『会合2』
今回は少し長め、かつ少し中途半端に終わります。
「すみません。
『具体的な対策』を練っていかなければならないと言うのはわかってはいるのですが…
……しかしながら、やはり『ゴブリンロード』がいつ街に襲撃に来て、どれほどの戦力を有しているのかがわからない以上、具体案を出すと言う事は難しいのではないでしょうか?
それに、目撃情報が無いという点から、奴らは森の未開拓地である『奥地』に定住していると思われます。
街に襲撃される前に探し出すのは非常に困難なのでは?」
手を挙げて提言するベル。
すると、ベルの話を聞き終わったナタは大きく頷いた。
「ベル君の言う通り、確かに襲撃のタイミングや相手の戦力について知ることの出来る物証はほとんどない。
だからといって、森の奥地に蔓延っているであろうゴブリンロードや手下のゴブリン達を、こちらから赴いて倒しに行くなんてのは現実的に考えて無理だね。
でも、対策案に関してはいくらでも出す事が出来る。」
「……と、言いますと?」
「相手の戦力、タイミング、戦闘を行う位置、こちらの戦力……これを『仮定』して、予め幾つかパターンを考えておけばいい。
色々と条件を変えて考えられる分、変な確定事項を置いて作った案よりもよっぽど役立つ筈だよ?
例を挙げるなら……そうだね……『相手の群勢は総数およそ二千。襲ってくるタイミングは今から一週間以内。戦闘場所は森の開拓済みの地域。その際のこちらの戦力はA〜Dの冒険者200名ほど』
…みたいな状況になると仮定する、とかかな。
まあ、今上げたのはあくまで例だから、数値も何もかもデタラメで言っているわけなんだけど…」
「つまり、『今後新たに得られた情報』を組み込んで考えられるような『基盤となる対策』を『幾つかの仮定』を元に立てておく、と。」
「まあ、短くまとめるとしたらそうなるかな。
ただし、この方法で案を作る際は決して忘れてはならない前提条件がある。
それは、ついさっきも言っていた『敵は人間の事を理解している魔物であり、人並みかそれ以上の高精度な武器を使用してくる。また、『ゴブリンロード』自体の強さは『アースドラゴン』並か、それ以上の強さである可能性が高い』という事だ。
この限りなく確定に近い仮定は、相手全体の戦力についての情報と同等、もしくはそれ以上に重要な物となってくる。
実際、この情報を鑑みれば、敵の襲撃のタイミングすら大体の目星がついてしまうんだよね…
……全く。本当に、現実ってのは甘くない物だよね…嫌気がさすよ。」
そう言い切って、深い溜息をはくナタ。
すると、先程まで黙って考え事をしていたソフィアが口を開いた。
「…なるほど…確かに、想像以上にまずい状況ですね…
だから、会合を今日開いたというわけですか…」
「え、ソフィアの姐さん?『なるほど』って、今の話で襲撃のタイミングがわかったのか?
それに、『だから今日会合を開いた』ってのはどう言う事だ?」
訳がわからずそう質問をするウィリアムの方を見て、ソフィアがまた話し始めた。
「……普通の魔物ならギルドの取った異変対策、『森に入ってくる人間の戦力的な変化』の事なんて気にもしないでしょうけどね…
『人間に自分達が冒険者を襲っていると悟られないよう、毒矢で奇襲。挙句、物証を残さないように隠蔽までしている』ほどの奴らなら、『自分達の襲撃の事に感づいた人間が奇襲に対策を取ってきた』と気づく筈よね?
じゃあ、それを知った向こうは、一体どんな手段をとってくると思う?」
ソフィアの話を聞き、ウィリアムは少し考えてから口を開く。
「……更なる対策を人間に取られる前に先手をうつ…とかか?」
ウィリアムが悩みながらもそう答えると、ナタはゆっくり頷いた。
「…ソフィアちゃんとウィリアム君の言う通りだ。
『森に入った冒険者が自分達によって行方不明になっている』と言う事が『人間にバレている。もしくは何かしらを勘づかれている』と、こちらの取っている対策から『人間側の状況』を推測している可能性が極めて高い。
…人間を理解している相手がこの事実を知ってもなお、流暢に襲撃をせずに待っていてくれるとは、とてもじゃないが考えられない。
だから、一刻も早く対策を練らなければと思ったわけだ。」
「『危険な魔物の存在に気がついた人間』が行う『更なる対策』を警戒…………
………まさか、『ゴブリンロード』は王都ギルドからの戦力の増援の事すらも把握、視野に入れていると?
