フタタビ
思ったよりも早く集合場所に着いてしまった。
何かいやだ。
かなり気合入ってるみたいじゃないか。
いや・・・・そうなのかも。
「お、はえーじゃん」
信太郎がにやにやしながら駆け寄ってきた。
後ろには女3人とイケメン翼。
ん?よく見ると女の一人が栗野ゆきだった。
あっちも「げっ」って顔したがすぐにそっぽを向いた。
俺も変に思われないようにみんなに「おう」とあいさつした。
信太郎は俺の耳元で「な?かわいい子っつったろ?」と自信ありげに言ってきた。
いかにもお前が連れてきました、って感じに少しいらっとしたけど表情には出さなかった。
「じゃあ、みんな揃ったところで、行きますか?」
すると女3人が口を開いた。
「なんであんたが仕切ってんのよ!ねえ、翼くんいこ!」
ははは。信太郎ドンマイ。
信太郎はまるで4コマ漫画に出てくるような、へ?って感じの表情で学校に向かって歩いて行く4人を見ていた。だんだん俺も複雑な気持ちになってきた。
「なあ信太郎。本当に俺来て良かったの?」
「ん?ああそれはもちろん。心のケアをしてくれる人が欲しいじゃん」と言って俺に親指を立てた。
勘弁してくれよ。
学校に着いた時には19時を回っていた。学校は思ったとおり静かで暗くて不気味で。それでいて吸い込まれそうな雰囲気をかもしだしていた。俺達6人は校門の前で立ちすくんでいた。
「ねえ信太郎。どうやってはいるの?正門閉まってるじゃん。」
女の子たちは少しめんどくさそうに言った。
すると信太郎はお構いなしに正門を軽い身のこなしで乗り越えた。
「早くお前らも来いよ!」
あちら側でにこにこしながら信太郎が手まねきしている。
「あんたねえ、私たちがそんなことできるわけないじゃないよ!!」
「そうよ!そんな私たち運動神経ないっつーの!」
「困ったね。ゆか、なおみ。どうする?」
するとイケメン翼くんが口を開いた。
「僕が肩車してあげるよ。そしたら超えられるんじゃない??」
わお。まるで天使の笑顔だ。向こう側で猿見たく手まねきしてるやつと同じ人間には思えん。
すると女の子3人たちが赤面しながら顔の前で手を振っている。
「いいよそんなことしてくれなくて。私たちなんとか頑張ってみるから!ね?」
ゆかが2人に顔を真っ赤にしながら、にこにこしながら言っている。
なおみも同じようにうんうんとうなずいてる。
しかし、栗野ゆきは、栗野ゆきなわけで。
「え?ほんとに?ラッキー!ねえ2人とも遠慮しないで翼くんに頼ろうよ」
この女はとことんわが道をいくやつなんだな。
「ばか!そんなことしたら翼くんに悪いって!!」
「いや、僕は全然大丈夫だよ!ね、拓也。拓也も手伝ってくれるだろ??」
急に話を振られて俺は声が裏返ってしまいそうだった。
「え?え?俺?」
すると栗野ゆきがすかさず口を開いた。
「ねえ翼くん肩車おねがしまーーす。」
「私たちもお願いしまーす。」とゆかとなおみもすかさず翼くんに肩車をお願いした。
俺ってなんなんだろう。そして向こう側の猿!!てめえも腹抱えて笑ってんじゃねーよ!
とまどっている翼くんを見かねて俺も何とか女子を説得したのち栗野ゆきを肩車した。
「ねえ!」
「なんだよ!早くしろよ!」
「変なとこ触んないでね」
「あのなー・・・・」
もうわかってたことだが、栗野ゆきは俺になにかしら恨みがあるに違いない。
何とか正門を突破し俺達は校舎に向かって歩き出した。
校舎が近づくにつれて俺達の声もしだいに小さくなっていった。先生たちはいないとわかっているはずなのに、誰かに見つかるかも知れないという想像がみんなの頭の中に駆け巡っていたのかもしれない。
まずは屋上に上るために第3棟に俺達は向かった。
一歩一歩歩くたびに足元の雑草を踏む音が響いた。
しゃり、しゃり、しゃり。小さな音だけれどこのときばかりは大きいな音に感じられた。もう、ゆかとなおみは一言もしゃべっていなかった。
「お、ここだ。」
信太郎はそう言って第3棟の1階の窓を開けた。
「え?何で開いてるの?」と久しぶりにゆかが口を開いた。
「ここはなもうほとんど使われていない教室でよ、俺が前来たときに鍵開けといたんだ。こういうときのためにな。」
「へーー」と特に感心してるようには見えない空返事をゆか達はした。
俺は逆にものすごく感心してしてしまった。
このようなシチュエーションになることをはるか昔から考えていたのか。
ばかだろ。
だけどこのばかのおかげで俺らはすんなりと校舎の中に入ることができた。
すると懐かしいにおいが鼻の中に入ってきた。
「ん?ここどこの教室?」
暗くてよく分からなかった。きしむ床の音とこの嗅いだことのあるにおい。
「美術準備室だよ」と横から声がした。
栗野ゆきだった。
「へーーそうなんだ。こんな教室あったんだー」と翼くんが驚いていた。
「確かにこんなところ入ったとこないね」
「うん。はじめて入ったー。」
ゆかもなおみも知らないみたいだった。
「ま、おれは知ってたけどな」と信太郎が言ってきたが、みんな自然とスルーしていた。
暗闇でも猿の悲しい顔が簡単に想像できた。
その時ふと俺の頭の中に「はじめまして」という言葉が走った。
「あ、ここか。」