『本当になりたいもの』
ソフィアに連れられ、宿から15分ほど歩くと、目的地であるギルドが見えて来た。
かなりでかい屋敷の様な外見をした立派な白い壁の建物だ。
入り口と思しき場所には巨大な旗が二つ立てられていた。
「…着いたわ。
ここがこの街のギルド、エルドギルドの本部よ。」
移動中、何故か一言も話してくれなかったソフィアだったが、ギルドにつくとやっと口を開いてくれた。
何度もこちらから話しかけようと思ったが、明らかに険しい表情をしていたのでやめておいた。
移動中に一切話してくれない不機嫌そうなソフィアの事を、ちょっと怖いと思っていたのは内緒だ。
「ここが、ギルド…」
ついに着いたのか…
思わずゴクリ、と生唾を飲み込む。
なんだか手汗もかいてきた…心拍数も上がってるようだ。
あぁ、そう言えば高校受験の時なんかにも似たような感じになったよな…
俺はどうにもテストとか試験って奴を前にすると緊張してしまってダメらしい。
「……アキラ、大丈夫?」
俺の様子を見ていたソフィアが心配そうに声をかけてくれる。
「大丈夫大丈夫、これは……嬉しくて興奮してるだけだから…」
緊張で震えてるってのはなんかダサかったので、精一杯見栄を張ってみたものの、無理をしているのがバレバレだったのか
「本当に、無理はしなくていいのよ?本当は嫌ならそう言って。」
畳み掛けるようにソフィアが聞いてくる。
やっぱり、この子は優しいな…
見ず知らずの俺の事をここまで親身になって心配してくれているのがその証拠だ。
だから俺は、これ以上要らぬ心配をかけるような真似はしたくない。
「…心配してくれてありがとう。でも、もう大丈夫だ。緊張にも、かなり慣れてきた。」
そう言って、ニカッと笑いかける。
「だから行こう。」
「……わかった。」
そして二人でギルドの中に入っていった。
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唐突だが俺(と、同伴者のソフィア)は今、ギルドの登録受付の列に並んでいる。
と言うのも、新規冒険者として登録を行う為には大きく分けて3つの審査を受けなければならないためだ。
一つ目はカルマ値測定、二つ目はステータス測定、そして三つ目は鑑定眼のスキル確認である。
現在、俺は一つ目のカルマ値測定の列に並んでいたのだが…
「だーからー、アタシは無銭飲食なんかしてねぇって!!」
「……しかし測定器にはしっかり無銭飲食の罪が記されています。冒険者の新規登録を御所望でしたら、まずは罰金をきちんと支払ってください。」
「しっつけーな!!だからやってない物はやってないって!!!」
頭の上に動物の耳を生やした白髪の女性が俺の目の前でギルド職員と言いあっていた。しかもふさふさな尻尾まで生えてる。
「なぁ…ソフィア。あの人って…」
そう小声で話しかけると
「獣人族ね…ここは冒険者ギルドだし、人間族以外の種族もよく訪れるの。対して珍しいことでも無いわよ。」
獣人…俺のイメージではもっとけむくじゃらのムキムキな姿だったが、どうやらモフモフな耳と尻尾を除けば人とはほとんど変わらないようだ。
「それにしても…無銭飲食でもカルマ値測定器は反応するんだな。」
「カルマ値測定器はその人が犯した罪を見るのよ。まあ、あの子みたいに無銭飲食程度の罪ならまだ罰金と笑い話で済むんだけどね…」
そう言ってソフィアは、目の前で職員に対してイチャモンをつけていた女性に近づいていく。なんだかすごく心配だ(獣人の女性の方が)。
「まあまあ、ちょっと落ち着きなさい。無銭飲食程度なら罰金を払えば許して貰えるでしょう?」
「うるせぇよガキ!!大人が話してる中にししゃり出てくんじゃねぇ!!」
「……善意で教えてあげてるだけなのに、えらく横柄な物言いをするのね。あなた、そのまま自分の罪を認めないでしらを切り続けたら、ギルドの方から冒険者に不適切な人材と判断されかねないわよ。」
「っ!!ガキのくせにさっきから偉そうに…調子乗ってるんじゃねえぞ!!」
ソフィアの事をガキと罵り、一向に話を聞き入れようとしない獣人の女。今にもソフィアに襲いかかりそうなほど苛立っていた。
やばい、このままだとやられる(獣人の方が)!急いで(ソフィアを)止めなければ、そう思い動こうとしたその時、
「……ミルシェ様、そちらのお方はA級冒険者にして王都のギルドのエースの一人、ソフィア・アルファード様です。
…ミルシェ様の身の安全の為にも、そのような物言いはお控えすべきだと忠告させていただきます。」
先程まで絡まれていた職員がそう言った。
それを聞くや否やその女、ミルシェは顔色を変えて慌てふためき出した。
「……え?嘘だろ…ソフィア・アルファードって『緋色の魔女』ソフィア?あの有名な?なんでこの街に?」
「…正直、その通り名は恥ずかしいし、私自身の力によるものじゃないから極力言わないで欲しいのだけれど…」
「え…?あ!!はい、すみません!!
