07 郵便屋さん
朝食の片付けが終わったあと奴隷にやらせることとして真っ先に思いついたのは家の掃除だった。
明日、来客の予定があるが、正直このホコリはそろそろどうにかしないと商談に影響が出ると思っていたところだ。
奴隷に掃除道具一式を渡し、家中を小綺麗にしてくれと指示を出す。
口頭では伝わらないので適当に掃除用具と家の中を指差すとなんとなく理解したのか掃除を始めてくれた。
その間俺は仕事部屋で手紙を書くことにした。
宛先は最近投資を始めた事業主だ。馬車交通、支援施設、民間警備組織…多くの場合新規事業に対して投資する事が多い。
特にこの支援施設はあまり例がない分野なのでちょっと無理があるんじゃないかと思っていたが、果たしてどうなるか。
その合間に奴隷の働きを少し覗いてみる。
箒や雑巾を使ってテキパキと家中の掃除をする奴隷。
無駄なホコリをたてることもなく行い、あるときは少し間をおいてどうすれば効率良くできるのかを考える様子も見て取れる。
昨日まではどうなることかと思っていたがその不安も次第に自身の中で薄れていることを感じ取り、再び手紙の作業に戻るのだった。
気がつくと昼食の香りが漂ってきていた。同時に仕事場の扉がノックされた。
ご主人さま、お食事の用意ができましたなんてセリフを期待していたが、ドアを開けた奴隷はこちらを見るばかりだった。
「飯ができたんだろう?今いくよ」
そう言いながら立ち上がると奴隷はそそくさと先に行ってしまうのだった。
昼食は昨日と同じ麺類。
昨日買い物をする予定だったが結局行けなかったので家に食材が大して残っていないのだ。
奴隷の席にも同じものが用意されている。言いつけは伝わっていたのだろうか。
食材配達の仕事を誰か請け負ってくれないかと前々から思って入るものの、運ぶものが大きかったり繊細だったりすると流石に無理がある。
新聞程度が配達には精一杯か。
外に出るのは面倒だが、午後は買い物に行くしかなさそうだ。
一皿分を食べ終わり、皿を奴隷に突き出しておかわりを要求した。
俺の手元にはフォークがあり、皿だけを渡されたと確認した奴隷はおかわりを持ってきてくれた。
そこまで観察できるなら、もう大体何でもできるんじゃないか?と思ったが、次に奴隷は奴隷自身のおかわりも行うのだった。
「食べる量を俺にあわせる必要は無いが、まあいいか」
奴隷の後ろで鼻で笑いながら一人でつぶやくのだった。
買い物に出る前にどれほど掃除されたのかを大まかに確認してみるも、その心配の必要がないくらい綺麗なものとなっていた。
細かい部分やおそらく物置部屋の掃除は行われていないだろうが、明日の来客には十分すぎるほどだ。
先程書いた手紙をかばんに入れる。買い物の途中で出しておこう。
家を出る前に鎖をつけようかと迷ったが、鎖の大部分を奴隷本人に持たせると結局荷物は俺が運ぶことになると気づいたので鎖は外して外出した。
首に付いてるのは識別用の数字が刻まれた首輪だけだ。
町では食材を中心に買い物を行った。
普段は食べない果物や魚なども奴隷なら上手く使ってくれるだろうという期待を込めていくらか選んでいく。
自分が嫌いなものは避けて買うが、奴隷の好き嫌いは把握していない。
奴隷なら何でも食べてくれるだろうと考え、向こう数日分の食料を買い集めた。
普段は一点しか見ない奴隷だが、今日は町中のあちらこちらに目を配っている。
興味があるためかはたまた逃げるためかはわからないが、まあいいだろう。
途中、奴隷が足を止めた。
アクセサリー店の前で珍しいデザインのネックレスを見ているようだった。
「それが欲しいのか?」
そう言うと一瞬体を硬直させた奴隷だがすぐに店から一歩引くのだった。
「お、イワンさんじゃないですか。いらっしゃい」
こちらに気がついた店主がこちらにやってきた。
「へえあのイワンさんが奴隷を買ったんですか。珍しいこともあるもんですね。」
「ああ、あの奴隷商に言いくるめられた」
「あの!やっぱりイワンさんでもやり込められちゃいますか」
続けて店主はネックレスの説明を続けた。
「このネックレスはですね、ここから遠い南方の地でだいぶ前に流行りだしたデザインでしてね、」
「いや、すまない今日は食料の買い出しだけなんだ。荷物も多いしね。また今度にさせてくれ」
店主の言葉を遮るように説明を断る。
みんな商魂たくましいな。俺が金を持っていると知ってからはそれとなく様々な物を売りつけようとしてくる。
「行くぞ」
奴隷に声をかけて歩き始める。
帰り道でもきょろきょろとあたりを見る奴隷だがしばらくするとまた足を止めた。
今度はおしゃれな洋服屋でも見つけたのかと思ったが、奴隷は少し遠くの方を指差していた。
確か、あそこには……。
「郵便屋か!」
俺が手紙をかばんに入れるのをしっかり見ていた上で、手紙を出し忘れることを織り込み済みでずっとこの奴隷は郵便屋を探していたのか。
「ああ、助かったよ」
手紙を出して郵便屋を後にする。
目ざとい商人達といいこの奴隷といい、そこまで目配りするものなのか?それとも俺がどんくさいだけなのか?
そんなことを思いながら帰路を辿っていると、奴隷が何度も荷物を持ち直す仕草をし始めた。
奴隷だからと重たいものを持たせてはいたが、先日までは牢の中に居た少女には辛いか。
「交換だそっちのをこちらに渡せ。さっきの礼だ」
意味は伝わっているのかわからないが、言いながら荷物をお互いに渡しあう。
いつもは無表情だった奴隷だが、このときは少しだけ微笑んでいるような気がした。
物書きは始めたばかりで拙いとも言えないひよっこな文章ですが、お読みくださってありがとうございます!
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