33 わがまま
夕食はカリンが言っていたように力が入ったものだった。
なんでもじっくり漬け置きしていたらしく、肉の臭みがよくとれて柔らかく仕上がっていた。
腹が減っていたのもあり、特に美味く感じられた。
「なかなかの出来じゃないか」
「ありがとうございます、ご主人さま」
俺が素直に褒めると、カリンも素直に喜んでくれたようだ。
夕食を堪能して寝る前に一度仕事部屋へ向かう。
整理した書類を明日役所に持っていく準備を整える。
準備を終えて寝室に向かうとカリンがベッドの縁に座って俺を待っていたようだった。
このカリンなりの礼儀はまだ続いていた。
「さ、とっとと寝るぞ」
「はい、ご主人さま」
今日出した毛布は一応片付けず、ベッドの片隅畳んで置いてある。
俺は灯りを消してベッドに転がり込む。
「でも、今日は本当にご迷惑をおかけしました、ご主人さま」
カリンが話しかけてくる。
部屋を暗くしてからは基本的に話しかけてはこないので、珍しい。
「お前でも失敗することがあるってことには驚かされたが、まあ構わない。また明日から頑張ってくれよ」
「はい、ご主人さま」
一呼吸置いてカリンは話を続けた。
「ご主人さま?」
「どうした?」
「そちらに寄ってもよろしいでしょうか?」
「どうしてだ?」
「夜は肌寒くなってしまうかもしれません」
「それならそこの毛布を使えばいいんじゃないか?」
「それだと今度は暑くて汗をかいて風邪をひいちゃいます」
カリンが引く気がないことを感じると、俺は一つだけため息をついてから、
「ああ、わかった、いいぞ」
そう許可を出した。
俺が右腕を貸すとカリンは頭を乗せてきた。
「ありがとうございます、ご主人さま。多分、今日だけですので」
「ああ、そうしてくれ。さ、寝るぞ」
「はい、おやすみなさいませ、ご主人さま」
窓の外を見ると月が出ていた。
先程までの雨がいまいち信じられない。
自身の腕に目を戻すと薄明かりの中でカリンがすでに寝息を立てているようだった。
今日は本交換があったことを思い出す。そもそも疲れてたのだろう。
その上、季節外れの冷たい雨で体力を持っていかれてしまっていたのだから、こうなるのも無理も無さそうだ。
俺はカリンを起こさないように何度か頭を撫でる。
しかし考えてもみると、ちょっと前まで平和に暮らしていたら、奴隷として売り飛ばされて異国の地で生活をしている。状況としてはカリンのほうが信じられないだろう。
回らない頭でそんなことを考えているうちに、俺も眠りについてしまっていたようだった。
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(寝る話書いて翌日の話もつなげて書くか~と安易にかき進めていたら思いの外長くなり、続きで書くとよくわかんなくなりそうと怖気づき、かと言って短さっぱり短くもしたくないので投稿してしまう著者の図)(図略)




