『会合1』
お久しぶりです。投稿遅くなりました…
エルドのギルドの一室、大きな円卓を囲うように幾つかの椅子が置かれた会議室にて
「おい、まだ『緋色の魔女』サマは来ないのかよ?俺様が忙しい時間を割いてこんなつまらない事に参加してるって言うのに、全くもっていい御身分だな?」
腕組みをして、どっかりと椅子に座っている1人の女が苛立ちながら不満をぼやく。
重厚な金属の鎧で全身を覆っており、その足元には人一人の大きさと変わらないほどの大剣を無造作に転がしている。
その顔には左目の上から顎にかけて獣に引っ掻かれたような傷跡があり、八重歯が口元から覗いていた。
女は、猛禽類を彷彿とさせる金色の眼をギラつかせながら舌打ちする。
「ったく、こちとらさっさとコレ終わらせてから森に行きてーのに……まさか会合があるって事を忘れちまってるんじゃねーだろうな?」
相変わらず不機嫌そうに腕組みをしながら未だ来ない人物に文句を言うその女を
「まあまあシャルちゃん、少し落ち着いて。ソフィアちゃんはちょっとした用事があるから遅くなるってだけだから、会合を忘れているって訳ではないからね。
つまらない事の為に長い間待たされるのは嫌かもしれないけど、もう少しだけ待ってくれないかい?」
ギルドマスターであり、この会合の発案者であるナタ・ファタリアが宥める。
「……ギルマスがそこまで言うなら待つけどよ…
……てか、『緋色の魔女』のちょっとした用事ってなんなんだよ?魔物の討伐依頼か何かか?」
「いいや。とある人物の安否確認だと言っていたよ。ソフィアちゃん、彼の事をかなり気に入ってるみたいだからね。
それこそ、彼女自ら冒険者になるように催促して依頼に同行するくらいに…」
ナタが返答を言い切る前に
「そっ、それは本当ですか!?」
シャルではない別の人物が、酷く驚いた表情で椅子から勢いよく立ち上がった。
目立たない灰色のローブを身に纏う、魔法使いと思われる背格好をした、紺色の髪をした男だ。
「ああ、そうだよ?つい先日新たに冒険者として入ってきた新人君で、彼の名前は…………あの、ベル君?」
ナタの説明を、ベルと呼ばれた灰色のローブの男が食い入るように聞いている。
その鬼気迫る様子を見て、思わず説明を中断したナタに
「ギルドマスター、早く彼の名前をお教えください。できれば何処に行けば会えるのかとか、彼がお姉様とどのような関係なのかとか、その他の情報も事細かにお願いします!さあ!」
怒涛の攻めでベルが畳み掛ける。
息を荒げて目を血走らせているその様は、何か良からぬことを考えている事をありありと伝えている。
「ベル君。ちょっと深呼吸して落ち着こうか。………君、彼の事を知って一体何をするつもりなんだい?」
「………いや〜。
別に何もしませんよ〜。ははは…」
少し沈黙した後、そう言いながら頭を掻いて笑うベル。
「……目が一切笑ってないと言うのが、一層怖さを引き立てているね。」
「…そうですか?」
「…ああ。彼の名前を教えるのが憚られるほどにはドス黒い感情が滲み出てるよ。
……はぁ、ベル君。……君がソフィアちゃんの事が大好きなのは分かるけど、そうなりふり構わずソフィアちゃんと一緒にいる人物に対して敵意をむき出しにするのは如何なものかと思うんだけどなぁ…」
「そうだぞ。それに、アキラとソフィアの姐さんはお前の考えてるような関係じゃ…………あっ。」
そんなナタの発言に便乗したウィリアムが、うっかり口を滑らして硬直する。
思わず眉間を抑え、ため息をつくナタ。
彼、アキラの名前を聞いて『……アキラ……アキラか……なるほど……ふふっ、待っていろ………』と小声で呟き、不気味に笑っているベル。
そして、先程から興味なさそうにしながらあくびをしているシャル。
「……はぁ……ウィリアム君。やっぱり君ってそう言う所があるよね。……彼、アキラ君の名前聞いた直後から結構ヤバめの雰囲気漂わせてるんだけど……」
ブツブツと何か呟きながらニヤニヤと笑うベルにチラリと目をやりながら、ナタが呆れたようにウィリアムに尋ねる。
「……すみません。」
「………謝罪は私にではなくアキラ君にしておかないと……被害を受けるのは、他でもない彼なんだからね。」
「……アキラ……すまねぇ。」
ウィリアムがそう呟いたその時。
ガチャリ、と会議室の扉が開く。
そして部屋に入ってくる1人の女性。
「あら、もう全員揃っていたの?」
最後の参加者であるソフィアが到着した。
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「…もしかして、待たせてしまっていたかしら?」
部屋を見渡してから、自分が最後であることに気が付いたソフィアは思わずそう尋ねる。
それを聞いた途端に、先程まで座り込んでアクビをしていたシャルがソフィアをギッと睨んだ。
「ああ、テメーが最後だ。
ったく、こっちにも予定ってモンがあるんだぜ?人様を待たせておいて、よくもまあここまでのうのうとしてられんなぁ?おお?」
喧嘩腰で、遅れてきたソフィアへと文句を言うシャル。
「ごめんなさいね。ちょっとした用事があったの。」
「用事、ああ。好きな男の追っかけの事か?」
「……え?」
シャルの発言が予想外だったのか思わず固まるソフィア。
それを見たシャルは、図星の反応だと思ったのか、からかうような口調で続けてソフィアに言い放つ。
「ギルマスから聞いたぜ。アクラ?とか言う奴の事を。お前、そいつにゾッコンなんだろ?緊急会議があるってのにそっちのけで優先するくれーにはなぁ?
