『要』
ゲームの周回イベントは4回目くらいから飽きて中断しがちの作者です。
準備のため、別の部屋へと案内されていた俺だったが
「そうだ、君の護衛をしてくれる子との顔合わせの時なんだけど…
ノーリアクションだとアレだし、知ってる人物だったとしても反応してあげて欲しいな。
ほら!森での演技の予行練習だと思って、ね?」
同行中のギルドマスターが、急にそんなことを言い出した。
「驚いたり、感激すれば良いんですかね?」
「そこら辺は君に任せるよ。」
無責任だな…と思いながらも渋々承諾する。
「ありがとう。君の演技力とソフィ…じゃなくて護衛の子の反応を!楽しみにしてるよ!」
「…本当に隠す気あります?」
「…っと、着いたよ。
この部屋で待ってもらっている。
と言うわけで、さっそく…」
ギルドマスターが扉をノックをすると「どうぞ。」という聴き覚えのある声が聞こえてくる。
ガチャリと扉を開けて部屋に入ると、そこにいたのは…
「ササキアキラ君!
君を護衛してくれる頼れるメンバーを紹介しよう!
なんと!あの有名なA級冒険者のソフィアちゃんだ!」
「な、なんだってー!」
バッと大袈裟に手を広げて、部屋で椅子に座っていたソフィアを指し示すギルドマスター。
それに合わせて、わざとらしく大袈裟に驚く俺。
「………。」
「えっ?あれ?……えっ?」
そんな俺たちの茶番を、若干引き気味で静観するソフィアの反応はなんとなく予測していた。
しかし、隣りに座っていた見知らぬ女性が、俺たちとソフィアを交互に見比べて困惑しているのはちょっと想定外だ。
(…ソフィアの隣にいる人は…冒険者なのか?
ギルドマスター…包み隠さず説明するとか言いつつ、割と色々な説明を後出しで見せてくるのは正直勘弁して欲しいんだけどな。)
まさか、ギルドマスターも知らなかったなんて事はないだろうし、意図的に隠していたのだろう。
「…ソフィアちゃんとキースちゃん。
本当に申し訳ないんだけど、もうちょっと待ってね。」
ギルドマスターと俺は、入ったばかりの部屋を出ると、小声で話し合いを始める。
「…想像以上に反応に困ってたね…」
「まあ、そりゃそうですよね。」
「それにしても、君の演技力は…中々だね。」
「…褒め言葉として受け取ってもいいですか?」
「……ご想像にお任せするよ。
…さて、我々は今からもう一度あの部屋に入らなければいけないんだけど…なんか、入り辛いね。」
『誰のせいだよ』と言いたくなったが、あんな演技をしてしまった手前、人の事を言える立場ではなさそうなので自重する。
「てか、ソフィア以外にもう一人…キースさん?って方がいるのは初耳だったんですが…
包み隠さず教えてくれるんじゃなかったんですか…?」
「まあ、準備の時にどうせ話す事になるから大差ないと思ったからね。
私よりもキースちゃんから詳しい話を聞いた方が彼女の事をよりよく知れるだろうし、親睦を深める時に話題にできるからいいかなって。
…ソフィアちゃんの事も、一応サプライズのために隠してたつもりなんだけどなぁ。」
『俺が知っている頼りになる人物』という情報で、真っ先に思い浮かぶのがソフィアなので仕方がない。
「これ以上待たせるのは悪いし、そろそろ戻ろうか。
…何とも言えない『場の空気』を変えるためにも、引きずらずにサラリと話を進めて誤魔化そう。」
俺は頷くと、ギルドマスターと共に素知らぬ顔をしながら部屋に戻る。
「二人ともお待たせ!それじゃあ早速準備を始めようか!」
そして何事もなかったかのように、ギルドマスターが話を進めようと…
「あの…すみません。ひとついいですか?」
したところで、キースが手を挙げる。
「ん?どうしたんだいキースちゃん。」
「…結局、さっきのは一体なんだったんですか?」
悪意なき質問が、僕らの心を傷つけた。
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その後、さっきのは一種の間違いだったという事で説明で手早く済まされ、各自の役割についての話がギルドマスターによってなされていた。
