『会合の知らせ』
書きたいことは決まっているのに語彙力無さすぎて書き出せない…
アキラの依頼の報酬の精算をすべくギルドに来たものの
「ソフィア様、例の件についてのお話がございます。所長室までの同行をお願いできますか?」
ギルドについた途端に、職員から呼び出しを受けた。
(例の件……もしかしなくても、ゴブリンロード発生についてね。討伐隊の編成についての話でもされるのかしら。)
つい先日に受付の職員とした会話を思い出す。
ロックタートルの凶暴化についての調査依頼の報告で『ゴブリンが襲いかかってこなかった』事からゴブリンロードが発生している可能性があると推測が立てられた。
おそらく、その推測がギルドマスターに伝えられた為、情報の擦り合わせの意味を兼ねて呼び出されたのだろう。
(それにしても、この街のギルドのギルドマスターであるナタ・ファタリアさん……うちのギルマスとは昔馴染みって言っていたわね…
あの人、元冒険者だったらしいけど…)
パッと見れば、気さくで話しやすい女性といった感じだ。しかし、ただ気さくなだけではなかった。
(実際に出会ってみて思ったけど、たしかに冒険者の事をよくよく理解していたわね…)
ナタは、物事を冷静に見極め、広い視野を以って合理的に問題解決の為の行動を選択していた。また、D、E級の冒険者達にも十分配慮してギルドの方針を決めるといった理解力も持ち合わせているようだった。
王都ギルドのギルマスと同等か、それ以上に冒険者についてよくわかっている。それが、ナタと実際にあった時のソフィアの第一印象だった。
(まあ、少し会って話した程度だし、私はまだあの人の本質は理解しきれている訳ではない、か…
…と、着いたみたいね…)
そんなふうに色々と考えている内に、所長室の前まで着いていた。
「ギルドマスター、A級冒険者のソフィア様をお連れしました。」
ドアをノックし、職員がそう言う。
「はいよー。入っちゃって〜。」
すると、所長室の中から、そんな砕けた物言いの返事が返ってきた。
(さて、一体どんな話があるのかしら…
と言っても、大体の見当はついてるのだけれど。)
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扉を開けると、そこには机に積み上げられた山のような書類に囲まれながら座っている一人の女性がいた。
「急に呼び出しちゃってごめんね〜。あっ、これが視界に入ると気になっちゃう?
ここだけの話、最近ちょっと忙しくって仕事が片付けきれてないんだ。悪いけど、これらには目を瞑っておいてくれると嬉しいな。」
気さくに書類に囲まれていた女性、ナタがそうソフィアに話しかけてくる。
「私は全く気にしていないのでお気遣いされなくとも大丈夫です。
…それで、用件と言うのは森の異変の原因……先日推測が立てられた『ゴブリンロード発生』の件について。という事でよろしいでしょうか?」
すると、ナタはうんうんと頷きながら答える。
「そうだよ。いやぁ、話が早くて助かるね。流石は王都のルーキー、頼り甲斐があるってもんだ。」
ニコニコとしながら、そう軽口めいた発言をするナタ。しかしソフィアは、彼女の態度を不快だとは思わない。
(このおちゃらけた態度も、陰鬱な空気を作らないようにするためなのよね。ナタさん自身も、森の異変の対応やらで大変でしょうに…)
意味なくふざけているのではない。おちゃらけた態度は、これから辛気臭くなるであろう場の空気を少しでも和らげようと言うナタの気遣いなのだ。それが分からないほど、ソフィアは鈍感ではなかった。
「さて、と。与太話はこれくらいにしておいたほうがいいね。ソフィアちゃんも色々忙しいだろうし、今回の用件を手短に話すことにしよう。
…ああ、そうそう。これから話す事は、他言無用でお願いしたい。
極力、戦う前からギルド内の雰囲気を悪くする事は避けたい。」
コクリ、と頷く。
「ありがとう。
…さて、用件は他でも無い。先程ソフィアちゃんが言ってくれた今回の森の異変の原因について。
様々な物証や状況からの推測により、この異変は『ゴブリンロード』によるものであると断定する事になった。
だが、この森に潜んでいるゴブリンロードはただのゴブリンロードではないと思われる。」
「…というのは?」
「恐ろしく強く、賢い。
そしてなによりも、人間についてよく理解している。今までのものとは一線を画する強力な能力と知能を持ったゴブリンロードだと考えられるね。」
「…なるほど。ゴブリンのユニークモンスターの、さらに特殊個体なのですか…」
「ああ。
そして、その特異性は手下であるゴブリンたちにも大きな影響を及ぼしているようだ。
例えば、そう。
…人間並みの、もしくは人間以上に精巧な武器を作って扱うようになる、とかね。」
人間並みの武器を作り、それを扱うゴブリン。そして、ゴブリンがそこまで賢くなった原因であるゴブリンロード。
(それ程の強力な魔物が森に発生したのなら、この書類の山にも納得がいくわね。)
王都のギルマスの机の上も、強い魔物が発生した際に山のような書類によって埋まっていた。
あれは単純にギルマスのガサツさ故に起きていると思っていたが…
「…では、討伐に必要な戦力も大きく変わってくるのではないですか?」
すると、ナタは少し苦しそうな表情をした。
「うん…少なくとも、かつての報告書通りの戦力では絶対に勝てないだろう。かと言って、相手の勢力が未だ未知数であるが故に、どれほどの戦力を揃えれば良いのかという推測を立てるというのも難しい。」
ナタが続ける。
「そこで、だ。明日、この街にいるA級冒険者全員にギルドに来てもらい、全員で話し合いをしたいと思う。既にウィリアム君とベル君にはこの事は伝えてて、了承も得てる。
ソフィアちゃんにも是非参加して欲しいんだけど……どうかな?」
「問題ありませんよ。」
そう言った途端、ナタが嬉しそうな表情になった。
「ありがとう、そう言ってくれるととても助かるよ。それじゃあ、明日の昼ごろにギルドの受付に来てくれるかい?」
「ええ、わかりました。…今日の用件は以上でよろしいでしょうか?」
「うん、詳しい話や対策案はさっき言ったように明日する予定だからね。…もしかして、この後に急ぎの用事とかがあったりする?」
「いえ。これといった用事があるわけではないのですが…その…人を待たせていまして…」
「人……ああ、つい先日、ソフィアちゃんの斡旋で冒険者になった『言霊の加護』持ちの彼かい?
