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43 反響

 小説が連載され始めてから数日。

 夕食時にカリンがこんなことを教えてくれた。

 

「青果店のお客さんの中にも連載を読んでいる方がいらっしゃるんですよ」

「ほう、評判はどうだ?」

「はい、みなんさん次が楽しみとおっしゃってます。一安心ですね」


 シチューを一口食べたカリンが話を続ける。

 

「おばあさまもお孫さんから聞いたのか私を気遣ってくださって、忙しい時間帯が終わったら帰っていいよなんて言われちゃいました」

「なんて返したんだ?」

「作業時間は足りているので、大丈夫ですって断っておきました。ただもしものときはお願いしますとも付け加えておきました」


 婆さんの気遣いを無下にしない返答をしたということだ。

 締切なども特に問題無いようで俺も一安心させてもらった。


 しかし、それ以降も評判の話は大きくなる一方だったらしい。

 ある日の朝食、食堂に向かうといつもの新聞の隣に十通以上の手紙が置かれていた。

 

「カリン、この手紙は?」

「はい、ご主人さま。新聞の配達員さんが持ってきてくれたんですけど」


 困惑気味のカリンをよそに手紙や封筒をざっと眺める。

 どうやら俺宛ではなくカリン宛のものやブラウニーさん宛のものだった。

 

「ブラウニーさんの連載小説なんですけど、楽しみにしている方がかなり多いらしくて、新聞社に先日から感想などのお手紙が届いていたようなんです」


 それで配達員さんがまとめて持ってきてくれた、とカリンはそう説明する。

 

「それはいいことなんじゃないか?楽しみに思ってもらえてるんだから」

「はい、そうなんですけど、いざこう知らない方から感想をもらうっていうのは初めてで……」


 カリンは動揺を隠しきれていないようだった。


「ふーん、なんか意外だな。まあ、あんまり重荷に感じないようにな」

「はい、ご主人さま」

「あと、ブラウニーさんあての物も混じってるようだがどうする?届けるか?」

「はい、そうしたいですね。」

「それならとっとと届けるとしようか」


 俺も一緒に行く意思を見せるとカリンは一人でも大丈夫だと思いますよと言ってくれた。

 ただ、俺としてもブラウニーさんに興味があるからと言い張ってまた一緒に会いに行くこととなった。

 

 

 

 屋敷に到着後、ブラウニーさんが来るまでの間、応接室で待たされる。

 いつ来てもでかい屋敷だなと意味もない皮肉を心の中で思っていると、ブラウニーさんとミアさんが揃ってやってきた。

 

「こんにちはイワン様とカリンさん」


 俺が軽く挨拶を返す一方で、カリンはソファーから立ち上がり二人に駆け寄って話し始める。

 

「こんにちはミアちゃん。でもお仕事中何度もごめんね」

「別に大丈夫ですよ。それで小説についてお話と聞いてたのですが、何かあったんですか?」


 そうなんですよと言ってソファーに戻って説明を始めた。

 前回と同じ様にブラウニーさんにはカリンが、ミアには俺が事情を説明した。

 

「私も連載を面白いなと思いながら読んでますが、そんなに人気だったんですね」

「俺も同感だな」


 俺とミアが横で話している間、カリンはブラウニーさんに手紙の内容を西方の言葉で読み上げているようだった。

 ブラウニーさんはうん、うんと耳を傾けている。

 一通り読み終わったようで、カリンは俺に声をかける。

 

「これで一応全部読み終わったんですけど……」

「どうしたんだ?」

「はい、翻訳作業も忙しいだろうからブラウニーさんへの手紙はたまに来るだけで十分と言われてしまいました」


 新しく物語を書くわけではないものの、翻訳も大変だとブラウニーさんは考えているんだろう。

 

「その道の先輩の言うことには従っておきなさい」

「はい、ご主人さま」


 カリンがブラウニーさんに話し始める。

 しかししばらくすると難しい顔をしたカリンがまた俺に助け舟を求めてきた。

 

「今度はどうしたんだ?」

「はい、ブラウニーさんも昔に連載小説を何作品か執筆していたそうなんですけど、今教えてもらった感想を聞くに、書籍化の依頼もくると思ってるそうです」

「へえ、そんなことまで」


 小説の連載についてはそれ程深く関わっていないためか、俺の口から出る感想は基本的に他人事のようになってしまっている。


「まあそうなったらそうなったでまた相談に来ればいいんじゃないかな」

「そうなったらミアちゃんも忙しいと思うけど、ごめんね」

「私は全然問題ないよ、カリンさん。」


 ミアに謝った後、ブラウニーさんにもカリンは話す。

 一段落ついたところで、俺はカリンに話しかけた。

 

「カリン、ブラウニーさんに伝えてほしいことがあるんだが、頼まれてくれないか?」

「はい、ご主人さま。どういったことでしょう」

「もしもブラウニーさんが本を書いてこっちの国で売りたいと思うなら、カリンを翻訳作業に携わらせてほしいってことを伝えてほしいんだ」


 その言葉を聞いてカリンは驚いた表情をする。

 

「ん?カリンとしては、ブラウニーさんの翻訳はもうしたくないのか?」

「いえ、やらせていただけるならお引き受けしたいです。でもそんな話がご主人さまから出るとは思っていませんでした」


 カリンはそう言うとブラウニーさんに伝えてくれたようだった。

 伝えている途中でブラウニーさんは俺の方に振り返る。

 そして一言カリンになにか伝えたようだ。

 

「わかりました、そのときはぜひお願いします、だそうです。ご主人さま」


 ブラウニーさんの表情から何を考えているかいまいちわかりずらいが、受け入れてくれたのはありがたいところだ。

 もう一つ伝えてほしいことがあったのでもう一度カリンに頼もうとしたところで、ブラウニーさんがカリンに声をかける。話を聞いたカリンが伝えてくれた。

 

「ご主人さま、その時の利益も半分半分で頼む、だそうです」


 ちょうど俺が考えていたことと同じことを考えていたようで少し笑ってしまった。


(話を畳み始めた途端になんだか話が淡白に思えてきてしまいました。なんてこった。)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 淡白ですかね。ほのぼのとした、日常を切り取ったような話も私は好きですが。
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