『会合3』
また投稿遅くなりました…
「さてと……次は二つ目の戦力パターンの場合と、その対策についてだね。
二つ目のパターンは、『ゴブリンの総数が千以上。なお、その中にゴブリンロードに匹敵するほどの強力な存在がいない場合。』とする。
この場合は『シャルちゃんとウィリアム君、そしてベル君にはゴブリンロードの討伐』を、ソフィアちゃんには『他の冒険者のみんなと行動してもらい、ゴブリンの群れの殲滅』を、それぞれ行ってもらいたい。」
「…ん?」
「何かおかしな点があったかい、ウィリアム君?」
「いや、おかしな点ってほどのものじゃないんだけどよ。
俺的には戦力的にソフィアの姐さんをゴブリンロードに当てた方がいいと思うんだが…」
「ああ、確かにソフィアちゃんにゴブリンロードを任せたいって考えもわかる。
…でも、できる事なら炎系の範囲魔法による攻撃での群れの殲滅をして欲しいってのも、こっちとしてはあるんだよ。
ほら?向こうのゴブリン達って高度な武器とか使ってくるだろう?
そうなると、近接で一体ずつ倒すより魔法で纏めて倒した方がリスクは低いんだけど、他の子達では広範囲の攻撃魔法による殲滅はかなりキツい筈だ。
ただですら大人数で行う作戦だし、慣れていない子達が範囲魔法を使えば味方を巻き込んでしまいかねない。
だから、このパターン2の場合には『個の脅威』ではなくて『数の脅威』の対応にソフィアちゃんの『高火力かつ広範囲の魔法攻撃』を利用していきたい、と言うわけさ。」
「…確かに、全体的に見た敵戦力を考慮したら、姐さんの精度の高い範囲魔法は敵の頭数を潰すのに有効だな。」
頷いて納得の表情を浮かべるウィリアム。
「……さて。
最後は、パターン3について、だね…」
先程とは異なる、重々しい雰囲気を漂わせて少し吃るナタ。
「……3つ目のパターンは………
これは、本当にあって欲しくないと私が思っている最悪な状況……いわば完全なる憶測だ。
故に、このパターンである可能性は限りなく低いだろう……
……でも、万が一の場合を考えて、あらかじめここで言っておく。」
そう言い切り、ナタはふぅと息を吐く。
「3つ目の可能性………それはゴブリンロードの後ろ盾に黒龍が存在している可能性……
……それは、今回のゴブリンロードの発生が、『かつての史上最悪な事件の黒幕にして、ギルドが創立されるに至った元凶』でもある『黒龍の国滅ぼし』の再来の前兆であると言う可能性だ。」
ナタの発言が終わり、静まり返る会議室。
沈黙を最初に破ったのは……
「……あの御伽噺の黒龍が今回の異変の裏にいる……それは、流石に話が飛躍しすぎていると思いますが……」
ソフィアだった。
「そうだな、俺様もそれはないと思う。
だって黒龍ってのは何百年も前から姿を見せてねーんだろ?
それが何の前触れもなく突然現れたなんて、いくらなんでもあり得ねーんじゃねーの?」
次いで、シャルも口を開く。
そんな二人の言い分を聞き、しばらく黙っていたナタ。
すると、突然己の鞄から一枚の古びた紙のスクロールを取り出し、広げて読みだした。
「……『事の初めは、西の樹海より侵攻せし黒に染まりし魔物ども。
黒き魔物どもは暴虐の限りを尽くし、数多の街を蹂躙し、国ですらその手で堕として見せた。
黒き魔物を率いしは、闇を纏いし黒の巨龍。
かの龍の息吹は森を、大地を、そして、人が住まう地を焼いた。
人畜は黒い炎の息吹に巻かれ、一様に滅んだ。
国を滅ぼせし黒き龍。
悍ましき魔物の群れを連れて、人々に恐怖と絶望を齎す黒き災禍の化身なり。』
……今読み上げたのは、ギルドに残っている最古の報告書の一部だ。
まあ、報告書と言っても、今のように決まった記入内容が定められてない時代のものだし、文体は御伽噺のように大雑把な内容しか書かれていないんだけどね。」
「……『黒龍の国滅ぼし』の御伽噺に、『黒に染まりし魔物』なんて出てきたか?