それは最早『人間の国家の防衛手段の一部を理解している』も同義ではありませんか?」
ベルが信じられないと言わんばかりに目を見開く。
「可能性はゼロじゃないし、寧ろ『これまでのゴブリンロードと手下のゴブリン達が取ったと思われる行為』を見たらそう考える方が妥当だろうね…
見境なく襲わせるでもなく『確実に倒せる相手のみを襲う』と言う事は、『倒し損ねた人間がギルドに報告を行う』事を防ぐ為だとも考えられる。
これは、『人間が危機を感じると仲間を呼ぶ』と言う事を既に知っているからじゃないかと思うんだ。
例えば……そうだな、ゴブリンロード自身が身をもって体験した事があるとか…だろうか。」
「身をもって……体験…?」
「今回の森の異変は、前兆が普通とは大きく異なっている。
それこそ、少ない物証と森の状況から推測して『異変の原因はゴブリンロードだ』となんとか仮説を立てれたくらいだからね。
『今までのゴブリンロードの魔物らしい愚行とも言える行為を全て取り除き、人間に気取られ、対策を取られないように徹している』
……今回の異変の、異様なまでの物証の少なさから、私はそんな印象を受けた。
あくまで推測だけど、今回のゴブリンロードは『前回の襲撃の生き残りの個体』なんじゃないかな?」
そして、ナタは『ふぅ』とゆっくり息をはいた。
「まあ、今は『相手がなぜ人間の行動を熟知しているか』じゃなくて『人間の行動を熟知した相手とどう戦っていくか』が大切だから、ひとまずこの話は置いておくとしよう。
さて…次は問題となる相手の戦力についての推測と対策について話しておこう…」
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「この戦力についての推測は、幾つかのパターンに分けて考えていこうと思う。
そのパターンを判別するために、『大まかな戦力の基準』と『それらの判断基準』を設けて考えていきたいんだけど…」
ナタは、話しながらもゆっくりとシャルの方向へと顔を向ける。
「時にシャルちゃん。ゴブリンには多くの特異個体が存在するって事は知ってるよね?」
先ほどから話をあまり理解できていなかったのか、退屈そうにアクビをしていたシャルに急に話を振るナタ。
完全に油断していたシャルは、慌てた様子でナタの方を見る。
「えっ!?…特異個体?
ゴブリンとかゴブリンロードみたいな感じのアレか?
……えっと…………
あっ!『レッドキャップ』とか『ホブゴブリン』とかの事か?」
「ああ、そうだね。
……かつての『ゴブリンロードの襲来』の際の記録には、通常のゴブリンとは異なる特別な個体も群勢の中にいたと書かれていた。
それが、今シャルちゃんが名前を挙げてくれた『レッドキャップ』と『ホブゴブリン』だったんだよ。」
自分の答えが正しかった事に安堵するシャル。
しかし、ナタの話は終わらない。
「でもね?ゴブリンの種類はこれだけじゃないだろう?
他に思い当たる名前はないかな?」
再び質問が来るとは思っていなかったのか、過剰に驚いた素振りを見せるシャル。
そしてしばらく腕を組んで考えこむが…
「…………やっぱりわかんねぇ。
俺様が倒したことがあるゴブリンの仲間なんて『レッドキャップ』と『ホブゴブリン』だけだしな。」
やはりわからないと首を横に振った。
「そうか……じゃあソフィアちゃんはどうだい?」
「…『ゴブリンシャーマン』や『ゴブリンジェネラル』…あとは『ゴブリンマジシャン』などでしょうか?」
「そう。『死霊術』や『眷属使役』によって戦う『ゴブリンシャーマン』。
強靭な肉体と『ゴブリンロード』程ではないにしても、手下を率いる能力に長ける『ゴブリンジェネラル』。
そして、強力な魔法を使う『ゴブリンマジシャン』だ。
どれも発生すれば緊急で討伐依頼が出される程の強力なモンスターだが、発生率が極めて低いため知名度はそれほど高くない。
だから、シャルちゃんが知らなかったと言うのも無理はないよ。
……さて、何でこの話を急に始めたかと言うと、私は今回の異変に置いて『ゴブリンロード』以外にも『これらの特別な個体』が存在している可能性が高いと思っているからなんだ。」
瞬間、シャルが嬉しそうに興奮して椅子から立ち上がる。
「マジか!じゃあ、ソイツとは俺様が戦うぞ!いいよな!?」
自身の話に対する聞き手の予想外の反応に、思わず面食らったような顔で少し固まるナタ。
「…えぇ………
今のって、そんな風に喜ぶ場面じゃないんだけどなぁ…
……でもまあ、強敵の存在を聞いて喜ぶのはシャルちゃんらしい事だね。」
