『夢と希望のマジックショット!なお現実…』
明けましておめでとうございます(手遅れ)。
「……え?」
自分には言霊の加護のおかげで魔法の詠唱が簡単にできるという大きなアドバンテージがあり、使いたい魔法の属性さえ合えば難しい古代言語の詠唱を覚えずとも唱えられる。
ここまで来たら後は自分に合う魔法の属性を知るだけ!となった今、突如として突きつけられた酷すぎる現実。
そんな、あまりにも凄惨な事実を受け入れきれない。
というか、受け入れたくない。
「えっ、えぇ………」
ショックのあまり著しく語彙力が低下しているのが自分でもわかったが、今はそんな事はどうでもよかった。
「あ……アキラ君……まだ希望は捨てちゃダメ、よ……
魔法にはまだ解明されていない謎が多いから、アキラ君でも使える魔法だってある…はず…。」
「…アキラ……その…ドンマイ。
で、でも!別に魔法が冒険者の全てってわけじゃないし、アキラには剣があるから…気にしなくてもいいと思う…ぞ?」
二人から励ましの言葉をかけられたが、悲しさと虚しさは紛れない。
「…………」
そうだ、逆転の発想だ。
今までが上手く行きすぎていただけなんだ。
森の中で奇跡的にソフィアに会えた事、そのまま助けてもらった挙句保護してもらったこと、鎧をタダで貰ったこと、ミルシェ達のパーティーに入れた事。
あくまで今までが高待遇すぎたのであって、これくらいの事は大したことでは無い。
『この世界に来てから至れり尽くせりだった分のツケが回ってきたという事だ』と、そう考えると少し前向きになれる気がする。
(うん、そうだよな。
この世界に来てから、今までほとんど苦労してなかったんだ。
たかだか魔法が使えないって事ぐらいどうってこと……)
それでも、残念だという気持ちが完全になくなるわけではなかった。
(…人の詠唱を聞いて、言った言葉をマネすれば『言霊の加護』で詠唱が出来る。でも肝心の使える魔法は無いって…)
加えて、『特大の地雷』までオマケについてくる始末だ。
『上げて落とす』の具現化のような仕打ちに対し、どこか人為的な悪質さを感じるのは気のせいだろうか。
(はあ……
魔力のステータス値はあるのに……
いや、待てよ?)
ふと、ある可能性が脳裏に浮かびあがった。
日本には、黄色い電気ネズミが看板キャラの某人気ロールプレイングゲームがある。
世界中に生息しているモンスターを謎技術によって作られたボールで捕獲し、捕まえたモンスター同士を戦わせるというコンセプトのゲームだ。
このゲームに出てくるモンスターには属性があり、ほのお、みず、くさ、でんき、むし等々の様々なタイプがある。
そして、その中にノーマルタイプという物が存在している。
ノーマルタイプ、つまりは無属性だ。
(もしかしたら、この世界の魔法にも『無属性』と言える区切りがあるんじゃないか?)
「…ラフィさん。
無属性の魔法のようなものってあったりしませんか?」
「…無属性の魔法と言うより、『属性を持たない魔法に限りなく近い別物』ならあるにはあるわ…
確かに、そっちなら属性に適性がなくても練習すれば問題なく使えるわね。」
「本当ですか!?」
半分ダメ元だったのだが、まさかのビンゴだ。
厳密には魔法では無いそうだが、魔法に似た力が使えると言うだけでも儲けものだろう。
「ええ。
『マジックショット』って技なんだけど、これならいくら属性に適性がなくても魔力さえあれば使うことができるわ。
……ただ…」
「…ただ?」
話の流れからして、もう嫌な予感しかしない。
「さっき、この『マジックショット』は魔法じゃないっていったでしょう?
それは、魔力そのものを加工する事なく弾として射出する技だからなの。
『体内の魔力そのものを弾として射出する』という行為は、弾となる魔力と射出する練習さえしていれば誰でも使えるわ。」
(なるほど…つまり『魔力』そのものを加工しないで撃ち出すから誰でも使えるわけか。)
嫌な予感は外れたのかな?と、気が緩む。
「でも、その……この技は大幅に魔力を使う必要があるから物凄く燃費が悪いの。
それはもう、『もはや必要ないのでは?』って言いたくなるくらいには…」
気が緩んだところに、すかさず渾身のボディーブローが炸裂した。
「私程度の実力だと、同じ魔力消費量の攻撃魔法と比べて威力はおおよそ5分の1程度まで落ちるわ。
もっと腕のいい魔法使いであったとしても、3分の1くらいの威力が関の山じゃないかしら。
…加えて、魔力をそのまま弾にする工程がかなり難しいから、更に必要以上の魔力を浪費してしまう悪循環が生まれがちね。
戦闘時の実用が難しい上に、魔法と比べて時にこれと言った利点も無いわ。
それこそ、『マジックショット』で魔力を浪費するくらいなら、温存しておいた方がよっぽどいいくらいには、ね。
…『マジックショット』は、魔法の命中率の精度を高める練習の時に使うというのが主な用途なの。
なにせ、燃費が悪くて威力も低い分、訓練所で使ってもほぼ問題ないくらいの低威力になるから…
低い威力にも関わらず、高威力の魔法並みの魔力を消費する。そもそも正確に射出して使う為に技術がいる。って、もはや訓練のために作られたとしか思えない技なのよね…」
怒涛のラッシュと綺麗なアッパーが、揺らいでいた心に決まった。
もう立ち直れる気がしない。
「……まあ、そんな表情になるのも無理ないわ。」
そんな心情が顔に出ていたようだが、取り繕おうとも思えなかった。
『マジックショット』は、魔法と比べてデメリットの方が大きい技…というより最早デメリットしかないと言うべき代物である。
せいぜい己の魔法の技術を磨くための手段として、訓練などで使われる程度のものであり、実戦で使うのは現実的では無い。
そんな『マジックショット』を魔法が使えない相手に教えるのは嫌味や侮辱でしかない。
だから、ラフィは優しさから『マジックショット』の存在を伝えなかったという事なのだろう。
(そりゃあ、魔法が使えない相手にマジックショットなんて教えたりしないよな…)
考えようによっては、『遠距離攻撃の手段が増えて儲けもの』とも思える。
しかし、剣で斬ったり投石をした方が容易さという点でも与えられるダメージ量という点でも優れているため、あくまで使い勝手の悪い劣化版としかなり得ない。
唯一『マジックショット』がこれらの攻撃手段より優れているのは、魔力さえあれば手ぶらでも使えるということくらいだが…
(うまく撃てるかどうかが別問題としてあるし、何より魔力は有限だから無闇矢鱈と使うわけにはいかないよな。
燃費すごく悪い、威力かなり低い、使用難易度は結構高い、実用性は極めて低いってなると…)
改めて、使う機会があるとは思えないほどの残念性能だ。
「……ま、まあ、とりあえず話を変えましょうか。
これ以上魔法の話をするのも、ね?」
「そ、そうだな!
