『黒龍の国滅ぼし』
自分が『期間限定』の四文字に弱いと言うことに最近気が付きました。
受付に行き先などの話を伝え終えた俺は、依頼を受けるべくギルドへ向かっていった。
(確かここの道を左に曲がって……あった。目印の武具防具の店。)
色々な店が建ち並ぶ街の通りに並ぶ一際目立つ店。
その店の看板には黒い龍の頭に剣を突き刺さす白い鎧の騎士の絵が描かれており、店頭には派手な鎧や剣が沢山並べられている。
(店の名前は確か『龍滅の剣と純白の騎士』だったっけ…)
厨二病っぽい店だな〜と、昨日ソフィアに店の説明を聞いたとき思ったのは仕方がないといえる。
何しろ店の外観といい、名前といい、並んでいる商品といい、どう見ても厨二病のそれなのだ。
『かっこいいと思うが、実際に身につけたいとは思えない感じ』と言えば伝わるだろうか。
(やっぱり色々と派手だな…おっ!この鎧凄っ!!王様とか偉い人が戦の時に着てそうだ。カッコいいな…)
店頭に飾られていた純白の鎧を見て思う。白い金属特有の光沢を放つ立派なフルプレートで、金色の刺繍が施された赤いマントを肩のあたりから靡かせている。
(でも、戦闘時にアレを着て戦ったら自分でマントを踏みそうだな。それに、明らかに重そうだしな…)
要するに、見た目は確かに『The・騎士』と言った感じでカッコいいが実用性があるかと聞かれると反応に困る。それだけで命を守るための物を選ぶことはできない。
(さて、他の鎧は……おっ?これとかは普通に良さそうだな。)
鎧の目利きが効く訳ではないが、動きやすそうで見た目も程よい感じの物を見つけた。鎧と言っても、先程までのフルプレートではなく、所々に鉄板のようなものが仕込まれている服に近い見た目の物だ。
(店員に値段を聞いてみよう。何なら、鎧の一般的な価格なんかも教えてもらえるかもしれないしな。)
特に鎧を買うつもりはなかったが、この鎧の値段を参考程度に聞いておいても問題はないだろう。
そう思って店の奥にいる店員を呼んでみる。
「すみません。この鎧の値段が知りたいんですけど…」
すると、店の奥から店員と思われる男が出てきた。40代くらいだろうか、無精髭を生やした中肉中背の男だ。
「…あぁ……その鎧の値段か。銀貨三枚と銅貨六枚だ。駆け出し冒険者や傭兵、兵士からは人気の鎧だよ。」
奥から出てきた男は、ぶっきらぼうに答えた。
そして、更に続ける。
「……はぁ、…誰も彼も同じ様な鎧ばっかり買おうとしやがるよな。おめぇらにはロマンってものはねぇのか?他の奴も値段を聞いてみたらどうだ?」
…一応、俺は客として鎧の値段を聞いただけの筈なんだが……この人、何故か既にとても機嫌が悪いですね。
見たところ、この店の店長みたいだな。
機嫌が悪いのは、ロマン溢れる自分の一推しの商品ではなくて、無難なデザインの物の値段を聞いたからだろうか?
(別にマント付きの鎧がダメとは思わないけどな…まあ、戦闘には不向きだとは思うが。)
「…マントの付いた白い鎧はかっこよかったし、凄いなぁとは思いました。ですが俺には買えそうになかったし、そもそも使いこなせそうもなかったので値段を聞かなかったんです。無難な見た目の物の方の値段を聞いたのも手頃で買えそうな物だったからで…」
見た目はカッコいいし、凄いなぁとは思ったからな。ただ俺には使えないとも思った。
だから、思った通りの事を伝える。
正直、店長を怒らせてしまう恐れがあったので不安だったのだが…
この発言、店長にはとてもいい意味で伝わったようで
「ああ!!そうだったんだな!
ふふふ、そうだろう!やっぱりカッコいい鎧ってロマンあるだろう!凄いだろう!はっはっはっ!!いやぁ〜。おめぇさん、話がわかるやつだったんだなぁ!さっきはキツく当たって悪かった。ちゃんと話を聞かないのは俺等の悪い癖なんだ。許してくれ。」
さっきまでとはまるで別人であるかのように嬉しそうに話しだす店長。
あれ?これさっきとは別のベクトルで面倒な事になってないか?
