『謁見』
※今回、作者の手描きイラストが挟まっております。
素人クオリティでお目汚しになる可能性がありますので、ご注意下さい。
あまりにも不評だった場合、挿絵のイラストを削除する可能性があります。
ご了承ください。
『やっと終わった…
フィディス様、今回は一段と荒れてたな。』
『ニンゲンノウデ、ナンデオラレナイノ?ナンナラ、アシモオルベキダトオモウンダケド』
『フィディス様、やっパ、おっかネー…
アト、落ちテくるノは止めテ欲シイな…』
『止めろ!ご本人が聞いてらっしゃるのだぞ!』
『…それにしてもあの人間、フィディス様相手によくもあそこまで堂々としていられるものだ…
はっ!もしや力を隠しているのか?』
『ソノ、可能性、否定、デキナイ。
依然、警戒、怠ラズ…
ヒトマズ、逃ゲヌヨウニ、足ヲ、ヘシ折ルベキ。』
『あー、怖かった…
プロディティオ様とフィディス様、もう少し仲良くなってくださればいいのに…』
フィディスと俺とプロディティオの、一触即発なやりとりが終わったのを皮切りに、俺たちを取り囲んでいた野次ゴブリン達がワイワイと騒ぎ出した。
人をよく襲うと聞いていたので、てっきり血気盛んで荒々しい性格の奴が多いのだとばかり思っていたが、聞こえてくる会話の内容は『喧嘩がやっと終わった』とか『仲良くしてほしい』といった物が大半を占めている。
(ゴブリン達は思いの外『平和主義』なのかも…
いや、普通に仲間内だから戦いを避けてるだけっぽいな。
俺の手足を折りたがってる奴らが割といたし。)
軽々しく『とりあえず、手足折っておこう』と言っているゴブリン諸君には、是非ともお試し感覚で手足を折られる事になるこちらの身にもなって欲しいものである。
(それにしてもコイツら、毎回このギスギスしたやり取りを見せられてるのか…)
二人の熾烈を極める喧嘩が勃発するたびに、部下のゴブリン達の心労が重なっていくのは火を見るよりも明らかだ。
(同じ仲間なんだから、もっと仲良くすればいいのに…
いや、プロディティオはともかく自己中クソマッチョが受け入れようとしないんだろうな。
ここまで傍若無人に振舞っている部下がいるのに、コイツらの『王』は咎める事なく黙認しているって事なのか?
流石に、『王』から注意を受けててもなおコレって事はないだ……
…いや、暴論クズマッチョなら『王』の命令にも反発してそうだな。)
『王に同じ態度を取ったら許さない』と言っていた辺り、『俺の勝手だろう』と一蹴するような真似はしないだろう。
(それでも、異議申し立てや反論ぐらいは常習してそうだな。
まあ、確かに部下全員が誰も自分の意見を言わないってのはダメだろうけど…
意見してる奴の人格がアレだしなぁ…)
兎にも角にも、ゴブリン達も中々苦労しているようである。
「…色々と大変なんだな。」
『…あの脳筋が私を嫌う理由は、よくわかる。
………私は、人間に飼われていた。
それは、紛れもない事実。
……だから、お前は信用できないと、目の敵にされても仕方がない。』
力なく、それでいてどこか悲しげな雰囲気を漂わせたプロディティオの言葉からは、彼女の中に渦巻いている複雑な感情を読み取ることが出来た。
プロディティオの過去に、一体どのような出来事があったのか。
彼女の事を『飼っていた』という人間は何者なのか。
俺をぞんざいに扱わず、親切に話をしてくれるのは何故か。
俺に加担する可能性を否定しなかった事には何か意味があったのか。
物憂げな彼女に対し、次々と浮かんでくる疑問の答えを知りたいと強く思った。
でも、そんな無粋な事を聞くなんて事は、俺にはできなかった。
『……はぁ。』
黙り込んだ俺の様子をしばらく見ていたプロディティオだったが、わざとらしく大きなため息をついた。
そして、自分のローブをパシパシと叩く。
『……脳筋のせいで、服が土で汚れてしまったようだ。
……困ったものだな。全く…
……こんな格好で謁見などできない……
…王が戻られる前に、他の衣服に着替えてこなくてはならないな……』
煩わしそうに悪態をつく彼女の全体をよくよく見てみると、身に纏っている黒のローブの所々が土埃のせいで白っぽく汚れていた。
だが、軽く叩いていた部分の汚れはすっかり落ちて綺麗になっている。
『……では、行ってくる。』
半ば強引にそう言い残して、プロディティオは自分の影に沈んでいった。
あの暗闇の謎空間が『影の中』という話は聞いていたが、本当に文字通り自分の影に潜り込んでいるようだ。
(水の中に入っていくみたいに沈んでったな…
一体、地面のどこに『影の中』の空間があるんだ?