……俺様の記憶が確かなら、『まず平和な国に突然黒い龍と率いられた魔物がめちゃくちゃ攻めてきて、そいつらが国を滅ぼして、その後どこからともなく現れた純白の騎士が黒い龍を追い払う事でその地に平和が訪れた』みたいな話だった気がするんだが…」
「シャルちゃんの言う通り。
一般的に知られている『黒龍の国滅ぼし』の御伽噺は、『純白の騎士の英雄譚』として書かれている。
だから、黒龍による『被害の凄惨さ』や『襲撃の前兆、過程』については殆ど書かれていない。
だから、あの事件において最も大切な部分である『前兆と襲撃の内容』に対する知識を持っているものは極めて少ないのさ。
まあ、襲撃の際の前兆と被害を記した書類の内容すらこの有様だから無理もないとは思うけどね…」
そう言って、先程読みあげたスクロールを再び丸め、見せびらかすように掲げて揺らすナタ。
「……つまり、その報告書に書かれていた『黒に染まりし魔物』に、今回の森の異変の原因と思われる『ゴブリンロードとその群れ』が該当している可能性があるという事ですか?」
恐る恐る尋ねるベルに、ナタはゆっくりと頷く。
「そうだ。
………ゴブリンロード及びその配下のゴブリンに、この報告書に書かれている『黒に変色している』様子が確認された場合、『少なくとも今回の異変は黒龍との関わりがある』と考えなければならなくなる。
……黒龍の息のかかったモンスター相手に戦闘を挑むのは余りにも危険だ。」
「……対策は、どうなるのでしょうか?」
ベルの質問を聞き、さらに悲痛そうな表情をするナタ。
「………仮にパターン3であるとわかった場合、『この街の放棄を前提とした王都への市民の避難を行う』必要が出てくる。
…既に、王都への報告書にはパターン3の可能性がある点と、増援の要請を記した上で送り出している。
肝心の市民を乗せるための馬車などの手筈も既に完了しているから、そこら辺は安心してほしい。
……さて、本題の冒険者の役割についてだね。
パターン3であると判明した場合、皆には『すぐ様戦線を離脱、その後避難する市民を乗せた馬車の警護』を頼みたい。
森で避けられない戦闘になり、戦線離脱が不可能になった場合は例の魔道具で敵の注意を引いて逃げるか、敵を討伐した後に即退散して欲しい。
要するに、敵の殲滅ではなくて市民の警護を優先して欲しい。」
「森で敵の侵攻を食い止めて、その間に街の奴らを逃せば良いんじゃねーの?
俺様は強敵バッチこいだし、黒龍の手下だろうが問題ねーぜ!」
「あのね、シャルちゃん。
…ただのモンスターならまだしも、黒龍により強くなったモンスターがどれほどの手練れなのかわからな………
………待て、よ…………
……まさか、アレも黒龍が関係しているモンスターだった、のか?
…ああ……何故、この事に気付けなかったんだ……」
シャルへの返答の途中、突然一人で考え込み、ブツブツと独り言を呟き出すナタ。
「お、おい?ギルマス、大丈夫か?」
そんなナタの挙動に、思わずシャルが心配して声をかける。
「『黒のヒュドラ』」
「……は?」
「ヒュドラの特殊個体の『黒のヒュドラ』だよ。
ヒュドラは環境等によって様々な体色になるとされているが、ヒュドラの黒い個体は『黒のヒュドラ』以前には一度も報告がなかった筈だ……
『あの体色の変化は黒龍によるもの。』
そう考えれば『黒く染まりし魔物』の記述と、『黒のヒュドラ』の異常な強さにも納得がいく。
……ソフィアちゃん。
君が『黒のヒュドラ』を倒した時の事を教えて欲しい。」
「……あの時……私は負けました。
アレに勝ったのは私ではなく『緋色の魔女』です。
……なので、どれくらいの強さだったのかをお話しする事はできません。」
ソフィアの発言を聞いて、会議室に再び訪れる沈黙。
先程まで『戦えばいい』と意気揚々に話していたシャルですら、その鉛のように重くなった場の雰囲気を感じ取ったのか思わず黙りこむ。
「………つまり『君の特殊ステータスに頼らなければ勝てなかった相手』。
そう言う事で良いのかな?」
「…はい。
……正直、それまでは手も足も出ていなかったと思います。」
「…確か、『黒のヒュドラ』を君が倒したのは6年程前だったよね…
……今の君が戦ったら、どうなっていたと思う?」
「………あの時とは違い、多少のダメージは与えられるかも知れませんが……
今でも、私がアレを倒せるとは思えないです。」
「……そうか、話してくれてありがとう。
お陰で『パターン3の際は退却が絶対』であると言うことが再認識できた。
…ああ…どうする……
……本当に、大丈夫なのか……」
「…なあ、ギルマス。
その『黒龍が裏にいる可能性』ってのはすげー低いんだろ?
ほぼありえない様な事に頭抱えてばっかりいても、話は一向に進まねーだろ?
