28 新しいお仕事
カリンの人気っぷりを見せつけられた買い物の翌日。
今日も雲ひとつなく晴れた天気。しばらく続いてくれれば嬉しいんだが。
昼食時に普段とは違う紅茶が出てきた。
「お茶っ葉屋さんで頂いたものなんですけど、」
カリンが説明を始めてくれた。
「とあるつてで貰ったとは仰っていたんですけど、淹れ方のコツや本来の味もわからないそうなんです」
あの店主はなんという物を渡してくれたんだ。
「なので私の方でもちょっと試してくれないかと依頼されて譲り受けました」
カリンが見せてくれたお茶っ葉の入った袋には見慣れぬ文字が色々書かれていた。
「どこの言葉だ?南方か?北方諸国か?」
「私もよくわからないんですよ」
味に問題があったら淹れるのをやめてくれと言うところではあったが、たまにはこういった風変わりなのも悪くはない。
香りが立たないのかな、いつもどおりだと濃いような気がするけど…。そんな独り言を言っている。
この紅茶葉は北方の涼しい地域からやってきたのか南方の暑い地域からやってきたのか、どちらにせよ俺が助言できることは無さそうだ。
そうだ、と思いだして図書館で頼まれたことをカリンに伝える。
「カリン、実はな、昨日頼まれたことがあってな」
図書館員の一人が病に伏してしまったらしく、しばらく空きができてしまうそうで、カリンに手伝って欲しいこと。
作業自体は新しく入ってくる本や書庫の整理が大部分なので毎日来る必要は全く無く、イワンとカリンの予定に合わせてくれれば良いということ。
報酬も相場通り払うこと。
そういった内容であったことをカリンに伝えた。
「ありがたい話なのですが、先日の校正と異なり家で行えることではないので、家事などが疎かになってしまいそうです」
思っていたよりも弱気な返事が返ってきた。
「まあ、言いたいことはわかるが、いい加減カリンもここの家事に慣れて時間を持て余している頃だろう?」
俺は続ける。
「働くにしても通い慣れてる図書館からっていうのも悪くないはずだ。どうだ?」
カリンは少し考えてからこちらを向き返事をする。
「はい、ご主人さま。それでは図書館でしばらく働かせてください」
「ん、頑張ってくれ」
それからというもの、三日四日に一度程度の頻度でカリンは図書館勤めとなった。
もちろん家事の質が落ちるということはなく、新作の料理も度々登場している。
強いて言えば、手作りのお茶菓子の回数が減ってしまい次回の分が待ち遠しくなったくらいで、この程度は許容範囲のうちだ。
待ち遠しい……、か。
カリンを家に迎え入れる時点ではこんな感情を持つことになるとは予想もしていなかった。
大して香りが広がらないコーヒーを自分で淹れながら、そんなことを思うのだった。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
夜は寝ながら次に書く話を考えているのですが、コレだ!というのを思いついたときの快感はなかなか経験したことのないもので、創作活動の楽しみというものを味わっております。
皆さんのご支援あってのことだと思います。今後ともよろしくおねがいします。
(本音:評価ください)




