15 器用な男
図書館ではここに来る途中で説明したような内容の本を選ばせる。
とはいっても全く興味の無いような分野の本を読ませても苦痛なだけなので、ある程度はカリンの裁量に任せておいた。
俺はその間に以前登録した利用証をカリンのものに変えてもらう手続きを行う。
「あれ、イワンじゃないか」
図書館勤めの旧友が声をかけてくる。
「おう、久しぶりだな。利用証の引き継ぎを頼む」
「誰にだい?」
「あそこのカリンという奴隷にだ」
「へー、イワンが文字の読める奴隷を。なんか意外だな」
「まあ、色々あってな」
「手続きはこっちでやっとくから、終わったら声かけるよ」
「ありがとな」
カリンの本の選定が終わったらしくこちらに向かってきた。
内容を見てみるが、地理、歴史、主要な法などバランス良く手にとってきたようだ。
しかし、足りないものがある。
「カリンは小説とか娯楽としての本は読まないのか?」
「いえ、そんな。確かに昔はよく読んでましたけど、今は…」
「奴隷という身分なら大して気にしなくて良いぞ」
気持ちはわかるが、と伝え俺は続ける。
「妹のことが気になるというのもまあわかるが、今焦ってもことが良くなるわけでもないだろう。せめてお前だけでも元気に過ごせるように毎日の楽しみを確保しておきなさい」
カリンは少し考えたあと、
「ありがとうございます、ご主人さま。小説も探してきますね」
と言ってまた本を探しに行くのだった。
帰り道、思いの外重たくなってしまった本達を持って歩く。
「ご主人さま、それにしても料金は払わなくてよかったのですか?」
「ああ、昔まとめて払ってあってな」
それに加えて、あの旧友がこっそり本来の仕様期限を引き伸ばしてカリンに利用証を渡したようだ。
可愛らしい子にはサービスしないともったいないじゃないか、なんて言っていたが器用な奴だ。
「それと、図書館への道順は覚えてるか?」
「もちろんです」
「それならこれからは一人で図書館に行ってくれよ」
「いいんですか?ご主人さま、私を一人で外出させて」
「いいもなにも働く予定なんだろ?奴隷が一人で出歩いてたら衛兵に捕まるかもしれんが首輪もしてないんだからバレはしないだろ」
カリンは少し笑ってありがとうございますと感謝の言葉を言うと、本で手が塞がってて腕に抱きつくのは出来なかったためなのか、あるいはさっき俺が町中ではやめてくれと思ったのが伝わってしまったためなのか、頭を傾けて俺の腕にあててくるのだった。
数あるなろう小説の中からここまでお読みくださってありがとうございます!
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