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41 ある男と少女の朝の出来事

「なあ、カリン。それって全体のどれくらいなんだ?」


 カリンに寝る前の読み聞かせをしてもらってからはや数日。

 今日の分が読み終わったところでカリンに聞いてみたところだった。

 

「そうですね、かなり読み飛ばしてはいると思うのですが、半分にまでは進んでいないくらいですかね」

「そうか。いや、ここまでの段階でかなり面白く感じてな」

「そうですよね!でも二冊目三冊目と進むにつれてどんどんおもしろくなるんですよ!」


 自分が褒められたわけではないが、大好きな本を褒められてカリンは目をキラキラと輝かせていた。

 いや、もしかしたら灯りが反射していただけかもしれないが。

 

「俺とカリンだけで楽しむってのは少しもったいない気もするが……」


 俺はカリンから本を受け取りパラパラと眺める。

 それ程文字と文字が詰まっているわけではないにしろ、よく見かける本と同じくらいの文章量だ。

 

「翻訳して本にするってのも作業としては大変だしな。あるいは本一冊できたところで、図書館に置いてもらって多くの人に読んでもらうってのにも限界はあるしな」


 俺はなんだかもったいないと漏らす。

 それに対してカリンは照明を消すためにベッドから立ち上がりながら、意外なことを言い始めた。

 

「翻訳作業は少し大変かもしれませんが、町の人に読んでもらう方法は無いわけではないと思いますよ?」

「へえ、どんな方法が?」


 方法が思いつかず、いくつかの照明を消して歩くカリンの方を見る。

 最後の灯りに手を伸ばしながらカリンは答えた。

 

「ご主人さまなら気がついてると思ったんですけど、読み飛ばしてたのかもしれませんね」


 いまいち答えにたどり着けない微妙なヒントを言い残してカリンは部屋を暗くするのだった。

 

 

 

「ご主人さま、申し訳ありません。お目覚めください」


 翌朝カリンにあまり聞き慣れないセリフとともに体を揺すられて起こされる。

 

「どうした?何かあったのか?」

「新聞のことで相談があります。玄関までお願いできますか?」


 カリンからの珍しい要望でとりあえず玄関に向かう。

 しかし、揺すられて起こされるは久々だ。喋り始めてからなかった気がするな。

 そんなことを考えながら玄関に向かうと、新聞配達の少年がいた。

 

「おはようございます。イワンさん」

「おう、久々だな」


 最後に見たのは、カリンを買った朝で、釣り銭をくれてやったとき以来か。

 

「で、どうしたんだ?」

「はい、ご主人さま。新聞のここなんですけど」


 カリンが今日の新聞を広げて指をさす。

 そこに書かれていたのは俺には見慣れていない連載小説だった。

 

「私が昨日の夜に言っていた多くの人に読んでもらう方法というのはここのことだったんです」


 突然の答えの発表に少し驚くもカリンは続ける。


「この連載小説なんですけど、次のお話が決まってないそうなんです」


 話を聞きながら新聞を受け取る。

 確認して見てみると、それ程大きくはないスペースではあるもののたしかに連載小説は存在していた。

 つまり、俺は今までここを読み飛ばしていたわけだ。興味がないからか記憶に全く残っていなかったのか。

 そんな自分にまた驚いていると、少年が続けて説明してくれた。


「いつもなら次の書き手が決まっているはずだったんですけど、なかなか見つからなくて。適当な記事か広告で埋めようかと思っていたところなんです」

「いや、ちょっと待てくれ。なんでそんなことまで知ってるんだ?」

「あれ?言ってませんでしたっけ?僕、ここの新聞の経営者の息子ですよ?」

「それは……知らなかったな」


 釣り銭もらって喜ぶやつが経営者の息子ってのは全く思ってもいなかった。

 しかし隣のカリンはそのことを知っていたような顔をしている。

 毎朝少しずつ話をしていた様だ。

 

「まあ、それで。今カリンが持っている本を載せてもらえるかもって話なんだな」

「話が早くて助かります。それでなんですけど、イワンさん。こちらも謝礼を出すことになるんですけど、お話によると原作があるそうで、それをカリンさんが翻訳してくれるということなので」

「ああ、原作者と話をつけといてくれってことか」

「そのとおりです。連載作品として新聞に載せていいかということと、謝礼の分け方ですね」

「それくらいならお安い御用だ。翻訳を行う当の本人のカリンは大丈夫なのか?」


 カリンの方を見てみると、少し迷った顔をしていた。

 

「先程確認させてもらったんですけど、連載頻度や量は大丈夫だと思います。ただ、時間的に念の為……」


 カリンが少し目をそらす。俺はさっきからカリンが微妙な表情をしている理由も含めてそういうことかと理解できた。

 

「俺の読み聞かせの時間も翻訳作業に当てたいってことだろ?構わないさ。話の続きは新聞で読ませてもらうよ」

「ありがとうございます!大変助かります、ご主人さま」

「ああ。で、そういうことだ」


 俺は配達の少年に向き直る。

 

「原作者との話はこっちでしておくから、連載の協力を頼む。細かいことはカリンに直接教えてあげてくれ」

 

 俺はそう言いながら玄関近くのチェストから小銭を取り出す。


「それとこれはこの話をしてくれた謝礼と、最近ドアをガンガン叩かなくなった礼だ」


 そう言いながら俺は少年に小銭を握らせた。


「ありがとうございます、やっぱり優しい人だったんですね!イワンさん!戻ったら早速父親に伝えておきますね!」


 そう言うと配達の途中なのでと少年は走っていってしまった。


「朝早くからありがとうございました、ご主人さま」


「いや、構わない」


 遠くまで行ってしまった配達の少年を見ると、ドアをノックする音で毎朝起こされていたのが遠く昔の様に思える。

 そんなことを思いながら少し冗談交じりでカリンに声をかけた。

 

「あの配達の少年がドアをガンガンしなくなったのはカリンのおかげでもあるんだろ?カリンもチップを受け取っておくか?」

「ふふっ、別にいいですよご主人さま。それよりももう少しで朝ご飯ができるので食堂で待っててください。先にコーヒーを出しちゃいますね」


 そう言うとカリンはパタパタと小走りで俺より先にキッチンに向かっていった。

 

 

 

 出されたコーヒーを飲みながら、俺は新聞を読み進めることができなかった。

 普段はあまり見ることのない、カリンの食事を作る風景をなんとなく眺めていたからだ。

 俺は食堂の席に着きながら、キッチンでてきぱきと動くカリンを目で追いかける。

 その様子が面白いというわけではないが、見ていてなんとなく飽きが来ない。

 朝でまだ頭が起きていないからしょうがないという若干無理のある言い訳を思い込むようにして、しばらく何を考えるわけもなく俺は少女の後ろ姿を眺めているのだった。

数ある小説の中からこのお話を読んでくださりありがとうございます~~。

先日ノーパソを10年ぶりに買い替えまして、色々初期設定を弄っておりましたら投稿が遅れていました。お待たせして申し訳ないです。

(あと、評価たくさんもらえると、モチベーションがマシマシになりますので、ぜひ!ぜひ!お願いします!)



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― 新着の感想 ―
[一言] おぉ、PCを新調しましたか! 端っこからキーが壊れてきていたようなので心配してました~(笑) これで更新もバッチリですね!
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