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24 雨が続く日に その3

 カリンに声をかけられ目が覚める。

 今朝も雨が降り続いていたが、多少は弱まったようにも見える。

 

「カリン、後で仕事部屋に校正した本を持ってきてくれ。ついでに残りの分も渡すから受け取ってくれ」

「承知しました、ご主人さま」


 そんな会話をしながら新聞に目を通す。

 雨は明日の朝にはなんとか晴れるそうだが、各地で河の氾濫や土砂崩れなど被害が出ているそうだ。

 俺が住んでる東地区は沿岸から離れているので安全だが、近いところだと何かしら面倒なことになっているだろう。

 

 社説の部分には三社三様の事が書かれている。

 そのうちのひとつに南方との貿易について書かれている物があった。

 やっぱり嗅ぎつけられてるか。

 

 あの詐欺師との一件の後、造船についての正規の担当者とは会えていない。

 一応手紙も送ってはいるが担当者も色々と大変な事になっているのだろう。

 投資に関しては機を逸することは、かなりの痛手になることが多い。早めに来てくれないだろうか。

 

「ご主人さま?」


 不意に、カリンに声をかけられる。

 

「コーヒーが冷めてしまいましたが、新しいのを用意しましょうか?」


 カリンが聞いてくる。また考え込んでしまっていたらしい。


「あ、ああ。頼む」


 そう言うとカリンは新しいコーヒを淹れ始めてくれた。

 するとカリンは俺に背中を向けたまま不思議なことを言い始めた。


「新聞の内容も書き直してあげられたら良かったんですけどね」

「ん、どういうことだ?不自然なとこでもあったか?」


 新しいコーヒーを持ってきながらカリンは答える。

 

「不自然ってわけではなくて、どちらかと言うと自然なんですけどね。私って、勘がいいんですよ、ご主人さま」


 受け答えそのものが不自然だし、勘がいいことは十二分に知っている。

 あまり会話になっていないと思った俺は適当な相槌を打ち、それとは別に気になることを聞いた。

 

「カリン、お前一体いつ新聞を読んでるんだ?」

「いっぺんに読んでる訳じゃないですよ。受け取って朝食を作りながらとか、ご主人さまが食堂に来るまでとか、本を読むほどではないけど時間が空いてしまったときとか」

「ふーん、上手くやってるんだな」


 淹れたてのコーヒーを飲み終えるとごちそうさまと一言付け加え、仕事部屋に先に戻ることにした。




 カリンが持ってきた校正本を大雑把に見てみるが、思ったとおりよく出来ている。

 問題ないだろうと思い、カリンに残りの二冊を渡す。

 

「ぱっと見だが、十分できていそうだな。詳しくはこれから見るが、先にこの二冊も頼むよ」


 この言葉を聞いて、俺が確認しているときは不安そうな顔をしていたカリンも一安心した様子だった。

「ありがとうございます、ご主人さま」

「ああ、無理せず頑張ってくれ」


 カリンが部屋を出た後、もう一度最初から確認し直す。

 訂正箇所の過不足も特に見受けられず、表記の統一などにも気を配っているようだ。

 数十ページ離れた記載の整合性について疑問が残るといった注釈も見られ、内容も良く理解していることが伺える。

 

 昼食前には確認は終わってしまった。

 俺が手直しした部分は細かい数カ所程度だけとなってしまった。

 カリンはこれをほぼ昨日で終わらせたのか。残りの分も今日と明日で終わらせてくれるだろう。

 

 

 

 昼食時、カリンに上出来だったと確認の結果を伝える。

 

「ありがとうございます、ご主人さま。残りも頑張りますね」


 カリンはちょっと笑いながら答えてくれた。

 

「それとだ、カリン」


 俺は付け加える。

 

