37 南方からの船
あれほど暑い暑いと言っていた夏ももう終わり、涼しい季節となった。
そんなある日、そろそろ夕食といった時に一通の手紙が届いた。
カリンは夕食の準備をしていたので、俺が受け取る。差出人は造船の担当者からだった。
食堂で手紙を開封し、夕飯ができるのを待ちながら読み進める。
「ほう、そんなとこまで」
「なんのお手紙ですか?」
カリンが配膳をしながら聞いてきた。
「この前の造船作業が完了したのは知ってるだろ?」
「ええ、新聞にも取り上げられていましたね」
「それが出港して南方に到着し、それでつい先日こっちに戻ってきたらしい」
配膳を終わらせたカリンと共に夕食を食べ始めた。
「どこの港に帰ってきたんですか?」
「それがだ、隣町の港らしい」
「隣町でしたか。ここの町に来てくれればよかったのに」
「この町にも海に面している地域はあるが、地元の漁師くらいしか使えない大きさだからな」
「その船や輸入されたものを見に行ったりしないんですか?」
見に行かないのですか?と聞いてくるが、はっきりわかる。これはカリンが行きたいと思っているだけだ。
「いいや、行かないかな」
興味津々なところ悪いが、特に心配無さそうであれば視察は控えるようにしている。
特に今回目は一回目が成功したところで色々と忙しいだろう。
「はい、承知しました。ご主人さま」
当てが外れたカリンは、思ったとおり残念な顔を顕にしていた。
「ああ、あと三日後には商会がある。カリンも来れそうか?」
「はい、ご主人さま。おばあさまには伝えてあります」
今でもカリンはあの婆さんの青果店で働いていた。
繁盛は続いているらしく、息子夫婦の娘、つまり婆さんの孫とも一緒に働いているとのことだ。
どうやら歳も近そうだということもあって、仲良くやっているという話をよく聞かされている。
ただ、図書館勤めの方は、病に伏していた以前の人が復帰することになったので引退ということになった。
急な頼みを聞いてもらったお礼だと最後の賃金は多めに貰えた上、図書館の利用証の期限を延期してもらったそうだ。
「そうか。場所はこの前と同じ場所だ」
「はい、ご主人さま」
三日後、カリンと一緒に商会に向かった。
夏に開かれなかった理由は、暑い中外出するのを嫌ったご老人たちが例年反対しているからだ。
「それじゃあ、また後で」
「はい、ご主人さま」
カリンを別室で待機させるついでにちらりと中を見ると、カリンと仲良さそうに話す女の子のがいた。
以前、友達になったと言っていた使用人だろうか。そんなことを思いながら移動し、商会の席に着いた。
そして身近な仕事仲間と最近はどうだといった話を始めた。
俺が造船と南方との貿易に投資していたことをどこからか知った奴が紹介してくれと頼んできたり、今のうちに西方に行って基盤を整えておこうかと計画する奴もいた。
商会の内容としてはこの町も貿易港としての機能をもたせるべきだとか、南方よりもやはり西方を利用すべきだとかそういった議論がなされていた。
そんな話を右から左に聞き流しながら、次に何に投資すべきかなんとなく考える。
さっきの仕事仲間との話で気になったのは、大型船を用いた南方との貿易が成功したことを受けて、新たに造船に参入する計画を立てている団体なんかもあるらしいことだ。
そっちにも目を光らせておこうか。
気がつくと話の内容が町内に移っていた。
夜盗による被害が減ってきているとの報告があり、地域を絞ってみてみるとどうやら民間の警備組織の影響が大きいらしい。
商会から金を出して、市場なども警備してもらおうかという話になっている。
いいぞいいぞ、俺が出資しているとこの警備組織だ。俺にも何かしらの利益が転がり込んできそうだ。
商会の後、カリンと市場へ向かう。食材やちょっと早いが冬に備えた買い物が目当てだ。
「この前友達になった使用人さんと今日もお話できたんですけど、」
歩きながらカリンが話しかけてきた。
「その子の家に、遠くの親戚みたいなお爺さんが数日前から住み始めたらしいんです」
「なんだ、そのはっきりしない感じは?」
「どうにもその家の奥さんの方の親戚らしいんですけど、異国語を使うらしくて話が通じないそうです」
「異国語って西方か?それなら手助けしてやっても良いんじゃないか?」
「私もそう思ったんですけど、会話できているのは奥様と旦那さまだけらしく、そこまで近くで聞いたわけじゃないので全くわからないそうでした」
俺とカリンはイモ類や麺類なんかを買いながら会話を続ける。
「それで、その爺さんとやらはどっから来たんだ?」
「それがですね、南方からの船に乗って来たそうなんです」
「南方から来たのか。で、親戚を頼ってこの町に来たと」
変な奴もいたもんだなと思いながら店主に金を払う。
「あ、後そのおじさんの荷物なんですけど、やけに分厚い本が数冊入ってたらしくて」
「遠くの親戚を頼りに出来たての船に乗ってきて、なお重い荷物も持ってるのか。そりゃ凄い根性だな」
そんなことを言って隣を見るとカリンの姿がなかった。
少し後ろを見てみると、カリンは立ち止まり遠くの方を見ているようだった。
「ん?どうした、カリン」
「ご主人さま!すいません!」
カリンはそういったかと思うと荷物を地面において目線の先に走り出してしまった。
走りながらカリンは何かを大声で叫んでいる。その言葉は、西方の言葉か?
カリンが置いた荷物を拾い上げ、走り出した方向に歩き出す。
しばらくすると遠くからカリンの喜びの声も聞こえてきた。
一体何があったんだと思いながらそちらに向かうと、三人の姿があった。
商会で見かけた使用人と、初めて見る爺さん、そして爺さんに抱きついて笑うカリンの姿だった。
追記:2020/7/15 8時頃
最後のシーンでカリンが泣くのではなく、喜びの表現に変えました。
申し訳ありません。
ここまでお読みくださってありがとうございます!
気がつけば初めての小説を書き始めてから十日以上経過していました。実のところ二日目くらいには飽きているだろうな思っていました。
しかし楽しく書くことが出来たり、ここまで続けることが出来ています。これはひとえに読者の皆さんのおかげです。大変感謝しております。
どうぞこれからもよろしくお願いいたします!




