『事の結末とビスタの思惑』
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「本当に短剣で大丈夫なのか?リーチの長い長剣の方がいいんじゃ…」
先程のやりとりから何か不吉な予感を察知した俺は、ミルシェにやんわりと武器を変える事を提言するが…
「大丈夫大丈夫!なーに、安心してアタシの素晴らしい短剣捌きを見てろって!」
と、ニカッと笑うミルシェ。
やはり武器を変えるつもりは毛頭ないようだ。
(アレを短剣で切ったら色々と不味い気がするけど大丈夫なんだろうか…)
短剣だと返り血なんかが身体につきやすそうだし、何より刀身が短い分与えられるダメージも低そうなのだ。
『麻痺毒持ちの敵の体液を浴びかねないのでは』と、正直不安でしかない。
「さてと…それじゃあまずはアタシから攻撃いくぜ!
おらぁ!!」
掛け声と同時、ミルシェが木の上に巻き付くように這い回っていたナメクジの胴体に短剣で斬りかかった。
だが
「あれ?あんまり効いてない?
結構手応えあったのに…」
動揺した様子で呟くミルシェ。
見れば、勢いよく振われた短剣はナメクジの表皮を掠め、体表に薄っすらと切り傷の様な痕を残しただけだった。
自信があった自分の攻撃がほとんど効いていなかったのが予想外だったのだろう。
(刃の部分が粘液で滑り、上手く切れなかったのか?
何にせよ、これで短剣がヤツには向いてないと実感してくれただろうし、武器を長剣に変えてくれる筈…)
そう考えてから、再度長剣の使用を促す。
「短剣じゃ刀身が短すぎてダメージを与えきれていないみたいだし、やっぱり変えた方がいいんじゃないのか?」
「いや…まだだ。まだ一回しか攻撃してないし、ダメージだって見た目以上に与えているかもしれないだろ!?だから長剣は使わない!」
しかし、ミルシェは慌てているような素振りをしながらも、また提案を断った。
(うーん…効き目が薄い攻撃手段である短剣で戦う事にそこまでこだわる必要性はないと思うんだけど…)
スライムと戦う時からずっと短剣しか使っていないミルシェに対して、そんな疑問が浮かんでくる。
扱いに慣れていると言っても、相性の悪い相手と戦うというのはどうなのだろうか。
(……いや、待てよ。
もしかすると、ミルシェは先ほどまでの俺と同様に『特定のスキル取得』を目的にしているのでは?)
ミルシェは、俺が先ほど手に入れたスキルである『体術』のような『特定の攻撃が強化される』スキルの取得を狙っているのかもしれない。
仮にそうなら、わざわざ有効ではないと思われる攻撃手段であるにも関わらず、その手段を選び続けている事にも納得がいく。
(そう言ってくれれば何度もしつこく長剣を勧めたりしなかったんだけどな…)
理由はともかくとして、ミルシェが短剣で戦うとなれば俺の長剣による攻撃を中心としてダメージを与えていくのが最適解となる。
しかし、やはりどうしても
「……やっぱり何度見ても気持ち悪いんだよな…」
先ほどから木に這い続けているナメクジを見て、思わず言葉を溢す。
かなりの間、なるべく見続けるよう努力しているのにも関わらず、克服できる気がしない。
(それでも、直視する事はなんとかできるようになった。最初は見るだけでダメだったことを考えれば、一応慣れ始めてはいるのか…)
一歩、また一歩とナメクジに近づく。
そして剣が届く間合いに入った時、剣を縦に構えて
「せいっ!!」
そして、ナメクジに斬りかかった。
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目の前には、両断された巨大ナメクジ。
そして、その横で粘液まみれになって地面に倒れ伏している俺。
「……アキラ君……
その……大丈夫……?」
頭上から、心配そうに話しかけるビスタの声が聞こえる。
「……流石にあれはアタシでも嫌だわ…アキラ、何というか……ドンマイ?
