27 人気者
大雨による影響は出ていたようだが、午前中にはあらかた片付けてしまったようで町中や市場はいつもどおりの活気に溢れていた。
いや、久々の買い物ということでいつも以上なのかもしれない。最近こっちに来ることはなかなかなかったのでいまいち自信が持てない。
カリンと買い物に来ることも久々なのでなかなか新鮮な気分だ。
新しいお店が出来たとか、こっちのお店もおすすめですよと楽しげに教えてくれる。
そして何より気を引いたのが、カリンがたくさんの人から声をかけられていることだ。
行きつけの店や暇そうな店主がカリンに話しかけている程度と今まで考えていたが全然違った。
道行く人に挨拶をされカリンは笑顔で挨拶を返している。小さい子からはカリンお姉ちゃんだなんて言われると、カリンはしゃがんで簡単な言葉で受け答えしている。
老夫婦に声をかけられたときは膝の調子は大丈夫ですか?とか今日は何か買ってくるものはありませんか?と心配までしている。
どちらかと言うと俺のほうが外野にいるような感じだ。
カリンが俺を紹介し、どうもイワンですと同じことを何回もさせられた。
「カリン、お前」
「なんでしょうご主人さま」
カリンが前々から食べたかったという甘い氷菓子を、店先の長椅子座って食べながら話しかける。
「いつからこんな声をかけられるようになったんだ?」
「一人で外出し始めたときはよく行くお店の方くらいだったんですけど、少しずつ増えていって気がついたら今みたいになってしまいました」
「人気者なんだな」
「人気者だなんて、そんな」
「いや、声をかけてきた人の中には商会の面倒なおっさんとか、偏屈なばあさんとかいただろ。みんな俺に見せたことのないような顔でお前と喋ってて驚いたぞ」
カリンはふーんと何か言いたげにニンマリとした顔をこちらに向ける。
「何か言いたいのか?」
「もしも必要でしたら、私が仲介役になっても良いですよ」
「ああ、そのときは頼むぞ」
その言葉を聞いたカリンは自慢げと言うか満足げと言うか、ともかく嬉しそうな顔をして氷菓子を食べ続けていた。
雨があがってから気温はグンと上がり、そろそろ夏に入ろうかという時期になっている。
カリンはお向かいさんからもらった半袖の服を着ていて、スカートもいつもよりかは少しだけ短いものを選んでいるようだ。
少なくても俺が買ってやった服を着ることは当分無いだろう。
近くに首輪のついた猫がやってきた。
そいつは何も疑うこと無くカリンの横で丸まり、カリンは撫でてやっている。
人に限らず動物にもなつかれているのか。
格の違いというのを見せつけられたような気がした。
買い物が終わって帰路につく。
結局のところ、俺のことを知っている店や屋台に行っても、話題の中心はカリンだった。
いつもいい子にしてるとか、料理のコツを教えてもらっただとか、装飾品の組み合わせを一緒に選んでもらったとか、一緒に遊んでもらったとか。
全体的に感謝しているといった話が多かった。
カリンはその度に恥ずかしそうにそんなことないですと言い、それに加えて早く次に行きますよとそういった話題から俺を遠ざけようとしていた。そんな印象があった。
「カリンが馴染んでるようでよかったよ」
荷物の重い方を俺が持ち、並んで歩く。
「私も仲良くなれた人がたくさんできてよかったです。ありがとうございます、ご主人さま」
「俺がなにかしたか?」
「もちろんですよ。ここのことを知っておくために本を読んでおきなさいと仰ったのはご主人さまですし、一人で出歩く許可をくださってるのもご主人さまですよ」
あと、と言ってカリンは少し小さい声で付け加える。
「奴隷の鎖も首輪も外してくださってますし」
俺としては首輪のことなんか今の今まですっかり忘れていたが、カリンはどうやら違うようだ。
「気にすることはないさ」
俺は不器用にそう返すことしかできなかった。
カリンはちょっとだけ笑ったかと思うと、いつの日にかあったように、俺の肩辺りに頭を預けるように当てて歩き始めた。
「荷物、落とさないようにな」
「もちろんですよ、ご主人さま」
歩みが遅くなるが、まあ良いだろう。
夏が近い。日が暮れるにはもう少し時間がかかる。
少しくらいゆっくり家に帰っても問題は無さそうだ。
アニメ、漫画、ゲーム、動画、そして数ある小説の中からこのお話を選んで読んでいただき本当にありがとうございます。
このありがとうございますという言葉は形式的に書いているのではなく、ほんっっとうに嬉しく本心で書いてます。いや、ホント。本当に。
よろしければ今後ともよろしくおねがいします。
あと評価も!是非!パクついてる鯉に餌をやる感じで!ヒョイッと!お願いします!こっちも本心です!