色ボケしてんじゃねーよ、ガキンチョ。」
「……アクラじゃなくてアキラだし、そもそも彼とはそう言った関係じゃないのだけど…
……あと、一応言っておくけど私は貴方よりかは年上よ?」
「はぁ?お前、どう見ても20にもなってねーガキだろ?俺様の言ったことが図星だったからってムキになってんじゃねぇよ!」
「はぁ……まあ、別に信じて欲しいわけじゃないから信じないのならそれでいいけど……
あと、そろそろ会合を始めた方がいいんじゃないかしら?遅れて来た私がこんな事を言うのも何だけど…」
シャルとの会話が無意味であると判断し、会合を始めるように促すソフィア。
そんなソフィアの発言に、シャルを除く全員が首を縦に振った。
「ああ、できればそうして貰えると私も嬉しいね。…シャルちゃんも、ソフィアちゃんはきちんと謝ったんだからもういいだろう?」
「はぁ?あんなのが謝った内に」
まだ納得がいかないのか、渋るシャルだったが
「もう、いいだろう?ね?」
真顔のナタに思わずたじろぎ、そのまま少し黙りこむ。
「……おう。わかった、わかったって。」
そして、やむを得ずと言わんばかりに諦めた。
そんなシャルの様子を見て、ナタはパッといつもの笑顔に戻る。
「ありがとう。シャルちゃんは物分かりがよくて助かるよ。
…さて、それじゃあ早速例の件についての会議を始めようか。」
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森に発生したゴブリンロードについての大まかな報告と説明を終えたナタは4人を順々に見ながら話を進めていた。
「……と、ここまでは皆んなには伝えてあると思うんだけど…
今のところ、質問とかは大丈夫そうかな?」
「難しい事はよくわかんないんだけどよ。でも、要はその『特殊なゴブリンロード』って奴の目撃報告は一切ねーんだろ?
なのになんでソイツが森で悪さしてる前提で対策を進めてんだ?
他の魔物が森の奥で暴れてるって可能性もあるんじゃねーの?」
シャルが腑に落ちないと言った風に尋ねる。
「……まあ、予測している『特殊なゴブリンロード』を確認していないのは事実だ。
でも入手した手掛かりから推測した場合、異変の原因が『特殊なゴブリンロードの発生』によるものである可能性が最も高い。
…仮に、他の原因に心当たりがあるのであれば、是非とも教えて欲しいものだけど…シャルちゃんはそう言ったものに思い当たる節があったりしない?」
「……それは………特にねーけどよ…」
「……うーん。
確かに『今までのゴブリンロードとは一線を画す特殊なゴブリンロードがいると仮定してその対策を練ろう』だなんて、急に言われてもいまいちピンと来ないのは当然か…
そもそも元のゴブリンロード自体、発生頻度が50年に一度とかの、稀にしか発生しない珍しい魔物だからね…
でも、別の種類の魔物で起きた似たような事例ならわかると思うよ。
有名どころを挙げるなら、そうだな……『アマルガム』とか『フェンリル』、あとは『黒のヒュドラ』みたいな変異種の魔物だと考えて」
「えっ?…あれ?ギルマス?ちょっと待ってくれ。」
ナタの説明を中断する様に、ウィリアムが手を挙げて口を挟む。
「ん?どうしたんだい、ウィリアム君?」
「…いや、今すごく有名な化物の名前ばっかりあがってたもんだからつい…
……今回の『特殊なゴブリンロード』って、そんなにヤベーヤツの可能性があるのか?」
「少なくとも、『今までのゴブリンロードよりも高い知性を持ち合わせている』という事は確かだね。
さっきも言ってた『ゴブリン達の残したと思われる数少ない手掛かり』からもわかるように、『魔物が有するにしては高すぎる技術』を用いた武器を使用している。
そして何よりヤバいのが、『意図的に、自分達が人間を襲ったと言う証拠を残さないようにする』と言う所だ。
…これはどう見ても、我々ギルドの人間や冒険者に勘付かれる事を防ぐ為の対策だからね……」
「……人間の習性や行動を理解して、それを踏まえた行動をとる魔物って事か…
でも、それって単純に頭が良い魔物ってだけであって、必ずしも『ゴブリンロードが強い』という事にはならないんじゃないか?」
「ああ。今回の異変がもっと前から起こっていたらそう考える事もできたんだけどね…」
「「?」」
首を傾げたウィリアムとシャルを横目に、ナタがふぅと息を吐く。
「…今回の森の異変、ロックタートルの凶暴化の報告が上がったのは二ヶ月程前で、多数の冒険者の行方不明が問題として上がったのは一ヶ月前からだったんだ。
…二つの異変の一ヶ月の間は、一体何の期間だと思う?」
「……さっぱりだ。ギルマスも意地悪しないでさっさと教えてくれよ。」
「別に意地悪したつもりはないんだけど…
こほん。
私は、この二つの異変の間の一ヶ月で、森の中で『ある事が行われていた』と考えているんだ。」
「ある事…?」
「『ゴブリンロードによるこの森のゴブリンの統治』さ。
『ゴブリンロード』が外部から森に侵入し、森に最初から生息していたゴブリンたちを『自分の指示を正確にこなせる』優秀な手下に仕立て上げ、完全に統治した。
たった一ヶ月の間に、ね。」
「ゴブリンロードは昔から森の奥地で生活していた、と言う可能性は無いのですか?
