第三話 ~お前はママではない!~
「おっちゃーん! あーけーてー!」
空き地問題から数日後。
ついに始まったゴールデンウィークの朝に惰眠をむさぼっていると、またもや幼女が扉の向こうで騒いでいた。
面倒くさいし居留守を使いたいところだが、放っておいてもあきらめずに騒ぎ続けた前科があるからな。
仕方がないので、さっさと追い返すために布団から出て、扉を開いた。
「おら、そう扉をドンドンするな。俺は今日、忙し、い……」
「あ、小森さん。ごめんなさい、お休み中のところ」
幼女の奴、一晩で大きくなりやがった!? ――なんてとっさに思ってしまった美女が目に入り、思考が止まる。
で、視線を落としたらいつもの幼女が居るのを見て、ようやく理解した。
「ああ、唯さん! おはようございます! どうかなされましたか?」
申し訳なさそうにする幼女の母親に明るく言いつつ、必死に寝グセを撫でつける。
寝間着姿なのはどうしようもないし、こんな美人さんの前でだらしない恰好をさらす羽目になるとは……おのれ、幼女め!
「いえ、お忙しいんだったら、また出直します」
「暇です」
「え?」
「忙しいのは勘違いでした。今日は一日暇です」
「そうなの? それはよかった!」
俺の発言で、しょんぼり美人さんが、笑顔な美人さんに早変わり。
うんうん。やっぱり、美人は笑顔に限るな!
「実は、急な仕事が入ってしまって……。お昼過ぎには帰ってこれると思うんだけど、それまで茜を預かってもらえないかってお願いにきたの」
「もちろん、よろこんで! 娘さんのことは、お任せください!」
返答なんて、これしかありないよなぁ?
だって、美人で、おっぱい大きくて、しかもおっぱいが大きくて美人なうえに美人だぞ?
どうしてお願いを断れようか。
「本当にありがとう。この前は、子供たちのもめ事も解決してくれたそうだし、お礼を兼ねて渡したいものがあるの。ちょっと待ってて」
「はい! いくらでも待ちます!」
すると、部屋に戻った唯さんは、小さなお鍋をもってすぐに戻ってきた。
「これ、昨日作ったシチューなの。残り物で申し訳ないんだけど、お昼に茜と一緒に食べてちょうだい」
「唯さんの手料理ですか? いやぁ、何よりのお礼ですよ。娘さんのことは任せてください! ハッハッハ!」
そうして、出勤する唯さんを見送り、幼女と一緒に部屋に戻って鍋をコンロの上に置いておく。
で、幼女を見れば、まるで汚物でも見るような蔑んだ目でこちらを見ていた。
「なんだ?」
「ふん。べっつにー」
それだけ言って、幼女は俺の部屋の物色に行ってしまう。
とはいえ、だ。
「おっちゃん、ほとんど何にもないんだけど……」
「まあ、家事やる以外はパソコンあれば大体何とかなるからな。せいぜいが、ゲームやるか、アニメ見るか、ラノベとか漫画でも読むかくらいだしなぁ」
「でも、漫画もちょっとしかないよ? しかも、途中からしかないし」
「それは借り物だから、汚すんじゃねぇぞ」
さて。昼過ぎまで幼女の相手をせねばならんわけだが、どうしたものか。
そう考えていると、ふと心当たりを思い出した。
「おい、幼女。ゲームするか」
「ゲーム?」
「おう。確か、この辺に……あったあった」
そうして探し出したのは、家からゲーム機を持ってくるときに持ち出したソフトに混じっていたパーティゲームだ。
これなら、小学生でもすぐに覚えられる程度の簡単なミニゲームもあるし、ちょうどいいだろう。
「ふーん。どうやるの?」
「そうだな。これなら簡単だし、すぐ覚えられるぞ」
そうしてやらせたのは、一番簡単なゲームだ。
特定のボタンを連打すると、画面内のキャラが空気入れを動かし、その先につながっている風船をどれだけ早く割れるかを争うだけのシンプルなもの。
「やったー! 一番だ!」
簡単操作だけあり、幼女の奴はあっという間にコンピュータ相手に勝利していた。
まあ、楽しそうだし、他のミニゲームもやらせておけば時間は潰せるな。
「ふふん。これは、おっちゃんよりも強くなっちゃったなぁ」
「……あ? 何を言ってくれてるんですかねぇ、幼女さんや」
「えー? だって、事実だし」
「ほほう。大人をあんまりなめるなよ?」
「でも、わたし、おっちゃんのママだし。ほら、ママだよー」
これは、ケジメ案件ですわ……。
「おら、コントローラーを握れや! お前はママではないってことを、はっきりさせてやらぁ!」
「じゃあ、おっちゃんが負けたら、ママが慰めてあげるね」
「上等だ! お前が勝ったら、いくらでも慰められてやらぁ! かかってこいやぁ!」
そうして始まった戦いは、思わぬ方向へと向かっていた。
(差が、つかない!?)
いや、魔術によって加速された思考で分析するに、わずかに幼女の方が早いように思われる。
……おい待て。負ける?
つまり、あいつをまたママと呼んで、慰められないといけない?
――ふざけるな。
そんな、尊厳も何も粉砕されるようなふざけたこと、またやらされてたまるもんか!
持てるすべてを、開放する!
(身体強化魔術は、肉体の限界を超える行為。使えば最後、長くはもたねぇ。治癒魔術で癒せばすぐ治るが、その治療の間に敗北しちまう。つまり、求められるのは、この戦いの終わりまで体を持たせられる繊細な術式コントロール!)
状況分析から結論までをボタンを一回押す間に終えた俺は、次の一回の間に筋肉の動きを分析し、肉体が持つ術式制御の演算を完全に終えた。
「さぁ、大人の本気をみやがれぇぇぇえええええええ!!!!!!」
決着は、すぐについた。
「わーい! おっちゃんに勝ったぁ!」
残ったのは、勝利に喜ぶ幼女と、俺の手の中で粉砕されたコントローラー。
……ふっ。コントローラーの強度は、計算外だったぜ。
「おっちゃん、勝ったよ!」
「そうだな……」
「約束通り、慰めてあげるね。ほら、ママだよー」
へへっ、約束かぁ……。
俺にも、大人としてプライドってやつがあるんだぜ?
「ママぁーっ!!」
「うんうん、よしよし」
この後、約束通り、唯さんが帰ってくるまでめちゃくちゃ慰められた。
あと、コントローラーは、錬金術で直した。
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