体は…もう動かせるか?」
背後から、粘液まみれになった俺をここまで引っ張って来てくれたミルシェの声が聞こえた。
「…とても、キツい……」
先程、全身に受けた大量の粘液のせいで体の所々が痺れてはいるが、話したり少し身体を動かせる程度には回復した。
むしろ麻痺云々よりも、今は精神的ダメージの方が強い。
「うう……
…あんなの、ありかよ……」
あの後、ナメクジに斬りかかった俺は、そこそこのダメージ(を与えたとおもわれる)の攻撃を繰り出すことに成功した。
しかし、問題はその後だった。
体を斬られたナメクジが、突如俺に飛び付いて巻きつきだしたのだ。
鎧と体の隙間にも入り込み、顔を含む全身に巻きついてきた巨大ナメクジに思わず気絶しかけた。
この時点で既に充分すぎるほどの地獄なのだが、事はそれだけでは済まなかった。
ナメクジの麻痺性の粘液を大量に身体に受けた俺は、叫び声すら上げられないまま倒れ伏し、全身に巻きついたナメクジが出す麻痺毒で一切動けなくなった。
そのままナメクジが割って入ったビスタに倒されるまで気絶してしまっていたのだ。
(はぁ…やばい、思い出すだけで背筋が凍る…
てか、粘液はもう体についてない筈なのにまだ気持ち悪い…)
俺の惨状に見かねたラフィが魔法の『ウォッシュ』で俺を綺麗にしてくれたが、巻き付かれた時の感覚がまだ鮮明に脳裏に刻まれているようだ。
「……えっと…今こんな事を言うのは場違いかも知れないんだが…
…アキラ君、ちょっとステータスを確認してみてくれないか?」
「ステータス、ですか?」
「ああ。オオマヒナメクジの粘液で一度麻痺状態になっただろう?
そこから無事……
ではないにしろ、通常状態に回復できたみたいだから『状態異常耐性』のスキルが増えている筈なんだけど…どうかな?」
そういえば『状態異常耐性を獲得する』というのが当初の目的だったっけ。
あまりにも目的の魔物の見た目のインパクトが強すぎて忘れていた。
「ステータス」
ステータス
名.佐々木 明 性.男
種族.人間 職業.E級冒険者
LV 7
体力.584/600
魔力.150/150
スタミナ.232/350
攻撃力.65
防御力.54+30
魔法攻撃力.32
魔法防御力.32
素早さ.100
運.12
スキル
・観察眼 LV2
・疾走 LV2
・鑑定眼 LV2
・投擲操作技術 LV4
・剣術 LV2
・回避術LV1
・会心撃LV2
・魔物殺しLV1
・体術LV1
・状態異常耐性LV3
特殊ステータス
・異世界転生者
・言霊の加護
・地の星の民
ビスタの言う通り、新しくスキル『状態異常耐性』は増えていた。
だが、明らかにおかしな点がある。
(ん?状態異常耐性LV3?なんで既にレベルが上がってるんだ?)
今回初めて取得したはずのスキルのレベルが最初からLV3というのはどうなのだろうか。
不審に思った俺は、その事をビスタに伝える。
するとビスタは納得がいったように頷いた。
「…なるほど。やはりそうなったか。
どうりで、もう問題なく話せているわけだ。
うん。さっきの戦闘がちゃんとアキラ君のモノになっていたみたいで安心したよ。」
「あの…今回の戦いで、俺は剣で一撃与えただけだったと思うんですけど、あれで本当によかったんですか?」
新しいスキルを獲得はしたが、俺はナメクジに斬りかかって返り討ちにあっただけだった。
それがちゃんとしたモノになっているのかという疑問が浮かぶ。
「ん?
ああ、ごめん。
色々と説明していない点があったし、急にこんなことを言われても意味がわからないよね?
