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10 異国語の寝言

 昨日の長風呂のことを考えると奴隷も長めに堪能するだろう。

 そう考えてじっくりと風呂を楽しむ。

 あの奴隷が来てまだ三日目だが、生活は大きく変わり始めているという実感があった。

 

 風呂から上がって長椅子を見るといつものように姿勢正しく奴隷が座っていた。

 しかし、こちらを見る目は昨日のように不満の色をしていなかった。

 

「帰るぞ」


 そうして二人は帰路につく。

 今日の活躍を見て奴隷に鎖はつけないことにした。

 ただ、人攫いなんか起きてしまっては面倒なので首輪だけはつけている状態だ。

 

 帰り道、少しショッキングな光景が広がっていた。

 奴隷をその持ち主と思われる主人がひたすら引っ叩いていたのだ。

 何か物を壊したのか、逃げようとしたのかはわからないが、主人は玄関先で何か大声で言いつけながら奴隷を痛めつけている。

 

 うちの奴隷は優秀で助かっている。正直あんな事できる自信は無い。

 隣を歩く奴隷に目を向けると、やはりというべきか動揺が見てとれた。

 

「さっさと行くぞ」


 申し訳ないが何もしてやれることはない。

 うちの奴隷に悪影響が出る前にその場を後にした。

 

 

 

 「今日は疲れたしとっとと寝るぞ」

 

 帰宅してそう言い終える前にはもう奴隷は寝室に走っていってしまった。

 ちょっとした疑問を抱えながら俺も寝室に向かう。

 

 一応奴隷には奴隷としての自覚があるらしく、俺が寝室に入るまではベッドに座って待っている。

 俺が部屋に入るとベッドに横になるようだ。

 俺が見ていないところでベッドでだらけているのは良くないと思っているのかもしれないが、本音を言うとどちらでも良い。

 

 ガス灯を消して部屋を暗くする。

 俺も眠い。

 リビングで寝ろだのなんだのと言うのは今日はやめておくことにした。

 

 

 

 夜中、またしても目がさめる。

 もしやと思い見てみると奴隷が先日と同じように俺を抱き枕として利用していた。

 しかし、一言だけ西方の国の言葉で


「お父さん……リナ……」


 と寝言を聞き取ることが出来た。

 

 やはり戦争に巻き込まれ、奴隷として売られて来た身としては家族は恋しいものだろう。

 だからといってこの奴隷の家族を探すというのも情勢を考えると厳しい。

 父親はわからないが、リナというのが妹ならば奴隷としておそらく捕まっていると考えるのが自然だ。

 

 さあ、とっとと寝よう。

 奴隷の頭を二度三度なでてから俺は再び眠りに落ちていった。

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