それに、沈んでいく自分と一緒に、土とか、影の上にいた小さい生き物とかも入っていきそうなものだけど…)
『影』を水面のように変化させて中に入っているのなら、自分自身が先ほどまで踏んでいた地面も影の中に沈みかねないだろう。
しかし、先ほどまでプロディティオがいた辺りを見る限り、地面が不自然に沈んでいる様子もなければ、何かが起こった痕跡のようなものも特に見当たらない。
(さっき『影の中』にいた時も、土の匂いとか全く感じなかったくらいだからな…
外部からの光や音なんかも遮断してるようだったし、『地面の下の空間』というより『全く別の空間』に入っているのか?)
もしかすると、『影の中に入る能力』というのはゲームなどでたまに目にする『異次元』だとか『別次元』と言った場所にアクセスする能力で、影のある場所でのみ使えるという事なのかもしれない。
(…本人もよくわかってないらしいし、真相は闇の中なんだけど…
そういえば、完全に姿が見えなくなる間際に何か呟いていたような気がするな。
独り言のような小さな呟き声だったし、言葉の内容まではうまく聞き取れなかったけど…
もしかするとアレは影の中に入るための『魔法の詠唱』をしていたのか?)
『おい!人間!ついてこい!』
「ん?」
突然、急かすような呼び声が聞こえてくる。
声の聞こえた方向を向くと、一人のゴブリンが立っていた。
人間の冒険者が着ていてもおかしくないような金属製のピカピカしたフルプレートで全身を覆っていて、右手には槍を携えている。
『選ばれた者』ほどではないが、180センチくらいの大きさで俺よりも背丈が高かった。
「えっと…
ついてこいって…何処に?」
『決まってるだろ!王のところにだよ!お前を呼び出すように頼まれたんだ!』
「えっ?
ここに王が来るのを待つんじゃないのか?」
『はぁ!?
馬鹿かお前は!王が呼び出して、お前が謁見しに行くに決まってるだろ!
