『失格』
(え?この子どんだけ至れり尽くせりなの?
昨日の宿の一件といい、今の冒険者への勧誘といい…
ありがたいを通り越して寧ろ、あまりに的確過ぎて怖くなってきたんだけど…)
魔法で俺の心を読んでるのでは?とすら思えてくる。
そんな恐ろしい魔法が存在するなんて信じたくは無いが、この世界は今まで犯した罪を測る測定機械があるくらいだしあり得ない話じゃない。
少なくとも、嘘発券機のような道具は探せば見つかりそうだ。
「……やっぱり、冒険者にはなりたくなかった?」
返答せずに固まっていた俺の様子を見て、ソフィアが少し残念そうな表情で問いかけた。
(しまった、考え事に夢中になりすぎて返事を忘れていた。)
「そんな、滅相もない!
むしろ俺、冒険者になりたいと思ってて、その話を今日ソフィアにしようとしてたんだ。
さっき黙り込んでたのも、余りにも話が上手く行きすぎてびっくりしちゃってたからで…」
慌てて答える俺を見て、ソフィアは少し申し訳なさそうに微笑んだ。
「それはよかったわ。
…でも正直、そこまでアキラが私の提案を聞いて喜んでくれるのは予想外ね。
危険だし、冒険者にはなりたく無いって返答を覚悟してたんだけど…」
…ソフィアには、俺がそんなにヘタレな奴に見えていたのだろうか…
確かにロックタートルから全力疾走で逃げてたり、初対面のソフィアにビビって取り乱したり……
(あれ?
もしかしなくても、俺ってばヘタレムーブしかしてないぞ?)
まあ、最悪の場合死にかねなかった場面だし多少は大目に見てほしい。
「ははは…。
いやぁ…昨日からソフィアに世話になりっぱなしだったからさ…俺も冒険者として働けるようになれば少しは恩返しできるかなって。」
そう答えた途端、ソフィアの表情が少し変わった。
バツの悪そうな、それでいて少し悩んでいるような、そんな複雑な表情だった。
「…宿の件はポーションのお礼なのよ。
だからそんなに謙遜しないでも大丈夫。
…進めておいた私が言うのもなんだけど、冒険者は危険な職業なの。
場合によっては命を落とす事だってあるわ…それでも本当に、冒険者になってくれるの?」
……もし俺がソフィアに会えていなかったのならあのままあの亀に潰されていたかもしれない。
仮に逃げ切れていたとしても、森の中で一人寂しく過ごすことになっていただろう。
それどころかゴブリンみたいなモンスターに闇討ちされて殺されていた可能性だってある。
今、俺がこうして無事にこの街にいられるのは、紛れもなく冒険者のおかげなのだ。
だから
「危険があることぐらい知っている。
それでも、俺は冒険者になりたい。謙遜なんてしていないさ。」
そんな冒険者の様な存在に、少しくらい憧れたってバチは当たらないんじゃ無いだろうか。
そう答えた俺の顔を、真剣な眼差しでじっと見つめるソフィア。
それはもう、至近距離でまじまじと…
……美少女にこんなにずっと顔を見られると、なんだかすっごく恥ずかしい気持ちになってくるな…
「……あの、……ソフィア……さん?」
「………はっ!ご、ごめん…」
恥ずかしさに耐えきれなくなった俺が声をかけると、我にかえったソフィアがバッと顔を逸らした。心なしか、ソフィアの耳が赤くなっている気がする。
「……こほん。
わかったわ。
じゃあ早速だけど、今からギルドに登録をしに行きましょうか。
アキラ、準備はいい?」
「ああ、もちろんだ!」
俺のステータスが合格基準に達しているか聞きそびれたが、ソフィアから俺に冒険者にならないか提案しているのだ。
ということはつまり、俺が合格基準を満たしていると判断していいのではないだろうか。
あれほど強いソフィアのお墨付き…とまではいかなくとも、及第点くらいはもらえていると信じたい。
(さて、冒険者達の本拠地とされるギルド。一体どんなところなんだろうか…楽しみだ。)
そう期待に胸を弾ませ、俺はソフィアと共にギルドに向かうのであった。
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話が終わり、アキラの冒険者登録の為にギルドへ行くその間
ソフィアは、ただひたすらに自分の愚かさを責めていた。
(……冒険者は困っている人を助けて当たり前だ…なんて、格好つけてばかりで、結局私は本質を何も理解していなかった。)
ついさっき、自分の提案を快く聞き受けてくれた少年とのやり取りを思い出す。