「…というわけで、話をまとめよう。
今回、三人には『クロマヒタケ採取の依頼』という名目で森に入ってもらい、各自『異なる任務』を行なってもらう。
『異なる任務』といっても、行動する際は決して離れ離れになる事のないように。
ソフィアちゃんは、二人の護衛をすると同時に付近にゴブリンがいないかを『魔力探知』で索敵し、近づいてきたらハンドサインで二人に報告。万が一、ゴブリンが身を隠さずに襲いかかってくる様な事が有れば迎撃……可能であれば生け捕りしてもらえるとありがたい。
キースちゃんは、ソフィアちゃんからの合図を確認し次第、『虫導者』の能力を使ってゴブリンに虫をつける。また、可能ならば『ゴブリンを見つけて、身体にくっつくように指示された虫』を森に放って、定期的に森にいる虫たちの動向を確認して欲しい。
ササキアキラ君は、自分の話す言葉に注意しつつ二人と会話し、ソフィアちゃんからのサインを確認し次第『嘘の情報』をさりげなく、かつ大きな声で会話の中で話す。
くれぐれも、今回の作戦についての話や、『演技』等の不審に思われうる言葉を森の中に入ってから話すことのないように。
君の言葉は、『言霊の加護』のお陰で相手に筒抜けになるからね。
ここまで、疑問に思った事はないかな?」
「特にないです。」
「私も大丈夫です。」
「…………。」
何故か一人黙るソフィア。
(あれ?ソフィア、どうしたんだ?)
何か質問や作戦に対する意見があるのかと思ったが、それならこんな風に黙りこんだりはしないだろう。
「…すみません。ナタさんと二人で話しておきたい事があるのですが、よろしいですか?」
(口ぶりからして質問の類ではなさそうだけど…ギルドマスターと二人きりで話したい事…か。
万が一、ゴブリンと戦闘になった時にどうするかをより明確にするとかかな?)
『二人だけで』と言っているあたり、今回の作戦に一切関係ない私事かもしれない。
それこそ、『A級以上の冒険者しか知ることのできないトップシークレット』の可能性だって大いにある。
(わざわざ『二人で』と指定してるんだし、首を突っ込むのは野暮だな…)
「ああ、構わないよ。」
「という事で、悪いけど二人とも、先に受け付けに行っておいてくれるかしら?
大丈夫、すぐに終わるから。」
そう言ったソフィアの表情は、初対面の時のギルドマスターを連想させる笑顔だった。
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「………どういう事ですか?」
アキラとキースが部屋を出てから、足音が聞こえなくなったのを確認したソフィアはナタに問いかける。
「約束を守りきれなかったのは申し訳ない。
……彼は、私達が思っている以上に察しが良かったんだ。
最初は気を遣って『森の異変』についての話はしないように伏せていたし、聞かれてもしらを切るつもりでいた…
しかし、他でもない彼の口から、『隠そうとしていた事実』が出てきた。
あまりにも正確な推測だったから、ソフィアちゃんから直接話を聞いたものだとばかり思っていたけど…」
「…言うわけがないじゃないですか。
ただですら、アキラを同行させる事に反対しているんですよ?
…これ以上、『危険な事』に深く関わらせたくないんです。」
落ち着きながらも、所々感情的に訴えかけるソフィア。
ナタはそんなソフィアの様子をしばらく黙って見ていた。
「……昨日もいったと思うけどね、ソフィアちゃん。
君は、あまりにも過保護すぎる。
そもそも、君のいう『彼の身の安全』を守る時に、『彼の意思』は尊重されているのかい?」
「それは…」
「彼自身が『依頼をやりたくない。責任の伴う情報なんて知りたくない。』と訴えてきたというのならともかく、だ。
ササキアキラ君を巻き込みたくないと言うのは、他でもない君の考えなのであって、彼自身の望みじゃない。違うかい?