人間共の王ってのは、わざわざ自分から用件を言うために会いに来るのか!?』
ど正論である。
王様が話をしに来るのを待っているようなうつけ者など、無礼な自分を罰して欲しいと言っているようなものだろう。
ゴブリン達の『王』も、人間の王と同じだ。
「そうだな、わかった。」
(…『王』か。
少なくとも、朝思い浮かべてたような『王冠を被った普通のゴブリン』の見た目な訳はないよな。)
普通のゴブリン、『選ばれた者』、プロディティオ、クソマッチョに目の前のフルプレートのゴブリン。
これほど多種多様なゴブリン達を取りまとめている『王』とは、一体どのような姿をしているのか。
不安と共に湧いてくる好奇心が、顔に出ないように気を引き締める。
(『王』の見た目がどうであれ、俺がやるべきは『人間と、ゴブリンの争いをなくす為に話し合う』事だ。
にやけ面で話すような事じゃない。
…だからといって、不安や緊張のせいでまともに話せないのはもっとダメだな…)
正直、今から起こる事を考えただけで気分が悪くなってくるので、緊張をほぐすために深呼吸を…
(…したら、余計に吐き気が増しそうだ…
臭いには慣れてきてるけど、流石にこの淀んだ空気の中で深呼吸はしたくないよなぁ…)
息を吸うつもりだったのに、思わずため息を吐いていた。
こんな調子で、果たして上手くいくのだろうか…
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目隠しをつけて、手首を縛られた状態の俺は、『王』の部屋へと引っ張られていく。
何故目隠しをする必要があるのか尋ねたが『答える義務はない!』とまともに取り合ってくれなかったので、詳しい理由はわからずじまいだ。
(概ね、『王の居場所が分かると困る』とか『逃げられないようにするため』とかだろうけど…
目隠しする理由とか、教えちゃダメな機密事項ではないよな…)
やはり、プロディティオは特別親切だったのだと確信する。
そして、今から臨む『話し合い』は決して生易しいものではないという事も…
(ゴブリンにとって、人間は『敵』以外の何者でもないと考えたら当然だな。
…まあ、逆もまた然りなんだろうけど。)
ゴブリンの言葉がわかる俺以外の人間にとって、ゴブリンは『倒すべき敵』でしかなく、話し合いなど選択肢にはないと思われる。
事実、冒険者ギルドは『ゴブリンロードの軍勢の討伐』を目的に作戦を練っているし、俺が今日森に来た理由も『ゴブリンに誤った情報を伝えて騙すため』だ。
そして、相手も同様に『人間を殺す』ために作戦を練り、人間の情報を得るために俺を人質として拉致している。
『人間は敵、殺すべき相手』という認識の相手と『和平』のために話し合うなんて事が、果たして可能なのか。
(…ブチギレられて、問答無用で叩き潰されるとかも十分あり得るよなぁ。
ああ…心の準備が…)
『止まれ!』
俺の手を引いて歩いていたらフルプレートが歩みを止める。
かと思えば、俺の目隠しを外し始めた。
『ここから先に目隠しはいらないからな!目を開けてもいいぞ!』
言われるがままに、恐る恐る目を開ける。
すると、そこには…
「……わぁ。」
とてつもなく大きな、何かの頭骨が口を広げていた。
「…すげぇ…」
見たこともない超巨大生物の亡骸を前に、思わず感嘆の声をあげる。
フルプレートは何故か得意げに腕組みをして、驚く俺の方を見ていた。
かの有名なティラノサウルスでさえ、頭部の大きさはせいぜい1〜1.5メートルほどだと言うが…
(コイツの頭の大きさは、少なくても5メートルは超えてるよな…
まさか、これは『ドラゴン』の骨なのか?)
その巨大な頭骨には、鋭い牙や角などは生えていないが、眼窩の上部や顔の側面などが異様に隆起している。
骨になる前は、突起の部分から立派な角が生えていたのだろうか。
全身の骨を見る事が出来れば、コイツが何の生き物なのか推測できるかもしれない。
(頭骨の後ろは…首の骨を取り囲むように石が積み重なってるな。
積み上げられている石の形や大きさが揃っているのを見るに、人為的な物みたいだけど…
こっちは前脚の骨…か?)
ちょうど首の骨が途切れている辺りと水平の地面から、爪の生えた大きな脚の骨が突き出している。
だが、付け根の方は埋もれており、身体のどこの部位から生えているのかわからなかった。
(肝心の胴体があるべき場所には…馬鹿でかい岩しかない。)
表面がゴツゴツしていて、所々苔が生えているその巨岩は、長い年月を経ているのが一目でわかる貫禄があった。
(となると…頭骨や前脚の骨をどこからか持ってきて、装飾品として利用しているだけなのか?
…『鑑定眼』なら、姿形は兎も角として、なんの生き物の骨なのかぐらいはわかるかもしれないけど…気が進まないなぁ。)
正直、昨日の出来事が軽いトラウマなので、この骨を鑑定するのに少し抵抗があるが…
(…流石に、『怨念がこもった呪いの頭骨です』なんて事は…ないよな?)