…名前は確か……ああ、そうそう。ササキアキラ君、だったかな?」
ナタが思い出したように口にする。
「はい。
…彼には、色々と気を使わせたり、迷惑をかけてしまっていて。
その恩返しと言いますか、償いと言いますか……
…とにかく、彼の受けている依頼に『護衛』という形で同行しています。
とは言ったものの、遠目で危険を予測するくらいしか手を出していないので、いないも同義かもしれませんが…」
すると、少し驚いたような顔をしてナタが口を開く。
「いやいや。
それはちょっと謙遜しすぎだと思うよ。君ほどの実力者を連れて依頼を受けることができるなんて、彼の身の安全はほぼ確保されているようなものじゃないか。
それを『いないと同義』などと言ってしまえば、他のD、E級冒険者のパーティーについて貰っている護衛の子達の面子は丸潰れだよ?」
「しかし…実際、今日も判断ミスにより彼の身を死の危険に晒してしまいました。」
「でも結局は助けたんだろう?
ソフィアちゃんが守ってくれた、だから彼は無事に依頼から帰ってきてる、違うかい?」
「……いえ。
アキラを助けたのは偶々居合わせたウィルであって、私が助けた訳ではないのです。」
ナタが疑義の念を抱いた様な顔をしたが、何かに気がついた瞬間、ひどく驚いた様な表情へと変わった。
「………ん?ウィル……?
……え!?もしかしてうちのギルドのA級冒険者のウィリアム君の事!?」
「はい、そのウィリアム・ノートンです。
ウィルという呼び名は、彼との昔の縁によるものですね。」
すると、ナタは信じられないと言うような顔をする。
「…となると、ササキアキラ君はA級二人に助けられて依頼を達成したのかい?新人の冒険者なのに?」
「結果的にはそうなりますね。まあ、私は何もしていないので数に加えていいのか謎ですが…」
「『言霊の加護』の件といい、A級冒険者との接点の多さといい……彼、ちょっと幸運過ぎやしないかな?」
「どうでしょうか…私には彼が幸運という風には見えませんが…」
「うーん。
一般的な市民にとって雲の上の存在である君たちと一緒に依頼を受けれているだけでも相当運がいいと思うんだけど…
私も、彼に実際にあって幸運を少しだけでもわけて貰いたいものだねぇ…」
「ふふっ。
アキラに伝えておきましょうか?」
「いいや、遠慮しておくよ。
急に呼び出しなんかしちゃったら、彼を驚かせちゃうだろうからね。
…さて、そんな神に愛されていそうな彼を待たせては何だかバチが当たりそうだ。
忙しいだろうに呼び止めちゃってごめんね。
今日はありがとう、ソフィアちゃん。」
「いえ。
こちらこそ、お忙しい中ありがとうございました。
…それでは、失礼します。」
そう言って、ソフィアは所長室を出ていき、所長室にはナタだけが残った。
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「ふぅ……とりあえず、明日の会合にソフィアちゃんも来てくれる事が確定した。あとはシャルちゃんがきてくれるかどうか、だけど…」
一人所長室で仕事をこなすナタは、そう独り言を溢す。
「まあ、あのシャルちゃんの事だから『強い敵がいるなら喜んで戦うぜ!!』みたいな事を言って快諾してくれそうなんだよね。」
そう言い切ってから、椅子に深く腰掛けて山積みの書類を眺めるナタ。
その顔は一切笑っておらず、まるで人形のような表情のない真顔であった。
「それにしても、『言霊の加護』を持つ稀有な冒険者、ササキアキラ君……か。」
ナタは少し黙り込む。
そして一言
「…彼、件のゴブリンロードと会話をしてくれたりしないかなぁ…。」
ぽつりと、そんな独り言を呟いた。
ベル君とシャルちゃんはまだ出ていないこの街のA級冒険者です。会合の時に登場する予定です。