そろそろ兄貴も戻って来てもいい頃合いだし、折角なら剣士としての戦い方とかを聞いてみてもいいかもな!
おーい、兄貴ー!?まだそっちは終わらないのか〜?」
心情を汲み取ってくれた二人が、話を逸らそうとしてくれている。
そんな、二人の優しさを身をもって感じながら
(俺は、つくづく周りの人に恵まれているんだな…)
これ以上何か望むのは烏滸がましいと思えてしまう程に、自分が恵まれているのだと実感する。
魔法なんて使えなくてもいい、そう思えるほどに。
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その後、記者会見のような質問責めを受けていた疲労困憊のビスタが席に戻ってきて慰労会は再開された。
飲んで食べて、他愛もない話で盛り上がって…
「うゔぉえぇぇぇぇぇぇぇぇえ………」
どれだけ酒が飲めるか他の客と勝負して、飲み過ぎたビスタがグロッキーになって……
「…そりゃ、調子に乗ってあんなに飲んだらそうなるわよ。
相変わらず馬鹿よね…」
ビスタの介抱をしながら、少し呆れた風にラフィがぼやく。
「はぁ……この馬鹿がこんな状態だし、そろそろお開きにしましょうか。」
「うぇぷ…
ば、馬鹿だとぉ〜!?誰が馬鹿だってぇ!?」
「ただですらそんなにお酒に強くないのに、無謀にも他の客に飲み比べ勝負を挑んで返り討ちにあった目の前のお馬鹿さんに言ってるの。
ほら、肩貸すから立ち上がりなさい。」
そう言ってラフィは四つん這いになっているビスタを立ち上がらせる。
手慣れた動きで一連の動作が完了したのを見るに、ビスタがこうなったのは初めての事ではないのだろう。
(酔ってる風には見えないけど、そう言うラフィだってかなり飲んでたような…
もしかして、ラフィってかなりの酒豪なのでは?)
涼しげな顔でビスタの介抱をしているラフィだが、さっきまでワイン(と思われる酒)を何杯も飲んでいたのを俺は知っている。
(そういえば、状態異常耐性ってお酒にも適応されてるんだろうか…)
一応、毒という扱いになると思うので状態異常耐性の適応範囲にあってもおかしくはない気もするが、ビスタの様子を見るに違うのかもしれない。
(まあ、いずれにせよラフィが酒に強いって事実は変わらないよな。
……ん?ちょっと待てよ?)
ふと、慰労会が始まって、魔法とは何かをラフィに聞いた時のミルシェの反応を思い出す。
(確か『酒の入ったラフィ姉に魔法の話は』って言って、みるみるうちに死んだ魚の目に変わってたような…)
目の前でビスタに肩を貸しているラフィを見る限り、あそこまで大袈裟に反応するほど酒癖の悪い人物とは思えない。
実際、魔法の話をする際にダル絡みをしたり、感情的になって暴れるなどの面倒な行動をするような素振りは見受けられなかった。
「なあなあ、ミルシェ。あの時言ってた酒の入ったラフィさんに魔法の話は…って、どういうことだったんだ?」
どうしても気になったので、こっそりミルシェに聞いてみる。
「ああ…
ラフィ姉は魔法が好きなのはなんとなくわかってると思うんだけど…
酒が入ったラフィ姉に魔法の質問を投げかけると、求めていた100倍の量の情報が返ってくる。
今日はアキラの波長の件があったから自重してたけど、もしアキラに一つでも属性適性があったら……多分、兄貴の事ほっぽかして夜までずっと魔法について話してたと思う。」
「それは、誇張とかなしで?」
「…寧ろ控えめだな。アタシが前質問した時は次の日の朝まで魔法の詠唱の話やら魔法の属性に関する話やらが延々と続いたから…
いかんせん質問したのはこっちからだから、話の途中で止めようにも止まってくれないんだよなぁ…」
『魔法の適性、なくて良かった』と、最後の最後にひっそりと胸を撫で下ろしたのはここだけの話にしてもらおう。
無料で専門的な話を聞けるのは人によっては寧ろありがたいのでは?
と思う一方、『でも、何時間、何十時間も聴くのは体力的にキツイよな…』とも感じます。
明くんは後者だったようですね。