彼は、紛れもない『自分の意思』で冒険者を志した。
…まあ、今回の依頼に関しては半ば強引に話を進めたという事は否定しない。
君も知っているだろうが、それが『冒険者』だからね。
彼は『一人の冒険者』なんだ。『一人の一般市民』ではない。」
「ですが…
彼がわざわざ身を危険に晒してまで、ゴブリンロードの襲撃を急かす必要はなかったのではないですか?」
「E、D級の冒険者の多くが、いつ解除されるのかわからない義務のせいで依頼を受けれない。
そんな現状を一刻も早く打破せねば、ギルド全体の士気が下がるだけじゃ済まなくなる。
今は無理にでも言うことを聞いてくれているが、依頼に行けない冒険者からの抗議がたくさん来ているのも事実だ。
それに、ゴブリンロードの襲撃を止められなければ、街に攻め込んでくる『ゴブリン』と戦わなければいけなくなる。
そうなれば、嫌が応にも彼は真実を知る事となる。
彼の身を案じて出し惜しみした結果『防ぐ事ができた筈の犠牲』が発生した、と。
後から彼が知れば、どんな気持ちになると思う?
見ず知らずの人間の落とし物を命懸けで届けようとしたり、初対面の私の無茶振りにも渋々ながら応えてくれるような『お人好し』な彼が…」
「………。」
「きっと後悔し、自分を責める。
ちょうど、彼を冒険者に誘ってしまったことを後悔している君のように。
君は、『彼の重要性』と『彼自身の気持ち』を理解しなければいけない。
彼は『守らなければならない弱い市民』ではなく、『市民を守る冒険者』であり『街を守るための作戦の要』だ。
そして何よりも、彼の意思と決断を認めてあげてほしいんだ。」
「…そう、ですね。
私は、彼に……アキラに自分の気持ちを押し付けすぎていたみたいです。」
「…わかってくれてよかったよ。」
「…ナタさん。
ありがとうございました。」
「ああ、こちらこそありがとう。…二人の事、守ってあげてくれ。」
「もちろんです。それでは…」
ぺこりとお辞儀をすると、ソフィアは部屋を出て行った。
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先ほどまで四人が座っていた円卓の置かれた部屋。
そこに一人、ぽつんと残されたナタは椅子に腰掛けたまま深く息を吐く。
「…………ふう。」
(ごめんね、ソフィアちゃん。)
歯に衣着せずに吐いた言葉と『嘘』が、彼女の心の解放のための『鍵』となってくれる事を願う事しかできない自分が情けない。
彼女の『異常な責任感』は、彼女の辿ってきた人生が残した『負の遺産』だ。
彼女の心に絡まる鎖とも言えるソレの話を、かつて友から聞いた。
きっと、彼女は今なお囚われている。
でも、大丈夫だ
君は悪くなんかない
責められる悪人は、私一人でいいんだから
だから、一人で全てを抱え込まないで
そう願う事が、今回の件に対する『免罪符』になるなどとは毛頭思っていない。
それこそ、『人の気持ちを考えていない、偽善者の自己満足』に過ぎないかもしれない。
(…私も、ソフィアちゃんの事を強く言える立場ではないのかもな…
……それにしても、ソフィアちゃんがそこまで思い詰めて守ろうとするササキアキラ君、か…)
『異国の好青年』といった印象を受ける容姿に、裏表がほぼなく、馬鹿馬鹿しい頼み事であっても嫌そうな顔をしながらでもしてくれるお人好しな性格、加えて少ない情報から物事を推察する事ができる知力、そして『言霊の加護』か…
かなり特殊な存在である事には間違いないが…
(悪人では無さそうだったし、ソフィアちゃんが騙されているという事ではないのは分かる。
話していて、不審に思うような点も特にはなかった…
だが…
初対面の時も、二人で話している時も、驚いた演技をするように頼んだ時も、彼と一緒にいる間中ずっと…
まるで、なんというか…
全くもって異質な何かが……
…って…何を考えているんだ私は…)
ここ最近、まともに寝ていないせいだろうか。
異国の出身で、『言霊の加護』が使えて、A級冒険者二人と交流があるだけの彼に……
(あーー、うん。)
全然普通じゃなかった。
そりゃ異質に感じるわけだ。
(さーて。
私もそろそろ自分の部屋に戻って書類の整理をしないとな。
いつまでも部屋で座って休んでいては、依頼に行ってくれた彼らに示しがつかないからね。)
ナタは軽く伸びをして椅子から立ち上がると、会議室を出て鍵を閉めた。
締め切られた部屋の天井には、一匹の羽虫が静かに止まっていた。
またソフィアがセンチになってる…って思われた方々には申し訳ない気持ちでいっぱいです。
後書きという名の補足説明書きたかったけど、色々とまずい事になるので自重します。次回をお楽しみに!