半分ビビりながらも鑑定を行う。
・エンシェントロックタートル(死亡)
長い年月を生き抜いたロックタートルの特殊個体。
全身を覆う鱗と甲羅は、通常の個体を遥かに上回る強度と耐久性を有する。
非常に大きな体躯を持ち、その強さはドラゴンにさえ匹敵するほど。
外敵と言えるような存在もいないため警戒心が薄く、性格はとても温厚である。
今回は鑑定の解説文が『文字化け』するような事は起きなかった。
それにしても…
(ロックタートルの特殊個体デカすぎだろ!
ただですらデカイくせに、更に大きくなるのかよアイツら!
…てか、後ろに見えるあの大岩は甲羅なのか。)
約20メートル程の高さの巨大岩と、5メートルの巨大な頭骨が『バカでかい亀の遺骨』だと言われて納得がいく人間がどれほどいるのだろう。
少なくとも、『地球人』で即座に納得するのは不可能だと俺は思う。
(あの巨岩が甲羅ってことは、中は空洞になってるって事か?
入ってみたいけど、どうやって中に…
ん?
口の奥の方から、ぼんやりと明かりが漏れ出ている…
もしかして、首の骨の周りに石が積み上げられているのは『体内までの通路にするため』なのか!?)
『希望の光』を目にして、溢れんばかりの好奇心に背中を押された俺は、自ら率先して口の中へと入っていく。
(おおっ…やっぱり、洞窟みたいになってるな。
首の骨を支えるようにアーチ状に石を並べて、それを天井にしてるのか。
大量に積み上げていた石は壁兼、天井の土台の役割を果たしているんだな!
積み上げられた石の隙間に、埋めるように何か詰め込まれているが…これは、粘土と植物の繊維を混ぜたものか?
結構本格的な作りをしてるな…
あとは、外からぼんやりと見えた『明かり』の正体の確認を…
おっ!)
通路の途中に置いてあった『暖かい光を放っている石』を見つけた俺は、鑑定すべく凝視する。
・光源石
魔力を光に変えて放出する性質を持つ鉱石。
周辺の魔力を取り込み、半永久的に光り続けるため洞窟探索などに用いられることが多い。
かなり希少で、産出される地域も限られる。
(この世界にはあらゆる場所に魔力があるそうだから、空気を燃料として光り続けるってのとほぼ同じなのか?
温暖化対策の救世主になってくれそうな鉱石だ。
…とは言っても、希少な物らしいので大量生産は無理だろうし、明かりを消すことも出来そうにないから、正直使い勝手は微妙な気がするな。
それから…わぶっ!)
下を向きながら歩いていた俺は、前方にあった何かに気づかずぶつかった。
慌てて上を見上げると、そこには大きな白いカーテンのようなものがぶら下げられている。
天井にある首の骨に括り付けられているそれは、白い毛皮と黄金色の綺麗な糸で作られており、縁の部分には細かな刺繍が施されていた。
白い毛皮を近くでよく観察すると、微かに青白く発光しているように見える。
(すごい高級そうなカーテンだな。
まるで、『何か大切な物』がこの先にある…みたいな……)
なんだろう。
とても嫌な予感がする。
「…なあ?
これって…」
後ろからついてきていたフルプレートに尋ねる。
『ここは王のお部屋の前だからな!
かつて、この森にいた『雷獣』の毛皮で、王にふさわしい装飾品を作ったんだ!』
どうやら『雷獣』なるモンスターがいるらしいが、問題はそこじゃない。
「…ここが王様の部屋の前とか聞いてないんだが?」
『聞かれてないからな!
というより、わかってて自分から入っていったんじゃないのか!?
