『肉料理店での再会』
「じゃあ、お店を探しましょうか。アキラは何か食べたい物とかある?」
昼食を取るべく、店を探すソフィアと俺。
自分の食べたい物なんて言える立場ではない気がするが、『なんでもいい』という返答が一番相手を困らせるのは周知の事実。
(だからここは…)
「えっと、手軽に食べれる物とかかな?
軽くつまめるような感じの…」
ガッツリとした料理なんかはお高くつきそうだし、食べきれない可能性だってある。
ひとまず、ここは無難に極力安く済みそうな手軽に食べれる物を例に上げておこう。
と、奢られる者なりに気を遣ったつもりだったのだが、ソフィアはあまり納得がいっていない様子だ。
「…手軽に食べれる物、ね。
アキラ、ちょっと遠慮してない?
あれだけわかりやすい返事をしてるのに、『軽くつまめる物でいい』なんて言われても素直に頷けないわ。
アキラはお金の事を気にしてるのかもしれないけど、そんな気遣いはしないで大丈夫よ。
私としても、あんまり細かい金額を払うのは好ましくないからしっかりしたものを選んでもらった方がありがたいわ。
…でもまあ、本当に手軽に食べれるものがいいのなら留める気は無いのだけど。」
どうやら、余計な気遣いだったようだ。
ソフィアにとって銅貨のどうこう気にするのは、1円や5円の支払いを気にする程度なのだろう。
『細かな金額を払って小銭を増やしたくはない』くらいの感覚なのだろうか。
流石はA級冒険者だ、住む世界が違う。
「…じゃあ、お言葉に甘えて…ガッツリめの肉とか食べれる所がいいかな。」
「お肉が食べられるお店ね。
わかったわ。」
そういうと、ソフィアはおもむろに鞄から地図のような物を取り出した。
「それは?」
「ああ、これ?王都のギルマスに渡されたこの街の地図よ。
『これ、飯屋とか宿探すのに使い。絶対役立つで。あぁ、あと俺が欲しいお土産とかも書いてるからちゃんと買ってくるんやで!ほな、よろしくな!!』なんて言いながら渡してきたのよ。
まあ、結構役に立つから使ってるわ。」
「…ほえ〜。」
予想外の物真似に気を取られ、思わず空返事をしてしまった。
喋り方どころか声色までしっかり変えている『割と本気っぽい物真似』だったので、より一層印象に残る。
(ソフィアも物真似とかするのか…意外だな。
…それにしても、王都のギルマスの喋り方、エセ関西弁すぎないか?)
方言や訛りを『言霊の加護』が翻訳した結果なのだろうが、あまりにもエセ感が強い気がする。
「さて、お肉が食べられそうなお店は…と。
この通りを進んで三つ目の角で曲がった先にあるみたい。
お店の名前は『獣肉料理・バージェス』。
ギルマスのメモ書き曰く『腹一杯、肉食いたいんならここ行きや』だそうよ。
アキラ、ここでいいかしら?」
なんでかはわからないが、本当になんでなのかはわからないが…
なんかすごくムキムキな店員がいそうな気がしてならい、本当になんでなのかわからないが…
「ああ、そこに行こう。
ソフィアは大丈夫?」
「……まあ、肉料理のお店でもサラダくらいは出てくるだろうから大丈夫だと思うわ…
とにかく、行ってみましょうか。」
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そうして、件の『獣肉料理・バージェス』に来たのだが
「すみません。今、あいにく満席でして…席が開くのはかなり後になると思われます…」
店の入り口に立っていた店員と思われる女性にそう引き止められた。
「どれくらい待つ事になりそう?」
「はっきりとは言えませんが…
少なくとも、おおよそ1時間ほどは待っていただくことになるかと…」
「そう…仕方ないわね。
アキラ、別のお店にいきましょうか…」
「そうだな。
ちなみになんですけど、ここっていつもこんなに人が多いんですか?
もしそうなら、空いてる時間とか教えてもらえたら嬉しいんですけど…」
満席で、待たなければ入店できない程の人気料理店。
それほどまでに人気なお店の料理を食べたいと思ってしまうのは、きっと人の性だろう。
(今日じゃなくても時間がある時に一人で食べにくればいいし、聞いても損はしないからな。)
最も、料理を頼める程の財力がその時の俺にあるかは別の話である。
「…いえ。
普段からずっと満席と言うわけではありません。
お昼時や夜間は混みますが、それ以外の時間でしたら基本は空席があります。
…実を言いますと、店についさっき依頼を終えてきたA級冒険者の方が来ておられまして、そのA級冒険者の方の追っかけ方々で店が満席になっているんです。」
(……依頼を終えたばかりのA級冒険者、ねぇ…)
もう、何となくオチが見えた気がするが、店員に続けて尋ねる。
「……ちなみに、そのA級冒険者って誰ですか?」
「あぁ、それはですね…」
店員が答えようとしたその時
「よお!
