『呪いの剣……?』
日に日に顔の輪郭が丸くなっていく…
「………………。」
憩いのベットの上に、呪いの剣と思しきものが置いてあるのだが…
(まさか『送り届ける』って言うのは、コレの事だったのか?)
ベットの上に陣取る、布に巻かれたソレを怪訝な目で凝視しつつ、目の前の状況に頭を抱える。
(ただの武器なら喜んで使わせてもらうんだけどな…あいつからの贈り物って時点で十中八九どころか、確実に呪われた武器だろ…
店で武器を見てる時もちょくちょく『君なら大丈夫!使える!』とか言いながら手渡ししようとしてきてたし、『多少の呪いなら問題ないよね!』みたいに軽く考えてそうだな。)
『呪いの武器』なんて呼ばれている危険な代物には近づく事すら拒むというのが一般的な対応だろうが、そばに近寄るどころか大量のそれに囲まれていたせいで少し感覚が麻痺しているのだろう。
躊躇う事なく、ベットの上に置かれていた布で包まれたソレを掴んでどかす。
しかしながら、危険なモノであると言う認識はまだ健在なので、わざわざ布を取って確認しようとは思えなかった。
あくまで移動させただけで、全く使ってはいない。
(特に体に異常は無いし、布越しで少し触る分には問題なさそうだな。
……それにしても…)
使わないのは大前提としても、こんなものを宿に置きっぱなしにするというのは果たして大丈夫なのだろうか。
(あの店の呪いの武器の中には『自身を見た人間を操って、見境なく斬り殺そうとさせる剣』とか『自殺するよう精神に干渉してくるナイフ』みたいなただ近くにあるだけで危険な物もあるって言ってたからな…)
そんな危険な呪いのかかった武器を店で売るな、というよりそもそも呪いの武器を集めて売るなと心の底から思う。
わざわざ売っているので需要自体は少なからずあるということなのだろうが、そんな物を買おうと考える人の気が知れないし、知りたくもない。
(実際に使うため…な訳ないよな…
となると、一部の特殊なコレクター向けなんだろうけど…
少しでも取扱を誤ったら大惨事になりそうだ。
万が一にそんな事が起こったらたまったものじゃないし、より良い解決策が見つかるまではクローゼットに封印しておこう。)
封印というにはあまりにも心許ないが、しないよりはマシだろう。
そうして布に包まれた武器をクローゼットにしまった俺は、残しているもう一つの問題に目をやる。
(やっぱり…日本語で書かれてるんだよなぁ…)
ここは異世界であり、地球ではない。その筈なのだ。
にも関わらず、武器に添えられた手紙は自分の見慣れた自分の母国語で記されていると言う事は
(ベリタスは日本について知っていて、『俺が日本出身の転生者』だと言う事もわかってる…
あり得るのは、ベリタスは俺と同じ転生者で、元々は日本に住んでた…とかか?)
自分という転生者がある以上、自身と同じような転生者がこの世界にいてもなんらおかしくない。
何より、そうでなければ別世界の言語を書くことなどできるはずが…
(…いや、不可能ではないか。
『言霊の加護』があるくらいだし、読み書きバージョンの加護(?)みたいなものがあるかもしれないもんな。)
ぶっちゃけ、地球で『非現実的』と言われるであろう現象がそこかしこで起きているような世界だ。
自分の書いた文字を万人が読むことができる『読み書きの加護』みたいな物があっても不思議ではない。
仮にこの手紙を他の人に見せたとして、もしも文章を読むことができるのなら『読み書きの加護』のようなものが働いていて、俺には日本語にみえていると言うことになるだろう。
(とりあえず、この手紙を読んでみてもらうか…
それで問題なく読めたならベリタスの持つ能力の影響で日本語に見えているだけという事になる。
…もし他の人達に読めなければ、ベリタスは俺と同じ『日本から来た転生者』だという説が濃厚になるな。
そうと決まれば早速…)
手紙を誰かに読んでもらおうと部屋を出ようとしたその時、ふと思う。
(いや、待てよ?
この手紙は果たして他人に見せてしまって良いものなのか?)
もし手紙の文字が誰にでも問題なく読めたとしたら、手紙の内容を知った人がどのような剣を貰ったのかと興味を持つかもしれない。
仮にそうなった場合、手紙を読ませた側として見せたくないとは言いにくい。
かと言って、正直に『危険な呪いの武器の可能性がある』などと説明しようものなら、色々と大変な事になりかねない。
下手に他人を巻き込むべき案件ではないと再認識する。
(…とりあえず、この手紙は人目のつかない所にしまっておくか。)
手紙を折りたたんでポケットにしまおうとした時、ふとある事が気になる。
(…そういえば、この手紙の筆跡、どことなく俺の字ににてるような…)
ベリタスからの手紙にかかれていた文字のトメハネや、所々に見られる崩れ具合が自分が普段書いている文字の筆跡と似通っているような気がした。
(まあ、だから何だって話か。
…ともかく、ベリタスが日本から来た転生者なら初対面の筈の俺に対してあそこまでフレンドリーに接してきたのも納得はいく。
俺だって、自分と同じ境遇の相手にあったら優しくしてやりたいし、仲良くしようと思うもんな。
…でも、それなら最初に自分が転生者である事を打ち明けるべきじゃないのか?)