自ら進んで入っていったものだから、度胸がある奴だと感心していたんだが!?』
「…もうちょっと、王様に待ってもらうことってできるか?」
『時間が経てば経つほど、王の機嫌が悪くなるぞ!
それでもいいなら、王をお待たせすればいいんじゃないか!
まあ、お前が部屋に入った瞬間どうなるかは知らんがな!」
先ほどまで塩対応だったフルプレートが、意気揚々と返事をしてくる。
…どうやら、気持ちを落ち着かせる時間さえ残されてないようだ。
エンシェントロックタートルの大きな骨を見て上がっていたテンションが、物凄い勢いで下がっていくのが良くわかる。
(…先回しにしたところで事態は悪化するだけ、か。)
覚悟を決めて、行くしかない。
ゆっくりと、毛皮のカーテンをくぐる。
その先にあったのは、大きな石の扉だった。
『古代遺跡』に描かれていそうな紋様がたくさん彫られており、いかにも重要な物が中にありそうな雰囲気を醸し出している。
扉の中央には赤くて大きな丸い石が埋め込まれていた。
『王!例の人間の人質を連れてまいりました!
入室の許可をいただけますか!?』
ただですら大きい声のフルプレートが、今日一番の大声で扉の先にいるであろう『王』に尋ねる。
『………入れ。』
閉ざされた扉の先から声が聞こえてきた。
石造りの扉を隔てているのにも関わらず、まるですぐ目の前で話しているかのような、重厚な低音が腹の底に強く響いてくる。
『では!失礼いたします!』
そう言うと、フルプレートは扉を軽々と押し開けた。
否、赤い石に手を翳したと同時に扉が勝手に開いた。
古代遺跡っぽい石の扉、まさかの自動ドアだった。
だが、今はそんな事を気にしていられる場合じゃない。
扉の先、部屋の奥にいる一人の人物が、嫌でも目に入る。
そいつは、さまざまな物で装飾がされた大きな玉座に、堂々たる姿で座っていた。
玉座の材料の例を挙げるとするなら、先程のカーテンと同じ白い毛皮、黒くて大きくて艶やかな角、先端が鋭く尖った鉤爪、光沢があり赤黒い皮革、そして人の頭蓋骨と思われる骨だ。
そいつの身に纏っている衣服は、今まで見てきたどのゴブリン達とも違った。
それは、空手や柔道の『胴着』を彷彿とさせる見た目をしていていて、腰の部分には『黒色』の帯を巻いている。
地面に足がつく高さに座っているにも関わらず、目線は立っている俺と同じかそれ以上だった。
間違いない。
このゴブリンが、『王』だ。
『…ご苦労、お前は下がってよい。』
静かにそう言い放つ『王』に、フルプレートは無言で頭を下げて、そのまま静かに部屋を出て行った。
また二人きりの対談だ。勘弁してほしい。
『……面を上げるよう指示した覚えはないぞ。
人間。』
「あ、すみません。」
怒られてしまったので、とりあえず片膝をついて頭を下げておく。
下手に反抗したり、強気に出て相手の機嫌を損ねようものならば、『和平』の申し出どころではなくなりかねないからだ。
(ゴブリンの中での礼儀作法はわからないけど、頭を下げて姿勢を低くすれば大丈夫かな?)
『……ふむ。
では人間よ、貴様に問おう。
貴様は、あのお方と関わりがあるのか?』
正直、心の準備がまだできていないのだが、早速質問を投げかけられてしまった。
(あのお方……?
