『鑑定系のスキルは大抵有能』
よくある鑑定スキル…現実でも欲しいですよね。
『鑑定眼』は何もモンスターに対してだけ使えるものという訳じゃない。
ステータス欄からの説明によれば、鉱物や植物などの鑑定も可能なのだそうだ。
(つまり、わざわざイモムシを鑑定しようとしなくてもよかったって訳だな。
まあ、あそこまでイモムシが攻撃的だとは思わなかったけど…)
…気を取り直して、鑑定眼についての検証をしていくとしよう。
今回は足元に生えてる見たことのない植物を鑑定して…
(…流石に、この植物まで襲ってきたりはしないよな?)
恐る恐る、足下に生えていた葉っぱがクルクルと巻いている植物を手に取る。
手に巻きついてきたり、こちらに攻撃してくるような事はなかった。
(よかった、大丈夫そうだ。
…それにしても、『鑑定眼』ってどうすれば発動するんだ?
凝視したりとか、『鑑定』とか言わなきゃダメなのか?)
とりあえず、まずは手に取った植物を目を細めながら凝視してみる。
すると植物の上にステータスのような文字が浮かび上がった。
・サカマキグサ
森などによく自生している植物。食用になるが、灰汁抜きなど適切な処理しなければならない。
また、根にを栄養を蓄える性質がある。
(なるほど、『鑑定眼』の発動方法は『対象物の凝視』か…)
それにしても、この『サカマキグサ』という植物。
見た目といい食用になる点といい灰汁抜きが必要な点といい、山菜として有名なゼンマイにそっくりだ。
(いや、根に栄養を蓄えるのはワラビだったかな…
とにかく、火が起こせたら灰汁抜きして食べてみるか……ん?)
急にステータス画面がまた目の前に表示された。
その画面には
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〈通知〉
鑑定眼のレベルアップの条件を達成していません。観察眼のレベルを上げてください。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
との文字が。
そういえば『鑑定眼』のレベルは『観察眼』のレベルを超えられないとかあったな…
(『鑑定眼』のレベルを上げるためにも、先に『観察眼』のレベル上げをしておかないとな。)
よし!
そうと決まれば森の探索がてら『観察眼』と『鑑定眼』のレベル上げにいこう。
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・新緑石
綺麗な緑色の石。森の魔力を吸うことでその色を濃い緑へと変えてゆく。杖の材料や装飾品として利用される。
・セキショクカの木
春ごろに綺麗な赤い花をつける木。多くの地域に生えている。実は食用になり、人や植物食のモンスターに好んで食される。
・クロマヒタケ
森の中でも人の手が入らない場所によく自生するキノコ。弱い麻痺毒を持つため食用には適さない。オオマヒナメクジの好物として知られる。
気になったものを凝視すれば、それの情報が見れると言うのは本当に素晴らしい。
これがあれば、毒草や毒キノコに当たって、食中毒で野垂れ死ぬ心配もない。
LV1の鑑定眼がこれほど高性能なら、もっと高レベルになると一体どれほどの性能になるのか…
(でも、やはり鑑定眼も観察眼もレベルアップは無しか…)
先ほどから、いろんな石や植物を観察しているのだが、やはり『観察眼』のレベルがなかなか上がらない。
(やっぱり、動物みたいに『よく動くもの』を観察しなきゃレベルは上がらないのか?)
確かに、動体視力や動作予測というのは、動いてる相手がいるからこそ身につくものだ。
拾ったものを凝視したところで身につく筈がないのは当たり前だった。
(かと言って、野性の動物を探すってのもなぁ…)
イモムシですらあそこまでアグレッシブに攻撃してくる世界に生息してる動物が、おっとりとした温厚な性格をしているとは到底思えない。
というより、野生動物は警戒心が強く危険な場合が多いのは日本でも変わらない事だ。
山に生息しているイノシシやクマ、サルなどが人を襲ったというニュースは度々流れていた。
ただ、俺には遭遇する機会がなかっただけだ。
(まさか、あのイモムシがこの森の最上位捕食者なんてことはないだろうし…)
逆に、あれが一番弱い立場の生き物と言われてもそれはそれで嫌だが、生態系の頂点なんて事もないだろう。
と、一人で考え込んでいると、近くの茂みがガサガサと揺れ始めた。
「なんだ!?」
(あのイモムシ軍団か?
それとも、別の生物か?
あの茂みに隠れきるサイズなら、せいぜい大きくても人間の子供くらいだろうけど…
小さかろうが危険な場合も考えられるので油断は禁物だ…
攻撃的な場合を考えて、護身用に何か武器を持っておいた方がいいかもしれないな。)
とりあえず足元に落ちていた手頃な木の枝を拾い上げて構える。
ただの太めの木の枝だが、無いよりはマシだろう。
(さあ、来い!)
ガサッ!
「!」
茂みの中から出てきたのは、兎に似た生き物だった。
普通の兎と変わらない大きさの、可愛らしい生き物だ。
しかし、その額からは一本の尖った角が生えている。
(なんだあれ?
ただの兎…って訳はないよな。
額に立派な角が生えてるし…
とりあえず、鑑定眼であいつがなんなのか確認してみるか…)
そう思い、目の前に現れた兎を凝視すると文字が浮かび上がってきた。
・一角兎
森や平原に生息する角の生えた兎。普段は臆病だが、繁殖期の雄個体は縄張り争いの為に凶暴になる。額の角は硬いが脆い。ちなみに肉は食料である。
(わざわざ茂みから出てきてまで俺に姿を見せたのは、自分の縄張りに入った俺という外敵を追い出すためだったのか…
実際、めっちゃくちゃ後脚バンバン地面に叩きつけてるし…)
確か、あれは兎が不機嫌な事を表現するときにする動作だったはずだ。
顔も、心なしか不機嫌そうなので、やっぱり繁殖期の雄個体が縄張りを誇示しているのだろう。
(ここの居座る理由もないし、そう言うことならさっさとここから離れたほうがいいか。
…いや、待てよ?
こいつで『観察眼』のレベル上げできるんじゃね?)
すごく危険な生き物でもなければ、見た目も気持ち悪くない。
というよりも、むしろ可愛いくらいだ。
その上、縄張りを守ってるだけなので逃げようと思えばすぐに逃げ切れるし、倒せば食料になる…
あれ?
色々と都合が良すぎないか、この兎?
一角兎はキャタピラーの大好物です。
たまに額の角でキャタピラーを撃退する事もありますが、大抵は口から吐く糸で拘束されて身動き取れなくなった所を集団リンチされて食べられます。南無三ッ!!