この手紙が自分の素性を示す為のものであるというなら、初めから転生者である事を口頭で伝えておいた方がいいに決まっている。
たとえ初対面だったとしても、前世での思い出話や日本についての話をされるのとされないのとでは第一印象や信憑性に大きな差ができる。
(訳あって、意図的に転生者である事を隠しているとか?
いや、それなら日本語で書いた手紙を送りつけるなんて事をするはずがないか…)
考えれば考えるほど、ベリタスの思惑がわからなくなってくる。
(最後に言い残していた内容も、俺と話すのが目的だったかのような言い振りだった…
…だからこそ、自身の正体を最初に明かさない理由がわからないんだよな。)
もっとも、あの通りにある店を仕切る元締め的存在であると本人は言っていたが、そもそもとしてあの場所自体が謎だ。
(…俺はあの通りに迷い込んだんじゃなくて、帰ってきた時と同じように連れてこられたんだろう。
別れ際に言ってた『君が先に進んだ時、また会おう』って言葉も、まるで俺を試しているような、そんな風に感じた。
やっぱり、初めから俺の事を知っていて、俺に会って話すことが目的だったのか?)
改めて、ベリタスにされた事を思い返してみる。
・突然見覚えのない薄暗い通りで話しかけてきて、半ば強引に自身の管轄下の店に案内。
・店が呪いの武器だけ集められたやばい所で、買わないとわかりきっているのにも関わらずひたすら武器を見せ続ける。
・かと思えば何故か急に満足して、特に詳しい説明をする事もないまま意味深な発言をした後、宿の前に強制送還する。
・挙句、お土産として宿のベットにワケアリの品物送りつけていく(なお、クーリングオフは不可)。
(………改めて、よくついて行こうと思ったな、俺。)
ベリタスが転生者か否かを無視しても、こんな事を初対面の相手にする理由など『会話そのものが目的』か『武器を渡したかった』ぐらいしか思いつかない。
だが、少なくとも敵意あっての行為ではないという事は何故か確信している。
(そもそも、俺に危害を加えるつもりなら『呪いの武器』だなんて馬鹿正直に教えないで武器を渡すだろうし…
そんな周りくどい事をしなくても、背後から刺すなりすれば簡単に殺せただろうしな…)
話しかけられるまで気づけなかったほどの隠密力。
剣や手紙、人間の俺ですら自由に転送する能力。
更には、数多くの呪いの武器やアイテム等を扱う店を取りまとめる地位。
それら全てを有しているであろうベリタスが、自ら俺を店に呼び込んだり、呪いの武器について事細かに説明したのだ。
俺を殺したり苦しめるのが目的なら、こんな回りくどいことをわざわざするとは思えない。
暫く考え、俺は一つの結論を導き出した。
(…もしかして、俺を揶揄う為に呪いの武器だと嘘をついていたんじゃないか?)
