『確執』
お久しぶりぶりぶり大根ですわっ!
投稿が遅れて申し訳ないですわ!
理由は聞かないでもらえると幸いですわ〜
おハーブですわぁ〜!
『……それでは、地上に出るぞ。
……一応目をつぶっておけ…』
「あの。
ずっと気になってた事があるんだけど、聞いてもいいか?」
『……別に構わんが、なんだ?』
「今、俺たちがいるここって一体どこなんだ?
地中、ってわけじゃないんだろ?」
地上に出るという言い方から、最初は土の中に潜り込んでいる物だと考えていた。
しかしながら、この謎の暗黒空間では土の匂いやら感触はおろか、音でさえもプロディティオの声以外は聞こえてこなかったのだ。
地面を掘り進んでいるのなら、土を掘る振動やら音が響いていてもおかしくはない。
そして何よりも
(地面を掘り進んできたのなら、引き込まれる前に多少なりとも振動や音を感知できた筈だ。
それに、プロディティオの囁き声は俺だけしか聞き取る事が出来なかった。)
地面の下からの囁き声が、俺にだけ聞こえるなんて事が果たしてあり得るのか。
『……まあ、これについて知られたとて問題はない…か。
…ここは、影の中だ。』
「影の中?」
『…ああ、文字通り影の中にいる。
……と、言われた所で意味がわからないだろう。
…なにせ、私でさえ、未だに分かっていない。』
「えっ?」
この空間に俺を招き入れた筈の本人にも分からないとは一体どう言う事なのか。
再び質問を投げかけようとしたその時だった。
「うぉっ!?」
突然、グイッと上に引っ張られるような、それでいてフワッとした浮遊感を全身に感じる。
そして、真っ暗闇だった目の前が急に明るくなった。
「うわっ、眩しっ!!」
突然の事でびっくりし、思わず大声をあげる俺の背後から呆れたようなため息が聞こえてくる。
『……だから、言っただろうが…
…お前には、私の言う通りに行動できない呪いでもかかっているのか?』
「いやいや、まだ質問しようと…」
話の途中で急に浮上したプロディティオに対して前振りが欲しかったと文句を言うべく、鼻で一呼吸する。
それがいけなかった。
「ウヴッ!!
ゲッホッ!!オヴェッ!!ゴホッゴホッ!!
ヴォエッホ!!ゲホゲホ…」
『……なんだ?突然どうした?』
「いやっ…ゲホッ!臭いっ!!ゴホッゴホッ!!オエッ…
キツ…ゲホッ!!ヴォエッホ!」
思い切り吸い込んだ空気の強烈な臭いに思わず咽せる。
(なんだこれ!?
生ゴミみたいな臭いの中に、血生臭さと腐臭?が混じってるのか?
挙げ句の果てには、変な刺激臭まで…
これ、吸い続けてたら身体に悪影響及ぼす類のやつだろ!)
燃えるゴミの日に、ゴミ収集車が近くを通った時にするあの生ゴミの臭いが、数倍濃縮されたような悪臭。
魚や肉類が悪くなった時の腐敗臭に、少し鉄くさいドブ臭。
それらの異臭を混ぜた中に、理科の実験で嗅いだアンモニアのような、ツンとする刺激臭がプラスされている。
もはや毒ガスとも言うべき、酷い臭いだった。
『……そこまで反応する程のものか?
……人間の嗅覚というのは、思いの外、敏感なのだな。』
「ソレッ!!ゲフォッ!!
