1.童女と触手
Project Thumbelina.
Eyes Only
This report has been reconstructed based on testimony from the subject based on Project Airreal.
とある辺境メイズの入り口。
人の目線の高さの壁に、常人には見えぬ闇に蠢く触手があった。
ザクッザクッっと無警戒に歩く足音、まごう事なき初心者ですな。
クククッ、久々に新たなる贄が我がメイズにお見えになりました。
『クククッ、キサマ新顔だな暫し話を聞いて行け』
『日々の糧を得るだけなら四階層までにしておけ
運が良ければ四階層に上級宝箱が湧く』
『良いか?五階層にはエリアキーパーと呼ばれるヘクトゲイザーがいらっしゃる。無理をせず帰れ親が泣くぞ?』
んぼーっと頭に?を浮かべ話を聞いた新顔が何さっきの天の声?ってパスワードか!とセルフツッコミを入れつつ去っていく。
ふう、吾ながら今日も良い仕事した。
表面に滲むナゾの分泌物を触手で拭う。
我は無力な贄をメイズへと誘うモノ。
別に初心者が心配なんかじゃ無いんだからね!?
これはそう仕事だ仕事。
吾はこのメイズで黒洞1/2周期もの間倒される事もなく入り口の壁に張り付く需要の無いツンデレ壁巾着、ウォールローパーである。
ドッゴーン
最近外が騒がしい。何某かの力の余波を感じる。
代わり映えの無い通常業務をこなす我に社長から久々に念話が届く。
〜ー〜 従業員達よ突然だが本日を持って我がメイズは一旦解散する。今までお勤めご苦労様でした。つきましては…… 〜ー〜
解雇通告だった。
その後、社長が何か言っていたが茫然自失で覚えている事は無い。
幾ばくかの時が過ぎ気付くとそこには、んぼーっと此方を見上げる頭に葉っぱを付けた粗末なチュニックを纏う童女が立っていた。
何で見えてる様に吾を見詰めておる、極めて高度な吾が擬態見抜いておると言うのか?
「ウネウネ、おねーちゃどこ?」
『ウネウネ?吾の事か。ふむ、久しぶりの新顔が暫く前に通ったな、そういえば貴様によく似ていた』
「おねーちゃ、めいすーおしまいだから、とっこーするってでてったの」
「おかーちゃのおくすりのもと。れ、れーしとりにくってた」
『れーし?ああ霊芝か、ここの上級宝箱から特大のが出るからな』
社長め、外の街には迷宮閉鎖伝えて従業員には伝え無いとかブラック極まりないな!
「ウネウネ!おねーちゃとこつれてて〜」
童女特有の唐突さで吾におねだりする。
『済まぬが吾は動けぬのだ』
「つーれーてーえーて〜!」
武器(と思われる)放牧用ピッチフォークを放り投げオーバーアクションでその場で手足をブンブンする。
突如童女の目が妖しく光り両手の指がワキワキと迫る、やはり見えておるのか!
見えた理屈は分からぬが吾に触手勝負を挑むとは愚かモノめ、返り討ちにしてくれるわ。
吾も咄嗟に迎撃の為に触手を伸ばす。
もっとも吾のは五センチ程だが。
『あっ、あぁっ、アッーー』
--メリメリッすっぽん--
此方の触手は擦り抜けて小さな指でものの見事に壁から剥がされた。1/2周期もの間不動の位置にあったこの吾が。
何と言う事だ!
呆然とする吾の間隙を突き、おもむろに葉っぱ塗れの童女の頭に吾を載せる。何とお。
その迂闊な行動に動揺しつつも吾は反撃を行う。
馬鹿め脳髄からなら洗脳し放題だ。
ウネウネ〜
吾が触手がぴゅーっと唸りを上げ真下にある童女の頭蓋を弄る。
− 只今ウネウネしております暫くお待ちください −
ふむ、洗脳のフィードバックの影響か記憶が流れ込んでくるな、この童女の母親か?
どうやら診療所の様な所で病に耽っている光景に対し、吾が体内が疼いて何か勝手に行われていく様だ。まあ、良い今は住処に戻る事を優先しよう。
上気しつつ恍惚(と思われる)表情を浮かべ童女が蕩けた。んぼー。
クククッ、どうかね?吾が洗脳の味は。さあ吾を愛しき住処に戻すがいい。
「んーアタマスッキリ、ウネウネもみもみじょーずだ」
『なんだと!』
吾が洗脳が効かぬとは、この所の(蠕動)運動不足が祟ったか?
あるいは未知なるエイリアンには異なるアプローチが必要だったか?脳内スキャンの結果は標準的ヒューマノイドだったが。
…ん?エイリアン??脳内スキャン???ヒューマノイド????何の事だ?
思い浮かんだ謎の単語に思わず触手を捻る。
「おかえしでもみもみかえしなの!」
『うっひゃー』
とんでもない快楽で思わず分裂しそうになったではないか。
高次元原種播種法に抵触する由々しき事態である。
何と言うことだ!!
……んん??なんだ?高次元何ちゃらとか?
いやそれよりも何よりもこの娘の手はどうなっている。童女に凌辱される触手とか誰得なのか。
先程見えない筈の吾を壁から剥がした手際といい。このもみもみといい只者ではない。
果ての無いもみもみじごくの中(裏山死刑とかゆーな)ふと体内の異物と接触しパスが繋がった。
〜 ふぁああぁ、んんー 〜
〜 おはようこざいます主核。お元気でしたか? 〜
〜〜 うっひゃー、知らない人が体内に居るー 〜〜
〜 主核の冗談は判り難いですね 〜
〜 ん、シリアルシナプス断線を確認、記憶が失われていましたか、修復を試みます 〜
ナゾの体内思考からのシナプス接続により記憶が蘇る。
と、同時に吾をこのメイズに縛りつける雇用契約も消し飛ぶ。
思い…出した!
