01 少女目線のプロローグ1
「お姉さんこっちこっち!」
ある晴れた日の朝、妹のリナが庭の向こう側で手を降っている。
何日も大雨が続いてようやく天気が良くなったからか、今日は大はしゃぎだ。
「今行くから!転ばないようにね!」
芝生にはまだ露が残り、湿度も高いものの、私も気分が良くなる。
「お姉さん、見て!町がすごく綺麗!」
そう言われて庭の端から町を見下ろすと、数日前とは少し異なる景色が広がっていた。
いつもなら鍛冶屋や鉄鋼場からモクモクと立ち上る煙が多く見られたが、今朝は全く見られないのだ。
「なんで煙が今日はないの?」
妹の素朴な疑問に少し考えてから私はこう答えた。
「最近の大雨で材料が工場に届かなかったんじゃないかな。だから今日の午後くらいからはまた煙だらけの景色に戻っちゃうかもね」
えー、なんかもったいないなー。と妹は残念そうな顔をした。
この町の主力産業は戦争に使用する武器や道具全般。
マスケット銃や大砲、ナイフなどの武器はもちろん、兵士の防具や縄梯子や軍旗まで幅広く町全体で生産している。
それらの産業をまとめているのは私の父。
私が生まれる前にここに来て町を興し、今では町長となり町全体を束ねている。
「お父さんに頼めばこの煙を出さないようにしてもらえるかな?」
生まれつき肺が弱い妹にとってどうしてもこの煙は嫌いみたい。
「うーん、愛娘がそんな無理なお願いしたらお父さん困っちゃうんじゃないかな。しかも工場が止まって仕事がなくなったら町のみんなが生活できなくなっちゃうよ。」
妹は不満な顔をするも、数秒後にはどうすることもできないと悟ったようだった。
「それじゃ今のうちに遊んでおこう!一緒に町に行こう!」
妹はそう言うと私の返事も聞かずに屋敷に走っていってしまうのだった。
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「今日は休日だけれども、午後からは工場や鍛冶屋が本格的に稼働するだろう」とお父さんが言っていたのでそれまでに妹と町へ出かけることにした。
工場の材料が届いていないのだから新鮮な食料などももちろんなかったが、服やアクセサリー、馴染みの店など多くをまわった。
リナがお気に入りの店に到着するときれいなネックレスが目に入った
「えーっ!これいつからあったの?」
「これかい?先日の大雨のちょっと前くらいに入荷したんだ。南方の遠くの国で最近流行りだしたデザインでね。」
リナと顔見知りの店主が楽しそうに話している。
つい昨日まで外に出れずにふてくされていた様子とは大違いだ。
私も店内をひとまわりすることにした。
大きな真珠や精密な細工が施されたアクセサリーがある一方、頑張れば子どもでも買うことができる値段のものまで様々なものが取り揃えられている。
そのとき、外から大きな爆発音が聞こえた。いや、聞こえたというよりも体全体を凄まじい衝撃が襲いかかったというべきものだった。
地面や建物全体が揺れ、耳を塞いでしゃがむことしかできなかった。それでも爆発音は止むことがない。
混乱の中、妹のことを思い出し這うようにして側に寄った。
私が近づいた事に気がついた妹は怯えた顔で私に抱きついてきた。
「お姉さん!何が起きてるの!」
「わからない。でも大丈夫、私が側にいるから、大丈夫」
怯える妹を強く抱きしめ安心させようとするも私自身も体が恐怖で震えていた。
覆いかぶさるように妹を守り、一刻も早くこの恐怖から逃れたいと強く祈ることしかできなかった。
数十秒の後、振動と音が静まってから外に出てみると、悪い意味で店に入る前とは様子が一変していた。
建物の多くには穴が空いていて中には崩れているものもあった。多くのところから火の手があがり、道は抉られたかのように形を歪めていた。
「これは……砲撃?」
町の外からの砲撃だと気がつくのと同時に、遠くから怒号と叫び声が聞こえ始めた。
「お姉さん」
震える妹の声が聞こえた。そちらを見ると妹が泣きそうな顔でこちらを見ている。
「急いで家に帰らないと。走れる?」
私の問いに妹は返事はできず、ただ怯えた顔でうなずくだけだった。
私も怖いし泣きたかったけど、それを悟られないように妹の強く手を握り一緒に屋敷に戻るのだった。
読んでくださりありがとうございます。
物書き初心者のガタガタな作品ではありますが、評価やレビューをしていただけると本当に嬉しいです。