02 少女目線のプロローグ2
屋敷に戻る最中、私の後方でまた爆発音が響く。
兵士やそうでない大人がみんな武器を持って町の門に走っていく。
親とはぐれた子どもが道の脇で泣き叫ぶ。
先が見えない混乱の中、私は妹の手を強く握り屋敷に走ることしかできなかった。
「お父さん!」
妹が叫びながら屋敷に入る。
必死の思いでたどり着いたエントランスには大勢の人がいた。
何を言っているかは分からないが、町の状況や今後を話しているらしい。
しかし、その顔に余裕が無いことははっきりとうかがうことができた。
普段置かれていないテーブルが中央に置かれ、町全体の地図が広げられていた。
父は多くの人の中心となり、状況を聞き、指示を出し、対応に追われているところだった。
「お前達!ようやく戻ったか!怪我はないか!」
父が私と妹を抱きしめる。無事で良かったと父は何度も繰り返す。
妹は怖かったと泣きじゃくっている。私も怖かったが、泣く訳にはいかなかった。
「何が起きてるの?」
薄っすらと何が起きているかの予想はついているが、私は父に聞いた。
「ああ、東方の敵国との前線が破られ、各地に侵攻しているらしい。特にここは軍事物資を大量に生産しているから目の敵にされているようだ。」
普段冷静な父が動揺を隠しきれていない。
本当に大変なことになったのだと悟った。
「でも、この町にも兵隊はたくさんいるから大丈夫なんでしょ?!」
妹が不安の表情で聞く。
質問しているというよりも大丈夫だと言ってほしいという気持ちがありありと伝わってくる。
「申し訳ないが、現状難しい。こうなることも予期して国から兵も配置されていたが、想定を大きく超えてしまっている。」
「じゃあどうすればいいの!?」
「この町から逃げるんだ」
「逃げる?なら今すぐお父さんも一緒に行こう!」
「残念だがそれはできないんだ」
矢継ぎ早のやり取りを聞いていた妹がかたまった。
そこから「なんで!?」「一緒に行こう!」と泣いてすがるが、町全体の指揮を執る必要があると父は言って聞かせるしかなかった。
「大変です!まずいです!町の第三区画まで侵攻されました!」
伝令に飛び込んできた人はご近所のお兄さんだった。
町民総出で対応しなければならない事態であることを改めてはっきりと思い知らされた。
それを聞いた父は地図に戻り、多くの人に指示を出している。
指示を出し終わったのかエントランスの人の半分ほどが屋敷の外に走り出していった。
そして父はもう一度私達に近寄り、目線を合わせて手短に話し始める。
「お前達、町の裏手に馬車を用意してある。場所はわかるね。使用人が既に待機している。行くんだ」
「でも、お父さん!」
「お父さんも一緒に行きたいが、無理なんだ。許してくれ」
妹は泣きじゃくる一方で私は必死に涙をこらえる。
そして父は私達二人を抱きしめ、
「生き延びるんだ。愛してる」
そう伝えてくれた。
よし、行くんだと父が私達に声をかけると、私はその場に留まろうとする妹の手を取り屋敷から走るしかなかった。
妹はお父さんお父さんと何度も叫んでいたが、そうする他なかった。
屋敷の裏手に到着すると使用人が二人、私達の到着は今か今かと待ちわびるようにしていた。
「お嬢様方!さあ、こちらへ!」
二人で馬車に急いで乗りこむと、使用人の掛け声と鞭と共に馬車が走り始めた。
馬車内の使用人は怪我はないかとか様々なことを心配してくれる。
そしてこれからのことを説明し始めてくれた。
「これから向かう先は、西方の山奥の別荘です。王都に向かうべきかとも旦那様は悩んでいらっしゃいましたが、町に攻めてきた敵の数を見て王都も危ないと判断したのでしょう」
「そのあとは?」
さっきまで声を上げて泣いていた妹も、今は私に抱きつきながら声を殺して泣いている。
そんな妹を抱き返し頭をなでながら私は使用人に質問した。
「わかりません。王都や各地から兵が集められているとは思いますが、どこで食い止められるのか。また同盟国が駆けつけてくれるとは思いますが、間に合うのかわからないと旦那様は仰ってました」
「でも、いきなりこんなことに…。つい昨日までは平和だったのに」
「そのことについては先日までの大雨が関係しているようです。」
「大雨が?」
「はい。戦地ではここ一帯以上に雨が続いていたらしく、武器の大部分の火薬が使えなかったと報告がありました。また、部分的には豪雨となり河川が荒れ、山の細道も崩れてしまい伝令兵が各地にたどり着けなかったとも聞いております」
外に目を向けると街道の木々が倒れるとまでは行かないまでも枝が散乱している上に、道そのものも部分的にぬかるんでいる。
手綱を握る使用人は屋敷で一番の馬術の腕を持つが、それでも全速力でとはいかないようだ。
そのとき、私達の後方から私達のとは別の馬の足音が近づいていることに気がつく。
使用人も気が付き急いで確認を行う。そしてすぐさま「追われている」、「急げ!」と御者に伝え武器をとった。
使用人が私達になんとしてもお守りしますと伝える声を聞きながら、私は妹をより強く抱きしめた。
しかし後方からの馬が追いつくとそこから事態は一瞬だった。
「地主の娘がいるぞ!」、「それ以外は殺しても構わん!」、「高く売れるぜ!」、そういった荒々しい声が聞こえるやいなや馬車は倒され、私と妹は捕らえられた。
逃げられないように手足を縛られ、袋を被らされた。
長い間馬に揺られることになった。
場所がどこかもわからない。どれほどの時が経ったのかもわからない。
与えられる食べ物は不定期で非常にみすぼらしいものだった。
そして最後には乱暴に床に投げ出され、顔の袋を外された。
「ひっ」と思わず声が出た。薄暗い中、多くの人が鎖に繋がれている。
思わず見てみると、私の足にも同じように鎖が繋がれていた。
そして何より絶望したこと。
それは妹がいなかったことだ。
拙い文章ですが読んでいただき幸いです。
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