だから、よ。
さっさとこんな辛気臭い話は終わらせて、次の話に行こうぜ。
全く……『どうする』だの『大丈夫なのか』だの……
らしくねーぞギルマス!」
「…シャル。
お前、たまには良い事言うな…
正直、ちょっと見直したぞ。」
「お?ウィリアム、テメェ喧嘩売ってんのか?
もしそうなら喜んで買ってやるぞ?表でろや!」
場の空気を変えようとシャルが放った言葉に関心したウィリアムと、馬鹿にされたと勘違い(じゃ無いかもしれない)して怒りだしたシャル。
そんな二人を見ていたナタは…
「……ぷっ!」
急に弾けたように、そして何か吹っ切れた様に笑い出した。
「あはははは!
ああ、そうだね〜。
暗い話をして、皆んなの気分を下げるばかりだなんて、そんなの私の柄じゃないもんね。
ありがとう、シャルちゃん。
お陰で元気が出たよ。」
急に笑い出したナタを驚いた様子で見ていたシャルは少し照れくさそうな顔をする。
「べ、別に俺様は感謝されるような事はしたつもりねーよ。
ただ、いつまでもウジウジしてるギルマスなんざ気持ち悪くて見てらんねーって思っただけだ。」
「気持ち悪いって…そこまで言われると、流石にちょっと傷つくなぁ…」
そしてゆっくりと息を吸い込む。
「とにかく、パターン3である可能性は極めて低い!
でも万が一そうだった場合は、頑張って皆んなで逃げる!
対策についてはこれで以上だ!
これで戦闘時の対策についての大雑把な説明は終わり!
今からは襲撃が起きるタイミングをより正確に把握する為の手段についてを話しておくとしよう!」
ソフィアとナタの意味深なやり取りについてはあえて触れないとして、ソフィアはかつて『黒のヒュドラ』を倒しています。
なので、既にS級に上がる権限と貢献度は有しているのですが、本人の意向でA級のままです。
今回の補足説明は色々あるので順を追って書いていきます。
まず『戦力パターン少なすぎ』問題。
もっといっぱい思いついてはいたんですけど、『それパターン1でよくね?』って奴が大半でした。
次に前話で『ゴブリンロード』の強さの推測の際に、類似したモンスターとして『アマルガム』だの『黒のヒュドラ』だのを挙げてた癖にパターン3でめちゃくちゃ動揺してたナタについて。
そもそも、彼女がこれらのモンスターを『ゴブリンロード』の説明の際に挙げていたのは[全員に緊張感を持ってもらうのに、最も手っ取り早い『強いモンスター』の例として最適だった]ため。
パターン1のゴブリンロードに匹敵する敵がいる場合はシャルに任せると言う意見を認めているのは『ゴブリンロードの強さはアースドラゴンよりも低い』と内心では踏んでいるため。
そもそも、『アマルガム』や『フェンリル』、『黒のヒュドラ』、『アースドラゴン』なんかはA級数名が戦って負けた事でその名を轟かせているモンスターです。
ナタは『マジでゴブリンロードがそのレベルの強さだ』という可能性は極めて低いと見ています。
そんな中、黒龍の国滅ぼしの文献を読んで3つ目のパターンに気づきました。
パターン3の説明の最初の方での考えは[正直、ここ数百年の間『黒い魔物の軍勢』なんてなかったし、まあ無いやろ。]でしたが、[ん?そういえば『黒のヒュドラ』って黒いしめちゃくちゃ強かったくね?これって黒龍の『黒い魔物』だったんじゃね?]と気づきます。
『なんで気が付かないの?馬鹿なの?』とか思うかもですが、そもそもの話として『残っている黒龍に関する文献が少ない。また、黒いモンスターの軍勢についての記述なんて殆どない。』という状況です。
加えて、ソフィアが『黒のヒュドラ』を倒したと言うのは6年前。依頼を受けた場所は王都です。
その為、エルドのギルドマスターのナタの耳には[黒色の非常に強いヒュドラがA級冒険者である『緋色の魔女』ソフィアによって討ち取られた。『黒いヒュドラ』の被害はある程度知ってるだろうし、詳しい生態等は倒した本人にでも聞いてくれ。]くらいしか入ってきません(王都のギルドマスターには詳しい情報が回されてくるが、管轄外の他のギルドマスターには討伐が完了したと言う事とその討伐者の名前くらいしか伝わらない。尚、王都ギルドのみは各地のギルドから年に一度大量の報告書が届く。
ここら辺のギルドの詳しい仕組みも早く書きたい。)。
なので『黒のヒュドラ』と『黒龍』、そして『黒龍が総ていた黒い魔物』という関連性に気がつかなかったわけです。
まあ、今回のゴブリンロードがどうなのかは後々の本文でわかるのでお楽しみに…