アキラ!姐さん!奇遇だな!!」
それを遮るように、店から栗色の髪の男が出てきた。
先程、俺をデカイモから助けてくれた大先輩、ウィリアムが気さくに話しかけてくる。
「……ウィル。
偶然にしてはちょっと出来過ぎじゃないかしら?
…もしかして、予め待ち伏せでもしてたの?」
「えっ!?
いやいや!!な訳ねーよ!
俺はここにたまたま飯食いに来てただけだわ!
待ち伏せしてただなんて言われるのは流石におかしいだろ!!考えすぎにも程があるぜ姐さん!
そもそも、二人がここに来たのに気がついたのは気配察知と声で判断したからで…」
「冗談よ。
そんなにムキにならなくてもわかってるわ。」
「いや、姐さんのいうことは冗談かどうかの判断が難しいんだよ…
かつてそう言った発言で何度痛い目を見たことか…」
「記憶にないわ。」
「だろうな!!
そもそも自覚がないんだから覚えてる訳がねーよ!」
「…あのぉ、ウィリアムさん。
…そちらのお二人とは、その。
お知り合い、だったり?」
店員が恐る恐る尋ねる。
急遽店に来た二人組が、A級冒険者と親しげに話している姿を見たのだから、動揺もするだろう。
「ああ。
こちら、俺と同じA級冒険者のソフィアの姐さん。昔、……まあ色々とお世話になってな。
んで、こっちが期待の新人冒険者で俺の後輩のアキラだ。」
ソフィアの素性を聞いた途端、店員が驚きのあまり気を失った。
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「ソフィアさん!!サイン貰ってもいいですか?」
「すごい…本物の『緋色の魔女』さんに会えるなんて…握手してください!」
「本当にこんなに小柄なのにA級冒険者なんですか!?それにウィリアムさんの先輩だなんて…是非お二人のお話を聞かせてください!!」
店の中にいた客の興味がソフィアに集まっててんやわんやしていた。
しかし
「はい、サインね。
握手はサインを書き終わってからにして頂戴。
ウィルとの思い出話は彼から聞いて欲しいわ。
あ、店員さん、サラダを一つ頼めるかしら?
あっ、そういえばアキラはこの国の文字は読めないし、私が選んだ方がいいわよね?」
聖徳太子さながらの、すごく手慣れた感じで各々の要求に対応していた。
さらには自分の注文と俺への気遣いまでしてくれている。
A級冒険者って、すごい。
「ああ、ありがとう。
じゃあメニューはお任せさせてもらうよ。
…それにしても、こんなに大勢に一斉に話かけられてるのに問題なく答えれるなんてすごいな…」
「まあ、王都の料理店で昼食を取ったら大抵こうなるから、こうやって一斉に話しかけられる事には慣れてるのよ。」
「なるほど…」
慣れるのとこなせるのは別だと思うが、そこは『ソフィアすごい』で済ませておこう。
なにしろ、同じA級冒険者のウィリアムですら、ソフィアのあまりの手際の良さに引いているくらいなのだから。
エルドの街、『獣肉料理・バージェス』は、森で狩られた獣系モンスターの肉ジビエと新鮮な野菜が自慢の料理店。値段はそこそこするけど、高品質でボリューミー!なのでそこそこ稼げる冒険者達にファンが多いです。アキラが言っていた様な、ムキムキなうるさい店員とかは特にいません。
ちなみに、ウィリアムは月に2〜3回はここに食べにきてます。
ここからは、前回書けなかった為、今回の後書きで書くと言っていたエルドの街についての補足説明です。興味のないと言う方は無視していただいて大丈夫です。
まず、エルドの街についてですが、『エルド』という名前の都市があり、その中に『エルド』の街があります。
要するに、日本で言うところの『〇〇県にある〇〇市』みたいな感じです。
そのため、『都市エルド』と『エルドの街』は同一ではないです(都市エルドの中にはエルドの街以外にも複数の街が存在する。また、『都市エルド』の領土の中には未開拓の場所も存在しており、街の近くにある森もこの未開拓地に該当する。)。
次に、『都市エルド』の地理的な立ち位置について。
これは本文に書いてあった通り『王都と複数の街との中継点となっている都市』といった感じ。
エルドは、王都に最も近辺に位置する大都市で、多くの街の最寄りの都市でもあります。
そもそも、アルティア王国には『都市エルド』のような都市が複数存在しています(都市の名前は後々出てきます)。しかし、都市まではいかない規模の街も多数存在しており、こちらは大小すべて合計すると50個近く存在しています(これらの都市に属さない街の事を、この世界では『はぐれ街』と言います。)。
エルドは、他の都市よりも多くの『はぐれ街』が近くに存在し、それらの王都までの中継地点となりがちなため、それらの街からの様々な特産品が集まってきます。
そうして『商業都市エルド』と呼ばれるまでの大都市へとなったわけです。
まだ書きたい事はありますが、次の後書きで書くことがなくなるのでここまでにしておきます。




