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03 ある男の朝の出来事

「イワンさん!いらっしゃるんでしょ!新聞の集金です!」


 朝っぱらから玄関のドアノッカーを何度も叩く音が聞こえる。

 もうちょっと寝かせてくれよと思いながら窓から外に向かって返事をする。

 

「すまない、今起きたところだ。ちょっと待っててくれ」


 昨日もなんだかんだ遅くまで起きていた身には堪えるが、一日中ドアをガンガンされるのもよほど辛い。

 財布を手に取り、欠伸をしながら玄関に向かう。

 

「おはようございます!今日の新聞をお届けに来たのと、集金お願いします!」

「君も朝から元気だね。ちょっとはその元気を分けてほしいくらいだよ」


 小言を言いながら新聞を受け取り月の購読料を払う。

 

「えっと、お釣りが」

「あーいいよいいよ、とっとけ」

「いいんですか!?」

「ああ、その代わり来月はもっと静かに起こしてくれよ」

「ありがとうございます!」


 配達の少年は集金鞄からお釣りを自分のポケットにちょろまかすと、

 

「イワンさんって優しい人だったんですね!来月はもっと大きい音で起こすことにします!」


 そう言って次の家に走って行くのだった。

 あの小僧め、と心の中で舌打ちをするも、もう手遅れだった。

 

 パンを焼きながらコーヒーの準備を同時に行う。

 それほどのこだわりは無いが、行きつけの店で買う豆に慣れてしまった。

 

 朝食を食べながら新聞を読む。

 外では人々が行き交う音や馬車の音など聞こえてくるが、これといって時間に追われるタイプの仕事ではないのでマイペースに朝を過ごすことが多い。

 

「そうか、西の国がついに陥落したのか」

 

 ここしばらくの間、新聞の記事は西方との戦争のことばかりだった。

 なんでもあの酷い雨の日に一気に侵攻したらしく、そこから王都へ着々と進んでいく様が何日もの間記事になっていた。

 

「次はどうしたものかな」

 

 そう言いながら二社目の新聞を手に取る。

 パンはもう食べきってしまい、コーヒーも冷め始めたところだ。

 

 こちらの記事も戦争のことばかり書かれていたが、記者が西の国に直接赴き記事を書いている部分もあるためかあちらの混乱や情勢具合も載っている。

 

「新聞に関わる人間はどいつも体力オバケなのか?」

 

 さっきの新聞配達の少年のことも思い出しながら記事を読みすすめる。

 戦争関連の事以外についてはよくある内容が続いた。

 夜間に盗みが多発しているだとか、西方の奴隷が流れてくるだとか、大雨の復旧作業がどうだとか…。

 

 読み終わってからは今度は考えを巡らせた。

 「しかし戦争で陥落させる状態なんて体験したこと無いからなあ」、「やっぱり次の目処が立たないな」と考えを巡らせるというよりも同じ考えをぐるぐるしているだけだったのかもしれない。


 食器を片付けながらそう考えているとまたしてもドアが音を立てた。

 だが、先程のとは異なり幾分かは丁寧なものだった。

 

「今度はあいつが来たのか」


 正直対応したくはなかったものの、関わりが無いわけでもないので嫌でも出るしかなかった。

 

「おはようございます、旦那様。お久しぶりです」


 背は低いが妙に太っていて、センスを少し疑うような服を着た男がドアの前に立っていた。

 

「またあんたか、前にも言ったろ。家では奴隷を買わないって」

「まあまあそう仰らずに、旦那様。どうせ次の投資先の考えもまとまらずに同じような考えをぐるぐるしていらっしゃったのでしょう?少しは付き合ってくださいよ」


 この奴隷商、見た目はかなり異質だが俺が思っていることをいつも当ててくる。

 正直すべてを見透かされているようでやりにくいタイプの男だ。

 奴隷商は言葉を続ける。

 

「旦那様が以前私に投資してくださったからこそ今の私とこの仕事があるのです。本当に感謝しているんですよ」

「俺があんたに投資したのは奴隷分野じゃなくて酒の輸出入の分野だろ?今となってはそっちの話はあまり聞かないがな」

「お酒の方も目立ちはしませんが上手くやっていますよ。ちゃんと年に二回、出来の良い一等酒をそちらに回してるじゃないですか」

「とは言っても奴隷関係の方が明らかに儲かってんだろ?」

「そこを突かれると少し痛いですが旦那様、いい話があるんですよ」


 毎度のこと結局はこの話に行き着く。

 要は奴隷を買ってみないかってだけの話だ。


「旦那様のご自宅はそこそこ大きいですがお一人で暮らしているんですよね?流石に不便じゃないですか?」

「そんなことないさ」

「いやいや、勤勉な旦那様は投資先を精錬するために新聞を二社分お読みになっている。しかも1つ隣の町の新聞を取り寄せて視野を広く持とうとしてらっしゃる」


 新聞についてはあの小僧が喋ったに違いないと思いまた心のなかで舌打ちをしてしまった。

 奴隷商の話は途切れることなく続く。


「でも悲しいかな、それほど新聞が溜まっては燃やして燃料にするにもゴミとして捨てるにも疲れるというものでしょう」

「しかしだな」

「いやいや、視野を広く持とうとしていらっしゃる旦那様が今一番話題となろうとしている奴隷売買について知らないままというのはやはりもったいないと思います」


 この展開を待っていましたと言わんばかりに奴隷商は喋り続ける。

「西方への戦争も一段落しました。となると今度は投資家として金をばら撒き、そして回収する。しばらく大忙しのはずです。奴隷がいれば仕事の幅も広がることでしょう。今後のことも考えて、是非足をお運びください」


 考えを見抜かれ、現状も見抜かれ、更には未来のことも提示してくるこの奴隷商。

 ついにこちらが白旗を上げることになってしまった。

 

「わかったわかった。行くことにするよ。で、いつ行くことにするんだ?」

「投資も早いほうが良いことと同じです旦那様。考えが変わらないうちに、今行きましょう。外の馬車でお待ちしております」


 そう言い振り返り馬車に向かおうとする奴隷商。

 しかしこちらにクルリと向き直りこんなことを言いやがった。

「あ、でも準備はごゆっくりどうぞ。朝はマイペースに過ごすというのは私も共感ですからね」


 思わず自身の目を強く塞ぎ見えぬ空を見上げた。

 そんなことまで筒抜けなのか。

 

 かつて彼に投資したときは痩せ気味で貧相な感じではあったものの、その洞察力に期待して金を渡したものだった。

 まさか今の俺自身がこんな搦手から攻められることになるとは思いもしなかった。

 

 そんなことを考えながら身支度を整え、馬車に乗り込むのだった。

ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!

文章として成立しているか怪しいですが、頑張らさせていただきます!

物書きは初めての分野なので評価や感想をめっちゃ気にしてます!どうかお願いします!

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