質』で、『父』は本当に特殊な例でしかなかったのではないか。
そう思い始めてからは、人間を見る目も次第に変わっていった。
…この森にたどり着いた頃には、私はいつしか『王』の意見に共感する機会の方が多かった。
『人間は悪しき存在で、我々の敵だ。』と、かつての私ならば真っ向から否定していたような趣旨の意見に、だ。
……だが、『父』との日々を思い出すと、どうしても積極的に人間を殺そうとまではなれなかった。
楽しかったあの頃の、微睡みたくなるような暖かな光を…忘れきれなかったんだ。
そうしているうちにも、時間は刻一刻と過ぎる。
この地に来てから、『王』は『人間との戦争』のための戦力を蓄え、仲間達も戦に向けて準備を進めていった。
取り返しのつかない戦争の火蓋が切られようとしている。
そんな時、見つけたんだ。
あのお方と同じ『能力』を持つ人間。
ササキアキラ、お前をな。」
今更だけど、パパ大好きっ子が多いなぁ…
そういえば、『言霊の加護フィルター』が解除されてるの、気がついた方いらっしゃいましたかね?
普段、プロディティオが喋る際に『………〇〇。』みたいに長い間を空けていることが多いけど、今回はスラスラ喋ってる点も気づいてもらえてたら嬉しいです。




