『復讐に燃ゆる王』
ところ変わって森の中、クロマヒタケの納品依頼を受けた二人の冒険者が森を探索していた。
「おいおい、依頼品のクロマヒタケが全然生えてねぇぞ…一体、どうなってやがるんだ。」
背の高い剣士風の少しなまった言葉を話す男が、そう愚痴る。
この男の名はバーズ。D級冒険者で、クロマヒタケの納品は今まで何度も受けていた。
「あれ好んで食うのって『オオマヒナメクジ』くらいだよな?マジで、なんでここまで少ないんだ?」
金色の短髪をオールバックにしたアーチャー風の男が同意する様に答える。男の名はニーファ。こちらもD級冒険者で、この手の採取依頼はよくこなしていた。
それ故に、二人ともクロマヒタケが全く見つからない現状に違和感を感じていた。
「このままじゃあ、依頼達成できねぇまま日が暮れちまうぜぇ…全く、クロマヒタケなんてちょっと森の奥に行けば、たくさん生えてるはずなんだがなぁ?」
「今日は一旦採取を諦めて、ひとまずギルドに報告だけしておくか?」
「それがいい。んじゃあ帰…
ドスッ、と音がした。
直後、バーズは背中の、肩の辺りに違和感を覚えた。
そして、原因を確認しようと首を動かそうと
「ガッ……うっ………」
する間も無く、崩れるようにして膝から地面に倒れ込んだ。
先に行こうとしていたニーファが、後ろで倒れたバーズに慌てて近づく。
「お、おい!バーズ!!どうした?しっかりしろ!!」
「グッ……ガァッ……」
バーズは痙攣して、まともに言葉も話せなくなっていた。顔も引きつり、虚空を見つめている。
何が起こった?
バーズの全身を確認して、ニーファは彼の肩に刺さった小さな矢の様なものに気がついた。急いでそれを抜き取る。
「矢……いつのまに撃たれたのか?一体誰に?」
周りを見回す。もちろん人はいな…
「グギャギャ!!」
「ギィギャギャ!!」
「ギィギギャギギ!!」
人はいない。いたのは緑色の肌をした子供くらいの大きさの人型のモンスター。それも一体だけではなかった。
「ゴ、ゴブリン…」
「グギャァ!!」
錆びたナイフのような物を持ったゴブリンがニーファに襲いかかる。ニーファは身を守ろうとしたが
「い、ってぇ!!」
叶わず、ゴブリンのナイフが腕に突き刺さる。それと同時に痛みが走る。だが、それだけではすまなかった。
「あっ、……ガッ………」
身体が痺れて上手く動かない。ニーファは必死に動こうと足掻くが
「うっ………ぐっ…………ち、……くしょ…………」
叶わず、そのまま動かなくなった。
ゴブリン達は動かなくなった二人を引き摺るようにして森の奥へと運んで行った。
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森の奥地、巨大な木の下に置かれた岩の玉座。
その玉座は、かつてこの森の主だったもの。
永きにわたりこの森を納めていたが、とある侵入者によって殺された成れの果てである。
そんな玉座に堂々たる態度で座るのは、森の主でありゴブリンの王でもあるゴブリンロード。
彼は、数十匹の兵を前にしながら、部下から伝えられた一人の赤髪の人間の存在に頭を抱えていた。
(あの岩亀を一撃で葬るほどの猛者が人間どもの中にいる…それも我々の苦手とする炎によるものだとは…)
自分であれば特に問題にはならないが、手下どもや兵にはこの炎に耐えるほどの力はない。その炎を使うものが、来たる決戦の時に自分の方に当たればいいが…
『王サマ!王サマ!!』
不意に、手下のゴブリンが話しかけてきた。
『どうした、何かあったのか?』
『ニンゲンどもをトラエました!武器もモッテます!』
『ふむ……そ奴らが有用な武器を持っていれば良いが…わかった。身ぐるみを剥いでから殺しておけ。
死体は切り刻み、水で洗い流してから狼どもに食わせろ。』
『ハイ!!ワカリましタ!!』
憎っくき奴らとの戦いは近い。その時まで、森に愚かにも侵入してくる奴らのうち勝てそうな者を選んで毒矢で射て気絶させ、装備諸共ここまで持ってくるように命じている。
