『虫導者』
長きに渡る会合に終止符を…
時は少し遡り、エルドギルドの会議室にて
キースの特殊ステータスを目の当たりにした面々は、各々の反応を見せていた。
驚き、静観し、少し心配そうにし、欠伸をし…
そんな中、目の前で芸をこなした小さな羽虫を横目に、少し心配そうな表情を浮かべていた人物、ウィリアムがキースに質問を投げかけた。
「……その『虫導者』で同時に操れる虫ってのは、大体何匹ぐらいなんだ?沢山って言ってたし、2〜30匹とかなのか?」
「い、いえ!…えっと、これくらいの大きさの虫なら1000匹くらいなら同時に操れます!」
「せ、…1000匹!?
それって……その……色々と大丈夫なのか?」
生物を操る、または使役すると言った能力や魔法はかなり沢山存在している。
例を挙げるとすれば『対象となる人間等の好感度を上昇させる事で思い通りに操る[魅了]』や『魔物に主従契約を結ばせ、自分の戦力として使役する[魔物使役者]』などがあり、これらは世界の世間一般でも最もよく知られている物である。
前者は魔法、後者はスキルであるため、操る際の仕組みや使用方法が大きく異なるが、明確な共通点を持っている事が多い。
その共通点というのが『能力を使用する際、自身の魔力や精神等にかかる負荷が大きい。』という点である。
こう言った大きな短所があるが故に、これらを使用することができたとしても上手く使いこなせず、宝の持ち腐れとなる。
そういった認識が一般的な物なので、小さな虫とはいえ1000匹もの生物を同時に操る事ができると言うのは余りにも異質だ。
故に、能力の代償として受けるであろう大きな負荷を案じ、『大丈夫か?』と心配して尋ねるのは何らおかしな事ではない。
「…あ!えっと、ご心配していただきありがとうございます!
ですが、私の『虫導者』の能力は『自分よりも弱い虫を負荷を受ける事なく使役できる』と言うものですので、そう言った点は全くもって大丈夫です!
1000匹操れると言うのもあくまで単純な移動などの指示だけなので、先程のような複雑な動きを同時に命令できるのはせいぜい50匹程度です。
…それに、10匹以上の虫の視界を共有、とかしてしまうと情報が多すぎて頭が痛くなってしまいます…」
この環境にも慣れてきたのか、先程よりもはっきりとした口調でキースが自分の能力についての説明を続ける。
「お察しの通り、私はモンスターと戦う為の術をほとんど持っていなくて…
普段は索敵要員としてパーティーに参加させてもらっているだけで……その……」
「…なるほど…だからC級冒険者には上がれていないというわけか…」
「はい…お恥ずかしい限りですが…」
E級からD級に上がるというのは決して難しいことではない。
何故なら、薬草採取やキャタピラーのような弱い魔物を狩る仕事を受け続けていればそこまでステータスが上昇していなくとも上がる事ができるためだ。
言わば、冒険者を続けていればいつの間にか辿り着く事ができるランクであり、そこに超え難い壁のようなものは存在しないと言っても過言ではない。
しかし、D級からC級へと上がるとなるとそうは行かなくなる。
数々の依頼を受けて実践経験を積み、ある程度の魔物を単独で倒すことが出来る実力を身につけ、予想外の事態に直面しても迅速な対応が取れる。そういった能力こそが、C級冒険者になる為に最低限必要な要素にして、求められる全てなのだ。
そのため、いくら経験を積んで豊富な知識を手に入れようとも、柔軟な対応能力を有していようとも、直接魔物と遭遇した際に必要となる戦闘能力が無ければC級冒険者への昇級を果たす事はできない。
「キースちゃんは実践による経験は沢山積んでいるから、知識面や緊急時の対応力なんかはC級冒険者に匹敵すると考えてもらって問題ないんだけど……
いかんせん、直接的な戦闘には関して言うと……ね?
ほら、お世辞にもモンスターと戦う際に有用とは言えないだろう?
