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第二話 ~空き地戦争・下~

「あー、小学五年生のお兄さんお姉さん諸君。仲良くできないというなら、仕方ない。一つ、このボールを使っての勝負で白黒つけようじゃないか」

「は? 何言ってんだ?」

「え? もしかして、負けるのが怖いのか? こんな『ガキども』に?」

「は?」


 ここで小五組の空気が剣呑けんのんなものになったことで、俺は勝利を確信した。


「おう、だったらやってやるよ! さっさとかかってこいよ!」

「それじゃ、勝負はドッヂボールでいいか?」

「ああ! なんだろうと、そんなチビどもに負けるわけないけどな!」


 そうして、あれよあれよと準備が整っていく。


 小二組は不安そうにしているが、この『勝負』が成立した時点で、俺の仕事は終わったと言ってもいい。

 今回の俺は、『遊び場を後から来た小五組に占領されている』ことを何とかしてほしいと呼ばれたのだ。『勝負』という名目で一緒に遊ばせることができた時点で、八十点くらいの結果は出せたと思う。


 今後は、まあこの戦いを通じて仲良くなって上手く話し合えでもすればいいんだろうけど、そこまでは管轄外だ。

 とりあえず、今日を何とかして、さっさと三度寝に戻れれば何でもいいんだよ。


 しかし、そんな思惑は、真白ちゃんのの思わぬ言葉で思わぬ方向に進むことになった。


「あれ、五年生の方が一人多いよ?」


 確かに、言われてみれば、二年生組は八人で、五年生組は九人だ。

 とは言え、小五組が一人休んでればいい。むしろ、ハンデってことで、もう少し休んでもいいんじゃないか?


 そんなことを考えている間に、お隣の幼女の奴に先手を打たれたのが致命的だった。


「あ! じゃあ、おっちゃんがこっちに入ってよ!」

「は? 何言ってんだ、お前? 流石に、俺が入っちまったら、向こうの連中がかわいそうすぎるだろうが」

「いやいや、別にいいぜ、『おっさん』。別に、トロそうなおっさん一人増えたところで、こっちが勝つに決まってるしよ。なあ、みんな?」


 小五組は、そうしてみんなでやんややんやとこちらを煽るような状況になった。

 何人かは空気に流されてるとこもありそうだが、随分となめられたものだな、おい。


「は、はは。じゃあ、まあ、参加させてもらおうか」

「おっちゃん! よろしくね!」

「本当に大丈夫なのかよ……」


 向こうの空気に当てられたのか、小二組も、幼女を除けば俺の方を疑わし気な空気で見ている。


 まあ、俺も大人だし? こんなガキどもを見返すのは簡単だ。

 だがまあ、そんな大人げないことをするほど恥知らずではない。

 主役は子供たちだし、適当に手加減した上で揉んでやって、現実を叩きつけてやろうじゃないか。


「それじゃ、行くぞ!」


 試合は、小五組の攻撃から始まる。

 まずは内野から外野へと山なりにボールが送られた。


 そして、こちらの内野陣を狩るために、敵の外野からボールが放たれる。


「みんな、散れ!」


 小二組の男子のそんな言葉に従い、こちらの内野陣が一斉に散開する。


 さて、俺もボールを避けて――あれ? なんか、ボールが思ったよりも早くね?

 てか、体ってこんなに動くのが遅いものだっけ?

 あれ?


 ――トン。


「あ……」


 乾いた音に続き、誰のものか分からないつぶやき。


 あまりの現実にしばらく沈黙が場を沈黙する。


「おい、あいつ、一発アウトじゃねぇか! ダッセぇ!」

「何してんだよ、おい!」


 敵味方からの、嘲笑や非難が出るわ出るわ。

 あまりにもあんまりな結果だったことから、一人言葉もなく固まる幼女を背に黙って外野へ赴くことしかできなかった。


「それじゃ、さっさと全滅させてやろうぜ。行くぞ!」


 そうして一気に士気を上げた小五組の猛攻が続く。

 そのままあれよあれよと小二組はボールを奪えないままに内野を半分にまで削られ、一気に勝敗がつくかと思われた。


「……! 取った!」

「おお、よくやったぞ、土屋!」


 小五組の投げたボールを、幼女の奴がキャッチした。

 だが、彼女がさあ反撃だと投げたボールは簡単にかわされてしまい、外野に居た真白ちゃんへとボールが渡る。


「なあ、真白ちゃん。ちょっといいかい?」

「え? あ、はい」

「なに、ちょっとボールをくれないかなって」

「はぁ!? おっさん、ふざけんなよ! また邪魔する気か!?」


 周囲のはやし立てに、真白ちゃんは困惑した様子だ。

 だが、やることは変わらない。


「真白ちゃん、ボールをくれ」

「えっと、その……はい」


 俺の『お願い』が効いたのか、結局はボールを渡してもらえた。

 まあ、もしかしたらちょっとばかり魔力が漏れ出して、それをプレッシャーとして感じられたかもしれないけど、些細ささいな問題だ。うん。


「なんだ、おっさん。まーた、俺たちを助けてくれんのかー?」

「おう、そこのガキ」

「!? な、なんだよ」

「あんまり大人をなめるなよ」


 小五組の中で一番俺を煽っていたガキにそう言い、完璧に計算されつくしたボールを放つ。


「はや……あ、体が動か――」


 俺の投げたボールが直撃したガキは、その衝撃でコート外まで体が吹っ飛ばされ、ピクリとも動かない。

 そして、ボールは俺の手中に戻ってくる。


 俺がアウトになった時とはまた違った沈黙が場を支配し、注目はすべて俺へと集中していた。


「ああ、残念だなぁ。顔面セーフとはなぁ。――さぁ、早くコートに戻れよ」


 吹っ飛ばされたガキは、そう言ってやると『立ち上がらされる』。

 ケガもないし本当は普通に動けるはずが、『なぜか』動けないので、ちょっと風を使って手伝ってやった結果だ。


 そう、ここまで全部、『計算通り』だ。

 風を操ることで、目標のガキの回避を阻害し、正確に顔面へとボールをぶつけ、体を吹っ飛ばし、安全に受け止めるとの一連の結果を実現したのだ。

 ガキが動けなかったのは、単に精神的な理由であって、肉体的にはかすり傷一つない。

 まさに、チート様様だ。


「さあ、試合を再開しようか」


 そこからは、同じ行動の繰り返しだ。

 顔面セーフのボールを内野の連中に片っ端からぶつけていき、大人のすごさをやつらに刻み付けていく。


「ハハハハハ! そら、早く立て! 顔面セーフだぞ!?」

「あ、あの……」


 そうして投げ続けていると、真白ちゃんが声をかけてくる。


「どうかしたか?」

「その……いじめは、良くないと思います!」





 空き地の隅っこで体育座りをする俺の目の前では、小五組と小二組が仲良く遊ぶ光景が繰り広げられていた。


「おっちゃん、凄いね。おっちゃんのおかげだよ」

「うるせーぞ、幼女」


 真白ちゃんの言葉で我に返れば、よく言ったと小五組・小二組の両方から持ち上げられる真白ちゃん。

 そして、隣にいる幼女を除いた連中は、真白ちゃんの勇気をたたえることで分かり合い、仲良くなりました。めでたしめでたし。


「おっちゃんは凄いよ。だから、泣かないで」

「うるせぇ。ほっとけ」

「また『よしよし』してあげようか? ほら、ママだよー」

「やめろぉ! シラフでんなことやるかぁ! 俺の黒歴史を掘り返すんじゃねぇ!」


 この後、一人でめちゃくちゃ泣いた。






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