違ッ!!ゲホッ!!ゴホッ!!」
『人間の嗅覚が敏感なのではなくてお前の鼻が麻痺してるだけだ』と伝えたかったのだが、咽せているせいでうまく話せない。
ただ、必死に咳き込み続けるしかできなかった。
『……落ち着け…何が言いたいのかさっぱりわからんぞ。
…臭いがキツいのなら、布か何かで口元を覆え。
……そんな事より、だ。
周りを見なくていいのか?』
「…エッホ…
…周り?」
鼻を袖口で覆いつつ、明るさに慣れてきた目で周辺の様子を伺う。
そこにいたのは…
『ニンゲンだ!オオサマのイッテいたニンゲンだ!』
『プロディティオ様……ご無事そうで、何よりです。』
『我々の言葉を話す人間。あれは脅威だ。
我々の情報を得る前に、早々に殺さなければ…』
『ハヤまるな、殺スのは、コッチが必要ナ情報をエてカラだ。少しハ考えロ。』
真緑色の肌の者、黒っぽい緑色の者、肌色に近い薄黄緑色をしている者。
人間の子供ほどの背丈の者、人間の大人と同じくらいの者、2メートル近い大きさの者。
半裸の者、服や鎧を着ている者、武器を持つ者。
大きな鷲鼻を持つ者、人と大差ない外見の者、仮面やフードを被っていて顔が確認できない者…
そんな、多種多様な見た目をした人型の生物達の集団だった。
(これが、ゴブリン……なのか?)
こちらを取り囲むように鎮座しながら、ワイワイと騒ぎ立てている人々。
度々聞こえてくる『言葉』から、こちらを警戒しているのがよくわかる。
『……これで、私の言っていた事がわかったか?』
「ああ…ゴホッ…
それにしても、揃いも揃って個性的な見た目をしているな。」
多種多様な見た目をしたゴブリン達を見渡しながら、半分独り言のように呟く。
『……人間にも、それぞれに特徴があるのだろう?
それと同じだ。』
当たり前だろうと言いたげな風にプロディティオが答える。
人間が敵と認識し、倒そうとしている魔物にも各々に『個性』がある。
考えてみれば当たり前だし、実際に見なくても容易に想像できた話だ。
なのに何故か、とても意外な事のように思える。
『………それにしても、私はもう少し驚いた反応を期待していたんだが……
…なんというか、淡白だな。』
「まあ、『我々の住処』みたいな事を言ってたし、『俺が逃げないように囲ませている状態』の場所に行くってのは予想はできてたからな。
…ところで、さっきから気になってたんだけど、身体の大きさが明らかにデカイ奴らがいるみたいだけど、同じ種族なのか?
それとも、別の種族と共存してるとか?」
『……身体が大きい者達は選ばれた者だ。
………人間共が、彼らの事を何と呼ぶのかは知らんがな。』
「じゃあ、鼻が小さくて、人間に似ているのは…」
『…我々の種族で大きな鼻を持つのは大人の男のみだ。
故に、鼻が小さいのは子供か、女だな。
……ちなみにだが、女は毛皮や布の衣類で全身を覆い隠すが、男は上半身には何も着ないことが多い。
………最も、狩りの時や戦闘時には防具をつけるし、普段から鎧や衣類で全身を覆っている男もいるがな…』
(なるほど。
男女で身体の作りやファッションに違いがあるというのも人間と同じなのか。)
と、ここまでの話を聞いて、ふと思う。
(そういえば、プロディティオの姿はまだ一度も見ていなかったな…
少し堅苦しい感じで、少し掠れたような声、男っぽい喋り方だから…
細身で小柄、それでいて厳格な感じがするお年寄り…とか?)
頭の中で、彼がどのような姿をしているのか思い浮かべる。
(あっ!
さっき『プロディティオ様』って言ってる奴がいたし、ゴブリン達の中でも身分が高い方なのか!
となると、さっき言ってた『選ばれた者』かな?
選ばれたって言われているし、身体もデカくて強そうだから普通の大きさのゴブリン達に比べて身分は高そうだ。)
最も、ゴブリン間での身分関係など全くわからないので、全て俺の憶測でしかないのだが。
(でも、それなら最初に考えてたお年寄りだったとしても高い身分には任命されそうだよな。
うーむ…わからん!)
と、一人でまだ見ぬプロディティオの姿について黙々と想像していると
『……質問には答えたぞ。
…これで、満足したか?』
痺れを切らしたように、先ほどまで黙っていたプロディティオが問いかけてくる。
「ああ、色々為になるよ。
ありがとう、プロディティ……」
ゴブリンについて教えてくれた事にお礼を言いつつ、背後を振り返った俺は
「…オ……?」
思わず、振り向いた体勢のまま固まった。
俺から4メートルほど離れた場所に佇んでいたプロディティオは、黒いローブで全身を覆っている。
正確な大きさは測っていないのでわからないが、見た感じの身長は120〜140センチくらいだろうか。
ちょうど人間の子供(小学校中〜高学年?)と同じくらいの体格で、選ばれた者のような大男ではない。
ここまでは、まだ予想の範疇だった。
だが…
『……なんだ、急に黙り込んで…
……まだ、臭いがキツくて話せないのか?
