06 奴隷の能力の一部分
風呂帰り、家について荷物を置く。
奴隷の買い物そのものより奴隷商との会話のほうがよほど疲れてしまったから昼は簡単に乾麺を茹でるだけにする。
そのあとは一通り屋敷内を案内した。
「こっちが書斎で、その隣は物置。物置の方は扉も開けてないからホコリだらけだし入らないように、って伝わらないか」
口頭でも説明は付け加えるがその意味の無さにどうしようもない独り言が続いて出てきてしまう。
冷静に考えると奴隷商はあらかたこうなることを予期していたのかもしれない。
戦争が一段落してこれから俺が忙しくなるんだったら奴隷なんか買わずに使用人なりを雇えばいいだけの話だ。
おおきなため息をつきながら自分の思慮の浅さにうんざりしてしまう。
日も暮れて、夕飯も食べ終え、あとは寝るだけとなってしまった。
俺はいつもどおり寝室で寝るとして奴隷はどこで寝かせるのが一般的なのか。
玄関先で寝かせるような人もいるが、流石にそれはあんまりな気もする。風呂に連れて行った意味もなくなる。
すると奴隷は俺がもう寝ようとしていることを察したのか勝手に寝室に向かいベッドに寝転がってしまった。
「奴隷にしたって図々しにもほどがあるだろ」
攫われる前の習慣が残っているのかどうなのかはわからないが、自分の置かれている状況がわかっているのかこの奴隷は。
「ダメだ、奴隷はリビングのソファで寝なさい」
そう指示するも伝わっていませんよという素振りをするだけで動こうとしない。
しょうがない、ベッドはセミダブルだから狭くて寝れないということは無いだろう。
奴隷を窓側にすこし押し付け、自分のスペースを確保する。
そして俺も横になる。嫌に疲れた一日となってしまった。
遠くで何かがガンガンと音をたてるも、すぐに聞こえなくなった。
まだ眠いのだから寝かせてくれという願いがかなったのかと夢の中で喜ぶ俺がいた。
体を揺すられて目を覚ます。
思っているよりも寝過ごしてしまったらしい。
驚きながらも別の違和感に気がつく。朝食の香りがする。
「全部お前が作ったのか」
簡素ながらもバランスのとれた食事が用意されていた。
焦げ付きや極端な味付けもされておらず自身が作るよりも何倍も美味いと感じた。
しばらくするとコーヒーの薫りも漂ってきた。
ふと目を横にやるとテーブルの横に新聞も置かれていた。
「ああ、新聞もお前が受け取ったのか。だから叩き起こされることもなかったのか」
今日見た夢をなんとなく思い出しながら独り言をつぶやく。
それにしても思った以上にこの奴隷は使えるのかもしれない。
そう考えているとコーヒーを淹れて持ってきた。
コーヒーを飲むといよいよ頭が回転を始めたようだ。
真っ先に思いついたのは奴隷の分の食事だった。
俺の許可無く勝手に勝手に食べていたというのは考えにくい上、今日も何かしら働かせるつもりなので今のうちに食べておいてもらわないと困ると結論づけた。
「奴隷、お前自分の分の朝食を用意して食べなさい。俺と同じもので構わない。それがこの家でのルールだ」
そう言ったものの奴隷は目を伏せるばかりだ。俺が何を言っているのかわからないのだからな。
同じものを食べるルールなんてのも今作ったものだ。
俺は椅子を指差し座らせた後、同じ食事を用意した。
見栄えは奴隷のほうが上手に作れていたが、材料は同じだから同じものを食べていると言っても過言ではないはずだ。
できた料理を奴隷の前に置く。野菜の類はストックが無かったので俺の分を半分分ける。
「お前の分だ。とっとと食べなさい」
指を料理と奴隷にの交互に指をさすと理解できたのか食べ始めた。
食器の音も特に出さず、上品に食べている。
「富豪だか地主の娘だったんだっけ?さすが、俺よりマナーがなってるな」
よくわからない皮肉をいった後、今日は奴隷をどう過ごさせるかを考えながら新聞を読み始めた。
が、新聞が三部ある。受け取りすぎたのかと確認してみると、いつもの二部に加えて奴隷商の馬車内で読んだ社の新聞が増えている。
「あの奴隷商、俺が小僧に言う前に勝手に注文したのか」
だが考えてみると悪くは無いのかもしれない。
少なくともこれから新聞はこの奴隷が受け取ることになる。
わざわざ朝無理に起きて小僧に三社目の話をしなくて済むことになるのは気が楽にだからだ。
一切声を出さなければ音も立てずに食事をする奴隷を見ながら今日は何をさせるか考えるのであった。
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