「それにしても、長いマントの鎧ってロマン溢れるよなぁ!俺等、昔から純白の騎士様の伝説が大好きでよぉ…マントのついた純白の鎧を売りたいって思って武具防具屋を始めたんだ…でも、店に来る客はみんな素朴な鎧ばっかりを買っていきやがる。
挙句の果てに『派手すぎてダサいし、飾りにしかならない』とまで言ってくる始末だ。
確かに白は目立つし、長いマントは戦いの時に邪魔になる。それはわかっちゃあいるが、せめてこの鎧のかっこよさぐらいは理解してほしかった…」
今までの事を思い返してか、少し悔しそうな顔をする店長。本当にあの鎧にすごい思い入れがあるようだ…
そういえば、店長の話を聞いていて疑問に思ったことがある。
「なるほど…所で、その純白の騎士ってなんですか?」
それは、店長の話に出てきた純白の騎士という人物についてだ。この騎士は、確か店の名前にも入っていたように思う。
すると、店長は目を見開いて驚いた。
「おめぇ…純白の騎士様を知らないのか?ほら!『黒龍の国滅ぼし』って有名な御伽噺に出てくる大英雄だよ!国の兵士が束になっても勝てなかった恐ろしい黒龍をたった一人で撃退した伝説の騎士さ!確か、冒険者ギルドの創設者がこの純白の騎士様だって言い伝えられてる筈だが…」
もちろん全て初耳だ。しかも話の内容はかなり重要な物っぽい。
「この国に来て日が浅いもので…それにしても、その黒龍と純白の騎士とは一体何者ですか?」
「どっちも御伽噺の『黒龍の国滅ぼし』の登場者で、実在した人物とモンスターさ。
黒龍は最恐、最悪と呼ばれるモンスターどもの親玉的存在だ。一度、その黒龍と率いられたモンスターの軍勢によって国が壊され、その後残った土地に今のこの国ができたらしい。まあ、黒龍に関してはここ数百年の間…丁度純白の騎士様に撃退された以来、その姿を見せていないから生死は不明となっている。
純白の騎士様は、国の兵団のうちの一人、放浪騎士、神からの使い、などなどいろいろな出生が言い伝えられている。さっきの黒龍を撃退した大英雄にして、ギルドという新しい協会を創った賢人だ。こちらは黒龍を撃退し、ギルドを創立なされた後、老衰で亡くなったとされている。
そういった成り立ち方だからなのかはわからないが、ギルドは今尚『この国滅ぼしの黒龍を滅し、世界に安寧をもたらす』ってのを最大の目標に掲げているようだな。」
「へぇ…」
これも初耳だ。ギルドにはそんな歴史と目標が存在していたとは…
後でギルドに行って詳しく話を聞いてみるか。そう考えていると
「…さて、さっきはおめぇさんに対して勘違いで失礼な事を言っちまったな…この店の店長として、何か詫びさせて欲しい。
…そうだな、さっき値段を聞いてきた鎧なんてどうだ?見た目はまずまずだが、実用性だけはまあ優秀だぞ?」
一通り話し終えた店長が、突然そんな提案をしてきた。
「え?…ああ、さっきの事ですか?別に気にしてないし、お詫びなんていいですよ。」
この店長がこだわり深い人なのはわかったからな。
さっきの発言も長年の鬱憤みたいな物を感じたし、不快だとは思っていない。流石に鎧を貰うのは気が引けてしまう。
しかし、この店長はそうは思わないらしい。
「いいや、俺と同じ思いを持ってくれてる奴に酷え事を言っちまったんだ。償わなきゃ俺等の気の方がおさまらねぇってもんなのさ。本当はマントの鎧の方を使って欲しいと思ってはいるが、流石にそこら辺は弁えてる。」
ああ、この人一度こうすると決めたらテコでも動かないタイプの人だな。
「…わかりました。それではありがたくいただきます。」
そう俺が答えると、店長は目に見えて喜びの表情を浮かべた。
「おう!!じゃあ、この鎧を包んでくるから少し待っていてくれ。」
と言って、店の奥へと入っていく。
そして一分ほど経ってから綺麗に布で包まれた鎧が入った麻袋のような物を持ってきた。
「おし!とりあえず包んできたぜ。ああ、まだ店を見ていくって言うならコイツは店の奥に置いておくが、どうする?」