……そろそろ、慣れてもおかしくないと思うが…』
「いや、えっと。そうじゃなくて…」
『…なら、なんだ?
……勿体ぶらずに、早く言え。』
「え〜、なんて言うか。その…」
プロディティオはローブに付いているフードを深く被っており、頭頂部から目元にかけて隠れていた。
だが、鼻や口元はしっかりと確認する事ができる。
(いやいやいや、まさか…な?)
「あのぉ〜。
…つかぬことをお聞きしますが、プロディティオさんの『性別』って…」
『……なんだ、急に畏まって…気味が悪いな……
……私は、見ての通り女だが…
……私の性別と、急に黙り込んだ事。
一体なんの関係がある?』
何を今更と、さも当然のように言い放つプロディティオ。
「……マジかよ。」
驚きのあまり、俺は思わず声に出してそう言ってしまった。
〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:
『………もうじき、王がお戻りになられる。
……それまでは、とりあえずこのまま待機だ。』
俺の目の前で腕を組みながら、どこか不機嫌そうな声色で話すプロディティオ。
そんな彼女に
「悪かった。失礼な事を言ってしまって、本当に申し訳ないと思ってる。
だから…コレ、そろそろ解いてくれないか?」
空中で身体をぶらぶらと揺らしながら、許しを乞う俺。
同じ目線の高さになった情けない姿の俺に、呆れたと言わんばかりに深いため息をつくプロディティオ。
『……お前は人質だ、王が来る前に何処かに逃げられては困る。
…長時間吊るし続けでもしないかぎりは死ぬことは無いだろう。
だから、安心してぶら下がっていろ。』
植物の蔓で両手両足を絡め取られ、ミノムシのように逆さ吊りにされていた俺は大声で嘆く。
「いやいや!
死なないにしても、流石に何分もこの状態でいるのは辛いって!
男だと勘違いしてた事は謝るから、もう許してくれぇ!」
何故、こんなことになっているのか。
もう何となくわかっているとは思うが、一応説明しておくと
あの後、プロディティオが黙り込んでしまい、『やばい』と内心焦った俺は必死に弁明しようとした…のだが
『…人質が逃げたら困るな。
……ふむ、逃げられたら困る。』
と、唐突に俺に聞こえる音量で独り言を呟き始めた。
嫌な予感がした俺は『逃げる気なんか全くないし、大丈夫だから!』と大きな声で伝えたが
『……お前が逃げたら、困るからな……』
全く聞く耳を持たないプロディティオは、魔法(のような何か)で地面から突如として生えてきた植物の蔓を成長させて操り、たちまち俺を逆さ吊りにすると
『反省も兼ねて、お前はこの状態で待機だ。』
そう、冷たく言い放ったのだった。
これが数分前に起こった出来事で、そして今に至る。
一応、俺は人質という扱いだし、逃げないように縛ったりするのは当然なのかもしれない。
だが俺が今、こうやって逆さ吊りにされている理由は絶対に違う。
『…むしろ、これくらいで済んでいる事をありがたく思って欲しいものだな。
……本当なら、足首に蔓を結んで高所から地面にぶつからんように落とし、また持ち上げるのを繰り返すつもりだった。
そうすれば、減らず口を叩く余裕さえも無くなると思ったのでな。
……流石に不憫かと自重していたのだが、まあ…
…お前が望むなら、今からそっちに変更しても』
「いいえ!結構です!
お心遣い感謝いたします!!いやぁ、逆さ吊りサイコー!!」
それ以上先を言わせまいと、ヤケクソ気味に大声で叫ぶ。
人生初のバンジージャンプが、頼りない命綱一本を結びつけた状態で延々と上下させられる拷問スタイルとか絶対嫌だし、それなら逆さに吊るされてる方が何倍もマシだ。
それにしても、心なしかプロディティオの口角が上がっているような気が…
(きっと気のせいだな!
