16 困りごと
図書館の利用証を作成してた日から、理由を伝えれば基本的にカリンを外出自由にしてやっている。
別にカリンが外で無意味に遊んだり逃げ出したりするなんてことはないだろうという判断の基だ。
実際のところも、本のために図書館へ、買い出しのために町や市場へ、服を洗うために洗濯場へくらいしか報告を受けていない。
「ご主人さまー!ただいま戻りました!」
「おう、しまっておいてくれ」
「はーい!」
買い出しからカリンが帰ってきた。
喋りだしたときは、異国語の敬語というのもあってかときおりちぐはぐな面もあったが、最近では過度な敬語表現はやめて自然に話すようになってきた。
俺としてもこれくらいでちょうど良い。
それとは別に最近気になることが出来た。カリンの帰宅時間についてだ。
自由に外出させ始めた頃と比べて帰宅までの時間が徐々にではあるが遅くなり始めている。
外出を自由にしてから帰ってくるまでの時間について特に取り決めはしていなかったものの、当初はおおよそ想定の時間内にカリンは帰ってきていた。
カリン自身も俺を心配させないようにとか、変に疑われないようにと思っているはずだからそのあたりも考えて行動しているはずだが…。
ここでカリンに聞いてもいいだろうが、まあ外に一人で出られたらやれることも増えるだろう。
今のところ釣り銭をごまかされたりということもされてないし、多少は目をつむるか。
「ご主人さまー!お夕飯の支度でよろしいでしょうかー!」
階下からカリンが大きな声を出して聞いてくる。
「ああ、いいぞ」
「はーい!」
それから数日、カリンの帰宅が遅くなるのは買い出し帰りのみであるということがわかった。
図書館へ行った場合は大体同じくらいの所要時間だし、遅くなったとしても気になる文献が書庫の奥の方にあって探してもらっていたとか、近所の子どもに読み聞かせを行っていたとかそういったカリン本人から説明を受けていた。
ただ、買い出しになるとそういった釈明も無い。
「今日は一段と遅いな……」
そう一人でつぶやく。
それと同時くらいかの瞬間に玄関が開く音が聞こえた。
「ご主人さまー戻りましたー!遅くなって申し訳ありません!」
玄関からカリンの声が聞こえてくる。
何かあったのかと思い仕事場の席を立ちカリンを迎えに行く
「なんだか今日はいつもよりも遅かったな、何かあったのか」
そう言いながら玄関に向かう。
するとそこには両手で紙袋を抱え、なんとか一人で持ち運べる量の荷物と格闘しているカリンがいた。
「おいおい、どうしたんだその量は」
「すいません、ご主人さま」
荷物の一部を受け取り二人で食料庫に向かい食材を片付け始める。
「それがですね、ご主人さま」
片付けながらカリンが話し始めた。
「最近買い出しに行くと、店主の方によく声をかけられるようになってしまいまして……」
これまでの買い物では俺が隣にいたから話しかけられることはなかったが、一人で買い物をし始めると声をかけてくる人が多いようだ。
「店主やその奥さんの方々も良い人ばかりで、私が西方出身と知ってからは一人で寂しいでしょうとか、困ったことがあったら相談してねとか良く言ってくださるんです」
首輪の無い状態で奴隷という扱いにすると、くすねた鍵で首輪を外して脱走してると誤解されてしまうので、最近は便宜上カリンのことを使用人として通している。
そのこともあってか町の人も親しみやすくなってるのだろう。
「それにしても最近妙に帰りが遅くなり始めてたじゃないか。迷惑ごとにでも巻き込まれていたのか?」
食材を片付け終わり、カリンは今キッチンで夕飯を作っている。
俺はテーブルに着いて話を続けている。
「いえ、迷惑ではないんですけど……。その、色々話しかけられたり、あと食材をおまけしようとしてくれてそれを毎回断っていたのでどうしても時間がかかってしまっていたんです」
「なるほどな。で、今日初めておまけをうけとったと」
「はい、そうしたらあっちで果物を受け取ってるのを見たぞーなんて言われてしまってそこから断ることも出来ずに……。」
で、あの荷物になったわけか。俺でも一人で持てるか怪しい量だった。
歩くのも一苦労だったろう。
出来上がったシチューと今日買ってきたパンが俺の前に置かれる。
「そのパンも本当はいつもどおり半斤買う予定だったんですけど、同じ値段で一斤になってしまいました」
適当に相槌を打ちながら俺が夕飯を食べ始める。
最後にカリンは伝えるのが遅くなり申し訳なかったと謝っている。
遅くなった点についてはとっとと教えてほしかった面もあるが、たしかに下手したら商店の人達のせいで帰りが遅れたと捉えられてしまう可能性もあって言い出しにくかったのだろう。
「別に大した問題は起きてないんだから、気にする必要はない。夕飯が冷める前にカリンも食べてしまいなさい」
そう言うとカリンはパッと明るい表情に変わり、お礼を言って夕飯を食べ始めた。
しかしどうしようか。
「あっちのご厚意なんだから強く断るのも失礼に当たるかもしれないしな」
「そうですよね。どうしましょう、これからも受け取って良いのでしょうか」
「一応一度断って、それでも渡してくるようだったら半分とかもらうようにしとこうか」
一人で外で判断出来ないとなると色々不都合が出るかもしれないし、無駄に長引くと俺の方も何かと困る。
落とし所としてはこれくらいで良いだろう。
「承知しましたご主人さま」
「ん。それでよろしく」
カリンに引きずられてか俺の言葉遣いも次第に砕けたものになりつつある。
別に嫁や部下が近くにいるわけでもないからそのあたりはどうでもいいか。
「あとそれとだ、」
付け加えるように俺は話す。
「なにか困ったこととか、わからないことがあったら早めに俺に伝えることな」
「はいご主人さま」
カリンは笑顔で返事をするのだった。
夕飯後、いつものように共用風呂に出かける。
一人で行っていいぞと言っても一緒に行きましょうとカリンも譲ることはなかった。
結局の所面倒と思いながらも今でも二人で行くことになっている。
カリンの風呂の料金については以前俺が払うから良いと言ったものの、俺の入浴料は俺自身が払うんだから無理やりついてこさせるってのもなんだかな……。
いや、清潔でいる事自体は悪くないんだが……。
そんなことを思っていたときの俺の表情はなんとも言えないものだったのだろう。
それを察知したカリンがこう言い出した。
「ご主人さま、私の料金は持ってくださってますが、ご主人さまの分はご自身で払うことになりますよね?」
「ああ、そのとおりだ」
「でしたら、私がもらってくるおまけでその分を相殺、という風に考えていただけないでしょうか?」
首を傾けながらも顔はニコリとさせて俺に提案してくる。
よくもまあそんな色々思いつくもんだ。
「ああ、わかった。それで良い。ただ、さっき決めたようにもらう量は半分くらいに抑えておくんだぞ」
「もちろんですよ、ご主人さま」
風呂上がり後、歩いて家に帰る。
そのときいつもとは違う香りが漂っている事に気がついた。
「気が付きました?ご主人さま」
「新しい石鹸でも使ったのか?」
「はい。日用品店の奥様が余り物だからと言ってくださったんです」
「ちゃんとお礼言っとけよ」
当然ですよご主人さま、と返事をしたカリンは上機嫌に歩いている。
その体が上下に揺れ、髪がフワリと波打ち、花の甘い香りがあたりに広がる。
俺はそれの姿と香りをなんとなく楽しみながら風呂もそんなに悪くはないなと思い直すのだった。
下手な小説ですがお読みくださり感謝です。
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