『沈む少女と浮かれる少年』
色々修正済みです。
街のギルドにて
「……以上が、今日の調査報告よ。」
今日の探索で得られた情報をギルドの職員に話し終え、ソフィアはゆっくりと溜息をついた…
黙って話を聞いていた職員は、どこか納得がいかないような顔をしつつも口をひらく。
「…なるほど、把握しました。それにしても妙ですね…ロックタートルが凶暴化する原因は二つ…一つは外敵に危害を加えられること。そしてもう一つは…」
「強大な力を持つ魔物が生息地に発生した時、よね。」
「はい…かつて同じ様な事態が発生した際、今回と同様に調査が実施されました。
その結果、問題の森の奥地にて……『アースドラゴン』が発生している事が確認されたようです。」
そう言って、職員が少し悲痛そうな表情を浮かべる。
「聞いた事はあるわ……私はその頃はまだ駆け出しだったから実際に目にしたわけではないのだけど。」
ドラゴン。それらは力と恐怖の象徴と言われ、畏怖される魔物である。巨大な体躯を強靭な鱗で覆い、強力な力とブレスによって全てを破壊する、まさに悪夢の権化と言っても過言ではない存在。たった一頭で国を滅ぼした黒いドラゴンの御伽噺は、知らない人はいないと言われるほど有名である。
「アースドラゴン…確か、強力な土魔法や砂のブレスを操る翼の無いドラゴン…だったわよね…」
「加えて高い体力と攻撃性、そして魔鋼に匹敵する強度の甲殻と鱗に覆われてたいた…そう報告書には記されています。結局、討伐されることなくアースドラゴンが行方不明になったためこれ以上の詳しい情報はわかっていないようですが…」
地面を潜って森に侵入したとされるこのドラゴンに、かつてのギルド本部は討伐隊を急遽編成し果敢にも挑んだと言う。
しかし結果は惨敗、ほとんどダメージを与えることもできず逃げるように退却した。
と、ソフィアはかつての先輩冒険者から聞いた方があった。
その後すぐに第二討伐隊が編成され、その森へと向かった。
しかし、第二討伐隊が森の奥地に到着した際、アースドラゴンは忽然とその姿を消していた。
その後もしばらくアースドラゴンは捜索されていたが結局見つからず、この件は一応解決した。という扱いとなっている。
「アースドラゴンの時は爪やブレスによる破壊痕が多く見られたそうなのですが、今回は特にそのような痕は見られなかったんですよね?」
「ええ、あったのはせいぜいロックタートルになぎ倒されたと思われる倒木が数本くらい…全く、何が原因なのかしら…」
互いにしばらく考え、黙りこむ二人。
その沈黙を破ったのは職員の方だった。
「ソフィア様、先程ゴブリンにほとんど出くわさなかったともおっしゃってましたよね?」
「うーん…出くわしてないというか、襲って来なかったと言った方がいいかしら…一応、私の感知の魔法には引っかかって来てたみたいだから。それがどうかしたの?」
「ソフィア様、これはあくまで私の仮定です。
物証はありませんが…しかし、可能性の高いものだと考えられます…。
正直、そうであって欲しくない気持ちでいっぱいですが…
……この森で、『ゴブリンロード』が発生している恐れがあります。」
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「はぁ〜、よく寝た……」
昨晩、ベットに寝転がって1分で眠りに落ちた俺はそのままぐっすりと眠っていた。
これほど気持ちよく眠れたのは久しぶりな気がする。
かぶっていた毛布を畳んだ後、ベットの上で寝転びながらあくびをしながら『んー!』とノビをする。
窓から入り込む朝日が心地よい。
このまま二度寝に洒落込むのも乙なのかもしれないが
(何せ、昨日脱無職宣言したばっかだからな。
ソフィアにステータスの事を聞くのが先か。)
…何かしらの職業に就くまでは、怠けるのは極力我慢しよう。
そんな事を考えながら、寝起きのストレッチをしていると
コンコン
昨日の夜のようにドアがノックされた。
(給仕さんか?)
「はいはい、今出ます。」
そう言いつつ、ドアを開けると
「おはよう、アキラ。昨日はぐっすり眠れたかしら?」
目の前に昨日の服装のままのソフィアが立っていた。どこか疲れた表情を浮かべている気もするが、気のせいだろうか。
「ああ、お陰様でそれはもうぐっすりと眠れたよ。
本当に助かった、ありがとうな。」
昨日から言えていなかった感謝の気持ちを伝える。
するとソフィアは少し頬を緩めたようだった。
「ふふ、気にしなくていいのよ……さて、話は変わるんだけど」
そして、真剣な顔つきに戻ると
「アキラ…
あなた、冒険者になってみない?
あ。
強制とかじゃないし、あくまで提案だから、嫌ならそれでいいの。
無理強いするつもりは全くないし、聞いてみただけだから、ね。」
そう俺に提案した。
…………………………やっぱり、貴女は神か?