……気のせいだと、信じたい。)
『……とにかく、しばらくはそうやって反省を……
……チッ。』
急な舌打ちが聞こえた。
かと思えば、何故かバッと後ろに下がるプロディティオ。
「え!?何!?
なんで急に離れたの!?
てか、今の舌打ちは何!?」
なんの前触れもなしに取られた一連の動作に困惑した俺は慌てて質問するが、こちらの話は全く聞いていない様子だ。
『……来たか。』
忌々しそうに頭上を睨んでいる。
と言っても、目元は何故か見えないため、顔の角度的におそらく睨んでいるのだろうと勝手に判断しているだけなのだが…
「えっ!?何!?
何が来たの!?」
逆さ吊りになっているせいで周りがよく見えず、さっきから全然ついていけてないのでそろそろ説明が欲しいのだが、こちらの声はまるで聞こえていないようだ。
(今まで、文句を言いつつも質問に答えてくれてたプロディティオが、完全にこちらを無視してる…だと?
一連の動作や発言から察するに『望ましくない何か』が来たって感じだけど…
…はっ!!
もしかして、ソフィア達が助けに来てくれたのか?)
残念ながら、今は上を向く(むしろ下を向く?)事ができないのでわからないが、期待に胸が膨らむ。
(あっ、でもソフィアなら『出会ってから即攻撃!ゴブリンの拠点は燃やし尽くす!』とかしかねないよな…
そうなったら話し合いどころじゃ……
ん?)
どうしようと考えていた最中、自分の目の前の地面に先程まで無かった影が落ちている事に気がつく。
眼前に突如現れた影はどんどん大きくなっていき
ドゴォォン!!
ものすごい音と土煙を立てて、目の前に何かが勢いよく降ってきた。
同時に、舞い上がった小石やら土やらが無防備な俺に目掛けて大量に飛散してくる。
顔を手で覆うこともできないので、咄嗟に目と口を閉じたが…
「うわっぷ!」
防ぎきれなかった土が口内に入り、大自然の味と風味が口と鼻いっぱいに広がった。
そして、砂と土の食感を意図せず味わう。
「ゔえっ!
ぺっ!ぺっ!」
口に入った異物を必死に吐き出したのだが、重力に従って落下したソレの一部が顔や鼻の中に降ってくる。
「うわっ…ゲホッ。
あぁ、もうやだ…ゴホッ!」
踏んだり蹴ったりでもう散々だ。
反省してるので早く降ろしてもらいたい。
(てか、何が降ってきたんだ?
ソフィア…が、こんな登場の仕方をするとは思えないし…)
目を開けて辺りを確認したかったのだが、土煙が舞っているせいで目も開けられない。
そんな、何が起きているのか全く理解できていない逆さ吊りの俺に
『汝が我等の言葉を解する人間か
何故、我等の言葉を話す事ができるのだ
答えよ』
聞いたことのない、野太い男の声が質問を投げかけてくる。
『……貴様が撒き散らした土やら砂やらのせいで、その人間は喋れんのだろう。』
離れた位置からプロディティオの声が聞こえてくる。
正直、こんな事になっているのは誰かに手足を拘束された状態で逆さ吊りにされているからでもあるのだが、そんな事を言ったら無限バンジーの刑待ったなしなので口を紡いだ。
『ふむ』
低く、重い声が聞こえるや否やものすごい強風が前方から吹いてきた。
『土埃は掻き消した
目を開けて質問に答えよ、人間』
声に言われるまま、恐る恐る目を開ける。
そこにいたのはなんと、頼りになる助っ人
…ではなく
筋肉モリモリ、マッチョマンの大男だった。
近くにいるだけで『ムキムキィ』とか『ミチミチィ』と言った幻聴が聞こえてきそうな、腕に血管が沢山浮き出ている系のガチムキの大男。
「…え?
いや、あの…どちら様で?」
濃い新キャラの唐突な登場に、口の中に土が入った事など忘れてしまう程に困惑する。
(え?