「充分品物は見れたので、もうそろそろ行こうかと思います。これから依頼も受けに行かないといけないので。」
「今から依頼を受ける、ね…
なら、今からこの鎧を着て行くのはどうだ?これなら軽いし、動きにくくなると言うこともほとんど無いと思うぞ。着方がわからないなら俺等が手伝うしな。」
ソフィアといい、ウィリアムといい、この店長といい、みんな優しい人ばかりで逆に申し訳なく思ってしまうな…
「じゃあ、お言葉に甘えて…」
そうして、店長に鎧の着付け方を教えてもらうのだった。
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無事、鎧の着付けが終わった。着方は普通の洋服とほぼ同じような物で覚えるのも楽だった。
「それじゃあな!またいつでも来てくれ!待ってるぜ!」
そう言いながら店頭に出てきて見送ってくれる店長に手を振る。
「ありがとうございました!また今度買いに来ます!」
その言葉を伝えて店長と別れ、ギルドの方向へと向かう。
(少しだけ立ち寄るつもりだったけど、結構長いことあの店にいたな。まだ正午にはなっていないだろうから、今から依頼を受けても大丈夫だとは思うが…)
小走りでギルドへの道を進みながら、俺は今着ている鎧を見て思う。
この鎧の金属部分の厚さは5ミリ程で、かなり広い面積を占める。そのため、もっと重いものだと思っていたのだが…
(予想以上に軽い…大体厚手のコートくらいの重さか?)
動く際にほとんど気にならない重量だ。現に、この鎧を着た状態で小走りしているが全く重いとは思わない。それに加えて、金属部分は膝や肘と言った可動域には使われていない為動きやすい。
(軽くて動きやすくて値段もそこそこ。そりゃ人気が高い訳だ。)
こんなにいい鎧をくれた店長には感謝しないと…
(ああ、そういえば店長の名前聞いてなかったな…次にあの店に行く時に聞いてみるか。)
これから冒険者として生活していく上で、武具防具は必須になるだろう。その時に常連になっている店があるのとないのとではかなり変わってくるだろう。
(さて、そろそろギルドが見えて来るはず…おっ!あれだな。)
周りと比べても一際大きな白い壁の屋敷のような建物が見えてきた。やっぱりいつ見てもデカイな…
(体調は万全!新しい鎧もある!よし、張り切っていくぞ!!)
そう意気込んでギルドの受け付けに行った矢先、「お一人なので依頼は受けられません」と受付嬢に言われるまでにかかった時間は5分もなかった。
『龍滅の剣と純白の騎士』の店長はいい人ですが、自分のロマンであるマントの鎧を誰も買おうとしない事を快く思ってませんでした。さらに、アキラがこの店に来る3日くらい前に、本文にもあった『派手でダサい』発言を受けていたのでかなり荒んだ感じになっていました。
今回の補足説明は御伽噺の『黒龍の国滅ぼし』について。
そもそも『御伽噺なのに実話ってなんなん?』って方もいるかもなのでそこから補足していきます。
この世界での御伽噺は『非現実的な空想』ではなく『古くから言い伝えられてきた伝承』と言った扱いです。まあ、地球とは違って魔法もモンスターも存在している世界だし、『非現実的な空想』なんてほとんどなさそうですよね。
さて、この『黒龍の国滅ぼし』。実はかなり前にほんの少しだけ本文で話していました(ソフィアの調査報告回でアースドラゴンが出てきた時くらい)。
内容に関しては、本文に書いてある通り『元々あった人間の国が、黒龍と愉快な仲間達によって滅ぼされるお話』ですね。
その後、『何処からともなく現れた純白の鎧の英雄が黒龍を撃退して、国の跡地にアルティア王国を作った。その後、この黒龍を倒すべく純白の騎士がギルドを作った。』と言った内容。
ここら辺は本文と変わりません。何故わざわざここでもう一回書いたのかはご想像にお任せいたします。