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時間は戻って昨晩
「…ゴブリンロードの発生、ね……一応、その結論に至った過程について説明をしてもらってもいいかしら?」
ソフィアがそう訪ねる。
「…はい。まず、ゴブリンロードの発生の前兆である『ゴブリンの統制』と思われる現象が起きています。
本来、ゴブリンは近づいた人間に襲いかかるか、もしくは逃げ出すかの二択しか行いません。
…しかし今回の話を聞いた所、偵察のような行動を取っていたように思います。
本来、十数匹程度の群れで生息するゴブリンに偵察をする余裕などありません。
なので、偵察隊を派遣する事ができる程の、非常に大規模な群れが形成されている可能性があります。」
職員は続ける
「加えてロックタートルの凶暴化を引き起こすほどの強大な魔物…即ち、ゴブリンロードが発生した可能性が高くなります。」
「なるほど…確かに理にかなっているわね。」
ゴブリンロードは50年に一度発生するとされるゴブリンの特殊進化個体だ。
その戦闘能力の高さも脅威となるが、真に恐れられるのは類稀なる統率能力である。
数百の、多い時には千近くのゴブリンをたった1体で率いって戦うのだ。
ゴブリンロードは長きにわたって何度も発生している。
群れの規模や強さに違いはあったが、一つだけ、どのゴブリンロードにも共通する点があった。
ゴブリンロードとその軍勢は、決まって人の街を襲う。
本来、魔物が街に自ずと向かう事はない。
それは、冒険者や一般兵によって保護されている街に、わざわざ命をかけてまで行く意味がない事を本能的に理解しているからだ。
だが、ゴブリンロードは違う。
他の魔物の様にメリットなど考えて行動はしない。
ただ人間を殺し、街を破壊する為だけに攻め入ってくるのだ。それも、己の率いるゴブリンの軍勢を引き連れて…
「厄介ね…」
アースドラゴンのように、その森に居座り続けてくれるのならまだいい。
だが確実に街を襲撃してくると確定しているのならば話は別だ。
アースドラゴンは手を出しさえしなければ滅多に爆発しない人間に無関心な大量の爆薬だと言える。
あれは森に陣取っていただけで、近づきさえしなければ無害と言えた。
最も、ロックタートルの凶暴化という『二次災害』は発生させているのだが…
対して、ゴブリンロードと率いられるゴブリンの軍勢は、必ずこちらに向かってくる人への殺意に塗れた大砲の玉と無数の矢だと言えよう。
こちらが何もしなくても、向こうからこちらを殺すべくやってくる。
どちらの方が人にとって危険で厄介なのかは明確だった。
「はい。
ゴブリンロードとその軍勢を相手取ると仮定した場合、最低でもA級の冒険者が数人とB〜C級程度の冒険者が150名ほどは必要かと思われます。」
E級冒険者数人でも多少苦労しつつ倒すことができる程度の脅威。
力は弱いし、使ってくる武器もガラクタの寄せ集め。
群れといっても、連携もろくに取れていない見掛け倒し。
それが、『普通の』ゴブリンだ。
しかし、ゴブリンロードの軍勢となれば話は大きく変わってくる。
軍勢と言うだけあって、複数のゴブリン達が幅広い連携や攻撃を行なってくるのだ。
こうなると戦い慣れしていないD級でも対処が難しく、E級に至っては何も出来ないままゴブリンの餌食となってしまう…とされている。
「統制の取れた魔物…本当に厄介なものよね。」
ただ、がむしゃらにこちらに向かってくるのでは無い。
狙って隙を作ろうと動き、互いの欠点を補うようにして襲いかかってくる。
まるで、技術や戦術は人間の専売特許などでは無い、そう言わんばかりに…
「仮に、この街に滞在している冒険者で討伐隊を組むとして、C級以上で何名ほど集められる?」
「……現在この街に滞在している冒険者の方は約500名…
内8割ほどがD級、E級の方々です。
そして、ソフィア様を含めたA級冒険者の方が4名。B級の方々が35名、C級の方々が約100名です。」
「………やはり戦力は足りそうに無いわよね。」
A級が4名いるのであればゴブリンロードは倒せるだろうが、率いられたゴブリンの軍勢を倒す戦力が心許ない。
「D、E級の冒険者の中でも戦闘慣れしてる人、ゴブリンと戦っても問題が無さそうな傭兵なんかを探して討伐隊の編成に加えるべきね…彼らを説得することは可能かしら?」
「ギルドマスターに報告をしてからになりますが、できる限りの努力はさせていただきます……」
「助かるわ、ありがとう。」
「いいえ、とんでもありません。
ソフィア様こそ、御助力、誠に感謝致します。」
そう言って職員は深々と頭を下げた。
「じゃあ、私はそろそろ帰るとするわね。
それじゃあ、また明日。」
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宿への帰り道、対ゴブリンロード戦の戦力差について考えながら歩く。
ふと、ソフィアはあの少年の事を思い出した。
(そういえば、アキラってロックタートルの突進をまともに受けて無事だったのよね。
…見たところ魔物に対する恐怖心もあまり無さそうだし…
体つきや身のこなしも戦闘慣れしていそうだった…)
長年、冒険者をしていると自然に身につく。相手の身体の特徴から人物の能力を推測する癖。
あの動きは剣を振ったことのある人間の動きだ。
(戦っている姿をまだ見ていないからなんとも言えないけど、あの突進に耐えられる時点で少なくてもD級以上の冒険者の戦闘能力と遜色ないと思うのよね…)
「明日、アキラに冒険者になるよう勧めてみようかしら……正直、面倒ごとに巻き込むようであんまり気は進まないけど…」
嫌がるなら潔く諦めればいい。
とりあえず、聞くだけ聞いてみることにしよう。
アースドラゴンはでっかいトカゲに刺々しい突起がたくさんついてるような見た目。また、甲殻や鱗の硬さを比喩するために使った『魔鋼』の説明は後ほどする予定です。
今回、ソフィアさんは調査報告の際に明の事を『ロックタートルに追われていた少年』としてギルドの職員さんに伝えています。
追記です。冒険者の人数が明らかに少なかったので増量しておきました。設定ガバで申し訳ないです…