誰だこの『力こそパワー』を座右の銘にしてそうなガチムキは?
ゴブリン…なんだよな?)
あまりにも衝撃的すぎて理解が追いつかないが、おそらくはゴブリンなのだろう。
仁王立ちをしていたソイツを観察していると、足元の地面が不自然に凹んでいる上、四方八方に向けて大きくひび割れているのに気づき、血の気が引いていく。
(さっき、落ちてきた時の衝撃でこうなった…のか?
…こんなのが、もし直撃していたらと思うとゾッとするな。
『選ばれし者』と同じくらいの大きさ…いや、一回りデカいような気もするけど、それくらいのサイズでコレ…)
身長は詳しくは分からないが、2メートルは優に超えているのは確かだ。
しかし、裏を返せばその程度の大きさでしかなく、こんなクレーターができるほどの重さがあるとは到底思えなかった。
ガチムキゴブリン(仮称)は毛皮で作られた質素な腰巻きのような物を身につけているだけで、特別強そうな防具や武器を持っているわけではない。
だが、『そんなものは必要ないのだ』と、全身の筋肉が物語っているのがわかった。
『……フィディス……
…貴様は、何故いつもわざわざ上から飛び降りてくるのだ…
……周りの者に迷惑をかけているのがわからないのか?』
プロディティオが正論を投げかける。
『いつも』の部分を強調して言っていたのを聞くに、余程さっきの派手な登場方法が嫌なのだろう。
俺もプロディティオの言い分に激しく同意だ。
『どのようにしようが、某の勝手であろう
口を挟むな
それよりも、人間
某が汝に問うているのだ、答えろ』
ガチム…フィディスと呼ばれた目の前のマッチョなゴブリンは正論を暴論で無理やりねじ伏せると、再び俺に質問を投げかけてきた。
(うわぁ…
コイツ、めちゃくちゃ身勝手で、話が通じないタイプの奴かぁ。)
『強さこそ正義』と言った厄介な考え方をしてそうだと最初は思っていたが、まさかの『自分こそが正義』の悪質なタイプの性格だった。
恐らく正論だろうが何だろうが『知らん!』で押し通す、会話が成り立たない類の奴だ。
(プロディティオの態度や会話の内容から、コイツが『王』ってわけではなさそうだが…
対等にタメ口で会話しているのをみるに、同等の立場なのか。)
コイツがどこから飛び降りてきたのか不明だが、落下するまでの時間やら衝撃などから考えて、かなりの高さから落ちてきたと見て間違いない。
(影が見えてから落ちてくるまで3〜5秒は経過していたはず…
この世界の物理法則はよくわからないが、地球と大体同じ重力だと仮定したら…
……うん!とても高い所から落ちたんだろう!きっと!)
フィディスの体重やら飛び降りた時の空気抵抗、落下までにかかった正確な時間でさえも不明だったので計算は諦めた。
というか、仮に詳しい数値がわかったとしても答えは出せそうになかった。
(まあとにかく、今重要なのは『コイツは、かなりの高所から飛び降りてもピンピンしていられるほど頑丈』だという事だ。
理不尽で身勝手な上に力はある……うわぁ、部下が可哀想。)
理不尽なパワハラを受けてヒイヒイ泣いているゴブリン達をしばいてまわるフィディスの姿が浮かび、哀れな彼らに思わず同情してしまう。
『いつまで黙っている、答えろ人間』
先程よりも大きな声で質問を投げかけてくる。
一連のやり取りを見ていたからか、口の中の土がまだ吐き出し切れてなくてイライラしているせいなのか、未だに逆さ吊りのままだからなのか、もしくはそれら全てが原因か。
なんだか、無性に腹が立ってきた。
「…なあ、プロディティオ。
コイツ、普段からこんななの?