毒矢には強力な麻痺毒を使っている。撃たれた人間は何が起きたか気づく間もなく気絶するほどの、だ。
また、足が付かぬよう気絶させた後は即座にここ持ってくるようにも言いつけてもいる。
そうする事で、奴らが行方不明になった原因が我々だと悟らせるような痕跡が残らない。この指示が功を奏しているのか、我々によって人間が減っていることはまだ間抜けな奴らにはバレていないようだ。
気絶させ、拐ってきた奴らの装備や道具は、手下や兵の物として再利用している。
もちろん、大きさが合わないものは加工して、手下どもや兵が身につけられるよう作り替えさせてはいるのだが。
そうして、身ぐるみを剥いだあとは殺し、その肉は兵の騎乗用の狼に処理をしてから食わせる。
餌として人間の肉を食わせた狼は、その味を覚えさせる事で人間を餌と認識するようになる。そして、躊躇いなく人間を殺し、喰らおうとするようになるのだ。
また、死体の処理と狼の餌のかさ増しの意味も兼ねている。
(…さて、問題となるのは奴らの中でも圧倒的な力を有する者共の存在か…
岩亀を容易く仕留めるほどの手練れが、複数向こうにいるとなれば、手下や兵がいくら束になった所で勝つことはできまい。)
強大な個には有象無象など役に立たない。文字通り、木っ端の如く吹き飛ばされるのが落ちだ。
ならばどうすればよいのか
(かつての我の先代も、軍団の数に頼りきった戦術を取ったが故に敗北を喫した。
だが、我は違う。)
相手に強力な個がいるのなら、こちらも同じように作れば良い。
『こい、将軍。そして呪術師よ。』
『『如何致しましたか?王よ。』』
呼ぶや否や、ゴブリンロードの眼前に二人のゴブリンが現れる。
この二人は他の手下や兵とは強さの次元が違う。
王と同様の力、能力、そして高い知識を身につけた、いわば歴戦の強者と言える特殊個体だ。
『来たる決戦の時、貴様らには軍を率いて、奴らを蹂躙してもらう。
その際の戦況をある程度予測し、各自戦闘訓練を行っておけ。
また、己が率いる軍団がうまく連携して奴らを倒せるように特訓もするのだ。』
『『かしこまりました。王よ。』』
そう返事をして、二人は元いた場所へと戻っていく。
(我は、今日この日まで生き延びた。
これほどの力を集めて、奴らへの復讐の準備をした…)
仲間を奪われ、この身を追われ、幾度となく殺されかけた。
その度に、この身体と共に強くなっていった奴等に対する憎悪と宿怨。
それらをやっと、やっと晴らすことができるのだ。
覚悟せよ、愚かなる人間ども
次は、我々が奪う番だ
後書きという名の補足説明。長いけどよかったら読んでみてください。
このゴブリンロードは今まで発生していた奴と比べても明らかに異質な存在です。
憎さ故に人間の生態をよく熟知し、それを利用して戦力増強を図っています。控えめに言ってめちゃくちゃヤバいです。
例えば、『人間は、確実な魔物による痕跡が見つかったり、一定以上の人間が行方不明にでもならない限りは森の奥にまで攻め入ってくる事はほとんどない。』という事も、己の経験から推測、理解して自身の軍団の戦力強化の為に利用しています。
ちなみに、今まで発生していたゴブリンロードの場合は『とりあえず、仲間いっぱい集まったから近くの人間どもをぶっ殺しちまおうぜ!!』って感じで街を襲っています。
また、このゴブリンロードが玉座にしている魔物。
『岩』とか『森の主』とかの情報でなんとなく察してる方も多いのではないかと思いますが、『エンシェント・ロックタートル』というロックタートルの親玉的存在です。
サイズは高さ20m弱、全長に至っては50mを優に超えるいうふざけたサイズで、単純な身体能力はドラゴンに匹敵するほどの化け物でした。
それを単機で倒すゴブリンロードって…
あと、唐突ですが『手下』と『兵』は別物です。表記ミスではありません。