……あの……さっきは何も知ら無いくせに、ガキだとかししゃり出るなだとか生意気な事を言ってしまい申し訳ありませんでした…」
先ほどまでの乱暴な姿は何処へやら、ミルシェはすっかり借りてきた猫のようにおとなしくなった。
後ろで順番を待っていた他の人々が突然のソフィア登場で騒めく。
「あれが、噂に聞く『緋色の魔女』…」とか「あんなに小柄なのに王都ギルドのエースだなんて…」とか「はぁはぁ……ソフィア様の御尊顔まじ尊し…今晩のおかずにしよ…」とか…………
(……おい、今明らかにダメな類の台詞が混じってたぞ?誰か捕まえろよ。
…それにしても、名前一つでここまで人を萎縮させたり場所の空気を変えるソフィアって一体どれだけやばい人物なんだろうか…
そう言えば、さっきかなり気になるワードが出てきていたな。
王都ギルドのエースに『緋色の魔女』…これどう考えてもソフィアって超やばい人物なんじゃ…)
日本で言うところの一流の人気俳優や女優とかそこら辺と同じくらいの知名度なのだろうか…
冒険者としての名がそれほどまで広く知られる、そのためには一体どれほどの功績をあげなければならないのか。
(そりゃ、あの亀を一撃で倒せるわけだわ…)
そう一人で納得していると
「それにしても、あのソフィアと一緒にいる黒髪のあいつは何もんなんだ?」
「さあ、ここじゃ見ない顔だけど…」
「もしや、あの『緋色の魔女』がわざわざ冒険者にする為に連れてきたんじゃ…」
「え!!マジかよ!!って事はアイツって王都ギルドのエースのお墨付きのやばい奴って事じゃねーのか!?」
「妬ましい……ソフィア様につく害虫め…早急に、早急に消しておかねば……」
………完全に、ソフィアの隣に立っていた俺まで目立ってしまっていた。
てか、さっきから明らかに言動がやばいのが一人いるんだが、誰も違和感とか不信感を感じないのかよ…
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カルマ値の測定を問題なく終えた俺は、次の審査であるステータスの確認を行おうとしていた。
どうやら、目の前にある石のようなものに触れる事で魔法が作動し、触ったもののステータスが表示されるらしい。
周りには俺と同じようにステータスの測定をする予定の人々が、俺と石を囲うように並んで見ている。
先ほどのソフィアの騒動の事もあってか、食い気味に俺のステータスを見ようとしている人が多いようだ。
ただですら緊張してるのにやめてほしい。
(ふう、落ち着け…深呼吸だ…)
この測定で冒険者になれるか否かが決まる。
運命の瞬間、俺は少し震える手を目の前の石に乗せる。
そして目の前に俺のステータスが表示された。
ステータス
名.佐々木 明 性.男
種族.人間 職業.無し
LV 5
体力.500/500
魔力.100/100
スタミナ.250/250
攻撃力.50
防御力.40
魔法攻撃力.25
魔法防御力.20
素早さ.85
運.10
スキル
・観察眼 LV2
・疾走 LV2
・鑑定眼 LV2
・投擲操作技術 LV3
・剣術 LV2
・回避術LV1
特殊ステータス
・言霊の加護
(……あれ?なんか特殊ステータス減ってね?
確か『異世界転生者』と『地の星の民』って特殊ステータスもあったと思うんだが…)
自分自身で「ステータス」と唱えて確認すると、やはり『異世界転生者』と『地の星の民』の二つは表示されていた。
(表示バグかなんかで消えちゃったのか?)