それとも今だけ?」
『うるさいぞ
汝には関係なかろう
戯言をほざく余裕があるならば、某の問いに答えよ』
フィディスが更に大きな声で恫喝してくるが
「俺は、相手の話を聞こうとすらしないような身勝手な奴とは話したくないんだよ。
どうせ、まともな会話にならないだろうからな。
…で、もう一回聞くんだけど、コイツっていつもこんな感じなのか?」
口の中で未だにジャリジャリしている土や砂、頭に上り続ける血、その他諸々の理由から色々と限界な俺は、半分キレ気味になりながらも淡々と受け流す。
あまりにもぞんざいな対応を取られたのが予想外だったようで、フィディスは目を見開いて驚いていた。
『……まあ、此奴が我が強くて身勝手なのはいつもの事だ。
……それにしてもお前、よくこの状況で私にそんな事を聞けるな。』
「あいにく、頭に血が上ってるもんでな。
…て事で、もう下ろしてくれても良くないか?
これ以上吊り下げられ続けると、まともに会話もできなくなりそうなんだけど…」
今も普通に話しているように見えるが、正直頭がボーッとしてきているのでそろそろ本当に降ろして欲しい。
『…ああ。
そうだな…では』
そうしてプロディティオが手をこちらにかざして何かを唱え始めると、蔓が少しずつ地面に伸びていく。
少しずつだが地面が徐々に近づいてきて、やっと『地に足がつく』と安堵する。
のも、束の間
バツッ!
不吉な音が聞こえる。
「え?」
足元を見ると、俺をぶら下げていた蔓をフィディスが手刀で断ち切っていた。
空中で切り離されて力を失い、身体を巻き取っていた蔓もバラバラと力なくほどける。
そして、当然ながら重力に引っ張られて頭から地面に激突した。
ゴスッという鈍い音が鳴り、落下の衝撃が頭に響く。
(あっ…
俺、死んだ?)
そう死を覚悟した俺だったが、特になにもなかった。
日本にいた時よりも身体の強度が上がっているためだろう。
だが、流石に今回に至っては頭から落ちても無事な自分自身に違和感を感じぜざるを得ない。
首を痛めて動けなくなる、頭を強打したせいで脳震盪を起こすと言った重傷どころか、ぶつけた痛みすらないのは流石に異常だ。
(急所への衝撃なのに痛みも何も無い…ダメージの量が痛みの度合いに直結してるって事なのか?
…いや、今はそんな事を考えるよりも)
言うべき事を、言うべき相手に対して問いかける。
「いきなり何すんだ!」
俺が目の前のフィディスを睨みつけながら捲し立てると
『この人間の態度に苛立ったのはわかる……しかし、万が一にでも、今ので此奴が死んだらどうするつもりだったのだ?
……まだ、王に顔合わせすらさせておらんのだぞ?』
続けて、プロディティオが釘を刺すようにフィディスを窘める。
『先程のやりとりから、強者であるが故の態度と余裕と考えが至り、それを確かめるべく試した
しかし、それは買い被り過ぎだった
この人間はただ、立場と後ろ盾に頼った結果、態度のみが大きくなった奢る弱者だ
故に、再度問う
汝は、何故我等の言葉を話すのか
答えよ
答えねば、その腕をへし折る』
フィディスは俺を睨み返し、静かに、だがよく通る声でそう言った。
『偉そうにしてるから強いのかと思ったら、ただ人質という立場だから殺される事はないとたかを括ってイキってるだけの雑魚だった。
ならば、痛みを持ってして、自分の立場と無力さを思い知れ。』と。
つまりはこういう事だろう。
この言葉を聞いて、俺は大きな勘違いをしていた事に気がつく。
プロディディオと話しただけで、見たこともないゴブリンについて理解した気になり、対等に話し合えば和平ができるなどと甘ったれた考えを持っていた。
今この瞬間、この考えが如何に浅はかで楽観的だったのかを痛感する。
ゴブリンにも、それぞれ『個性』がある。
ゴブリンにだって、別種族の…それも『人質』という低い立場の相手の軽口や質問に、嫌な顔せず律儀に答えたり反応してくれる『優しくて親切な奴』もいる。
その一方で、身勝手な自分の理屈や考えを押し付けて、他者からの言葉には一切耳を傾けないような『自己中なクソ野郎』だっている。
人質という立場を利用する、だなんて甘えた考えは、それこそ『親切で優しい奴』相手にしか通用しない。
そもそも『話に耳を貸そうとしない』のが普通だし、低く見られるのも至極当然だった。
何せ、相手は所詮ただの『交渉のための道具』でしか無いのだ。
俺は情報を聞き出す為の捕虜にして、ソフィアを含む冒険者を誘き出す餌でしかない。
正式な外交官でもなんでもない、ただの『人質』の発言を尊重するか否かは文字通り人それぞれだった。
(まあ、考えてみたらそりゃそうか。
知能の高さや見た目の個性の豊かさが人間と同じなら、性格の多様さだって当然ながら人と同じだ。)
だから、フィディスが『人質』である俺に取っている態度は至って妥当なものと言える。
しかしながら
…いや、だからこそ
俺は、コイツが気に入らない。
「たしかに、俺は強者なんかじゃない。
お前よりもずっと弱いし、本気でお前が殴ればすぐに死ぬだろう。
…だから」
勝ち目など、ないに等しい。
なら、素直に答えて保身に走るのか?