まず今回の戦闘がパーティー向けだと言っていた理由なんだけど、これは『どちらか片方が麻痺で行動不能になっても、すぐに戦線から離脱できる』からだったんだ。
まあ、要するに『状態異常で動けなくなった味方を連れて逃げるのが前提の戦闘』ってわけだね。」
つまり、あのナメクジとの戦いは『負けイベント』の類だったわけか。
スライムとは別の魔物と戦う事を提案してきた時の、ビスタの何か企んでいそうな笑みの理由がなんとなくわかった気がする。
「こう言った戦闘で最初から『逃げる前提の戦闘だ』と伝えては、引き際を見極める練習にならない。
だから極力対象の情報は伝えず、各自で対策なんかを考えながら戦ってもらおうと思ったんだ。
冒険者をやっていると、どうしても引かなきゃいけない場面に遭遇する事も多いからね。
だから、『どちらか一方が戦闘不能になった際に戦闘から身を引き、退散する』って事と、その時の手順なんかを知って欲しかったわけだ。
反撃はするけど動きが遅くて臆病な『オオマヒナメクジ』が最適解だと思ったから戦ってもらった。
……まあ、流石にあそこまでナメクジが反撃してくるのは予想外で焦ったんだけどね。」
つまり俺かミルシェの片方が麻痺で戦闘不能になるのは確定事項で、肝心なのはその後の『俺達の行動』だったのだろう。
(それにしても、俺がナメクジに返り討ちにされている時にミルシェではなくビスタがナメクジを倒したのはそういう事だったんだな。)
「よし、じゃあ次は『状態異常耐性』獲得についての話だね。
今回の戦闘は『麻痺して動けなくなった方には状態異常耐性、もう一人は仲間が戦闘不能になった際の退却の練習』を目的にしていたんだ。
と言うのも、『状態異常耐性の獲得』っていうのはソロの冒険者や、駆け出し冒険者ばかりのパーティーだと中々行える機会がない。
だから、『ある程度の上級者がいるパーティー』に参入している時に行うのが一般的なんだ。
…俺も、このスキルの獲得には色々と苦労したよ…」
語りながら、どこか遠くの方を見つめるビスタ。
昔の事を思い出して感傷に浸っているのだろうか。
「……さて、話を戻そう。
アキラ君の『状態異常耐性』のスキルレベルがすでに3になってる件についてだけど、これは『過剰量の強力な麻痺毒を摂取した』事による現象だと思う。
普通なら、オオマヒナメクジは麻痺粘液を撒き散らしたりして飛ばしてくる程度なんだけど、今回は予想以上に好戦的だったからね。
過剰な量の麻痺毒を『耐性皆無』の状態で受け、それを克服した事で一気にレベルが上がったんだろう。」
(……今、割と恐ろしい事をサラッと言いましたね?)
『強力な麻痺毒』を過剰に摂取は、普通に死にかねないのではなかろうか。
「耐性皆無で過剰な毒って…それ普通に死ぬんじゃないのか?」
俺が思っていた事を、そっくりそのままミルシェが質問してくれた。
「アキラ君が気絶してる間に、ラフィが『キュアパラライズ』を使って解毒処置を施していただろ?
あれのおかげで、完全に毒がまわりきる前に大半の毒が解毒されたんだと思う。
それに、今回のオオマヒナメクジの毒で死ぬことはまず無いから安心して大丈夫だぞ。」
(ああ、既に魔法で解毒してくれていたのか…)
『通りで回復が早いわけだ』と考えながら、ふと疑問に思った事を口に出す。
「そう言えば、まだ体の所々が痺れてるんですけど、これは何でですかね?」
「多分さっきまで付いてた粘液の毒が、気絶している間にまた体に侵入したんだろうな。
でも、耐性皆無の最初とは違って、『状態異常耐性』があるおかげで体が少し痺れる程度で済んでいるって所かな。
ラフィの『ウォッシュ』で粘液を完全に洗い流したからじきに良くなると思うけど、気になるならもう一回解毒しておく?」
(『もう一杯水飲んどく?』みたいなノリで解毒って単語が使われる日が来るとは思ってもみなかったな。
それにしても……)
先程までは全く動けなくなるほどに効いていた麻痺毒が、今では多少痺れる程度にしか効かなくなっている。
そんな非現実的な現実を身をもって実感しつつ、『状態異常耐性の原理は何なのか』とか『体内の麻痺毒はどうなるのか』とか、そんな難しい事を考えていた俺は
(『状態異常耐性』って、すごいんだな…)
とりあえず『スキルってすごい』と言う『投げやりな結論』を立てる事で無理矢理納得した。
やっとナメクジ倒してくれた……これで物語が進む…
今回はビスタの長い解説回でした。
個人的には野郎がナメクジにまとわりつかれても全然嬉しく無いので、ミルシェの方が巻きつかれて欲しかったんです。
でも、流石に絵面的にアウトなので自重しました。
今回の後書き(補足説明)は明の『状態異常耐性』のレベルの上がり具合について。
こちら、お察しの通り『特殊ステータス』のお陰で異常にレベルが上がってます。
ビスタの推測は『特殊ステータス』の存在を加味していないので半分正解半分間違いと言った感じです。