「なぁ、ギルマス!俺様が一人で倒してもいいだろ?会合にも来てやったんだし、それくらい融通聞かせてくれよ!」
「シャルちゃんが脅威になりうる魔物を一人で倒してくれるって言うのなら万々歳だし、むしろこっちから頼みたいくらいなんだけど…」
「ようし!じゃあ決まりだな!ソイツを見つけたら俺様に教えてくれ!頼んだぜギルマス!!」
「……まだ居るのが確定した訳じゃないからね?今はまだ可能性の話だから…
……いなかった時に落胆したりしないでね?」
意気揚々としているシャルを横目に、ナタは話を再開する。
「じゃあ、話の続きなんだけど…
今回のゴブリンロードの群勢の考えられる勢力パターンを大まかに三つに分ける事にしたんだ。
一つ目のパターンは、『群れのゴブリンの総数が千以上。かつ、ゴブリンロードに匹敵する存在が複数いる』場合。
この場合、君達A級冒険者達にはゴブリンロード及びそれに匹敵する魔物の殲滅に尽力して欲しい。
C級やB級の子達に無理に戦ってもらった所で、おそらく『こちらが被害を受けるだけ』だからね…」
「我々以外の冒険者が遭遇してしまった場合はどうするのですか?」
「その可能性と対策もキチンと考えてあるから大丈夫だよ。
というのも、今回の『ゴブリンロード討伐作戦』に参加する冒険者の皆にはとある物を携帯して参加してもらう予定なんだ。」
そういうと、ナタはズボンのポケットから丸い石のようなものを取り出した。
水晶のように透明な石の中には赤く輝く石の破片のようなものが幾つか入っている。
「……これは?」
「魔力を流し込む事で急速に上に浮上し、空中で光と音を発生させて爆発を起こす代物さ。
…まあ、使い切りの癖に結構値が張るし、携帯時の暴発を防ぐために色々と扱いが難しくなっていたりしてるものだから、正直言ってあまり使いたくはないんだけど…
でも、これを全員に持ってもらって、緊急時に使うように指示しておく。
だから、この魔道具の爆発が起きたら、すぐさまA級の君達は爆発が起こった場所に駆けつけてくれ。」
「コレの爆発を見たら……って、どれくらい離れた場所までコレの爆発は見えるんだ?」
ウィリアムが訝しげにナタの置いた魔道具を見る。
「まあ、目や耳の良さには個人差があるから必ずとは言えないけど……
この魔道具を使用した場所から、光は10キロ圏内で、音に関しては20キロ圏内でしっかりと確認できる筈だよ。」
「うぇっ?マジかよ……」
さらりとナタが言った魔道具の見た目以上のヤバさを聞いて、思わず顔を引き攣らせるウィリアム。
「………それって打ち上げた奴は大丈夫なのかよ……
てか、爆発の威力が高すぎて巻き込まれて死んだりしない?」
「かなり眩しいだろうし、うるさいとは思うだろうね。
でも、爆発に巻き込まれてダメージを負うなんて事はまず無いし、爆発の際の光を直視でもしない限り、打ち上げた後の逃走の弊害となったりはしないはずだ。
しかも、この魔道具は居場所を伝えるだけの代物じゃない。
特に、今回の場合はね。」
そう言って、ニヤリと笑うナタ。
そのナタの表情を見たウィリアムが「あっ」と声を上げる。
「そうか、目眩しと音による牽制だな。」
「正解。
私が今回この魔道具を支給品として選んだのは、場所を知らせるだけじゃなくて魔物からの逃走の補助にも有用だからなんだよ。
何せ、感覚器官が鈍い人間ですら眩しい、うるさいと思うレベルの閃光と爆音を放つ代物だからね。
目や耳が格段に人間より優れているゴブリンからすれば、自身の大切な感覚器官を封じうる充分な脅威になる。
故に、使用後すぐに逃走に移る事ができれば、いくらゴブリンロードが格上の相手だとはいえ逃げ切れる確率が高くなるのは確かだ。
…ただ、一つ問題がある。」
「問題とは?」
「紹介の時に軽く言ってたけど、この魔道具って暴発防止のためにキチンとした手順を踏まないと発動しないようになっているんだ。
……一度試しに使ってみた事があるんだけど、説明を読みながらしたにも関わらず、発動までに約30秒かかった。
まあ、要するに『打ち上げる際に多少時間がかかる』ってわけなんだよ…
だから魔道具の打ち上げに失敗してしまったら、『戦うなり何なりして打ち上げる時間を稼ぐ』必要が出てくるんだ。」
「……それって、かなり致命的では?」
ナタの説明を聞き、思わずそう口にするベル。黙り込むナタ。
「……だよね…
はははは……ははっ…………
……はぁ……暴発防止だけの為に発動の手順を難しくするって、普通に考えてどうよ?
