『あるーひ♪森の中♪くまさーんに♪出会ーった♪』
怒られる…多方面から怒られるぅ…
ソフィアが話し終わるまで、キースと二人きりで待つ事になった俺は少し不安を感じていた。
というのも
(…異世界で初対面の相手と話す時って、どんな話をするんだ?)
日本なら『趣味、好きな食べ物や漫画、日常での体験談』などの典型的な話題が沢山あるので、例え初対面だとしても何かしら話す事ができる。
しかし、この世界ではそれがほとんど通じないのだ。
(この世界でのあるある話や日常会話なんかに詳しいわけでもないからな…
…今までの出会いは、どれもこれも普通じゃない物ばかりでまるで参考にならなそうだ。)
そうして、何を話せばいいのかよくわからなかった俺は…
「それでですね〜!そこのパン屋さんがすっごく美味しいんです!
パン生地にこだわってて、焼きたてでも冷めててもふかふかなんですよ!
それに朝の7時からやってるので、焼きたてのパンを買ってからギルドに来る事だってできちゃうんですよね〜。」
「へぇ〜。ちなみに、キースのオススメのパンって何なの?」
「それはもう、お店で一番人気のハムチーズトーストです!
トロトロに溶けたチーズと塩気の効いたハムが、ふんわりとしたトーストにマッチして…
あー!思い出すだけでお腹が空いてきちゃいました!」
「いいな〜、絶対美味いやつじゃんそれ。」
「そうなんですよ!
もう、美味しすぎてついつい沢山食べちゃって…
…気がついたら、二の腕がぷにぷにに…
だから、最近は少しでもスリムになれるようにダイエットしてるんですよ!」
まるで、良く会う女友達と話しているかの様にキースと会話をしていた。
結論から言うと、キースはすごくフレンドリーで、俗に言う陽の者だった。
つい先ほどまで何を話そうか思い悩んでいた俺が、気がつけば『帰りにパン屋に寄って帰りたいな』と楽しみに思えるほどの余裕を持てているのも、キースの会話術の賜物である。
「あっ、そうだっ!アキラさんも、『今回の依頼』が終わった後に一緒にパンを買いに行きませんか?
パン二個〜三個で銅貨1枚なので、お金の心配はしないでも大丈夫だと思いますよ!」
「いいね!是非とも行きたいけど…ついさっきダイエットしてるって言ってなかった?」
「だ、大丈夫ですよ!
三個…いや、四個まで!四個までなら食べたって問題はありません!
…やっぱり五個くらいなら食べたって…」
食べていいパンの数を増やしていくキースを見るに、どうやら食事制限をするつもりは無さそうだ。
「せっかく行くなら、ソフィアも誘いたいけど…
中々戻ってこないな。」
「ですねぇ…一体何の話をしてるんでしょうか?」
「さぁ?でも、『二人だけで話したい』って言ってたくらいだからな。
A級以上の冒険者だけが知ってる情報とかについて話してるんじゃないか?」
「…案外、アキラさんに関する話だったり?」
「いや、それは流石にないだろ。
俺なんかの話をするために、わざわざギルドマスターと二人きりになる必要なんて無いと思うし…」
「いやいや!アキラさん、自分がどれだけ特別な人物なのかわかってます?
『言霊の加護』を持っている事然り、新米冒険者にも関わらず、A級冒険者の…しかも『冒険者の水準が高い王都ギルドのエース』のソフィアさんと接点がある事然り…
そんな人物の事を話題にしない方が難しいですって!」
確かに俺は『異質な者』という点では目立つ存在かもしれない。
俺の見た目や常識のなさ、置かれている境遇などは、はなから見れば『特別』そのものだろう。
その珍しさから話題に上がると言うのもありえない事ではないのかもしれない。
だが、それはあくまで普通の人々から見た場合である。
A級冒険者から見れば、俺程度の変わり種なんて見飽きているだろうし、特段珍しいとも思わないと考えるべきだ。
(確かにソフィアは、身寄りのない余所者の俺に親身になって接してくれている。)
だが、それは『ソフィアにとって、俺が特別な存在だから』ではない。
『ソフィアは優しいから』こんな見ず知らずの俺を気にかけてくれているのだ。
そこは、決して履き違えてはいけない。
「あの〜、アキラさん?急に黙り込んでどうしちゃったんですか?」
「ああ、ごめんごめん。ちょっと考え事をしてた。」
「今の会話で考え事…もしかして『俺っ、そんなにイケてるのかなぁ?』みたいなイタイ事を考えて…?」
「ないぞー。全くもって、そんなサブイボ立ちそうな事は考えてないからなー。」
突然のナルシスト疑惑をかけられたので即否定すると、キースは安堵したような表情をする。
「まあ、そうですよね〜!