答えは…
「敢えてこう言おう。
お前が気に入らないから、お前が投げかける質問には答えない。
てか、さっきも同じような事を言ったが、他者の言葉を受け付けようともしない奴の質問に答えるなんてまっぴらゴメンだ。
他人の意見をキチンと聞き入れられるようになってから出直してこい。」
仲間相手にすら、敵の『人質』と同様の扱いを取って蔑ろにする。
挙句の果てに、力で無理矢理相手をねじ伏せて、我を通そうとするようなどうしようもないクソ野郎。
こんな奴の脅迫に折れて、言われるがままに行動しろ?
そんなの、死んでもお断りだ。
『…待て、早まるな。
大人しく質問に答えておけ。
…其奴は、実行しかねん。』
『…』
俺の身を案じてか、質問に答えるように促すプロディティオには目もくれず、沈黙したまま俺を見下ろすフィディス。
一体何を考えているのかはわからないが、きっとロクな事を考えていないとだけは断言できる。
(…『生意気な人質の処遇』についてでも考えてるのか?)
正直、腕どころか足も一緒に折られかねないような生意気な返答をしたと言う自覚はあった。
情報源として使うにしても、餌として使うにしても、『死にさえしなければ』問題はないし、フィディスがさっきの発言を実行するのはほぼ確実だ。
今になって絶望に近い感情が湧いてきたが、後悔の念は一切ない。
さっきの宣言を撤回する気もない。
なんなら、徹底抗戦してやろうとすら思っている。
(とは言え…そもそも、俺の攻撃はコイツに効くのか?
たしかに、こっちの世界に来てから身体能力や強度は上がっているけど…)
馬鹿でかいロックタートルの突進にも耐えられたし、先ほども1メートル程の高さで頭から落下しても無事だった。
投石でデカイモにダメージを与えることもできた。
それなりに身体強度も上がっている…いるのだが
(…だがコイツは…コイツの強さは底が見えない。
…無いとは思うが、ソフィアやウィリアムよりも強いなんて事は…
考えるな!感じろ!)
考えうる最悪の可能性が脳裏にチラつくが、『気持ちから相手に負けていてはダメだ』となんとか己を鼓舞する。
『…』
「どうした?俺の腕を折るんじゃなかったのか?」
警戒し、ファイティングポーズを取りながら尋ねる俺を、依然として静観しているフィディス。
睨み合う両者を、固唾を呑んで見守る聴衆達。
沈黙が続く中、先に動いたのは…
『……見誤ったか』
フィディスだった。
殴りかかるでも、蹴りかかるでも、恫喝をするわけでもない。
ただ一言、小声でポツリと呟く。
「…は?」
『今回は、腕はとらん
だが、王からの質問にさえ、同じ反応を取るというのなら遠慮はせん』
「…何を…」
あまりに予想外な行動に、腕を折られる覚悟をしていた俺は呆気に取られる。
『……この人間を、試したのか?』
尋ねるプロディティオを一瞥したフィディスだったが、馬鹿にしたようにフンと鼻で笑う。
『人間に飼われていた貴様を、某は未だ信じていないというだけの事
故に、その人間を認めたというわけでも、試したというわけでもない
少しでも貴様がこの人間に加担する素振りを見せていたのなら叩き潰すつもりでいたのだが
当てが外れた、残念だ』
『………。』
フィディスの敵意のこもった発言に沈黙するプロディティオ。
俺に対して先程まで投げかけられていたどの言葉よりも、ずっと尖っているソレからは『剥き出しの憎悪と悪意』がひしひしと伝わる。
(俺ではなく、『俺にプロディティオが肩入れしていないか』を試した…ってことか?)