または、ゴブリンの知能の上昇とロックタートルの凶暴化の原因が別である可能性は?」
先ほどまでナタの説明を静かに聞いていたベルが尋ねる。
「前者は、その可能性もゼロではないんだけどね。
でも、そう考えると少し引っかかる点があるんだ。」
「引っかかる点…ですか?」
「ロックタートルだよ。
仮に『ゴブリンロード』が元からこの森にいたのなら、もっと前から危険を感じたロックタートルが凶暴化している筈だ。
故に、『元からいた』と考えるよりも『外部から侵入してきた』と考えた方が納得がいく。
次に後者だけど…こっちはかなり可能性は低いと思うね。」
「…何故ですか?
現に異変の発生の時期も一ヶ月の間ズレていますし、別の要因が存在していると考える事は何らおかしい事では無いと思いますが…」
「ロックタートルが恐れるのは、それこそ『アースドラゴン』みたいな強力な力を持った魔物だ。
そんな魔物が森の中にいるにも関わらず、臆病な筈のゴブリンが『人間にバレないように高度な武器を使って人間を襲撃』なんて前代未聞の事を行っている。
普通、そんなに危険な魔物がいるのなら、人を襲うなんて事をする前に身の安全の為に森から逃げるよね?
となれば、『ロックタートルを脅かすほどの強力な魔物』は、少なからず『ゴブリン達にとっては』脅威的な存在ではないと言うことになる…
あとは、言わずともわかるね?」
ナタが尋ねると、ベルはゆっくりと頷いた。
「はい、理解しました。
…しかし、そうなると対策は極めて困難だと思われるのですが…」
「その通りだ。
我々は『どこに潜んでいるかわからないゴブリンロードとその群勢を森の中で倒さなければいけない』訳だし…
まあ、ここに『相手は森の環境を熟知し、人についての理解もある。』と『今までのゴブリンとは比べ物にならないほど高性能な武器を使う』、そして『ドラゴン並みに強いと予測されるゴブリンロード』ってのが入ってくるからね…」
「……改めて聞くと、めちゃくちゃ大変そうだよな…
本当にA級4人だけで大丈夫なのか?」
ナタが淡々と述べる今回の異変の重大さを聞いていたウィリアムがそんな弱音を吐く。
「まあまあ。危機的な状況を乗り越えてこその冒険者だろう?
さて。異変についての説明はこれくらいにしておいて、そろそろ具体的な対策について話し合おうか!」
色々後書きで書きたいことはありますが、ゴブリンロード云々については敢えて触れません。
シャル→脳筋、短気、オラオラ系。
ベル→ソフィアの事好き(お姉様呼ばわり等については、後で色々説明やら書かれます)。
今回は『アマルガム』と一緒に特殊なモンスターとして例に出てきた『フェンリル』と『黒のヒュドラ』についてを説明していきます。
『フェンリル』はもう色んな作品で出てくるから有名ですよね。白い体毛を持つ狼のモンスターです。
言わずもがな強いです。はい。
こいつは『アマルガム』同様、まだ討伐されておらず、現在行方不明になってます。
『黒のヒュドラ』は、名前の通り黒いヒュドラ。
沢山の頭を持つヘビのモンスターで、強力な毒、強酸性の体液、硬い鱗、そして何よりも非常に高い生命力を持ちます。頭切ったら倍になり、身体傷つけても秒で傷口が塞がっていきます。
実は、既に討伐済みだったりします。割とすぐに本作に出てくるかも…
今回の後書きはこれだけです。