「掃除とかそのあたりの家事は今日はやらなくていいぞ」

「そんな。校正作業をしているからと言って他のことを疎かには出来ません」

「いや、そうじゃないんだ。まだ雨は強いから窓も開けることが出来ないだろう。そんな中わざわざやらなくてもなと思ってな」


 俺は続ける。


「天気が良くなったら今度は洗濯に買い出しに、後は図書館にも行かなくちゃいけないだろう。忙しくなる前に早めに校正を終わらせてた方が色々楽かなと思ってるんだ」

「承知しました、ご主人さま。お時間をありがとうございます」


 どうやら納得してくれたようだ。

 しかし、俺の予想としては天気が良くなってから一番時間をとられることというのは、正直なところ店主やご近所さんの長話に巻き込まれることだと思っている。

 まあ、そこまでは言わなかったが。


「今はどれくらいまで進んだんだ?」

「二冊目の半分いかないくらいまで進んでます」


 早すぎないか?それとも俺がダラダラやりすぎていたのか?

 色々気になったが、得手不得手があるということで無理やり心を整理した。


「二冊目が終わった段階で持ってきてくれ」

「はい、ご主人さま」




 二冊目が持ってこられたのは昼食からしばらく経ってからだった。

 三冊目の校正を始めてしまって構わないと確認する前に伝えてしまい、カリンに作業を続けさせた。

 

 二冊目の出来も上々、むしろ慣れてより洗練されている部分も見受けられた。

 一冊目との関連に注釈をつけておくなど、細かいところまでよく見ている。

 カリンの指摘には所々どうやら西方の言葉を使用してしまい、二重線で消された後が見受けられる。

 だがこれくらいはご愛嬌の範囲だろう。

 俺も最後のページ目指して読み進めるのだった。




 夕食時には互いに報告しあった。


「二冊目も上々だったが、個人的に気になる部分があってな。そこだけ直している。これはカリンがどうのこうのではなくて、まあ気になったってだけだから心配いらない。よく出来てたよ」


 カリンはありがとうございますと言ってから三冊目について教えてくれた。

 

「私の方は三冊目がそろそろ終わりというところなんですが、一冊目二冊目とあわせてのまとめの部分で何か間違いがないかの確認が残っています」

「そうか、じゃあ俺の方もさっさとやってしまうから一冊目と二冊目もカリンが持っていってくれ」

「ありがとうございます、ご主人さま」


 順調に進んでいるのが嬉しいのか、カリンは顔に笑みを浮かべながら夕食をすすめいている。

 

「あ、それはそうとご主人さま」


 カリンが嬉しそうに続ける。

 

「今日こそ行きますからね」




 夕食後、俺とカリンは共用風呂に向かって歩いていた。

 三日ぶりとあってカリンの足取りはとても軽い。

 

「しかし夜に雨がやんでくれて良かったな」


 俺の言葉にカリンはちょっとだけ自慢気に笑ってから返事をする。


「私は勘が良いんですよ、ご主人さま」


 今その言葉を聞いて朝食時のカリンとの不自然な会話をようやく理解することが出来た。

 新聞を書き直してあげたいって言ってたのは天気予報のことで、自然ってのは天気のことだったのか。

 よく天気の変わり目を読むことが出来たもんだと感心してしまった。

 

「カリン」

「はい、何でしょう?」

「今日は長風呂で構わないからゆっくりしてくるんだぞ」

「ありがとうございます!ご主人さま!」


 天気を当てたことに対するご褒美……、というわけではないが、まあこれくらいは良いだろう。

 もしかしたらカリンはここまで読んでいたかもしれないがと考えがよぎるが、まあいい。

 異国の新聞や本を読んで、天気の変わり目を読んで、更には俺の考えも読めるとなるといよいよお手上げだ。考えるのはやめておこう。


 もう風呂に到着する。

 久々の風呂だ。俺もゆっくりするとしよう。

稚拙な文章ではあったと思いますが、ここまでお読みくださって本当にありがたいです。

また、星の数は私のモチベーションに思いっきり影響するので、是非是非出し惜しみなどせず、鯉に餌をやるつもりで評価をお願いします。


(校正の話はもっともっとサクッと終わらせるつもりだったのが、三分割投稿になり自身の予見能力と技量の無さが浮き彫りになる雑魚著者)

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