『もう一つの会合』
久しぶりにこいつらの話です。
時は、エルドギルドにて会合が行われた日の夜にまで遡る。
『……ふむ、おおかた集ったか………』
暗く鬱蒼とした夜の森の奥地にて、鈍く響いた人ならざる者の声。
決して大きな声量ではないが、辺りの大気を震わせるような、形容し難い重圧を持っている。
深々と岩の玉座に腰を下ろし、周りを囲うように集まっている千を超えるゴブリン達を見下げる魔物こそ、声の主にしてゴブリン達の主でもあるゴブリンロード。
人間の懐く常識を逸脱する者にして、この森の覇者である。
そんな堂々たる王の眼前に、跪いて面を下げる二人のゴブリン。
片方は巨大な体躯を持ち、背中には何かの骨を使って作ったと思われる棍棒のようなものを背負っている。
そして、もう片方は黒いローブを見に纏っており、フードを深々と被って顔の上半分を隠していた。
『…さて……プロディティオよ。
今日の森の様相、及び人間どもの動きについての報告をしてもらおう。』
王が話し終えた直後、プロディティオと呼ばれた、黒いローブを纏うゴブリンが顔を上げる。
呪術などに秀でた能力を有する『ゴブリンシャーマン』と呼ばれる魔物で、通常のゴブリンとは比べ物にならないほど強く、頭が良かった。
『……はっ。
…まず、森の様相についてですが…
食料等の資源に関しては問題なく採取が出来ております。
……次に、森の様相についてですが、岩亀どもが、我らの縄張りに多く侵入して参りました。
ですので、通例通り、仕留めはせずに人間の侵入の多い浅き森へと追いやりました。
そのため、この件は、さほど問題ではないのですが…
矢毒の原料である飼育下のナメクジ共を大量に繁殖させた結果、餌のキノコが不足する事態に陥っております。
来たる奴らとの決戦に向けて戦力を蓄えている今、矢毒の不足は致命的な問題になり得るかと…』
『……我らの領地に迷い込んだ岩亀共の扱いはこれまで通りで良いとして……毒矢の材料であるアレらの餌不足ときたか……
ならば一部の訓練兵を採取部隊に回し、餌の調達範囲を拡大するとしよう。
ふむ……そうだな。
フィディスに受け持たせている訓練兵の中から数名を採取部隊に参入させ、採取部隊の護衛として働かせる事とする。』
フィディスと呼ばれたゴブリンは、人間の大男を彷彿とさせる巨躯と岩のような筋肉を持っていた。
ゴブリンジェネラルと呼ばれる、強靭な肉体ととてつもない膂力を有する魔物だ。
フィディスは俯いてしばらく黙り込んでいたが、突然顔を上げる。
『王よ
なにゆえ、他の部隊からではなく某の兵より態々徴兵を致すと仰られるのでしょうか
願わくば愚鈍な某めに理由をば、お伝えいただきたい次第でありまする』
『……お前の訓練兵の戦力は、既に我の望む技能を獲得している。
お前の兵に今足りないのは、戦闘による更なる肉体的な強化であり、技術を磨く訓練ではない。
故に、採取部隊の護衛役として参入させて実戦経験を積ませる。
加えて、特定の目的を果たすために団体で任務を遂行するというのは戦場等の様々な場面で必要となる物だ。
各々が自身の役割や目的を自覚し、連携を取る事は、我らが打ち倒さねばならぬ人間共に対しても有効な手段となる。』
『成程、左様でございましたか
ご教示、深謝致します』
納得したのか、再び頭を下げて話を聞き入れる体勢へと戻るフィディス。
その様子を確認した王は、再びプロディティオの方向に顔を向けた。
『……では、引き続き報告を頼もう。』
『はっ。
……森の様相については、先程述べた通りです。……次に、森に立ち入る人間どもの動きについてですが…
……奴らが、我々の存在に感づいたと思われます。』
すこし顔を顰めながらも、そう言い切る。
しかし、話を聞き終えた王の表情は一切変わらない。
『苦心しているようだが、心配は要らぬ。
そうなるという前提で襲撃を行わせていたのだ。
…もし、これほどまで高頻度の襲撃を行なっていても尚、あちらが一向に対策を取ってこないというのなら、それこそ警戒すべき兆候であるといえただろう。
…さて、奴らに感づかれたとなれば、もはや暗躍に徹する意味も必要性も少なくなったという事。
これからは襲撃に向けた最終準備に取り掛かる。』
そう言うと、王はすぅと息を吸う。
そして張り裂けんばかりの大声で
『聞け!誇り高き同胞達よ!!
我々と奴らの雌雄を決する時が来た!!