あの時、フィディスが現れたのを確認したプロディティオが嫌そうな表情をしたのを思い出す。
きっと、この二人は普段から『犬猿の仲』なのだろう。
(…『人間に飼われていた貴様を信用していない』…か。
プロディティオが俺と対等に話し、質問にも答えてくれた理由は『かつて人間と縁があったから』なのか?)
俺との会話ではフィディスに向けるような敵意を感じなかったし、『自分と共に暮らしていた人間に虐げられていて、人間を憎んでいる』と言うわけではないと思われる。
そして何よりも…
(…あれだけ言われても尚、俺に加担する可能性を否定しなかった。)
秘められたプロディティオの過去を知る機会が、果たして来るのか
それはまだ分からない。
だが
先ほどから動かす、静かにじっと佇んでいるプロディティオ。
フードで隠れて見えない彼女の瞳が、どこか遠くを眺めているような…
何故か、そんな気がした。
怒られないかヒヤヒヤしつつ例のネタをぶち込みました。
今回の後書きはゴブリンたちの個性云々について書いていこうかなと思います。
興味がある方はお読みください。
まずは喋り方について。
同じゴブリンの中にも『カタコト』『一部カタコト』『ちゃんと話せる』『めちゃくちゃまともに話せる』と違いがありますが、これは知能とか関係なく『言語を扱う能力に長けているか否か』が関係しています。
国語が得意だけど数学は苦手って人がいれば、その逆も必ずいるように『言語を扱うのは苦手だが、知能が高い』ってゴブリンも沢山います。
次に服装や髪型などについて。
服を着る理由は『外敵から身を守るため』が主ですが、一部のゴブリン達は『オシャレの為』に服を着たりします。
ですが、『男は己の身一つで勝負』という昔からの伝統に近い風潮が根強いため大抵のゴブリンの男は半裸です。
『女性は全身を衣類で覆う』と本文中で書いてますが、あくまでこのゴブリンロードが統治しているから可能になっているだけの話。
本来の小規模なゴブリンの群れの場合はキチンとした衣類を作る余裕もないため、狩った獲物の毛皮や葉っぱ、自身の髪などを用いて作ったボロボロの服で身体を覆います。
髪型は『男は短く、女は長く』が一般的。
男が髪を短くするのは『狩りの時に邪魔になるため』。
女が長くするのは『首元を少しでも守るため』『異性へのアピールのため』『いざという時に切って、編むことで紐として使うため』などなど諸説あります。ちなみに、女のゴブリンが自分達の切った髪と植物の繊維でミサンガのようなものを編み、男にプレゼントする風習があったりするようです。
お次はゴブリンの美意識等について。
基本的に『男はたくましさと強さ、鼻の大きさ』を、『女はいかに健康か』を重視されます。
顔面偏差値を測る基準は『男は鼻の大きさ』『女はいかに顔が整っているか』だそうで、女性の顔に対する美的感覚は人間とほぼ同じようです。
まあ、そんなことを気にする余裕がある群れの方が珍しく、大抵は生きるのに必死で顔とかで相手を選ぶ余裕はないです。
最後はゴブリンの生活サイクルについて。
基本的には『危険度の高い狩猟は男が担当し、わりかし危険度の低い採取や道具作りは女や子供がする』と言った感じなのですが…
ゴブリンロードが治めている集落だと『狩猟担当、採取担当、道具製作担当、家屋建築担当、生息地近辺の調査担当、軍事担当』等々、沢山の役割が作られていきます。
また、この規模になると頭数にも余裕があるので、性別やら年齢に関係なく適材適所に配属する余裕が出てきます。
必要に応じて配属される役割が変化する事もしばしば。
今回の後書きはこれくらいです。