自信過剰な冒険者の方って話してるとなんとなくわかるんですけど、アキラさんはそう言う思考じゃなさそうですし!」
「自信過剰な冒険者って、そんなによくわかるものなのか?」
「喋り方とか、話題とか、その他色々な所が特徴的で……その、中々にキツかったりしますね。」
「キツいって…ちょくちょく自慢話とか聞かされるとか、話し方に癖があるとかか?」
「それもあります。
他にも、聞いてもないのに自分の武勇伝をつらつらと話してきたり、よくわからないマウンティングをちょくちょくしてきたり…
とにかく、話しててあんまり楽しくない…というかむしろ、辛い場合が多いです。
あ!C級以上だったり、何年も冒険者をしているベテランのD級冒険者みたいな経験豊富な方の自慢話なら、ちゃんと中身があるから聞いてて楽しいですよ!
でも……D級の冒険者歴1〜2年くらいの人がする自慢話なんて『スライムを一人で5匹も〜』とか『10匹のキャタピラーを倒した事が〜』みたいな、自分が日常的にこなしてる依頼と対して変わらない内容ばっかりなんです。
だから、『わー、すごいですねー』みたいなから返事しか返せなくなるんですよね…」
「内心では『早く終われ』みたいに思ってる奴だな。」
「はい!
『長いし、どうでもいいなぁ』とか『今話してる時間を修行の時間にした方が有意義なのに』とか『得意げに話している割にはしょうもないなぁ』とか『お腹すいたなぁ』とか考えながら聞いてます。
でも、こう言う自慢してくる人達はプライドも無駄に高い事が多いので、褒めるしかないんですよね…
正直に『しょうもない』と言おうものなら、『じゃあお前一人でできるのか〜』だとか『馬鹿にしてるのか〜』だとかキレて突っかかってくるんです。
『すごいですねー』と褒めたら褒めたで調子に乗って、更なる自慢話を語り始めるんですよ…
こうして、どうでもいい話を延々聞きながら『すごいですねー』を呪文のように唱え続けなければいけない拷問が出来上がるんです。
ちなみに、私の場合は色々なパーティーに助っ人として呼ばれる事が多いんですが、約三割くらいの確率で自信過剰なD級の冒険者に遭遇します。」
「うわぁ…」
想像の上をいくタチの悪さにドン引きしてしまう。
せいぜい日常会話に自慢を挟んでくる程度のものだとばかり思っていたが、そんな生易しいものではなかったようだ。
「あ!でも、アキラさんの武勇伝とかはすごく気になっちゃいます!」
「お世辞でも、そう言ってもらえて嬉しいよ。」
「いやいや、お世辞じゃなくって本気ですって!
だって、A級冒険者のソフィアさんが直々にスカウトした『言霊の加護』持ちの冒険者の体験談ですよ!?
そんなの、聞きたくない訳がないじゃないですか!」
「そう言われても、冒険者になってから数日しか経ってないからな…
戦った魔物の種類も『キャタピラー』と『デカイモ』…後は『スライム』に………。
まあ、それくらいだし…」
例のアイツに関しての話題は、思い出すだけでもブルリと全身が震える程度にはトラウマなので伏せておく。
克服しようと決心した時よりも状態が悪化している気がしてならないが、あんな事が起きた後では、こうなるのも仕方ないと思うのが俺だけではないと信じたい。
「スライムって言った後に意味深な間があったような気がしましたけど……顔色から察するに、その理由は聞かない方が良さそうですね。
…『キャタピラー』と『スライム』はわかったんですけど、『デカイモ』って何ですか?」
「ああ。『でっかいイモムシ』の略で、…確か『ジャイアントキャタピラー』って名前だったかな?