某『名前を読んじゃダメな魔法使い』みたいな呼び方されても、心当たりが…)
「……えーっと、その。
…失礼ですが、あのお方のお名前の方、教えてもらえたりしませんかね?」
俺は、恐る恐る尋ねる。
『王』の表情は動かない。
『……そのような答えが返ってくるという事は、お前はあのお方とは面識がないと言っているも同義だ。
貴様は、ただの人間だった。
もう、この話題は終わりだ。
では、次の質問だ。
何故、貴様は我々の言葉を話せる?』
なんと、不明な点を尋ねただけで質問が打ち切られてしまった。
返答をする際には『細心の注意』をしなければならないとは思っていたが、予想以上にハードだ。
(次の質問は『何故俺がゴブリンの言葉を話せるか』だけど…
下手に嘘をつく意味もないし、正直に伝えるか。)
「『言霊の加護』があるから、としか言えないですね。」
『…………そうか。
では、最後の質問だ。
『赤髪』…あの赤い髪の人間の女が、先程森の中で宣っていた話は事実か?』
『言霊の加護』について聞き返してこないあたり、先程の質問の詳細は大して興味がないということだろう。
そして、最後の質問と来たが…
(『赤髪』って、もしかしなくてもソフィアのことだよな。
となると、自分達に対して都合の悪い情報…『王都ギルドから増援が来る』って話が、事実かを尋ねてると言うことになるのか…)
これは『事実』と嘘をつくべきか、それとも『嘘』だと真実を伝えるべきか…
(ここで『真実』を伝えてしまえば、わざわざ森の奥地にまで来て喋った意味がなくなってしまう。
でも、『嘘』を突き通す事が俺に出来るのか?)
悩みに悩んだ俺の、導き出した答えは
「多分、全部本当です。
彼女は嘘をつくような人ではないので。
王都ギルドから来る沢山の増援メンバーは皆、かなりの実力者だそうです。
なので、街を襲おうだなんて考えないで話し合いの場を設けるべきだと思います。
俺、人間の言葉もゴブリンの言葉もわかるので通訳として役に立つと思います。
…どうでしょうか?」
嘘を突き通し、『和平』の交渉材料にする事だった。
そんな俺の返答を聞いた『王』は、腕を組んでじっと黙り込む。
(…これは『和平』を視野に入れてくれているのか?)
『………やはり、な。』
「…やはり、とは?」
『…貴様、白々しいぞ。
…いや、ボロが出ている事に気がついていないのだから当然か。』
予想外すぎる『王』の返しに、思わずドキリとする。
『…全く、舐められた物だ。
………我が、いつ『おうとぎるど』なる物から人間の増援がくる事について貴様に問うた?
我は『赤髪が宣っていた話は事実か?』としか聞いておらんぞ?
…それに、だ。
貴様は、我々と会話ができる理由を即答できた。
わざわざ我々の部隊が接近した際に、人間の街の現状という『我々が知りたい情報』を丁寧に喋っていたくせに、だ。
挙句、我々が『街を襲う』のを危惧している。
お前達は、『森の異変』とやらの原因を知らないのではなかったのか?』
ぐうの音も出ない程に、俺が出していたボロを指摘していく『王』。
誤魔化そうと嘘をつけば、さらにボロが出かねない以上、否定することも言い返すこともできない。
(これが…ゴブリン達の王…)
相手の質問の意図を理解し切れなかった俺が至らなかったというのも勿論ある。
だが、それ以上に
(この人、本当にやばい。)
『…さて。
もう一度だけ、貴様に問おう。
貴様は、あのお方について心当たりはないか?
…もし、あのお方と何かしらの接点がある事がわかったのなら、我を誑かそうとした事は許そう。
だが、何も関係性のない存在だと分かった場合は…
わかっているな?』
『王』は依然として表情を崩すことなく、淡々とそう言った。
俺、本当に死ぬかもしれない。
エンシェントロックタートル君のイメージを上手く文章で書きあらわせなかったので、やむを得ずイラストを載せました。
お目汚しにならないようでしたら、エンシェントロックタートル君の生前の全体絵も確認していただけます。
骨になる前の彼の姿が気になった方は、本文中の画像を押したら別のサイトに飛ぶので、開いた画面の『次へ』を押してみてください。
ちなみに、今後イラストを貼る予定は特にないですが、文章で表現するのに限界を感じた時には使うかもしれないです…申し訳ねぇ…