ちょっとギルドの人に申告した方がいいかもしれない。
そう思って周りを見ると、職員とソフィアを含む数名の人々が驚いたような顔で表示されていた俺のステータス画面を見ていた。
(え?なんだ?
なにか、おかしな点でもあったのか?)
俺が不安そうにみんなの方を見ていると、職員の人がこちらを向くと
「アキラ様……どうして冒険者になろうだなんて思ったんですか?」
心底不思議そうに尋ねてきた。
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(……えっ?
今さらそんな質問するって……
…もしや、ギルドの職員にそう言わしめるほどに俺のパラメーターが低いってことか?
えぇ……めっちゃくちゃショックなんだが…)
例えるなら、そう。
『え?テストの点数こんなに壊滅的なのに、なんで追試に引っかからないと思ったの?』と夏休み前に物理の先生から追試宣告を受けた時のような。
そんな、悲しみと絶望感で胸が締め付けられるあの感覚だ。
「……そんなに、俺のパラメーターって低いんですかね?」
悲しき過去を思い出し、しゅんと落ち込みながら尋ねる俺。
すると、職員は慌てながら答える。
「あっ!いえ、違いますよ。
パラメーターに関しては文句なしの合格です。
鑑定眼のスキルも取得されているのでアキラ様は冒険者の登録条件を全て満たしています。
ただ……私が何故冒険者になろうと思ったのかとお尋ねしたのは、『言霊の加護』を持つアキラ様が、何故わざわざ危険な『冒険者』という職業になろうとしているのか知りたくなったからでして…」
(ん?『言霊の加護』?
…あ、そっか。)
日本語話者の筈の俺が、この世界の人々と会話できているのは他でもないこの加護のおかげなのだ。
「『言霊の加護』は非常に貴重な加護の一つですし、その有用性と希少性で引く手数多のはずです。
そんな加護を有している身でありながら、冒険者を目指すという事例は……その、初めてなもので…」
(なるほど、日本で言う『高学歴で、儲かる職業につけるくらい頭がいいのに、わざわざ命の危険があるような仕事を自分からしたがるのはなんで?』みたいな感じなのか?
……いや、それはまた意味が違うな。)
あまり上手い例えが思いつかなかったが、ひとまず、聞かれた事には答えておくべきだろう。
「俺が冒険者になりたいと思っているのは憧れからです。
なので、特に深い考えとか信念があってなろうとしているわけじゃないですよ。」
早く脱無職したいってのもあるが、それは言わぬが花というやつだろう。
「…本当に、冒険者でいいの?」
突然、別の声が聞こえた。
声の主は、他でもないソフィアだった。
『自分に気を遣って冒険者になると決めた』と思っているのだろうか。
「俺は、自分の意志で冒険者になりたいと思っているんだ。
だから、『言霊の加護』があろうが無かろうが、そんな事は関係ない。」
まあ、『言霊の加護』が無かったらこの世界の人々と会話が出来なくなって詰むのだが。
「…わかったわ。」
俺の答えを聞いて、ソフィアも納得してくれたようだ。
「では、改めてましてアキラ様。
あなたを新たなE級冒険者として認定させていただきます。
つきましては、ただ今より冒険者証明書をお作りさせていただきますのでお待ちいただきますよう、よろしくお願いいたします。」
これで俺も念願の冒険者になれる。
と、そこでふと思い出した。
「そう言えば、冒険者ってE級とかA級とか区分があるみたいですけど、何か違いとかあるんですか?」
何故かソフィアを除く全員がその場で固まった。
今回張りまくった伏線は忘れないように後で回収していきます。
ちなみに「ソフィア様尊い」とか言ってた人が取り押さえられていなかったのは、ソフィアを含む一部の冒険者にはこの様な追っかけが存在しているからです。
周りも、その追っかけの存在を知ってる人がほとんどなので、対して問題視される事はされません。
それでも『イタい奴だな…』程度に見られる事は多いようです。
現代風に例えると「有名アイドルとその熱狂的な信者」みたいな感じですね。
まあ唯一違う点があるとしたら、その有名アイドルにあたる全員が人外クラスの化け物みたいな力を持ってて、夜道に襲おうものならこっちが即半殺しにされるって点くらいですかね?