だから、ギルドの冒険者リストにも詳しい能力等の記載がなくてね。いや〜、探し出すのが大変だったよ〜。」
「まあ、そりゃこんなにちっちゃな虫を操って攻撃したところでジャイアントキャタピラーくらいの強さの魔物には対して通じないだろうし、戦力的な問題が発生するのも仕方ないわな…」
「あ!ジャイアントキャタピラー程度なら時間を掛ければ倒せますよ!
まずは身体の表面にこの子達の卵を産み付けさせて…」
「キースちゃん待って!それ以上は良くない!」
「あ、わかりました。」
キースの巨大芋虫の倒し方の内容を察して、慌てた様子のナタが説明を静止する。
説明を聞いて顔を強張らせていた面々がホッと安堵の表情を浮かべた。
「ちなみに、あなたは複雑な指示を出して操る時などには言語のような物を用いているのですか?」
「彼らには感情や人のような複雑な言語による会話はないですね。
なので単略的な信号を読み取ったり、送る事で操っています。
信号の例を挙げるとすると、飛ぶ、前に進む、右に旋回、止まる、といった感じでしょうか…」
ベルの質問に答えるように、キースは目の前で羽虫を操作しながら説明をする。
「なるほど…
ところで、その『虫導者』の能力が使える有効範囲はどれくらいなのですか?」
「複雑な操作やハッキリとした視界の共有が出来るのは数百メートルまでですね。
簡単な指示や大まかな視界の共有なら数キロ先でも問題はないですし、居場所を知るだけなら20キロほど離れていても分かります。
あ!居場所の特定だけなら、1000匹同時に操ったとしてもできます!
…私の能力の話はこれくらいで大丈夫でしょうか?」
「うん、助かったよ。ありがとう、キースちゃん。
さて、キースちゃんの『虫導者』についてある程度理解してもらった上で作戦の説明をさせてもらうね。
まず、キースちゃんには護衛付きで森の中に入ってもらう。
ここでいう森の中というのは、未開拓である『奥地』の手前付近の事を指していると考えてもらって構わない。
次に、『虫導者』の能力を利用してゴブリンを発見し、気付かれないように虫をくっ付けてきて欲しい。
あと、『ゴブリンを見つけたらくっ付け』みたいな指示を予め命じておいた虫を待機させたり、森の中を徘徊させるとかできたりするかい?
可能ならそれもお願いしたいんだけど…」
「徘徊させると言うのは難しいですが、待機させるのであればおそらく可能です。
ただ、ゴブリンの匂いを虫達に覚えさせなければダメですし、上手くいく確証はないのであまりアテにしないでいただけると…」
「できる可能性があるってだけで充分だ。
話の続きだけど、数匹のゴブリンに虫をつけてから、定期的に付着させた虫の居場所の確認をする。
これを繰り返して、ゴブリンの大体の動きや居場所の把握を行う。
その際に、ゴブリン達に付けていた虫が急に街の方面へ集まってきているのがわかったら、その時が奴らの襲撃のタイミングってわけだ。」
「ゴブリンにつける虫が餓死したり潰されたりした場合はどうするんだ?あとは、その虫の天敵なんかに捕食されたりとかは気にしなくていいのか?」
「あ!その点は問題無いと思います。
というのも、ゴブリンにつける為に使う虫は今目の前にいるこの子よりもずっと小さいので、見つかって潰される事はほぼないでしょうし、ゴブリンの体表の汚れなんかを食べる事で餓死する心配もないです。
天敵というほどの外敵はいませんので、食べられる心配もほとんどないかと…」
「なるほどな…
でも、この作戦ってキースに物凄い負担がかかるだろ?
