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19 奴隷商と その2

「どうぞ旦那様、仰ってください」


 俺から依頼するのは久々とあってか奴隷商は興味津々だ。

 

「ああ、あの子、名前はカリンと言ってな。実は妹がいるらしいんだが、あんたのとこの地下牢ではもう姿がなかったらしい」


 奴隷商はほうほうと同調しながら話を聞いている。


「カリンは妹と一緒に捕まったと言っている。おそらく奴隷になっているこの妹を探してくれないか?」

「なるほどそういったご用件で。その妹のお名前は?」

「ああ、リナという名前だ」

「少々お待ち下さいね旦那様」


 そう言うと奴隷商は鞄の中からリストを取り出し、西方出身のリナ、リナと言いながらペラペラとめくり始めた。

 一通り探すと奴隷商はこちらを向き目を伏せて首を横に振った。

 

「そうか」

「いえいえ旦那様。手元のリストだけですとわかりませんが、事務所の方にもまだまだ可能性はございますし、いざとなったら私の人脈を使って幅広く探させていただきますよ」


 奴隷商はとても前向きだ。


「しかしですね、」


 奴隷商は不敵な笑みを挟む。

 構わないさ。俺もそれくらいは織り込み済みだ。


「ああわかってるとも。さっきの上乗せ分は前金で構わないさ。実際に妹が見つかったらそちらの言い値を考慮するし、見つからなくてもある程度は支払うつもりだ。」

「旦那様、流石でございます。私も全力を尽くして探す甲斐がありそうです」


 奴隷商はいい仕事を手に入れたとニンマリする顔を抑えることが出来ていない。

 

「それにしても旦那様」

「どうした」

「私めも自分で言うのは憚られるのですが奴隷商を生業としおります。表立つような仕事をしているわけではないのに、金額面など良く信頼なさってくれますね。なにかあったんですか?」


 奴隷商はアクの強い顔をこちらに向けながら聞いてくる。

 

「いや、別にこれといって。ただ、こういった仕事は相手を信頼しないと始まらないしな。昔俺が投資した結果、なんやかんやお前は今でも上手くやってるんだ。信頼するにはそれだけで十分だ」

「ありがとうございます旦那様。不躾な質問をお許しください」

「別に構わないさ」


 大方の話は片付いて一息つく。

 すると何かを思い出したかのように奴隷商が新しい話題を振ってきた。

 

「旦那様、長くなって申し訳ないのですが、もう一つだけよろしいでしょうか?」

「なにかあるのか?」

「あのですね、他の町の投資家や金融家、あるいはその類の方ともこうして契約を結んでいるんですが、戦争が終結したことによって色々情勢が変わるじゃないですか」

「俺も身を持って体験している真っ最中だがそれがどうかしたのか?」

「はい、そのときにですね、資金が足りなくなった!とかあてが大きく外れた!とか言って急いで金を作ろうとした方も中にはいたんですよ」


 そういうことか。言いたいことがわかった。

 

「なるほどな。俺が投資に失敗したらカリンを売ってくれってことだな」

「いえいえいえそんな、旦那様が投資に失敗することなどありえません!ただ、やはりその不都合と言うか予期せぬ出来事というのも尽きないお仕事だと思っております」


 奴隷商は回りくどく話を続ける。

 

「ですので、旦那様に万が一のことがあった場合、あの娘を私にまた売ることができるという選択肢を覚えていてほしいのです。西方の言葉を使えて、この香りですとお料理も得意なことでしょう。噂によると詐欺師を捕まえるのに一役買ったとかなんとか。さらにはあの顔立ちと髪!おそらく引く手あまたかと思われますので」


 いつの間にか奴隷商もカリンの呼び方を変えていた。

 俺に合わせて距離感を変えたのだろう。立ち回りが上手い男だ。

 ともかく、奴隷商からしてみたらカリンはかなりの上物のように見えるらしいが、もちろん俺も手放す気などさらさらない。

 

「気持ちはわかるが、売るなんてことは無いさ」

「いえいえ、覚えておいていただければそれで構いません」


「私からは以上となりますが、旦那様からは何かございますか?」

「いや、俺としても商談ができて満足しているところだ」


 そこで俺は立ち上がり、伸びをしながら、

「それではここらへんでお開きにしますか!」


 と、わざとらしく少し大きい声で言う。仮にそうしていたとしても顔は合わせたくないだろう。

 

「そうですね。私も御暇させていただきますね」


 奴隷商はよっこいしょと立ち上がり、二人で玄関まで向かう。

 

「ええと、カリンさんでしたっけ。彼女はお出迎えに来てくれませんでしたね」

「まあ、流石に自身を売り飛ばした人の見送りは勘弁してやってくれ」

「ふふ、冗談ですよ旦那様」


 それでは。妹さんの件は任せてくださいと最後に伝えると、奴隷商は馬車に乗って行ってしまうのだった。

 

 今回の奴隷商との話はなんだか長くなってしまった。

 そう思いながら家に戻ると奥からカリンがひょっこり顔を出してきた。

 

「帰りましたか?」

「ああ、帰った帰った。もう出てきて大丈夫だぞ」


 目をつむり大きくため息を着きながらカリンは出てきた。

 そこで俺は聞いてみる。


「カリン、その動作は本当か?」

「えっ」


 予想もしてない言葉にカリンは驚いた様子を隠しきれないでいた。


「俺が奴隷商と話している間、適当な家事をしておけと言っておいたが、何の音もしてなくてな。食器を洗う音も、カリンの歩く足音さえも」


 カリンは目をそらす。

 

「まさかとは思うが、一応聞いておくが、盗み聞きでもしてたんじゃないだろうな」


 少し間、静寂が空間を支配した。

 そしてカリンは白状した。


「申し訳ありません、ご主人さま。どうしても気になって最初から最後まで聞いていました」


 カリンはうつむいたまま答えた。

 

 俺はひとつため息をつき、少しかがんだ。

 カリンと同じ目線で言葉を続けた。

 

「別に怒ってなんかいないし、叱ろうとも思ってないさ。カリンとしては妹のことが気になって仕方がなかったんだろう?」


 カリンは少し震える声で一言、はい。と返事をした。

 

「盗み聞きは確かに良くないが、今回は相手があの奴隷商だ。特例でいいだろう。他の普通の商談だったら盗み聞きなんかはしないで俺の隣にいてくれ。助言を期待しているからな。頼んだぞ」


 カリンは震える声で再度、一言だけ、はい。と返事をした。

 

 しかしそこからカリンは一歩も動こうとはしなかった。

 かと言って俺はこれ以上どんな言葉をかけるべきか分からなかった。

 

 俺はカリンの頭を胸に抱き寄せるようにして、少しの間撫でてやった。

 少女は少し泣いているようだった。

(「次回の投稿は明日の23時です」みたいに小慣れた感じで後書きを書いてみたいものの、技術も予定もプロット的なものも一切ない初心者なのでそういったことが出来ず、ただ星をくださいと言うことしか出来ない著者)

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