戦だ!!我らの輝かしき繁栄の始まりとなる初陣の時だ!
武器を取れ!!憎き敵を討て!!奴らの住まう街を蹂躙し、その地に我らの住まう国を作るのだ!!
そして、奴等に思い知らせてやろう!!
奴らに踏み躙られ、貶められ、苦渋を舐めさせられ続けた我らの苦しみを、憎悪を、そして燃え上がる怒りを!!!
さあ、同胞達よ!!
各々が為すべきことを為せ!!
全ては我等の繁栄と栄光の為に!!』
森に轟く王の布告、それに応えるように手下達が沸き立つ。
『『『『戦ダ!!戦ダ!!人間ヲ殺セ!!
我ラノ偉大ナ王ノタメ、輝カシイ勝利ヲオサメルノダ!!!』』』』
『『『『偉大ナル王ヲ讃エヨ!!我ラガ王ヲ!!!』』』』
狂気的とも言えるほどの熱狂が次々に伝播し、ゴブリン達の喝采は森に響き渡る。
そんな中、以前膝をついて王を見上げていた呪術師が口を開いた。
『王よ……実は、人間に関しての報告がもう一つございます。』
何か物憂げな呪術師の様子を見て、王は少し目を細める。
『……どうした、プロディティオよ。
………例の赤髪の人間のような脅威が新たに確認されでもしたのか?』
『……いいえ、新たに強い人間が現れたと言うことではないのです。
……ですが………
………森に侵入してきた人間の中に、あのお方と同じ能力を持つと思われる人間が見つかりました。』
瞬間、先ほどまで表情を一切崩していなかった王がその目を大きく見開く。
『…誠か?』
『はい。
……我々の言語を用いて話しているにも関わらず、仲間の人間と問題なく会話が成立していたようでしたので、能力が発動しているというのはほぼ確実でしょう。
……それに、その人間からはあのお方の力さえも感じ取る事ができました。』
『……そうか。
………襲撃の際、その人間は傷つける事なく捕虜として捉えよ。
外見の特徴等は分からずとも、能力の影響でその人間が放つ言葉は理解できるが故に判別は容易いであろう。』
『かしこまりました。王よ。』
『ふむ、それでは各々準備に取り掛かれ。
奴等との決戦は…三度目の日が沈んだ時とする。
それまでには、万全の状態に仕上げるよう尽力せよ。』
『『はっ』』
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生まれた時から、死と隣り合わせの生活を続けていた。
親は人間の襲撃で命を落とした。
命かながら逃げおおせた仲間達は、皆生き残れずに淘汰されていった。
そして、愛する家族すらも…
私が生き残ることが出来ていたのは、周りと比べて一回り身体が大きかったからか、少しばかり頭がよかったからか、それとも運が良かったからなのか…
確かな事はわからない。
だが、これだけは言える。
私の命は、憎き人間への復讐の為に今日まで生き残ってきた、と。
全ては同胞の無念を晴らすため。
何も守る事ができなかった自分の贖罪の為に…
前回のゴブリン集会の時に登場した二人(?)が再登場!今回は名前まで開示されました!
プロディティオ、実は本編3回目の登場なんですけど2回目はいつか分かりますかね?
ここからは後書きという名の補足説明です。
興味のない人は(ry
今回はゴブリンの毒矢に使われる毒のお話です。
矢尻に塗られていたあの毒の話です。
こちらのレシピは『オオマヒナメクジの粘液を煮詰めたものに、催眠効果のある植物、血行を促進する薬草、色々混ざった特性の解毒薬、そして最後に隠し味(?)の〇〇〇〇を入れます。』
〇〇〇〇はネタバレなりかねないので今は伏せてます。本編で出てくるまでお楽しみに!
ちなみに材料の効果はそれぞれ
・オオマヒナメクジの粘液→主な矢毒の成分。麻痺効果。
・催眠効果のある植物→対象が解毒したり反撃しようと試みる前に眠らせる。麻痺毒との相乗効果もある。
・血行促進の薬草→毒の周りを早めるためのもの、微量入れる。
・色々混ざった解毒薬→時間差で体内の毒を分解するように作用する解毒薬。
少量混ぜる事で、対象に毒を打ち込んだ3〜6時間後くらいから作用し、体内の毒素を減らします。可愛いワンコ達(人喰い)のご飯に加工する時の毒の処理を楽にするためでもありますが……
・〇〇〇〇→特殊なもの。一応、毒といえば毒……?
と言った感じ。
こうして作られた矢毒はかなり強力で、『状態異常耐性』があっても普通に効きかねない程です。
致死性の毒ではなく、あくまで麻痺毒で済ませているのは何故…?
と言うのは、後ほど本編に出てくる予定。