そこら辺は大丈夫なのか?」
「確かに、この方法を続けるとキースちゃんに負担をかけてしまう。
だからこそ、その負担を減らす為にコチラから襲撃を急かして、こちらの都合がいいタイミングに襲撃を実行させるよう誘導する。
どうせ遅かれ早かれ来るんだし、どうせならタイミングくらいこっちで決めたいだろう?」
「…は?襲撃を急かすって?どうやって?」
「こちらが相手を追い詰めていると言うブラフを信じ込ませる。
例えば、『既に相手の拠点をこちらが把握していて、後は潰しに行くだけだ。』と言う情報を伝えて信じ込ませるとか…
まあ、こんな事は普通ならできないよね。
何せ、互いに言葉が通じないんだ。」
ナタがそう言った直後、ハッと何かに気がついたソフィアが口を開く。
「…まさか、アキラを森に連れて行くつもりですか?」
「…この役割をこなす事が出来るのは、『言霊の加護』を持つ彼だけだからね。
明日にでも彼を呼び出して、今回の件と担って欲しい役割、何をするのかも含めて説明するつもりだ。
……ソフィアちゃんの、彼を今回の件に巻き込みたくはないという言い分もよくわかる。
だけどね、これでもかなり譲歩してる方なんだ。」
「…ですが…」
「彼の協力があるのと無いのとで、此方の動きや負担も大きく変わる。
…何より、彼はもう一般人ではなく『冒険者』なんだ。」
「…そう、ですね。
……わかりました。」
少し何かを思い詰めた後、ソフィアが渋々承諾する。
「……あのー。ソフィアさんとその、アキラ?なる人物との関係って…」
「ベル、お前は空気読め…いや、今回に限っては寧ろナイスなのか?」
「まあ、兎に角、今回の会合はこれにて終了だ。
みんな、忙しい中来てくれてありがとう!
……ああそうだ。ソフィアちゃんとキースちゃんだけは残ってね。」
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「…さて、さっき言っていたキースちゃんの護衛なんだけど、ソフィアちゃんにお願いしてもいいかな?
と言うのも、キースちゃんが森に行くときにアキラ君にも一緒に行って欲しくてさ。
彼と一番仲がいいソフィアちゃんが適任だと思って、どうかな?」
「構いませんが……他に襲撃のタイミングを誘導する方法はないのでしょうか?」
「うーん、ある事にはあるんだけどね…
アキラ君と森の中で会話をしてもらって、会話をゴブリン達に盗み聞きさせるのが一番手っ取り早くて確実なんだよね…」
「…そうですか。」
「あの…そのアキラさんって、一体何者なんですか?
先程も虫を通して少しだけ聞かせて頂いたのですが…」
「ああ、キースちゃんは知らないよね!ソフィアちゃんが森の中で保護した青年で、『言霊の加護』を持ってるんだ。
つい先日、冒険者登録を済ませたからキースちゃんの後輩だね!」
「なるほど…ちなみに、森の中で保護とは?」
「ちょうど凶暴化したロックタートルの調査依頼を受けてたんだけど、その時に私が落としたポーションを届けようと森の中を探し回ってたらしくて…
…ロックタートルに襲われてたから助けたの。」
「ほえー……
って、ロックタートルに襲われてた!?
…その、アキラさんは無事だったんですか?」
「ほぼ目立った怪我もしてなかったわ。
だからこそ冒険者にならないかと勧誘したんだけど…
……正直、後悔してるわ。」
「…色々あったんですね。」
「なるべく、彼に負担がかからないように情報を制限して伝えるよう努力するよ。
…まあ、彼自身が冒険者になりたいと考えていたとも聞いているし、そこまでソフィアちゃんが気負う事じゃないと思うな。
…正直、過保護過ぎる気がするよ。
とりあえず、明日のアキラ君との話が終わり次第、『キースちゃん、ソフィアちゃん、アキラくんの3人で森に行ってもらって、虫をゴブリンに付着させる』及び、『誤情報を相手に与えて襲撃を急かす』。
この二つを実行してきて欲しい。
アキラくんの話をゴブリンに聞かせる際は、『虫導者』で虫と視界を繋げた状態でゴブリンがキチンと話を聞いているか確認するのも忘れずに。
伝えたいことは以上だよ。
二人とも、最後まで聞いてくれてありがとう。」
そうして、長い会合は幕を閉じた。
虫導者…マジでエグい能力です。
虫を操る際の信号を見て「いや、言語やん。信号ちゃうやん。」って思った方はゲームの十字キーとかボタンとかスライドパットをイメージしていただければわかりやすいかな〜と。
それにしても、キースはどうやってジャイアントキャタピラーを倒すんだろうなー。わからないなー。
…話は変わるんですが、あおむしとかを餌にする寄生蜂ってすごく怖いですよね。




