女神の世界観
サルシャ姫は父である魔王に頼み込んで、
頼みこんで、
頼み倒したのだった。
サルシャは冒険の旅に出ていた。
表向きは小説のネタを探しにであるが、
裏では自らの能力に関わることである。
「さて、執筆しちゃったほうが早いのだけれど、
どうしたものかしら?」
「サルシャ姫様は一体何を求めているので?」
「当然、こんなチート能力を与えた存在を探してよ」
サルシャ姫には心当たりがあった、
それはまだサルシャ姫が幼いころ、
魔王がまだ凶暴だったころ、
魔王は自らの娘には年相応の娘らしい生き方を歩んでほしかった故に、
本来であれば出会うことはばかれるはずの女神の下へ訪れ、
頭を下げて、サルシャに普通の娘としての一生を送れるようにしてほしいと、
頼みこんだのだ。
「頼む」
「いいでしょう、そのかわりその娘には私から贈り物をさしあげましょう」
「贈り物?」
「姫が、年相応に成長していった時、その能力は明らかになるはずです」
「いらぬ能力はいらぬのだが、仕方あるまい」
そしてその能力が発現した、
シナリオを描けばその通りにことが運んでしまうという、
異常な能力をサルシャ姫は手に入れてしまったのだ。
「スライム、この能力のことは私とお前の秘密よ」
「はい、サルシャ様」
「とりあえずこう書いてみようかしら」
女神はサルシャに与えた能力が、
発現し、その能力の秘密に気付くことを予見していた、
そしてサルシャが彼女に会いに来ることも想像通りに、
やがて彼女が女神に出会いに聖域に訪れることも、
それは女神にとって予想の域の出来事だった。
「ご名答ねサルシャ様」
サルシャ姫は女神の聖域にたどり着いた。
「で、普通の娘にはなれたかしら?」
「おかげさまで、ね、
でも書くことには苦労しているわ」
「ふふふ、あの赤子が大きくなって、
魔王も随分と人が変わったようね」
サルシャ姫は女神のほうに向きなおると、
「お父様に、魔王に何か恨みがあって?」
「いいえ、しいて言えば彼が少し暴れまわりすぎた時代のせいで、
多くの血が流れちゃったってことかしら」
「……」
「大罪人が平和に暮らしてるだなんて、
随分なシナリオを書いたものね」
それもそうだ、
魔王が平和に暮らせていてお咎めなしな世界だなんて、
だが女神は魔王の罪を償わせるつもりなのだろうか?
サルシャ姫があんな話を書くことも見越していたんだろうか?
「なにがのぞみ?」
「ほほほ、女神の望みを訊くだなんて、
本来は反対ではなくって? たのむなら、
いますぐこの不気味な能力を失くしてくださいってね」
サルシャ姫は女神をにらみつけた。
「きいてれば随分と余裕があるのね、
女神様は、
私は一向に構わないのよ、
自分の能力が分かったからには、
それを修正できるはずだもの」
「なるほど、
あなたが私にその能力を無くさせるように書けば、
無事に小説家になれるものね、
でもどんな小説を書くつもりかしら?
その能力を封じてしまいたくなるということは、
さぞかし悪趣味な物語でしょうけど」
「それが狙いね、
私の思考を何もかも支配して、
穏やかな作品しか書けなくさせるつもりなのね」
「ぷるぷる」
スライムは震えている。
「ええ、誰も魔族の醜態を記した物語など、
読みたくは無いじゃない?
魔族が支配する数多くの魔物たちの詳細な生態や、
数多くの蛮習を描いた作品なんかよりも、
人間が面白おかしく暮らしている様子のほうが価値があるわ」
「私たちにも文化があるわ、
それは目をつぶりたくなるような現状もありはする、
でもそれに目をつぶってしまったら、
そもそも書くということそのものを放棄することになる」
「じゃああなたに魔族の行いすべてを、
見てとってそのままに書ける自信があるのかしら?
自分に都合の良いシナリオしか書けないあなたに」
「やってやるわ」
「いいこと?少しでも誇張や嘘が混ざっていれば、
それは強制されたシナリオになるの、
どれだけやっても作者の主観でしかない小説の世界で、
客観的に物事を描くなんてそもそも無理なのよ」
「……」
「・・・・・・サルシャ様」
サルシャはよく考えてみれば、魔族のことを何も知らない。
そしてその王たる魔王も、魔族の行い全てを統率出来てるわけではない、
考えをすべてくみすることも意思の疎通が充分に取れない存在もある。
「無理そうね、お姫様」
魔族のとても人には見せられない実態は、
どれだけ頑張っても解像度を上げることは出来ないし、
後世に残すものでも無いって女神様はそう思ってるようです。