『燻る感情、くべられた薪』
早寝早起きを心がけたいと思います。
「あのお方、は…
え〜っと…」
『……。』
(いや、わからないに決まってるだろ!)
『人間の街を襲おうとしているゴブリンロード』にあのお方と言わしめる存在が人間だとは思えないし、仮に人間だとしても、『人間を極端に嫌っている人物』だと考えられる。
そんな明らかにやばい奴と接点なんか持っているわけがない。
『私は、ただアイツに邪魔だという理由で消される可能性が高い君を守りたい。』
この前眠っている俺の深層精神とやらに介入してきた何かが、そう言っていたのを思い出す。
一方的に俺への介入の許可を求めてきた癖に、自分の持っている情報を開示するのを拒否していたソイツの事をおぼろげに覚えている。
(俺を狙っている『アイツ』ってのは、もしかして『王』の事を指しているのか?)
それはつまり、今のこの状態こそが、謎の人物(?)が恐れていた事態ということになる。
(『アイツから君を守るために、君から私が力を貸す許可を貰いたい』とも話していたような気がするけど、今の状況に俺が直面した際、俺の身を守るためにあの様な話を持ちかけてきたのだとしたら…)
それ即ち、もう手遅れという事だ。
(…嘘をついて誤魔化すのは論外だし、下手にこの事実について喋るのも事態を悪化させかねないからダメだ。
かと言って、何も言わずに沈黙し続けるわけにも行かないし…
どうする?…何か、なんでも良い…あのお方とやらについて、考えるんだ。
『王』が言っていた言葉の中から、あのお方の正体を推測できる何かを見つけ出せ。
『…そのような答えが返ってくるという事は、お前はあのお方とは面識がないと言っているも同義だ。
貴様は、ただの人間だった。』
…あのお方の名前が何かわからないと言ったら、その時点で『面識がない』と断定できる…?
それは、つまり『もし面識があるのなら、覚えていないわけがないし、絶対に名前を知っているから』…か?)
あのお方と出会っていれば、出会った時の事も、あのお方の名前も鮮明に覚えている筈だから、名前を尋ねられても『答えない』という事だとしたら?
絶対に忘れようのない『出会い方』で、自分の『名前』を率先して口に出す、謎の多い『強者』に、一人心当たりがある。
(まさか、あのお方はベリタスなのか?
確かに『空間転移』を平然としてのけたり、『訳あり』の部下が沢山いると言っていたけど…
…でも、どう見ても人間だったよな。)
とにかく、ダメ元で聞いてみるしかない。
「『あのお方』の名前っていうのは、もしかして『ベリタス』だったりしませんかね?」
心臓が、バクバクと脈打っているのが分かる。
緊張で吐きそうだ。
『………ふむ。
…そうか。』
(…ベリタスがあのお方という事であっていたのか?)
ゴクリと固唾をのむ俺を、じっと『王』は見据えている。
『やはりお前は、あのお方との面識はないようだな。』
『王』はそういうと、腰掛けていた玉座からゆっくりと立ち上がる。
『…『ベリタス』などと言う名は聞いた事もない。
もちろん、あのお方ではない。』
そして、一歩、また一歩とこちらに歩いてくる。
『…我が許せないのはな。
お前が我を騙した事でも、お前があのお方と面識がなかった事でもない。
『我等の悲願』を、何も知らない部外者の貴様如きが、愚かにも邪魔立てしようとした事だ。』
俺の目の前に立ち塞がり、こちらを見下げる『王』の顔は、言葉を重ねるにつれ段々と険しいものになっていく。
『我等の同胞達が、貴様らにどうやって殺されたのかを教えてやろうか?
我等が、貴様らの同胞をどのように殺しているのかを教えてやろうか?
貴様が我らと人間共との『血濡れた歴史』を、何も知らないから、そのような無責任でふざけた事が言えるのだ。
貴様如きが、我の…
否、我等の『決意』を見くびるなッ!!』
『王』は鬼のような形相でこちらを睨みつける。
放たれた怒号の圧で、空気が揺れたような錯覚に陥った。
いや、本当に揺れているのかもしれない。
心なしか、視界までも揺れて…
(…あ、れ……?………から…だ、に…力が……入らな……)
視界がぼやけ、力もうまく入らなくなった俺は、気がつけば仰向けに倒れ込んでいた。
(…な…に……が………)
薄れゆく意識の中、最後に見たのは
目を見開き、こちらを覗き込む『王』の姿だった。
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同時刻。
所変わって、森の中。
粗雑な木造の古屋のようなものがいくつか並ぶ薄暗い場所に来ていたソフィアとキースは、行方不明となったアキラを探していた。
「ソフィアさん、アキラさんに付けていた虫の気配は消えたままです。
それに…
虫がついている奴らが集まっていた場所、偽の拠点でした。
…あの建物の中を虫で覗きましたが、中には最低限の数のゴブリンしかいません。」
「先程、私たちの話を盗み聞きしていたゴブリンが行った方向はわからない?」
「それが、しばらくの間は追えていたのですが…
つけていた虫が、ゴブリンの動きが止まる前に死にました。
それ以外に付いていた虫の大半はほぼほぼここに集まっていますので、奴らの本当の拠点を知るのは…」
キースが話を終える直前、突如として森が震えた。
「…!?」
「…あぁ……
…いっ…今のって………まさか…」
キースは、両手を抱えてガクガクと震えていた。
「今の膨大な魔力…
…向こうの方向から…アキラ…」
ソフィアは、更に深い『森の奥地』の方向を向きながら、ブツブツと独り言のように呟く。
「…っ!?
ソフィアさん!?
言っちゃダメですよ!
あんなの、一人で倒せるわけがないです!
それに…」
「…でも、きっとあそこにはアキラがいる。
早く、助けに行かなきゃ…」
「ソフィアさん!!
アキラさんは優しい人です!
自分を助けるために貴女が傷ついたり、死んでしまっただなんて知ったら、例え助かったとしてもとても後悔すると思うんです!
…だから…私達は、彼を信じて待ちましょう。」
「……。」
「きっと、ゴブリンロードと話し合いでもしてくれているんです!
彼は優しいし、頭もいいですから。
きっと話し合いはうまくいきます!」
「……そう…ね。」
わかっている。
アキラが、ゴブリンロードと楽しく『話し合い』なんてしていないという事を。
わかっていた。
自分が行ったところで、アキラを助けられるわけではないという事を。
また、『緋色の魔女』が全てを焼き払うのだ。
敵も、味方も。
何もかも全てを。
私は、本当に無力だ。
大切な物は、いつだって守りきれない。
思わせぶりな発言が多くて、モヤモヤさせてしまったらすみません。
今回は後書きという名の補足説明はお休みです。