吾はパラマスXZ、所謂宇宙人だ。
高次元並行宇宙より次元スライド航法で単身やってきた異星文化調査員である。決っして壁巾着などでは無いッ!
調査の際、丁度、出現先がこのメイズコアでありその衝突により絶命そのまま吸収された様だ。
まあそれは良い、善意で行なってくれたのだからな。
お陰で身体は修復された。
尤も約九年程飛んでた記憶の方は自らの名前も思い出せずご覧の有り様だが。
〜〜 副核よ久しいな、この状況吾だけではどうにもならなかっただろう、助かる 〜〜
〜 いえ、一先ずある程度は成功のようですね。良かったです。続いてスキャニスター起動 〜
自らに向けられた触手から全身に走査ビームが放たれる。ビーッ
セルフパラメータ精査中……
Angravity floater……disconnect
Barrier links……disconnect
Blind guardian……disconnect
Dimensional isolation laboratory……connect
Dimensional slide……connect
Induction tracer……disconnect
My name is ……what?
Paralyzed shade……disconnect
Pathological scriptor……connect
Psy-o-pulsar……connect
Quantum communication with the earth……disconnect
Scanistar……connect
Screen memory……disconnect
Transit accel……disconnect
Trigger trinity……disconnect
Words witch ……connect
以下リカバリー進行中……
Main core state
部分的忘却、運動不足、擽りはヤメタマエ
Sub core state
寝不足、甘味ヲクレ、婚活中
快楽係数が限界を超えます。
分裂しますか?(y/n)
評価
身体が運動不足気味です一日十キロは歩きましょう。
0.29m/s
些かツッコミ入れたい所があったが話が進まんので先にゆく。
そうか本星に戻ったら分裂率到達済副核を紹介してやろう。
思わず湧き出したナゾの液体を触手で拭いつつPsycle layerに表示された選択肢nにそっと触れた。
自己精査の結果、現在使える能力は著しく制限されており転移能力たる次元スライド関連他極少数のみであった。通りで洗脳出来ない訳だ。
ズドドドド
先程の上空からのエネルギー波とは異なり内側から振動でメイズが揺れる。
「ひゃぅん」
さしもの童女もこれにはびっくり。もみもみじごくの終焉である。
ふぅ。
〜〜 何事か 〜〜
〜 PON 状況確認の為、サイオパルサーを起動します 〜
〜 多次元共鳴波発信中 〜
副核と共鳴発振したサイコウェーブで身体が震える。
dong dong
〜 POPON S極パルスに感アリ、状況確認。メイズ内構造体が崩壊しています。各所で落盤確認 〜
〜〜 当該惑星のヒューマノイドが一体他に居るはずだ、座標確認せよ 〜〜
〜 POPON エリア4及び5落盤により一部結合 エリア5セントラルルーム外通路行き止まり付近に対象確認しました 〜
〜 警告、同座標に大型粘性生物確認 〜
〜 状態異常:完全暴走と思われます 〜
そう言えばこのメイズは閉鎖されるのであったか、この崩落はそれによるものか?呆けて居らず聞いておれば良かったが儘ならぬものだ。
『如何やらおねーちゃとやらはトラブルに巻き込まれたようだな』
「ウネウネ、おねーちゃあぶなーの?」
『仕方ない、乗り掛かった宇宙船だ付き合ってやろう。今の吾なら現場へ直ぐに連れて行ける』
〜〜 経緯は兎も角、記憶を蘇らせてくれた礼くらいしないとな 〜〜
〜 主核は相変わらずお甘い様で何よりです 〜
〜〜 抜かせ、副核 〜〜
「チョットまてーツンツンもってくー」
放り出した武器?のピッチフォークをいそいそと拾い構える。
『では行くぞ』
〜 PON 水平次元転移 要求スライド響面枚数四 〜
副核が定型業務連絡として体内思考放送を行う。
〜 PON スライドイン 響面突入の際、思考衝撃にご注意下さい 〜
次元スライド航法は近似余剰次元をpsychicで剥離し少しずつ強制的にズラす事で転移する。
コレは今は亡きアペックス星人(主に本著を閲覧するであろう貴殿らにも分かる様に言えば通称リトルグレイの祖)が発見したpsychicの活用法で近傍宇宙に於いて広く使われている。
吾らの種は適性が高い為か生体でありながら数次元を跨いで使用出来る。メイズ内の転移なぞ余裕である。
童女の正面に菱形の平面光体が四つ次々と浮かびスライド内へ引き込まれる。
「はわっ」
同時に平衡感覚が失われる。慣れぬものにはキツいかもしれんな。
「ウネウネ〜めがまわわー」
童女は目が回るとフォークを持ったまま回転切りの様に回り始めた。器用だな。
『これ暴れるな、次元響面に接触したら危険ではないか』
と言いつつ切っ先が響面に接触して、アレ?削れない、むしろ纏わりついてる。なんつー固さだ。どこ製よ?
一体どんな組成になっているのか、この星の冶金技術に戦慄を覚え震える。
これそのまま次元カッターになるのではないか。恐ろしい。
いや、今の我らに戦闘力は無い、ならいざとなったらコレをそのまま叩きつけるか。
〜〜 副核よ出現位置調整、この回転切り?を大型生物に当てられる様変更せよ 〜〜
〜 了解 〜〜
〜 POPON スライドアウト待機 現界時、次元視界偏差にご注意下さい 〜