(善意で落とし物を私に届けてくれた彼を、死者が出るかもしれない戦いに参加させる為に冒険者になるよう提案するなんて…)
この際、彼が本当に冒険者になりたいと思っているかどうかはあまり関係ない。
彼が本当に冒険者になりたいと思っていたとして、それは結果的にはそう提案して良かったと言うだけの話である。
つまりは、彼を冒険者になるように勧誘した自分の行いの正当化にはなり得ない。
仮に、彼が冒険者になる事を快く思っていなかったとしても、きっと同じように引き受けるのだろうから。
…何せ、先程彼は私に『自分は世話になってばかりいる』と言ったのだ。
それはまるで、文字通り命がけでポーションを私に届けた事など、『見返りを受けるまでも無い当然の行いである』と言わんばかりに…
確かに、私は彼を追いかけていたモンスターを倒した。
その後にポーションのお礼と言う体で彼の為の宿も取った。
しかし、そもそも彼がモンスターに追われていたのは、私に会うために取った行動によるものだった。
そもそも、悪いのは他でもない私だ。
おそらく、彼は私が決まった魔物を標的にしていたのを確認して、あらかじめ生きている魔物の近くで待機する事で会おうとしていたのだろう。
つまり、私がポーションを落としていなければ、彼が私を探すことも、その過程で襲われる事もなかったのだ。
にも関わらず、命からがら私を探し出した彼に対して、私はぬけぬけと『困っている人を助けるのは当たり前』などと説いていたのだ。
自分が、間接的に彼を危険な状態へと陥れていた元凶である事にすら気づかないまま。
あまつさえ、彼の優しさにつけいるように、私に恩義を感じている彼に冒険者になるという提案を持ちかけた。
それも異国から来た、冒険者という仕事の危険性を知らない彼に、だ。
穴があったら入りたい、とはこの事か…
(……私は、冒険者失格ね…)
全く、何がA級冒険者なのか。
自分の未熟さと愚かさを改めて実感して、恥ずかしくなる。
同時に、彼に対するこれまでの自分の愚かな行いに、後悔と自責の念が込み上げてきた。
しかし、過去を変えることなどできない。
(これから冒険者になるであろうアキラを、命の危機から守る。)
それが、私にできる唯一の『償い』。
過去は変えられなくても、未来なら変えられる。
幸か不幸か、彼は自分の意思で冒険者になると言ってくれている。
ならば、彼と共に戦い、彼を守る。それこそが冒険者失格の自分が彼にできる精一杯の、そして出来る事の全てなのだろう。
(一方的にばかり巻き込んでしまってごめんね、アキラ。……でも、心配しないで……)
あなたの事は、私が守るわ。
そう、強い決意を固めた。
今回の話、少し分かりづらかったり納得いかないと思った方が多かったかもしれません。
こうなったのは二人の価値観の違いと、各々の前提条件の把握ができていないことによる認識の相互が発生しているからです。
アキラ視点であれば
どの道、自分は危険な状態だった。
自分の目的は人に会う、または危険な夜の森を出る事だった。
ソフィア会える事は確定条件ではなく、賭けだった。
ソフィアを探す道中で自分に降りかかった災難は全て自分の責任であり、ソフィアは自分を全ての危険から救ってくれた救世主のようなものである。
そのため、『自分はソフィアに世話になりっぱなし』だと思っている。もちろんポーションは咄嗟の機転なので全く気にしていない。
一方、ソフィア視点であれば
アキラは、自分の落とし物を届けるために危険な状況に陥った、つまりは彼が危険な目にあった原因は自分である。
アキラは『他者の為に命を賭すことは当然である』という考え方の下に自分にポーションを届けに来た。
アキラが、自分が返したつもりだった恩義に対して『世話になってばかりいる』と言ったのは『他者の為に命を賭す事は当然であるため、それに見返りなど求めていない』とアキラが考えているからだ。
そんな『人のために行った善行に一切の見返りを求めない謙虚で優しい性格のアキラ』に対して、命の危険がある冒険者という仕事を『間接的にアキラを危険な状態に陥らせた』自分が、『彼の謙虚さに付け入るようにして』勧誘してしまった。
だから全てに気がついた時に己の愚かさを嘆き、せめてもの償いとして巻き込んでしまったアキラをこれから守ると誓った。
と言った感じです。
改めて、分かり辛くて本当に申し訳ないです。