途中までは結構いい感じだったけど…勝てはしなかった。」
流石に『舐めプして、糸に絡まってズッコケたから負けた。』なんて恥ずかしくて言えなかった。
「えっ!?アキラさん『ジャイアントキャタピラー』に挑んだんですか!?
E級の、それも駆け出しなのに!?
そんなのほぼ自殺行為じゃないですか!
別の依頼をしている時に遭遇してしまったんですか?それとも意図的に?」
「ああ、それは…」
「それは私がアキラに指示した事なの。
事前に確認していたアキラの実力を考慮した上で、ね。」
キースの怒涛の質問に答えようとしたその時、後ろから声が聞こえる。
驚いた様子で振り返るキースを横目に、同じように後ろを向く。
「待たせてしまってごめんなさいね。
それにしても…二人とも、上手く馴染めたようで安心したわ。」
いつの間にか後ろに立っていたソフィアが、軽く頷きながら言う。
その表情は、先程よりも明るいような気がした。
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突然だが、熊という動物をご存知だろうか。
大きな図体を持ち、全身を剛毛に覆われ、鋭い爪や牙を持つ。
普段は四足歩行だが、時に後脚で立ち上がることもある。
とても危険性な動物で、人間が熊に襲われて死亡した事件も数多く存在しているほどだ。
そんな恐ろしい獣のイメージがある反面、可愛いイラストや熊をモチーフにしたキャラクター、童謡や童話なども沢山ある。
『リ○ックマ』や『く○もん』、『くまの○ーさん』に『ダ○フィー』のような有名なキャラクターの事を知らない人は少ないだろう。
童謡の『森のくまさん』の『ある日〜♪森の中〜♪くまさんに〜♪出会った〜♪』と言う1フレーズは、日本人なら誰しも一度は聴いたことがあると思う。
兎にも角にも、熊という生き物は色々な人々に知られ、恐れられ、なおかつ愛されている。
さて。
ここまで熊について語ってきたが、何故唐突にこんな話を始めたのか。
その理由を
『ゴフーー、フシュッ。ガフッガフッ。ゴフューー…』
説明したい所だが、低く唸るような呼吸音と荒い鼻息に邪魔されてしまった。
頬の横を通り抜けてゆく風…いや、息は生暖かくて獣臭い。
『フスッフスッ。ゴロロ…ゴフッ、ガフッ。』
鼻を鳴らし、涎を垂らしながらこちらを凝視するソイツと目が合う。
絵面的には最高の瞬間なので、そろそろ現状についての説明を…
『グォォオオオオオオオオオオ!!』
…するとしようか。
現在、森の奥地周辺にて俺たちは大きなくまさんに出会っている。
つまり『リアル森のくまさん』状態であり、誰しもが一度は想像した事があるシチュエーションだ。
さて。これが童謡通りならば、目の前にいるくまさんは落とし物を届けてくれる『紳士なくまさん』という事になるが…
「落とし物…届けに来てくれたんですか?」
『クイコロォス!!』
俺の言葉に答えるように、牙を剥き出しにして咆哮をしてくれるくまさん。
『言霊の加護』が翻訳してくれたくまさんの言葉を意訳すると、『早く、スタコラサッサとお逃げなさい』だろうか。
大きく口を開いたくまさんを見て、思う。
牙…もっと黄ばんでるものだとばかり思ってたけど、結構綺麗なんだな…と。
今更かもしれないが、目の前のくまさんの見た目についての説明もしておこう。
くまさんは、当たり前だが蝶ネクタイやシルクハットなどを身につけた紳士のような見た目ではない。
かと言って、赤いチョッキを着てるわけでも、蜂蜜の壺を持っているわけでもない。
しかしながら、そのくまさんは立派な鎧を着ていた。
厳密には『鎧のような甲殻』というべきだろうか。