あの店に置かれていた数々の武器はおどろおどろしい見た目はしていたものの、近づいても特に何か問題が生じたりはしなかったし、現に今も俺はピンピンしている。
もしかしたら、この世界での厨二病アイテムのような武器を扱っていた店なのかもしれない。
(当然のようにベリタスが持ち運び出来てた時点で冗談で言っていたと考えるべきだったかな…)
そういえば、『呪われてるだろう』と言い出したのは俺からだった。
改めて考えると、周辺にあった店や雰囲気、売ってるもの、ベリタスの反応等を見て勝手に呪われていると断定していただけだ。
ベリタスが途中から開き直るような風で呪いの武器だと言い出したから、最初の胡散臭さも相まって呪い云々を完全に信じ込んでいたが、実はそうじゃないのかも…
(…いや、胡散臭いのは変わりようのない事実だな。
うん。
ともかく、呪われていると確証が持てるような現象は特に目の当たりにした覚えがないし、揶揄われていただけだって言うのが正しいのかも…
そういえば、まだ鑑定眼を使っての確認すらしてなかったな。)
鑑定で事の真偽を確認するべく、クローゼットから例の物を取り出し、布を括っていた紐をほどく。
厳重に巻かれていた布がハラリと落ち、送られてきた剣の姿が明らかになる。
それは、鞘に納刀された西洋の剣だった。
鞘も柄も真っ黒で、決して煌びやかな物ではない。
しかしながら、質素とも言えない見た目をしている。
鍔はコウモリの羽(もしくは龍の翼?)を象っており、中央と剣の柄頭の部分には鮮血のように赤い宝玉が爛々と輝いている。
鞘には2匹の蛇が巻きついたような精巧な装飾がなされ、それぞれ赤い小さな丸い宝石を咥えていた。
『The・闇の剣』みたいな見た目をした高級感溢れる剣だ。
要するに、どう見ても理由もなく初対面の相手にタダであげるような代物じゃない。
恐る恐るクローゼットに立てかけている剣の柄を右手で掴み、鞘を左手で支えながら持ち上げてみる。
(……………………。)
特に、何も起こらない。
(身体に違和感も感じないし、何かを切りたいとか言った危なっかしい感情も湧かない。
……試しに、鞘から抜いてみるか。)
スッと、鞘から剣を抜く。
黒い鞘から、剣身が露わになる。
その剣身は、赤かった。
鮮やかで透き通った真紅の刃先は、部屋の明かりを反射して輝いている。
まるで、月明かりのように優しくて、そして……
「…とても、綺麗だ。」
思わずそう口にしてしまうほど、その剣は美しかった。
暫く、その剣をジッと眺める。
何も考えず、吸い込まれるように見入って……
そして、ふと我にかえる。
(…はっ!
思わず見惚れてしまっていた。)
素晴らしい芸術品や満天の星空を眺めるとき、言葉で言い表せない感動を受けるのと同じような。
己の手に持っている剣に魅せられ、まじまじと眺めていた。
鞘や柄に施されていたような、手の込んだ装飾は一切ない。
だが、その剣身に引き込まれる様に見入ってしまう。
金属特有の光沢と、宝石のような輝きを放っているこの剣は、一体何で作られているのか見当もつかない。
しかし、そんな事はどうでもよかった。
それほど、この剣は美しかったのだ。
(…剣を鞘から抜いたけど、身体にも精神にも別に何の変化もなし。
強いて言うなら剣の美しさに見惚れたくらいだけど、それが呪いって事ではないよな。
となると、やっぱり呪われた装備じゃなくてただのレプリカか何かなのかも…)
だが、ここまで手の込んでいる物が模造品だとは到底思えない。
(試しに、『鑑定眼』で見てみるか…)
この剣は一体どう言った物なのか、それを確認しておかなければ、と鑑定眼でその剣を鑑定する。
すると、文字が目の前に浮き出て……
・蟋? 祖の 蜑」
蜷ク 血 鬯シ縺ョ蟋狗・悶′蟾ア縺ョ陦?縺ィ 黒 サ偵″鮴阪?魍励r蜈?↓菴懊j荳翫£縺溷殴縲
縺昴?蜉帙? 用い ッ繧? や厄 ス縺ィ縺?≧莉悶 言うほ 縺ゥ縺ョ繧ゅ?縺ァ縺ゅk縲
「…………………。」
すっと剣を鞘にしまう。
流れるように、さっき落とした布と紐を拾い上げると、剣に触れないようにして布で包んだ後に紐でキツく括りあげる。
そして、クローゼットにしまって鍵をかける。
「………よしっ!」
俺は何も見てないし、触ってない。
送られてきた剣?
ナニソレ、シラナイデスネ。
「さーてと!
明日、ギルドで剣を借りるとするか〜!」
わざとらしく大きな声でそういって部屋のランタンの火を消すと、俺はベットに潜り込む。
そしてゆっくり息を吸い込み…
(なんて物を送りつけてきてんだあのアホは!!)
鑑定結果は黒、それも真っ黒!!
どう考えてもヤバイ剣です、本当にありがとうございました。
(てか何だよあの説明文は!ホラー映画かなんかかよ!鑑定して出てくる説明が文字化けしてるとかおかしいだろ!
辛うじて読み取れる文字も『血』とか『黒』とか『厄』とか明らかにヤバそうな文字だけだし…)
体調や精神に異常がなかったからと言って油断していた。
実は、気がついてないだけで既に呪われているのかもしれない。
(ベリタスは嘘をついていなかったって事か…)
『そこは、嘘であって欲しかった』と嘆いていても仕方ないが、だからと言って解決策が見つかっているわけでもない。
今出来る事があるとすれば、これ以上あの剣には近づかないようにするくらいか…
いつか、あの剣をあのアホに返品しなくては。
そう心に決め、俺は目を瞑って現実逃避に勤しむ事にした。
特に物語には関係ないですが、宿のランタンは魔道具です。
現代の電気式の物のようにスイッチでオンオフが切り替えられます。




