14 図書館へ
カリンの妹を助けて欲しいと説明を受けてから数日、それからというものカリンとの生活は大きく変わった。
喋らなかった頃は何を考えているか全く分からなかったが今ではそんなことない。
どちらかというとおしゃべりな方なのではないかと思うくらいだ。
「ご主人さま!ここの部屋を頂いてもいいんでしたよね!」
「ああ、使ってくれ」
「ありがとうございます、ご主人さま」
その言葉を聞くと、窓を開けて空気の入れ替えをし、クローゼットに服をしまいこんでいくのだった。
以前の整理でいらないものはあらかた裏庭に運んでしまったが、俺が昔買った数冊の本やどっからかのお土産なんかはまだ部屋にある。
「カリン、俺の私物は寝室の机にでも置いといてくれ」
「承知しました、ご主人さま」
そう言うとカリンはテキパキとこなしていくのだった。
今日は特に予定もない。
天気は良いのだが、買い物などの必要も無いし少し手持ち無沙汰だ。
カリンを買った当初にやらせるつもりだった掃除なんかも玄関から俺の仕事部屋までやらせてしまったし、いよいよやることがない。
ああ、でもそうか、カリンはこっちの言葉を理解しているのか。
「ご主人さま、お部屋の片付けが終わりました。あとは何をすれば良いでしょうか」
「いや特に今日は無いな。それより、カリンはこっちの言葉はどれくらいわかるんだ?話すのも読み書きもできるのか?」
「はい、日常的な内容でしたら一通りできると思います。」
「そしたら外に出るぞ。あそこに行こうか」
「どちらにむかうのですか?」
カリンは首をかしげて聞いてくる
「図書館だ」
この町の図書館は北区にある。
他の町のものと比べるとやや小さいが書籍の数は十分だ。
俺とカリンは横に並びで歩きながら会話をしている。
カリンの首輪はもう外してしまった。
確かに買った奴隷ではあるものの、逃げ出したりはしないだろう。
「図書館に行くとおっしゃいましたが、本をお読みになるんですか?」
「いいや、俺は読まない。読むのはカリン、お前だ」
「私ですか?」
俺は一通り説明を続ける。
「妹が今奴隷になっているかまだ売られる前なのかはわからないが、どちらにせよ助け出すには金が必要だ。カリンはその全額を俺に出させるなんて考えてないだろう?」
「はい、もちろんです。ただ…」
「働かせてもらえるか、だろ?」
「はい、私がお金を稼ぐ手段を見つけたとしても、許していただけるのでしょうか」
「あー、まあ、そもそもの話なんだが」
俺は一呼吸あけて話を続ける
「一般的に奴隷も使用人も雇用主から離れて働くことは少ない。なぜだかわかるか?」
「使用人はそれが仕事ですからお給料を貰えますし、奴隷は逃げ出してしまうからですか?」
「使用人の方はあっているが、奴隷の方は半分だな。逃げ出してしまうのもあるが、最低限の生活は保証されているから案外お金を必要としていないってのもある。あるいは手癖が悪いのも多いから雇ってくれるとこも少ないってもある。」
カリンはそうなんですねと相槌を打つ一方で話がどこに向かおうとしているのかわかりかねている。
「一方カリン、お前を使用人のように考えて給料を渡すというのも考えられるがその分のお金は奴隷商に払う予定になっている。悪いがな」
「いえ、そんな」
カリンは慌てて謝る
「だから町である程度稼いでもらうことになる。別に逃げたりしないんだろう?」
「働かせてもらえるんですか?」
「ああ、ただ奴隷を買うとなるとそれなりの金額が必要だ。そこでだ」
遠くの方に図書館が見えてきた。
その周辺には古本や本の移動販売など書籍に関するお店が連なっている。
「まずはこちらの国や町のことをあらかた勉強してから稼いでもらったほうが効率がいいだろう」
カリンは少し驚いた様子を見せるが、もしかしたら少しは予想できていた話だったのかもしれない。
「お前は二ヶ国語を話せて、お向かいさんが言うように多少顔立ちも整っている。これまで一緒に暮らしてきたからわかるが頭も回るし勘も冴え渡っている方だ。安く買い叩かれるのは惜しいものがある」
そんなことないですとカリンは目を逸らす。
可愛らしいもんじゃないか。
「ということでしばらくは図書館に通ってもらう。こっちの国や町の歴史、主要産業、交通、情勢なんかをあらかた知っておいてくれ。その間に分のいい仕事を探しといてやるよ」
カリンに目を移すと目をキラキラと輝かせているようだった
「ありがとうございます!ご主人さま!」
そう言って腕に抱きついてくる。
ここは町中なんだからあまりそういったことはしてほしくないものだが……。俺は二度三度カリンの頭を軽く叩いてやる。
「でもご主人さま」
カリンが顔を上げ、こちらを見上げて聞いてくる
「私に学ばせようとする内容は、ある程度ご主人さまの投資先の参考にするつもりですよね?」
「はは、バレてたか」
「見くびらないでくださいねご主人さま」
カリンはこちらをじっと見つめながら説明を始めた。
「今日、物置部屋から寝室に運んだもののうち、いくらか本がありました。内容はご主人さまのお仕事に関係する投資や外交関係、あるいは貿易に関するものもいくつかありましたが、数は多くありませんでした」
そういったところもきちんと見ているのか。
まったくよくやるもんだ。
「また、ここ数日家中の掃除をしましたが、本があるのはお仕事部屋の本棚だけでした。ただホコリはつもりっぱなしで、本を動かした形跡はありませんでしたよ」
カリンは少し考えてから俺に交渉してきた
「そうですね、毎日お風呂に連れて行ってくださったら私も色々教えてあげますよ」
なかなか強気なやつだ。
ただ、俺も新聞を読むくらいだったらいいんだが本を読むのは面倒で、投資先に考案は現地調査に切り替えてしまっているという事情がある。
カリンには完璧に見抜かれてしまっているようだ。
「ああ、わかったよ。それで手を打とう」
カリンは満足げに笑って感謝の言葉を口にするのだった。
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