38 喫茶店
「俺はコーヒーで」
「私は紅茶にします」
「私も同じものをお願いします」
カリンは爺さんの話を聞いて、それとコーヒーもう一つお願いしますと付け加えた。
「私の分まで申し訳ありません」
巻き込まれるようにして連れてこられた使用人が俺に謝る。
「気にしなくて良いぞ、えっと」
「申し遅れました。私、ミアと申します」
「ああ、すまない。俺はイワンだ。よろしくミアさん」
「はい、イワン様。イワン様のお話はカリンさんから伺っております」
また勝手に色々喋ったんじゃないかと目をやると、カリンは笑ってごまかしていた。
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俺がカリンに追いついたとき、カリンは喜びの声を上げて爺さんに抱きついていた。
西方の言語を使って笑うカリンは正直なところ初めて見たものだった。
「あ!ご主人さま!」
カリンがこちらに気が付く。
「どうしたんだ?一体?こちらのご老人は?」
「ブラウニーさんです!」
「ブラウニーさん?」
「はい!以前図書館でお話した、私の国の作家さんの!」
その言葉を聞いて夏に入る前の記憶が呼び起こされた。
「ああ!あの魔法王国の!」
「そうなんですよ!ご主人さま!」
そう言うと、次にカリンは俺をブラウニーさんに紹介しているようだった。
その言葉を聞いたブラウニーさんはこちらに会釈をしてきた。釣られるように俺も会釈を返す。
「あの……」
話に置いてけぼりの使用人が申し訳無さそうに声を出す。
「ああ、そうだったなすまない。そうだな、そこに入ってお話でもどうですか」
そう言って近くの喫茶店に四人で入ることになった。
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飲み物の注文をするとカリンは、ミアにブラウニーさんの説明を始めた。
カリン自身の出身や戦争に巻き込まれたことも触れて説明していたので、そこまで聞かされていなかった様子のミアは驚いている。
「それで、ブラウニーさんは南方にたどり着けていたと」
話がある程度進んだ所で俺が口を出す。
「はい、争いに巻き込まれる前に南方に入国していたそうです」
カリンはブラウニーさんと西方の言葉を使ってしきりにやり取りし、その話を俺たちに伝えてくれる。
西方の言葉をカリンの口から聞いたことは今まで殆どなかったため、なかなか珍しいように感じた。
カリンが通訳してくれる話によると、ブラウニーさんは南方に入国してから戦争のことを知ったらしい。
奥さんや兄弟は既に他界しており、子どももいない身。その上老いぼれの自分が戻ってもなにかできるわけでも無いと考えたらしい。
西方に戻りたいという気持ちは確かにあったものの、まずは自身の身を第一に行動したそうだ。
南方という異国の地でありながらも作家であることを生かして生活は出来ていたらしいが、それでも色々と不安は拭えなかったそうだ。
その時に現れたのが東方の国への貿易船だ。
戦争相手の国に向かう船ではあるものの、親戚のつてなどもあるし、どうにか身を寄せさせてもらいたかったと言う。
その時点での財産の大半を使って身振り手振りでどうにか頼み込んだと教えてくれた。
「自分の国で一人暮らしってのと、見知らぬ異国の地で一人暮らしってのは勝手が違うでしょうし、大変でしたね」
そう言うも、もちろんブラウニーさんには伝わらない。
「親戚の方が言うには家に一人くらい増えても問題ないと仰ってるそうですが、自分もまだ元気だしどこかで働けるところは無いかと町に来ていたそうです」
カリンの話を聞き終わり、なるほどなと相槌を打ってからミアに目を向ける。
「ミアさんはブラウニーさんの専属の使用人さんで?」
「いえ、たまたま手が空いていたので、町に出るブラウニーさんに付き添うようにと旦那様に命じられました」
話をしながらコーヒーに口をつける。だいぶ冷めてしまったようだった。
「ミアさん、時間は大丈夫かい?」
「あ、はい、そうですね。それではそろそろ屋敷の方に戻りたいと思います」
会計を済ませて外に出ると、ブラウニーさんがカリンに本を差し出しているところだった。
「その本は?」
「はい、ブラウニーさんが南方にいた頃に書き溜めていた本だと仰ってるんですが、受け取ってもよろしいのでしょうか」
カリンが俺に聞いてくる。
「ミアさん、そちらのご主人は本について何か言ってましたか?」
「いいえ、そんな重いものどうして持ち歩いてるんだろうかといったような感じで、本というよりも荷物と考えていらっしゃいます。なので、カリンさんがお受け取り頂いても問題ないかと。一応私の方から旦那様に伝えておきますね」
「だそうだ、カリン」
「ありがとうね、ミアちゃん!」
そう言うとカリンは、ブラウニーさんにも礼を言いながら三冊の本を受け取る。
話によると分厚い本だと聞いてはいたがそこまで言うほどの厚さではなかった。
ただ、表紙や背表紙はお手製のようで、強度的に少し難ありといったところか。
「ご主人さま。ブラウニーさんに何かあったときのために、ご主人さまのご住所を教えてもよろしいでしょうか」
本を受け取ったカリンが俺に聞いてくる。
「それなら構わない。そのときは力になってやるんだぞ」
「ありがとうございます、ご主人さま」
俺としては返答通り問題ないし、どちらかと言うとカリン以外の西方の国の人間というのに興味があった。
「それではそろそろ失礼させていただきます。本日はありがとうございました、イワン様」
ミアとブラウニーさんは屋敷に帰っていく。
「俺らも帰るか」
「はい、ご主人さま」
こっちの国で西方の人と出会うことはカリンにとって初めてのことだろう。
その上大好きな作家の本も貰えてホクホク顔だ。買い物の荷物は全て俺に任せて本を大事そうに抱えている。
まあ、それほど多くはないから別にいいんだが。
「良かったじゃないか、カリン」
「はい、ご主人さま!」
こちらを向いて笑顔で返事をするカリン。
その顔を見て俺も少し嬉しく感じるのだった。
ここまでお読みくださいましてありがとうございます!
また、たくさんのご感想や訂正もいただけて幸せもんだなと感じています。
今回登場人物が四人ということになり、読みにくい文章になってしまった?感があります(力量不足)。
普段大して本を読んでいないことがバレバレですねこれは…。
(当初「ミア」を「使用人」で表記していたものの、カリンと被ってしまいわけわからん事になったので名前をつけることにした計画性の無い著者)