全身が黒に近い灰色の毛皮と赤褐色の甲殻で覆われている。
体にくまなく纏っているソレは、鉄などの金属というよりもアルマジロの甲羅に近い質感をしていた。
頭や胸の部分にも『兜』や『胸当て』のような甲殻が覆っているので、ライフルでヘッドショットを決めようが胸の部分を撃とうが致命症になりそうもない。
下手すれば弾かれて、ダメージすら与えられないだろう。
前脚をついている時の体高は3メートルほど、後脚で立ち上がると6メートルは優にありそうだ。
そんな『明らかにヤバい化け物に、森の奥深くで遭遇。なんなら喰い殺す宣言までされている。』と言うのが現状だ。
当たり前だがこんな姿の熊は一度も見たことがないので、毎度おなじみの鑑定眼でくまさんの詳細を確認する。
・アーマーグリズリー
全身を鎧の様に覆う甲殻が特徴的な熊の魔物。
深い森の中に生息しており、その性格は極めて凶暴かつ残忍。
分厚い甲殻と毛皮は物理攻撃のみならず魔法のダメージすらも軽減してしまうため、対策無しで倒すのは困難を極める。
どうやらアーマーグリズリーという凶暴で残忍な魔物のようで、倒すのはかなり難しいらしい。
つまり絶体絶命の大ピンチだ。
でも、その割に余裕そうじゃないかって?
……まあ、なんというか…
お察しの通りだ。
『炎槍』
俺の背後から聞いた事のない魔法の詠唱が聞こえると同時に、目の前で立ち上がって威嚇していたくまさんの胸を炎の槍が貫いた。
『グォォォォォオオオオオ!!!』
断末魔の叫び声をあげ、苦しそうに悶えるくまさん。
そんなくまさんに追い討ちをかけるように、全身を覆う甲殻の隙間から噴き出すように炎が上がった。
外部からの攻撃を防ぐための『鎧』が、己の身を焼く炎を閉じ込めるための『棺桶』になると言う笑えない皮肉だ。
『外からの炎があまり効かないのならば、中から焼けばいいじゃない。』と言わんばかりに、くまさんの身体全体を内側から焼き尽くしていく炎。
毛の焦げた独特な臭いと、肉と脂が焼けるいい匂いが辺りに漂う。
全身をくまなく焼かれ、うめき声すらあげなくなってしまったくまさんを見て、思う。
これじゃあ、どっちが怪物かわからないな…と。
対して親しくない人に、自慢話を延々とし続けられる人のメンタルが羨ましいと思う今日この頃です。
今回の後書きはこの世界の魔物の強さについて。
本編でよく『○級が○人分』とか『○級相当』みたいな強さの表し方をしてますが、あれは本当に大まかな目安でしかありません。
なので、『C級相当の強さの魔物をD級の平均的な強さの冒険者が倒せる。B級の上位冒険者が勝てない。』なんてことも起こり得ます。
端的に説明するならば『相性がめちゃくちゃ有利なら、強いとされてる魔物相手にでも圧勝できうる。』という事。
まあ、当たり前と言えば当たり前なんですが『指標が基準』とは限らないって話です。
ギルドが、冒険者相手にこの事を説明する際、よく使う例文を書いておきます。
『物理耐久がとてつもなく高いけど、寒さには弱いモンスターがいました。
このモンスターにB級の剣士の冒険者が挑みましたが、攻撃は全て弾かれてしまって倒せませんでした。しかし、D級だけど氷属性の魔法が得意な魔法使いの冒険者からすれば楽勝に倒せるカモでしかありませんでした。
かと言って、B級冒険者とD級冒険者が戦っても、B級冒険者の方の圧勝です。
相性次第では、簡単に敵を倒せるかもしれませんが逆も然りです。
だから、自分の等級よりも上のモンスターを倒せるからといって高飛車になったり、遥かに弱い筈のモンスターに勝てずに落ち込むのはやめましょう。』
何故こんな事を、わざわざ後書きで書いているのかはお察しください。