ねぇみんな?『安全装置付けるくらいに留めとけよ』って思わないかい?」
少しおちゃらけた言い方で、そんなことを口にするナタ。
「「「「…………。」」」」
誰一人として、同意どころか喋りすらしない。
そんな空気に堪えきれなくなったのか
「コ、コホンッ!」
ナタがわざとらしく大きな咳払いをする。
「とっ、とにかく!この魔道具は参加者全員に持たせる!かつ、A級冒険者以外の参加者には全員団体行動を義務化する!
これで一人は絶対発動できると思うから大丈夫!
はい!魔道具の話はひとまず終わり!早く敵の戦力のパターンの話に戻そう!」
「随分と投げやりな終わり方だな…」
ナタの強引な話の切り方に、思わずウィリアムがそう呟く。
「……まあ、複数人いれば一人は発動できるとは私も思うし、これ以上に最適な手段をウィルが思い付いているわけではないでしょう?
それに、確かに発動が大変と言うデメリットがあるとしても、何も無いより断然マシだと思うわ。」
「ナイスフォローありがとう、ソフィアちゃん。
じゃあ、魔道具の件はここまでにして、改めて話を戻していくね。」
なんか色んなゴブリンの種類出てきましたが、詳しい説明等は今回はないです。
本文に出てきた『居場所を伝える、かつ目眩し等の効果も持つ魔道具』のイメージは、某モン◯ンの閃光玉と音爆弾を融合させたアイテムみたいなイメージです。
発動時には上空にて花火のように爆発します。
今回の補足説明は『A級冒険者でもモンスターに関する知識が少ないのは何故か』についてと、その他諸々についてです。
自分で読み返して、『ここ気になった方がいたかな。』と思った事を中心に書いていきますので、よろしければお読みください。
まず、シャルがゴブリンの特殊個体の種類をいえなかった件についてです。
こちらを説明する前に、『冒険者になるための条件』を思い出して欲しいです。
その中の一つである『(鑑定眼)のスキルを持っている必要がある。』と言うのがモンスター、特に珍しいモンスターに関する知識が少ない主な理由となっています。
何故かと言うと、冒険者は『モンスターを見て鑑定すれば、そのモンスターの事を知る事ができる。』ため、『わざわざモンスターについて学んだりしなくてもモンスターに会った時にある程度の情報が知れる』からです。
故に、本文中でナタに他のゴブリンの種類を聞かれた時に「俺様が倒したことがあるゴブリンの仲間なんて『レッドキャップ』と『ホブゴブリン』だけだし」と述べ、ナタも知らないのは当然だと言っています。
『いや、普通にギルドが教えるなり何なりしとけよ』と思われるかもしれません。
しかしながら、ギルドの職員が説明を行うのは『発生率の高い危険なモンスターや依頼の対象となるモンスター』についてが殆どなので、『発生率が極めて低いモンスター』が説明される事はほぼありません。
もちろん例外もあり、前回出てきた『フェンリル』や『アマルガム』等の有名かつ強力なモンスターは危険な存在としてギルドから説明される事が多いです。
理由としては『何かしら大きな事件、問題を起こしているため。また、討伐されていないため再度遭遇する可能性があるため。』となっています。
また、『討伐された事のあるモンスターは、そうでないモンスターに比べて危険性を軽視されがち』な傾向があります。
そのため『発生したところでA級あたりに任せればどうにかなるし、そもそもの発生率も低いんだから一々言うまでもないか。』と言う残念な扱いをされがちです(ゴブリンジェネラル、ゴブリンシャーマン、ゴブリンマジシャンは全部この立ち位置。)。
次にベルがオーバーリアクション過ぎないかと言う点。
たかだか『危険を感じた人間が仲間を呼ぶこと』をゴブリンが理解したってだけなのにここまで驚くものかと思わなくもないですが、この世界においてのゴブリンへの認識がそのレベルなのです。
ベルはゴブリンの事を『精々道具を使ったり簡単な罠を使う程度の人型のモンスター。考えなしに人を襲い、危険を感じればすぐ逃げる』程度だと思っています。
そのため、このベルのオーバーリアクションぶりは、かなり前の話でナタの言っていた『ゴブリンそのものへの認識を改める』と言う発言に通ずるものがあります。
最後に余談ですが、爆発する魔道具の光や音の確認できる範囲は打ち上げ花火の物を参考にしています。
こんなに離れてても綺麗に見える打ち上げ花火ってすごいですよね〜




